元騎士の旅物語

にーな

1.騎士の青年(脚本)

元騎士の旅物語

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〇草原
  魔物。
  数十年前に突如として現れ、瞬く間に侵攻され、
  魔物によって汚染された土地は人が住めないらしい。
  その魔物の侵攻を食い止め、
  戦えない者を護るのが・・・・・・
  俺達騎士の役目。
寿 瑠威「おい、まだかよ!」
橘 恵哉「発動の兆し無し!」
寿 瑠嘉「チッ、なにチマチマやってんだ!」
  決して、魔術師の都合のいい駒などではない。
  魔物の侵攻が人が住む村の直ぐ側まで来ているとの報告を受け、俺の部隊に出撃命令が出された。俺達の役目は、魔物の殲滅。
  今回はまだ迫っているだけで、汚染は受けていない。だから、今回は国が抱えている魔術師と会わずに済む筈・・・・だった。
  そこに魔術師が割り込んできた。
  新たな魔術で一掃してみせましょうとか国王に言ったらしく、俺達の作戦は殲滅から時間稼ぎへと変更を余儀無くされる。
  その所為で、俺の部隊なら殲滅出来る魔物を一定の場所から近付けさせない様に、且つ殲滅し切らねばならない。
寿 瑠威「あんの偉そうな魔術師がぁ!」
寿 瑠嘉「割り込んで来る位なら、とっととやれっての!」
湊 月冴「・・・・・・口じゃなくて手を動かせ」
「動かしてます!」
湊 月冴「知ってる」
寿 瑠威「隊長だってムカつきません!?あんの、いかにも魔術師様だぞって感じの!」
  魔物を斬り捨てながら、隊員達と会話をした。勿論、隊員達も魔物を斬っている。
湊 月冴「まぁ、この場に居たら事故で斬りたいくらいには」
橘 恵哉「・・・・・・隊長?」
湊 月冴「見逃せ。愚痴でも言わないとやってられない」
橘 恵哉「お気持ちは分かりますが、魔術師が姑息にも我等の会話に聞き耳を立ててるやもしれません」
湊 月冴「・・・・・・お前も言ってるじゃないか」
橘 恵哉「聞いてるならさっさとやれ、という話です。何より気に食わないのは、あの魔術師の隊長を見る目!」
「マジそれ」
橘 恵哉「一応僕は副隊長なんだけど?」
「同意します」
筧 紫苑「同じく」
湊 月冴「ああ、また七光りのヤツか」
  俺の父が騎士団長だから、七光りで隊長を任せられてるとか言われるんだよな。
要 彰久「・・・・・・隊長、副隊長が言っとるのとは、ちと違うと思いますぞ?」
湊 月冴「・・・・・・?」
  というか、本当に何時まで時間を掛けているんだ・・・・・・
  背筋を凄く嫌なものが駆け抜けた。
  直後、俺達の足下に魔方陣が浮かぶ。
湊 月冴「待避!!」
「!!」
湊 月冴「要!!防御盾(シールド)展開!!」
要 彰久「了解!!」
  展開された防御盾の結界内に隊員が滑り込み、俺も最後に滑り込んだ。
  直後・・・・・・
  ドゴォオオン!!
  強い閃光と衝撃に襲われ、片目で何とか見届ける。魔物はその閃光で粗方片付いた様だ。
  ・・・・・・魔術に巻き込まれない様、表向きは緊急避難として作られた騎士の命綱である防御盾。
  それ伝いに感じる衝撃から、もし展開が遅れていたら、俺達も道連れに・・・・・・
湊 月冴「!!」
  村は大丈夫だろうか。
  割り込みで移動だけでも時間が掛かったのと魔術師からの希望で、予定よりも大分村に近くなってしまった。
  村人は避難させてはいるが・・・・・・
寿 瑠威「あんの魔術師!!」
寿 瑠嘉「俺達を巻き込んで、平気で帰っていきやがる!!」
橘 恵哉「・・・・・・隊長」
  呼ばれて前を見れば、そこには僅かに残った魔物が。完全に手負いで凶暴化している。
湊 月冴「・・・・・・」
  俺は深く息を吐いて、刀を持ち直した。
湊 月冴「残党を殲滅する」
湊 月冴「・・・・・・尻拭いの為にいる訳じゃないってのに」
「同意します!」
  凶暴化すると、魔物の方は強化する。
  この場で殲滅しないと、直ぐに汚染されてしまう。
  俺達は手分けして残った魔物を片付けた。

〇草原の道
「やっと終わったぁ」
  一通り片付けて刀を収めると、隊員達が疲れた様に息を吐く。
湊 月冴「全員お疲れ。今の内に休んでおけ」
  彼等に言い、左耳の通信機に触れた。
湊 月冴「此方、月冴。柊、聞こえるか」
柊 真優「《聞こえていますよ、隊長》」
湊 月冴「魔物の殲滅を確認。命令は入っているか?」
柊 真優「《魔術師は?》」
湊 月冴「尻拭い残してとっとと帰った」
柊 真優「《あんのクソハゲ魔術師。メタボれ》」
「女が使う言葉じゃねぇ」
柊 真優「《んん、失礼・・・・・・命令無し。帰還許可が出ています》」
湊 月冴「了解。此れより帰還する・・・・・・俺以外」
「え」
湊 月冴「一度切るから、何かあったら緊急へ繋げてくれ」
柊 真優「《は、はい?》」
  通信機を切り、彼等に振り返る。
湊 月冴「先に帰還しててくれ。一応隊室待機で」
「隊長は?」
湊 月冴「村の方を見てくる。避難はしているが・・・・・・」
橘 恵哉「御供します、隊長」
湊 月冴「副隊長は一緒に帰還して、指示」
橘 恵哉「しかし・・・・・・」
筧 紫苑「あの、俺達も同行しちゃ駄目ですか」
「そうですよ」
要 彰久「御供致しますぞ」
湊 月冴「・・・・・・分かったよ」
  俺の隊員はお人好しだな。
橘 恵哉「隊長、失礼します」
湊 月冴「ん?・・・・・・ああ・・・・・・」
  若草色の髪に蒼色の瞳の青年・・・・・・副隊長、橘恵哉(たちばなけいや)。
  彼は・・・・・・副隊長としてサポートもしっかりしてくれるが、何か・・・・・・俺に対して過保護なんだよな。
  今も魔物との戦闘前に脱いだ隊長を示す上着を掛けられた。
  この上着は丈が長いから戦闘には少し邪魔で、毎回脱ぐし、それを副隊長は毎回回収し・・・・・・
橘 恵哉「大事な体が冷えてはいけませんから」
湊 月冴「そこまで寒くはないだろ」
橘 恵哉「いえいえ、この時期は風が冷たいですから」
  隊長としてではなく、体調の面で掛けてくる。
  確かに俺は母さんに似たから、線は細い方かもしれないが・・・・・・此れでも鍛えているのは知ってるだろうに。
「隊長、今晩は空いてますか?」
  鳶色の髪に蘇芳色の瞳の双子。
  
  寿瑠威(としながるい)と瑠嘉(るか)。
  ムードメーカーでもあり、時々副隊長に悪戯しては怒られるタイプだ。
湊 月冴「ああ、特に予定はないな」
寿 瑠威「じゃあ、飲み行きましょうよ!」
寿 瑠嘉「こんな日には飲み行きましょうよ!」
湊 月冴「はいはい、適度にな」
「OKととりますよ?」
  笑う二人に頷けば、大袈裟なまでに喜ばれた。
要 彰久「隊長も参加されるか。ならば、私も参加しましょうかね」
  金の短髪に青藍の瞳の青年。
  要彰久(かなめあきひさ)。
  騎士団の中でもベテランで、各部隊に一つしかない防御盾を任せられる程安心がある
要 彰久「いざという時は送りますよ?」
湊 月冴「そこまで子供のつもりはないぞ」
  俺の小さい頃を知ってるからか、子供の様な扱いをされる事もあるのが・・・・・・な。
筧 紫苑「・・・・・・俺も行きたいです」
  灰色の髪に黒い瞳の少年。
  筧紫苑(かけいしおん)。
  最年少で表情が乏しく、口数も少ないが言いたい事はハッキリ言う子だ。
湊 月冴「いつもの店ならジュースも出してくれるだろ」
筧 紫苑「はい・・・・・・行きます」
湊 月冴「とはいえ、筧は寮だったな。先に寮母に言っておくんだぞ?」
筧 紫苑「はい」
  この先の状況を考え、軽く現実逃避をしながら村の方へと進んだ。
  彼等も俺の億劫な気持ちを察して、空気を明るくしてくれてるのだろうな。

〇荒廃した街
「・・・・・・・・・・・・」
  村の現状は・・・・・・一言で現すなら、悲惨。あの魔術の余波で、家は倒壊し、作物も消し飛び、人が住める状態ではない。
湊 月冴「これは・・・・・・酷いな」
要 彰久「どうしたものか・・・・・・」
  このままでは・・・・・・この村の者が生きていけない。何とか、国からの援助を出して貰わないと・・・・・・
???「何だよこれ・・・・・・」
「!!」
  声に視線を向けると、若者達が居た。
  彼等は村の惨状に息を飲み・・・・・・そして、俺達に気付く。
「騎士団!」
寿 瑠威「あ、待て!」
橘 恵哉「お下がり・・・・・・隊長!?」
  若者の一人が駆け寄って来るのを見て、俺は一歩前に出た。
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  そして、殴られる。
  隊長になるくらいには、鍛えているから特にふらつく事もなく、若者達を見た。
「何で、何で村を護ってくれなかったんだ!!」
湊 月冴「・・・・・・弁明の言葉も無い。本当に申し訳ない」
「隊長!」
  若者達に頭を下げる。
  今の俺にはこれしか出来ない。
  護れなかったのは事実だ。
「ふざけんな!!此れじゃどうやって・・・・・・」
帷 翡翠「落ち着けって」
  憤る若者を、茶髪の青年が宥めた。
「翡翠、けど・・・・・・」
帷 翡翠「どう見たって、こりゃ魔術師の仕業だろ。コイツに当たっても仕方ないだろ」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  どうやら、彼が中心的な存在らしい。
  宥められた若者を下がらせ、茶髪の青年が前に出る。
帷 翡翠「仲間が悪いな・・・・・・けど、これじゃあ俺達はどうすりゃいい」
湊 月冴「・・・・・・王に掛け合う。必ず支援をして貰える様に」
帷 翡翠「王は魔術師の言いなりじゃねぇのか?」
湊 月冴「其と此は関係ない・・・・・・責務を果たすだけだ」
帷 翡翠「・・・・・・あんた、危ないな」
湊 月冴「!・・・・・・??」
  突然頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
帷 翡翠「一回戻るぞ」
「あ、ああ・・・・・・」
  そのまま若者達は立ち去る。
橘 恵哉「隊長、大丈夫ですか?」
湊 月冴「ああ、大丈・・・・・・何処から出した。何故持ってる」
  殴られた所を冷たいタオルで冷やしつつ、櫛で俺の髪を直す副隊長。
  つい出た俺の問い掛けにはニッコリと微笑まれて誤魔化された。
湊 月冴「・・・・・・直ぐに戻るぞ」
「はい!」

〇謁見の間
魔術師「という訳で、我が魔術により一掃してみせました」
王「ほう」
  魔術師がベラベラと陛下に報告する。
  俺と副隊長は彼等の前で跪いて聞いていた。
  俺達の側には立ったままの魔術師。
  玉座に座る陛下。
  その隣に立つ殿下と側に控える騎士団長が俺達に同情の視線を向けてるのを感じる。
  本来、この程度の任務を態々陛下に報告などしない。が、此れも魔術師が言い出した事だ。
王「流石は魔術師だ。そなた等もそう思うだろう?我が息子、そして騎士団長」
湊 月夜「・・・・・・はっ」
帝 凛音「そうですね・・・・・・ですが、私としては折角なので騎士からの話も聞きたいのですが」
魔術師「それは必要ですかな?」
帝 凛音「・・・・・・・・・・・・」
  殿下の言葉にそう割り込む魔術師に、俺達騎士は眉を潜めた。
  何と無礼な・・・・・・だが、今願わなくては・・・・・・。
湊 月冴「僭越ながら陛下、発言してもよろしいでしょうか」
王「うむ、何だ」
湊 月冴「魔術発動の際、その余波にて近隣の村が大きな被害を受けました」
湊 月冴「どうか、村へのご支援を。そして、時間を稼いだ我が部隊の騎士の方にもどうか・・・・・・」
魔術師「村が被害を受けたのは私の所為と?」
  ・・・・・・こんの割り込み魔術師がっ。
湊 月冴「その様に聞こえたのであれば申し訳ありません。ですが、壊滅的な被害を受けたのは事実です。あのままでは村人が・・・・・・」
魔術師「そもそもお主等がちんたらと倒しているからだろう?」
湊 月冴「今回の任務は貴殿の魔術発動まで時間を稼ぐ事。殲滅任務でしたら、彼処まで時間は掛けません」
  そもそも、俺の部隊は短期及び殲滅を主とした部隊。
  長期及び時間稼ぎは本来違う部隊が専門としているのに・・・・・・
魔術師「・・・・・・魔術も録に使えぬ者が、でかい口を開くな」
  ジャキッ
橘 恵哉「!」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  今にも抜きそうな副隊長の束を押さえる。
  目で制せば、彼は渋々刀から手を放した。
湊 月冴「・・・・・・今は、我等の事よりも村の事を」
最高魔術師「私からもお願い致しましょう」
「!」
  気付くと、殿下の後ろから顔を隠している男・・・・・・最高魔術師が現れた。
王「おお、最高魔術師殿。祈祷は終わったのか」
最高魔術師「ええ」
  顔や名前すら俺達には知る必要がないとされている最高魔術師。
  彼は陛下の前に回り、深く頭を下げる。
  そして、魔術師に視線を向けた。
最高魔術師「話は聞いておりました。そして、貴方の魔術も見せて頂きました」
魔術師「!」
最高魔術師「確かに凄まじい威力・・・しかし、時と場所を何故考慮しなかったのです。あの位置では村に影響があるのは分かっていたでしょう」
最高魔術師「それに、時間を稼いで下さった騎士に合図を出さなかったのですか?月の隊長殿が指示せねば、被害者が出ていましたよ」
魔術師「そ、それは・・・・・・」
最高魔術師「言い訳すら出てこないと?」
最高魔術師「・・・・・・失礼致しました、陛下。ですが、私からも村の支援と彼等騎士への労りをお願い致します」
王「うむ、承知した」
最高魔術師「ありがとうございます」
  思わず安堵の息を吐く。
  最高魔術師はもう一度頭を下げ、出て行った。
  それを割り込み魔術師が追い掛ける。
王「そなた等も下がって良い」
湊 月冴「御意」
  そして、俺達も謁見の間を出た。

〇城の廊下
橘 恵哉「・・・・・・気味が悪いですね」
湊 月冴「こらこら」
橘 恵哉「申し訳ありません。しかし・・・・・・」
湊 月冴「確かに、あれほど庇われるのは些か疑問だな」
橘 恵哉「ですよね」
  あの最高魔術師は時々騎士を庇い、援護する時がある。他の魔術師はただ偉そうなのにな・・・・・・。
湊 月冴「・・・・・・!すまない、先に行っててくれ」
橘 恵哉「はい」
  副隊長を先に行かせ、俺は近くの窓から外へと降り立った。

〇大樹の下
  そのまま、中庭の大きな木の下まで行く。
帝 凛音「お前なぁ・・・・・・一応、城なんだから窓から飛び降りるなよ」
  そんな俺に声を掛けたのは殿下だった。
湊 月冴「此の様な些細な事をお咎めになられる方ですか?」
帝 凛音「今は幼馴染み」
湊 月冴「分かってるさ」
  俺と殿下、そしてもう一人は所謂幼馴染みだ。
  小さい頃から父さんにくっ付いて登城し、殿下・・・・・・帝凛音(ていりおん)の暇潰しの相手をした仲だ。
  先程、彼が中庭に向かうのを見て、俺は先回りの為に飛び降りた。
帝 凛音「任務ご苦労さん・・・・・・てか、運悪かったな」
湊 月冴「全くだ・・・・・・お陰で疲れる」
帝 凛音「だよな。本当にあの魔術師なんなんだよ」
漣 慎理「せっかちな割り込み魔術師だよ。ただのね」
湊 月冴「おっと」
  ゆっくりとした歩調で歩み寄ってくるのは、もう一人の幼馴染みである漣慎理(さざなみしんり)。
  国のお抱え魔術師で、大体城に待機させられている。
  で、彼も暇潰しに巻き込まれた奴。
帝 凛音「お前、将来最高魔術師になって、ああいうの追放しろよ」
漣 慎理「凛音だって、さっさと国王になって僕を最高魔術師に選出してよ。僕、あの最高魔術師苦手だし」
湊 月冴「師匠なんだろ?」
漣 慎理「魔方陣の書いた紙を置いていくだけのね」
「うわ」
  ええ・・・・・・それはどうなんだろ。
帝 凛音「てか、月冴も早く騎士団長になれよ」
湊 月冴「・・・・・・俺には騎士団長の器はないさ」
  俺はただ、刀を振るう事しか出来ない。
  父の様に、沢山の騎士の上に立つなど無理だ。
  それに、俺は・・・・・・
漣 慎理「・・・・・・月冴」
湊 月冴「ん?」
漣 慎理「月冴は自己評価低過ぎ」
湊 月冴「はぁ?」
帝 凛音「確かに」
湊 月冴「お前等は俺を過大評価し過ぎなんだよ。俺には剣術しかないし」
「いやいやいや」
  二人揃って否定すんなよ。
湊 月冴「俺には凛音みたいなカリスマも器用さも無いし、」
湊 月冴「慎理みたいに頭もよく無ければ辛抱強くも無いからな」
帝 凛音「・・・・・・そこで、生まれ持った才じゃなくて」
漣 慎理「努力や苦労した部分が出るのが素敵」
湊 月冴「ありがとう?」
帝 凛音「月冴だって、鍛練を怠らないじゃないか」
漣 慎理「それに絶対に曲がらない」
湊 月冴「俺にはそれしか無いからな」
帝 凛音「ったく、お前は・・・・・・げ」
漣 慎理「うわ・・・・・・」
  二人の嫌そうな顔に視線を向ければ、それぞれ家臣と魔術師が誰かを探している姿を見付けた。
帝 凛音「仕方ねぇ・・・・・・行くか」
漣 慎理「やーっと時間取れたのにぃ」
湊 月冴「凛音も慎理もあまり無理するなよ」
「月冴だけには言われたくない」
湊 月冴「酷いな」
  それから俺達は笑ってそれぞれの場所に戻る。
  ・・・・・・凛音も慎理も、本来なら俺程度と関わっていい存在じゃないんだよな。

〇城の廊下
橘 恵哉「・・・・・・お帰りなさい、隊長」
湊 月冴「待っていたのか?ただいま」
橘 恵哉「省略していないので先程着いたばかりです」
  副隊長と合流し、俺の部隊の隊室に入った。

〇シックなリビング
柊 真優「あ、お帰りなさい。隊長」
湊 月冴「ああ、ただいま」
  淡い水色の髪に緑の瞳の娘。
  柊真優(ひいらぎまゆ)。
  彼女は俺の部隊唯一女性で、サポート専門の立場だ。
  彼女の様に騎士団に入りたいが、戦えないという人はサポートをして貰っている。
湊 月冴「柊、この後は?」
柊 真優「特には」
湊 月冴「なら直ぐに報告書を上げるか」
柊 真優「はーい、お願いします」
  正直、書類仕事は億劫だが・・・・・・まぁ、やらないとな。
  こういうのはさっさと終わらせるに限るし。
筧 紫苑「・・・・・・隊長」
湊 月冴「ん?どうした」
筧 紫苑「その・・・・・・隊長は誕生祭、どうされるんですか?」
  筧の言葉にその日の予定を頭の中で巡らせた。
  誕生祭、というのはこの世界が生まれた日とされる日に開催される大々的な祭りの事だ。
  その日は基本的に休みなので、毎年騎士もプライベートで参加する。
湊 月冴「・・・・・・特に此れといった予定は無いな。一応参加するつもりはあるが」
筧 紫苑「!じゃあ・・・・・・一緒に巡れますか?」
湊 月冴「ああ・・・・・・多分椿桔が付くが」
筧 紫苑「椿桔さん・・・・・・好きなんで大丈夫です」
湊 月冴「仲良しはいいが、頼むから路上で変な語りをするなよ」
  前に『月冴語り』なるものをして、俺が呼び出された事があった。
  変に恥ずかしかった覚えがある。
筧 紫苑「・・・・・・・・・・・・」
湊 月冴「おい、返事」
柊 真優「あ、隊長」
湊 月冴「ん?」
柊 真優「緊急会議のお呼び出しです」
湊 月冴「緊急会議?場所は?」
柊 真優「第一会議室です」
湊 月冴「なら隊長格のみか」
湊 月冴「分かった。お前達は待機。定時になったら帰ってよし」
「はーい」
  第一会議室は騎士団長の執務室の側にあり、
  広さは会議室の中でも狭い方なので、そこは基本的に隊長格以上の者のみの参加が基本だ。

〇城の会議室
  コンコンコン
湊 月冴「失礼致します。第六部隊“月”、湊月冴参りました」
東 大和「よー月冴」
湊 月冴「どうも、東隊長」
  真っ先に声を掛けてきたのは、第三部隊“山”の隊長、東大和(あずまやまと)。
  月とか山とかは部隊のもう一つの名前だ。
  緊急の時はそっちの方が早いという事で付けている。
  大体は被らないように名前を捩ったものが大抵だ。
  だから、俺は月、東隊長は大和からヤマト、ヤマ、山となっている。
柾 雲雀「お疲れ様です、月冴君」
湊 月冴「ご無沙汰しています、柾隊長」
  大テーブルの上に書類を置く、第二部隊“雲”の隊長、柾雲雀(まさきひばり)。
  雲は主に情報収集、山は護りに特化した部隊だ。
辻 奏多「聞いたで、月冴。まーた、魔術師と衝突しおったらしいやん」
湊 月冴「もう、話が回っているんですか。辻隊長」
  頬杖をついている第五部隊“奏”の隊長、辻奏多(つじかなた)。
  陽動に特化した部隊で、独特の訛りで人すら翻弄してくる。
環 晴彦「唯でさえ目を付けられているのに・・・・・・大丈夫かい?」
湊 月冴「問題ありませんよ、環隊長」
  心配そうに尋ねてくるのは第七部隊“春”の隊長、環晴彦(たまきはるひこ)。
  最も多くの騎士が所属していて、避難や防戦を主とした部隊だ。
鏡 華絵「あら、皆さんお揃いね。遅かったかしら」
湊 月冴「私も来たばかりです、鏡隊長」
  俺の後から入ってきたのは、第四部隊“華”の隊長、鏡華絵(かがみはなえ)。
  女性だけで形成された唯一の部隊の隊長だ。
  そして・・・・・・
梵 劔「全員集まった様だな」
湊 月夜「・・・・・・着席しろ。会議を始める」
「はっ」
  第一部隊“剣”の隊長、梵剱(そよぎつるぎ)と騎士団長、湊月夜(みなとげつや)。
  剣は俺と同じで殲滅部隊だけど、少数精鋭系な俺達とは違って、数も多い部隊。
  騎士団長は・・・・・・プライベートだと、俺の父親だ。
  部隊の特徴として、殆どの隊員が隊長と同じ武器を使う。
  “剣”は長剣や両手剣を。
  “雲”は短剣や小型の剣を。
  “山”は大剣や大斧を。
  “華”は槍やレイピアを。
  “奏”は屈折剣や特殊武器を。
  “月”は刀を。
  “春”は片手剣を。
  因みに騎士団長は全て扱えるらしい。
梵 劔「さて、今回集まって貰ったのは・・・・・・誕生祭の件だ」
東 大和「誕生祭?」
辻 奏多「なんや、まーた魔術師が我が儘でも言い放ったんです?誕生祭の間、自分らの警護でもせぇとか」
  辻隊長の言葉に梵隊長と騎士団長が揃って頭を抱えた。
  流石ご兄弟、そっくり・・・・・・って、まさか。
湊 月冴「まさか・・・・・・何ですか?」
湊 月夜「まさか、だ」
「はぁああ!?」
環 晴彦「それは・・・・・・困っちゃうなぁ」
鏡 華絵「困る所ではありませんわ。本来、私達はお休みなのよ?」
湊 月冴「まぁ、一番巻き込まれるとしたら華ですね」
  鏡隊長が綺麗な顔を歪める。
鏡 華絵「私の部隊は無理ですわね。殆どの子が当日の踊り子や家業を手伝うらしいですし・・・・・・私も逢引きの予定ですし」
環 晴彦「逢引きやデートじゃないからね」
鏡 華絵「・・・・・・・・・・・・」
  環隊長が即座に否定した事で、鏡隊長は少しだけムッとした。
  ・・・・・・当日一緒に出掛けるのか。
湊 月夜「ああ、確かに華の指名があったが・・・・・・湊月冴」
湊 月冴「はい・・・・・・?」
湊 月夜「お前が護衛する様に指名が入っている」
「はぁああ!?」
  俺に指名が?
  というか、さっきより煩いんだが。
湊 月冴「・・・・・・承知しました」
柾 雲雀「なっ、月冴君!」
湊 月冴「はい?」
柾 雲雀「君にだって楽しみ、休む権利はあるんですよ?」
湊 月冴「しかし、それが命令として来ているのであれば、陛下が認めたという事では?」
柾 雲雀「だがっ!」
東 大和「落ち着け。月冴の言う事も、柾の言う事も正しいだろ」
湊 月夜「・・・・・・各部隊から当日手の空いている者を選出し、あくまで希望で交代役を作る」
湊 月冴「え」
  指名されたのは俺なのに・・・・・・それに、交代役なんて作ったら、その人が楽しめなくなってしまう。
湊 月冴「必要ありません、警備なら・・・・・・」
東 大和「護るなら俺の部隊だなぁ。喜介は子供居るしな」
湊 月冴「私一人で・・・・・・」
環 晴彦「途中で交代出来るなら、私は入れるよ」
鏡 華絵「そうね。私も同じよ」
湊 月冴「いえ・・・・・・」
辻 奏多「あー、俺はパレード前やったら入れんで。せやけど、パレード始まってからやと演奏頼まれとるし」
柾 雲雀「僕は後半から代われますよ」
湊 月冴「あの、私が一人でこなせば良いだけの話では」
湊 月夜「くどい・・・・・・既に此れは決定事項だ」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  思わず視線を落とす。
  俺が・・・・・・まだ若いからか。
  まだ俺が・・・・・・
((やばい・・・・・・騎士団長が・・・・・・))
梵 劔「月冴、気を落とすな。誕生祭は若い者こそ楽しむべき祭典だ」
湊 月冴「・・・・・・はい」
梵 劔「兄者」
湊 月夜「・・・・・・梵」
梵 劔「すまない、騎士団長。それよりも、早く決めるべきでは?」
湊 月夜「・・・・・・ああ」
  それから話は決まり、俺は少しの時間警備する事になった。
  一通り決め、足早に隊室へと戻る。

〇シックなリビング
「お帰りなさい、隊長」
湊 月冴「すまない、待たせたか」
橘 恵哉「まだ定時前ですから」
  隊室にはまだ隊員が残っていた。
湊 月冴「誕生祭、隊長格が魔術師の警備をする事になった。後日、詳細が来る」
筧 紫苑「!隊長は?」
湊 月冴「俺も少しだけ参加する」
筧 紫苑「じゃあ、その時以外は・・・・・・」
湊 月冴「回れる」
筧 紫苑「・・・・・・良かった」
  俺の言葉にホッとした様に笑う筧。
  そんな彼に頷いた後、俺達は隊室を出た。

次のエピソード:1-2

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