仇よ花の錆となれ

咲良綾

第十話、交わる道(脚本)

仇よ花の錆となれ

咲良綾

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〇屋敷の一室
  晴景の元に、佐澄が赤子を連れてくる。
  佐澄は晴景の子だと言うが──
長尾晴景「もしや、この子は」
佐澄「はい。表向きは私の子と致しますが、お産みになったのは、ご側室の朱姫様です」
長尾晴景「・・・!」
佐澄「美しい赤子でしょう?元気な男の子(おのこ)でいらっしゃいます」
佐澄「猿千代君と申します」
長尾晴景「猿千代・・・」
長尾晴景「生まれたての赤子とは、 このように小さく柔らかいのか」
佐澄「生まれたてではございませんわ。 生まれてひとつき」
佐澄「床上げまでは側にいていただきました」
長尾晴景「なんと・・・! 佐澄、今まで儂に黙っていたのか」
佐澄「ごめんなさい、朱姫様のご希望でしたの」
長尾晴景「朱は、今どこに」
佐澄「ほほほ、やっぱり聞けばいてもたってもいられなくて会いに行きますわよねぇ」
長尾晴景「早く教えてくれ!朱はどこだ!」
佐澄「阿賀北へ向かってらっしゃいます」
佐澄「こちらを発って半刻も経ちません。 今追いかければ、すぐに追いつきます」
長尾晴景「! 赤子を頼む」
佐澄「はい、もちろん」

〇草原の道
一兎「康胤様、体は大丈夫ですか」
椎名康胤「さすがになまっているな」
椎名康胤「しかし、外を歩くのは清々しい」
松葉「猿千代君と離れるのは淋しいですね」
椎名康胤「佐澄様を信じてお任せしよう。 我らにはまだやることがある」
一兎「・・・康胤様、あれは」
  一兎に促されて振り向くと、土煙が見えた。
長尾晴景「朱ーっ!!」
椎名康胤「・・・晴景様」
  あの人なら追ってくるのではないかと思っていた。喜びと同時に、胸が疼く。
長尾晴景「朱!そなた、」
  腕の中で押し潰されそうになりながら、
  ぎゅっと身を固くする。
椎名康胤「康胤です」
長尾晴景「・・・」
椎名康胤「私はこれから、康胤に戻ります。 まだ、成すべきことが」
長尾晴景「成すべきこととは何か」
椎名康胤「椎名を取り戻します」
長尾晴景「そのための軍は」
椎名康胤「阿賀北に戻り、鮎川の協力をいただいて・・・」
長尾晴景「武田にでもすり寄るか」
椎名康胤「・・・・・・」
長尾晴景「康胤。 そなたは長尾の家臣となれ」
椎名康胤「!」
長尾晴景「儂は家督を継いだが、それは父が買った不興をそらすための隠れ蓑。父は権力を手放さぬ」
長尾晴景「だが、儂は傀儡(くぐつ)になる気はない」
長尾晴景「儂は近いうちに、父を討つことになるだろう。そして椎名長常はおそらく父につく」
長尾晴景「儂と共に戦え、康胤。 手を携えてこの地を統べるのだ」
椎名康胤「・・・!」
椎名康胤「私は・・・康胤として、 お側にいても良いのですか?」
長尾晴景「そうだ。 武将としてのそなたが必要だ」
長尾晴景「儂を助けて国を取り戻し、 儂の庇護のもと、越中を治めよ」
椎名康胤「・・・っ」
  頭が真っ白で考えが回らず、答えに迷う。これを受け入れて、本当に良いのだろうか?
  傍らで、一兎と松葉が跪いた。
一兎「康胤様」
  一兎が促すように微笑む。
  本当に、良いのだ。
椎名康胤「椎名康胤、 長尾晴景様にお仕え致します」
  晴景が微笑んだ。
  かつて、こんな幸せそうな顔を見たことがあっただろうか。
  一緒にいても、いつもどこか苦しそうだった。あの影が、今は見えない。
  私も同じ顔をしているのだろうか。
  晴景の瞳に映る自分を覗き込もうとして、
  近づき過ぎたことに気がついた。
椎名康胤「あ、申し訳ございません」
  引こうとした体は動かない。
松葉「見ろ、一兎。蟻の行列だ!」
一兎「なるほど、これは興味深いな!」
  一兎と松葉は、自分たちは下を向いていると言いたいらしい。
椎名康胤「・・・少しだけ、朱に戻ります」
  私は体の力を抜く。
  ──そして
  椎名康胤は春日山城下に居を移し、
  長尾晴景の家臣となった。

〇日本庭園
佐澄「今日も康胤様はいらっしゃいませんの?」
長尾晴景「ああ」
佐澄「もーっ、どうして?折角結ばれたのに!」
佐澄「もっと頻繁にベタベタイチャイチャむつみあってくださってかまいませんのよ?」
長尾晴景「いや、それは・・・ 我らはまだ成すことがある」
佐澄「だからなんですの?」
長尾晴景「また、子ができると困るだろう」
佐澄「・・・・・・」
長尾晴景「・・・・・・」
佐澄「そんなもん、寸止めでなんとかしてください!!」
長尾晴景「寸っ・・・ 何を言っているのだ、佐澄、やめなさい」
佐澄「あーっ、男女って面倒ですわね! 女同士なら気にしなくて良いのに」
佐澄「猿千代も待っておりますのよ。 次はいついらっしゃるの?」
長尾晴景「康胤も忙しいのだ。家臣に加わったということで、各将へ挨拶に回っておる」
長尾晴景「これは同時に、各将が父と儂のどちらにつくか、意向を図る任も兼ねている」
佐澄「まあ・・・それは大変な任務ですわね。 本日はどちらへ?」
長尾晴景「柿崎だ」

〇畳敷きの大広間
柿崎景家「康胤、俺を恨んでいるか」
椎名康胤「恨んではいない」
椎名康胤「景家が長尾につかねば、 私は晴景様を殺していたかもしれない」
柿崎景家「すっかり晴景様にご心酔だな」
椎名康胤「柿崎は重宝され、栄えている。お前は、武将としての判断を誤らなかったのだと思う」
柿崎景家「・・・しかし、お前には悪いことをした」

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コメント

  • 佐澄が咲良さんに見えてきました。
    好きな性別のタイプじゃなくて、こう主人公の周囲で楽しんでる様子が…。

    柿崎と変な感じにならなくて良かったです。意外とさっぱりしてるんですね、殺し合ったのに。そのあたりは戦国特有の損得で生きられる方を選んでいくという割り切りなんでしょうね。

  • 男女の仲…とはちょっと違う形だけと二人が結ばれて良かった😭景家とも和解できて良かった😭
    でも、ハッピーエンドのままとは行かなそう…😱虎千代〜😱

  • 晴景の想いと朱の気持ち、ぶつかり合いましたね! 父に付くか子に付くか、でも虎千代が……😱
    今回もブレない佐澄が最高でした(笑)
    そして景家もちゃんと奥さんもらってて良かったです。こちらに来てくれるのも心強いですね☺️
    どうでも良いですが、私は戦国時代だと甲斐上田辺りが好きなので武田の名がでてきて嬉しかったです♥
    引き続き楽しませて頂きますね!

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