#1 なかったことにしちゃおうよ(脚本)
〇アパートのダイニング
「なんであなたはいつもそうなの!?」
「私たちのことはどうでもいいの!?」
「そんなわけねーだろ。俺だって色々あるんだよ」
加藤麻里奈「その「色々」を共有するのが家族じゃないの!?」
加藤麻里奈「どうして隠しごとばかりするの!? 私はあなたの妻じゃないの!?」
加藤輝明「家族だからって何でもかんでも詮索すんなよ」
加藤輝明「お前は束縛が激しすぎるんだよ」
加藤麻里奈「っ!」
加藤輝明「おいおい、物に当たるなよ」
加藤麻里奈「うううぅぅぅぅぅ・・・!」
加藤麻里奈「なんで分かってくれないの・・・ なんで・・・なんで・・・」
加藤輝明「・・・」
加藤麻里奈「私はあなたのことを分かってるのに・・・」
加藤輝明「・・・分かってねーだろ」
加藤麻里奈「分かってるよ!」
加藤麻里奈「あなたが私に飽きていることも、家族を重荷に感じていることも!」
加藤麻里奈「自由に憧れていることも、できることなら私たちを捨ててどこか遠くへ行きたいことも!」
加藤麻里奈「でもね、それを認めてしまったら私がバカみたいじゃん! 何のために家事や育児を頑張ってきたのか分からないよ!」
加藤麻里奈「あなたにとって家庭なんてどうでもいいんでしょ!? だからコソコソ隠れて人に言えないようなことをしてるんでしょ!?」
加藤輝明「・・・」
加藤麻里奈「真美ちゃんだっけ〜。可愛いね〜やっぱりこんなおばさんより若い子がいいんだよね〜」
加藤輝明「お前また人のスマホを・・・」
加藤麻里奈「ねぇ、私はあなたの何なの?」
加藤麻里奈「教えてよ。分からないよ、教えてくれなきゃ分からないよ」
加藤輝明「言ってることメチャクチャだなお前」
加藤麻里奈「分からない。教えて、私はあなたの何?」
加藤麻里奈「奥さん? 彼女? それとも便利な家政婦さん?」
加藤麻里奈「何? 教えてよ」
加藤輝明「・・・」
加藤麻里奈「教えろよ!」
加藤輝明「・・・」
加藤輝明「・・・赤の他人かな」
加藤麻里奈「はは・・・」
加藤輝明「離婚しよう。親権だとか、細かい話は一旦落ち着いてから話そう」
加藤輝明「明日も早いから風呂入って寝るわ」
加藤麻里奈「・・・」
加藤輝明「あ、風呂は俺が沸かすから麻里奈さんは休んでていいよ」
加藤麻里奈「麻里奈さん・・・」
加藤輝明「他人を呼び捨てはまずいだろ」
加藤麻里奈「・・・」
〇黒背景
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・」
い・・・痛っ・・・
加藤麻里奈「・・・」
お・・・お前、何やってんだよ・・・
加藤麻里奈「・・・」
ゔ・・・痛ぇ・・・やめろ・・・
加藤麻里奈「・・・」
やめろって言ってんだろ!
加藤麻里奈「・・・」
ああああ・・・! あああああああああ!
加藤麻里奈「・・・」
〇アパートのダイニング
加藤麻里奈「・・・」
加藤輝明「・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・何やってるんだろう、私」
加藤麻里奈「こんなことしても意味ないのに」
加藤麻里奈「こんなことをして・・・」
加藤麻里奈「気持ちが晴れるわけじゃないのに」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「輝明・・・」
〇水中トンネル
〇川沿いの公園
〇観覧車のゴンドラ
〇一人部屋
〇アパートのダイニング
本当、何やってるんだろう
一時の感情に任せて、愛する人を殺してしまうなんて
あんなに大事にしていた家庭を、自分の手で壊してしまうなんて
本当に・・・
〇アパートのダイニング
加藤麻里奈「何やってるんだろう」
だんだんと冷静になっていく
冷や汗をかき、顔が青ざめていくのが分かる
とてつもない恐怖と罪悪感が押し寄せてくる
このまま死んでしまいたいほどに、それは
加藤麻里奈「いや」
加藤麻里奈「冷静になっちゃダメだ」
加藤麻里奈「冷静になると・・・」
死すら、怖くなる
加藤麻里奈「・・・」
かつて、こんな動画を見たことがある
ふざけて拳銃で遊んでいた女の子が、誤って妹を撃ち殺してしまう
気が動転した彼女は、そのまま自らのこめかみを銃で撃つ
私も、あんなふうに、反射的に死ぬべきだ
この手に握られた包丁を、自分の胸に突き刺す
それだけで全てが解決するんだ
加藤麻里奈「・・・」
〇黒背景
加藤麻里奈「・・・」
人を殺せるだけの衝動があれば
加藤麻里奈「・・・」
自分を殺すくらいの衝動も
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「無理だよ」
加藤麻里奈「なんで・・・」
加藤麻里奈「数分前の私に戻ってよ・・・」
加藤麻里奈「頭に血が昇って、何も考えられなくなっていた、さっきまでの私に戻ってよ・・・」
加藤麻里奈「さっきの私のまま、自分のことも殺してよ・・・」
加藤麻里奈「どうかしちゃったなら、どうかしてるまま死なせてよ・・・」
「お母さん?」
加藤麻里奈「・・・!?」
〇アパートのダイニング
加藤麻里奈「あ・・・ぁ・・・」
加藤沙夜「お母さん大丈夫? 顔色悪いよ」
加藤麻里奈「あ・・・沙夜・・・これは、ね・・・」
加藤輝明「・・・」
加藤輝明「・・・すぅ・・・」
加藤沙夜「もう、お父さん! 床で寝ちゃだめって言ったでしょ!」
加藤輝明「・・・ん? あぁ・・・すまん沙夜・・・」
加藤輝明「お父さん、仕事で疲れちゃって・・・」
加藤沙夜「お仕事お疲れ様♪」
加藤輝明「お〜、沙夜はお利口さんだなぁ」
加藤麻里奈「え・・・え?」
加藤沙夜「どうしたのお母さん、何かあった?」
加藤沙夜「沙夜で良ければ、話聞くよ」
加藤麻里奈「・・・」
加藤沙夜「お母さ〜ん!」
加藤麻里奈「わっ・・・」
加藤沙夜「沙夜お腹すいた。お手伝いするから一緒にご飯作ろ♪」
加藤麻里奈「・・・そ、そうね」
加藤麻里奈「こ、今夜は何にしようかな」
加藤沙夜「ハンバーグがいい〜」
加藤麻里奈「じゃ、じゃあハンバーグにしましょう」
加藤沙夜「やった〜」
〇白いバスルーム
加藤麻里奈「・・・さっきのは何だったんだろう」
確かに私は輝明を刺した
その感触は今も手に残っている
なのに、血の一滴もリビングには落ちていない
返り血も浴びていない
全てが、なかったことになっている
加藤麻里奈「夢、幻覚・・・?」
加藤麻里奈「私、疲れてるのかな・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「・・・でも、良かった。本当に良かった」
加藤麻里奈「こんなに、心から安心したこと、今までにないよ・・・」
加藤麻里奈「今度から冷静になろう・・・。さっきの私はどうかしてた」
〇女の子の一人部屋
加藤沙夜「はぁ〜ご飯美味しかった〜」
加藤沙夜「お父さんもお母さんも、私のこと大好きで困っちゃうな〜」
加藤沙夜「・・・」
加藤沙夜「・・・本当に好きならさ、私を一人にするなんてありえないよね」
加藤沙夜「夫を殺して自分も死ぬ?」
加藤沙夜「じゃあ私はどうなるの?」
加藤沙夜「お母さんってさ、結局自分のことしか考えてないんだよね」
加藤沙夜「お父さんの浮気を疑うのも、自殺しようとするのも、結局は自分の心の平穏のため」
加藤沙夜「窮地に立たされた時、人は本性を見せる」
加藤沙夜「あの局面で私の顔が一切浮かばないなんて、愛情が聞いて呆れるよ」
加藤沙夜「・・・」
加藤沙夜「でも、私はお母さんを愛してるよ」
加藤沙夜「お母さんがピンチになったら助けてあげる」
〇アパートのダイニング
だって、それが
この家族における
私の役目だから──
怖いです。直球より変化球は、じわじわと、とても怖いです。次、読んでみます。
DNPコンの応募作の中で探してもないので可笑しいと思ったんです😭
こんなキャッチーでメッセージ性抜群の作品が応募されていないのが切ない😭
きっと戸羽様の思う所があっての辞退だと思いますが、一読者として切ないのが本音です😭
もちろん、コンテストが全てではないので、更新されれば続きを追いかけていきたいと思っております🙇♀️
ふえ~ん! 怖いよ~!!
お父さんも、お母さんも、娘さんの傀儡と化してしまって。一話時点では、素直で家族想いのお嬢さんなので、夫殺しがなかったことになりましたが、彼女の胸一つで、さらなる破滅に追いこむこともできる訳で。リアル志向のおままごともあったものですね。
両親をオモチャにする娘さんを「めっ!」と諭し、一家ひとつなぎにする、さらなる操縦者が現れるのを期待したいですが、無理でしょうね。ブルリ。