老いらくのアヴェンジャー

富士鷹 扇

第三話 蟲の味(脚本)

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〇安アパートの台所
草壁 若葉「おばあちゃん、料理教えてよ」
草壁 みどり「まあ、どうしたの急に」
草壁 若葉「おばあちゃんのご飯美味しいから」
草壁 若葉「私も作れるようになりたいんだ」
草壁 みどり「あらあら」
草壁 若葉「それに、私が料理出来るようになったら」
草壁 若葉「おばあちゃんに楽をさせてあげれるし」
草壁 みどり「まあ、それは楽しみねえ」

〇黒

〇ゆるやかな坂道

〇大きい病院の廊下
看護師「即死だったみたいね」
看護師「ええ」
看護師「頭から落ちてるから、顔がぐちゃぐちゃで」
看護師「個人を特定するの、ちょっと時間かかったみたい」
看護師「まだ16歳なのに、自殺なんて・・・」
看護師「・・・よくある事よ」
看護師「仕事に戻るよ」
看護師「・・・はい」

〇葬儀場
…「孫が自殺した理由も分からないなんて、にぶ過ぎるんじゃないの?」
…「やっぱり両親が居ない家庭には問題があるもんだな」
…「まあ普通、おばあちゃに悩みの相談なんか出来ないわよねえ」

〇黒
  私は、若葉の支えになれなかったのでしょうか・・・
  私が、もっとしっかりしていれば・・・
  若葉は・・・

〇古風な和室
草壁 若葉「おばあちゃん、起きて!」
草壁 みどり「!」
草壁 若葉「今日は肉じゃがの作り方、教えてくれるんでしょ?」
草壁 みどり「あらあら、若葉は朝から元気ねえ」
草壁 若葉「うん!」
草壁 若葉「楽しみで早起きしちゃった」

〇古風な和室
草壁 みどり「・・・」
草壁 みどり「夢ですか・・・」
草壁 みどり(あの日は結局、若葉に急用が入って)
草壁 みどり(肉じゃがの作り方、教えてあげられなかった・・・)
草壁 みどり(今思えば、あの急用というのも、いじめ関係だったのでしょうね・・・)
草壁 みどり「・・・」
草壁 みどり「肉じゃがの作り方、教えてあげなきゃね・・・」

〇黒

〇広い厨房
モンちゃん「いやあ・・・」
モンちゃん「料理しているみどりちゃんの後ろ姿、惚れ惚れするぜ」
草壁 みどり「もう、 あまり見ないでください」
草壁 みどり「気恥ずかしい」
草壁 みどり「それにしても、キッチンをこんなところに作るなんて・・・」
モンちゃん「急ピッチで作らせたが」
モンちゃん「どうよ、いい眺めだろう?」
草壁 みどり「ええ、本当に」
草壁 みどり「いい景色・・・」
モンちゃん「しかし、肉の焼ける匂いってのは、どうしてこうもうまそうなんだ」
モンちゃん「腹が減ってしかたがねえ」
草壁 みどり「ふふ」
草壁 みどり「もう少し、待ってくださいね」
モンちゃん「こないだの遊園地、楽しかったなあ・・・」
草壁 みどり「そうですね」
草壁 みどり「モンちゃんが絶叫マシンが苦手だったのは意外でした」
草壁 みどり「叫び声が迫真すぎて、他のお客さんが驚いていましたよ」
モンちゃん「いや、ありゃダメだ」
モンちゃん「絶叫マシンは疑似的な死を感じさせる」
モンちゃん「あっちゃいけねえ」
草壁 みどり「うふふふ」
モンちゃん「そういうみどりちゃんだって、大はしゃぎしてて意外だったぜ?」
草壁 みどり「あら、そうですか?」
モンちゃん「帰りの電車で東京駅までずっと」
モンちゃん「頭にでけえ耳のカチューシャ着けっぱだったじゃねえか」
草壁 みどり「それは着けている事を忘れていたからです!」
草壁 みどり「なぜ東京駅に着くまで教えてくれなかったのですかっ」
草壁 みどり「おかげで大恥をかきましたよ・・・」
モンちゃん「かかっ」
草壁 みどり「さ、完成しましたよ」
モンちゃん「おお、まってました」
モンちゃん「ほんじゃあ、さっそく・・・」
モンちゃん「む・・・!」
モンちゃん「こりゃ うんめえ」
草壁 みどり「ふふ それはよかった」
草壁 みどり「本当なら一度冷ましたほうが、味が染みて美味しいのですけど」
草壁 みどり「モンちゃんが待ちきれなさそうでしたからね」
モンちゃん「おお、あやうく餓死するところだったぜ」
草壁 みどり「まあ、大げさね ふふふ」
  ちなみに、肉じゃがに使用する肉の種類でございますが
  関東では豚肉、関西では牛肉が主流だそうで。
  地域差というものは、面白可笑しいものでございますね。
長谷川 カレン「・・・おね、がい」
長谷川 カレン「わ、たしにも・・・」
長谷川 カレン「ちょう、だい・・・」

〇地下の避難所
長谷川 カレン「ごはんと、飲み物・・・」
  みどりが調理していたキッチンは
  カレンを閉じ込めている倉庫の一角にございました。
  すでに三日間、飲まず食わずで限界を迎えていたカレンの目の前
  鉄格子を挟んだ向こう側で
  みどりと紋吉郎は、肉じゃがに舌鼓を打っているのであります。
長谷川 カレン「お願い・・・」
長谷川 カレン「本当に、死んじゃう・・・」

〇広い厨房
草壁 みどり「え?」
草壁 みどり「もう限界ですか?」
長谷川 カレン「死ん、じゃう・・・」
草壁 みどり「はあ・・・」
草壁 みどり「困りました」
草壁 みどり「カレンさんには、出来るだけ長生きしてもらいたいのですが・・・」
草壁 みどり「出来るだけ長く生きて」
長谷川 カレン「む、り・・・」
草壁 みどり「はあ・・・」
  溜息をついたみどりは、鉄格子の前に
  水の入ったコップを置きました。

〇地下の避難所
長谷川 カレン「み、みず・・・!」
  カレンは勢いよくコップに手を伸ばしました。
  しかし
  鉄格子に阻まれ、わずかにコップに手が届きません。
長谷川 カレン「水、よこせよ・・・っ」
草壁 みどり「ええ、もちろん上げますよ」
草壁 みどり「でも、一つだけ条件があります」
長谷川 カレン「じょう、けん・・・?」
草壁 みどり「今からムカデを食べて、どんな味なのか教えてちょうだい?」
草壁 みどり「若葉がね、ムカデを食べた事があるらしくって」
長谷川 カレン「・・・っ」
草壁 みどり「どんな味なのか知りたいのよ」
草壁 みどり「でも、私は蟲が苦手なの」
草壁 みどり「だから、代わりに貴方が食べてちょうだい?」
長谷川 カレン「食える、わけ、ないだろ・・・っ」

〇広い厨房
草壁 みどり「あら、残念」
草壁 みどり「じゃあ、お水はなしね」
長谷川 カレン「は・・・?」
草壁 みどり「行きましょう、モンちゃん」
モンちゃん「・・・おう」
長谷川 カレン「え、ちょ・・・っ」
長谷川 カレン「ま、まって・・・!」
草壁 みどり「・・・何かしら?」

〇地下の避難所
長谷川 カレン(このババア、私の事死んでもいいって本気で思ってやがる・・・)
長谷川 カレン(マジでムカデ食うまで何もくれない気だ・・・)
長谷川 カレン(くそ・・・っ)
長谷川 カレン(・・・ムカデも、一匹なら、なんとか)

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コメント

  • いやー、肉じゃががこんなに美味しそうに思えたのはしばらくぶりでした。デッドオアチキンのように飯テロTapNovelとしても使えそうです。ムカデの対比がえぐい。
    しかし…なぜ踊り食いだったんだ(笑)

  • 本日の夕飯が肉じゃがだったわたくし、大勝利です!✨️食べたすぎて悶えずに済みました。ちなみにうちは牛肉です。みどりさんの肉じゃがもおいしそう……
    それにしても、ムカデの実食描写がリアルすぎて、経験者じゃないですよね!?と思ってしまいました。
    カレンに「食べさせてください」と言わせるまでの流れが鮮やかで痺れました。間違いなく狂気なのに、どこか美しくて陶酔に似た感情がわきます。なんというヒロイン。

  • タップする手が止まらんでございます。
    長年連れ添った老夫婦みたいな、のほほんとした雰囲気だったのに、いや牢屋の隣かよ! マジでイカれてやがる! でもやっぱり可哀想だと思わない。
    面白過ぎます。

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