第四話 お粗末様でした。(脚本)
〇黒
〇黒
〇安アパートの台所
草壁 みどり(・・・一人分の朝食を作るのにも)
草壁 みどり(慣れてきて、しまいましたね)
〇実家の居間
草壁 みどり「・・・頂きます」
草壁 みどり「若葉が居なくなってからは」
草壁 みどり「1人で食べる食事に、味なんか感じなかったのに」
草壁 みどり「だんだん、美味しいと感じられるようになってきた・・・」
草壁 みどり「これも、モンちゃんのおかげね・・・」
パソコンからの音声「は・・・あ・・・っ」
パソコンからの音声「しに、たくな・・・い」
草壁 みどり「あら?」
草壁 みどり「あらあら」
草壁 みどり「あらあらあら」
草壁 みどり「カレンさんも朝食かしら?」
〇地下の避難所
長谷川 カレン(頭が、痛い・・・)
長谷川 カレン(喉が、痛い・・・)
長谷川 カレン(お腹、すきすぎて、吐き気がする・・・)
長谷川 カレン「は・・・あ・・・」
長谷川 カレン「しに・・・たくな・・・い」
長谷川 カレン「水・・・ ご飯・・・」
長谷川 カレン「これ・・・食べるしか、ないの・・・?」
長谷川 カレン「は・・・っ 意識、が・・・」
監禁されて98時間
カレンの肉体は限界を迎えておりました。
長谷川 カレン「ムカデでも、いい・・・」
長谷川 カレン「たべ、たい・・・」
〇黒
〇黄色(ディープ)
カレンは朦朧とする意識の中
ムカデで満タンの瓶に手を差し入れ
骨ばった手に、掴めるだけのムカデを掴みました。
手の中で暴れるムカデを
口の中に放り込み
何度も
何度も
咀嚼をし、飲み込む事に成功いたしました。
〇赤(ダーク)
しかし生命力の強いムカデたちが
弱り切ったカレンの咀嚼程度でこと切れるわけもなく
カラカラに乾いたカレンの食道を
無数の脚でカリカリと引っ掻き回し
胃の中に落ちてなお
暴れまわったのでございます。
長谷川 カレン「ご・・・っ おぇっ」
せっかく決死の思いで飲み込んだ無数のムカデを
カレンは全て、吐き出してしまいました。
〇地下の避難所
長谷川 カレン「ぉ・・・ぇぁ・・・」
長谷川 カレン「・・・」
長谷川 カレン「は・・・はは、は・・・」
自分が吐き出した、のたうつムカデを見たカレンは
自分の心が折れた音を、確かに聞きました。
長谷川 カレン「草壁も死ぬ前、こんな気持ちだったのかな・・・」
長谷川 カレン「・・・」
長谷川 カレン「・・・っ」
長谷川 カレン「ご、ごめ、ん・・・」
長谷川 カレン「ごめ・・・っ」
長谷川 カレン「くさ、かべぇ・・・っ」
長谷川 カレン「ご、めん、ねえ・・・っ」
〇実家の居間
パソコンからの音声「くさ、かべ・・・っ ごめん、ねえ・・・っ」
草壁 みどり「・・・」
草壁 みどり「カレンさん・・・」
草壁 みどり「・・・もう」
草壁 みどり「おしまいにしましょうか」
〇地下の避難所
長谷川 カレン「ごめ、なさ・・・い」
心が折れたカレンは
長谷川 カレン「ごめん、なさい」
ただ一人、倉庫の中で
長谷川 カレン「ごえん・・・さい」
自分が虐め殺した
長谷川 カレン「ごめんなさい・・・」
草壁 若葉に対する謝罪を繰り返すことしか
長谷川 カレン「ご、め・・・」
出来ることはございませんでした。
〇広い厨房
草壁 みどり「こんにちは」
草壁 みどり「ご機嫌いかが?」
「ご、めんなさい・・・」
草壁 みどり「あらあら」
草壁 みどり「ずいぶんと元気がないわね」
「ご、めん、なさ・・・」
草壁 みどり「うふふ」
草壁 みどり「声がガビガビで何を言っているか分からないわ」
「ごめ、な・・・さ」
草壁 みどり「・・・ふぅ」
草壁 みどり「随分と、反省しているようですね」
長谷川 カレン「ごめん、なさい・・・」
心の折れた様子のカレンを見たみどりは、この時
肩の荷が下りたような、ほんの少しの解放感のような物を感じておりました。
みどりが本当に見たかったのは
カレンが苦しむ姿ではございません。
孫の心を踏み潰した、長谷川カレンという少女の心を
徹底的にへし折ってやりたかった。
だからこそ、紋吉郎にカレンを監禁するよう依頼をし
紋吉郎もまたカレンの心を追い詰めるためだけに
監禁場所にキッチンを作らせたのでございます。
草壁 みどり(カレンさんが死んでしまう前に、心が折れてくれて本当に良かった)
草壁 みどり「・・・」
草壁 みどり「・・・昨日の残りの肉じゃがを、温めましょうか」
〇地下の避難所
長谷川 カレン「にく、じゃが・・・」
みどりが肉じゃがの鍋を火にかけると
美味しそうな匂いが倉庫一杯に広がります。
長谷川 カレン「あ・・・ あぁ・・・」
漂う匂いに空腹感を刺激され
カレンがわずかに身をよじり
激しい飢餓感に苦しみだします。
口は半開きになっておりますが、涎の一滴もわきません。
すでに彼女の体内に
ぎゅるぎゅるという、大きな腹の音が鳴るばかりでございます。
「ねえ、カレンさん」
〇広い厨房
草壁 みどり「貴方は孫の・・・ 若葉の両親がどうして居ないか知ってる?」
「・・・なんか りょうほう、事故で、死んだって・・・」
草壁 みどり「そうなの、若葉がまだ小学生の頃」
草壁 みどり「二人とも交通事故でね・・・」
「・・・」
草壁 みどり「幸い若葉はその日、私が預かっていたから」
草壁 みどり「事故に巻き込まれずに済んだのよ・・・」
草壁 みどり「・・・さて、温まりましたね」
草壁 みどり「少し、味見をしましょうか」
そう言うと、みどりは肉じゃがを一口頬張りました。
草壁 みどり「うん」
草壁 みどり「やっぱり、一度冷ますと味がよく染み込みますね」
草壁 みどり「お水も、美味しいわ」
〇地下の避難所
長谷川 カレン「あ、あ・・・」
長谷川 カレン「わ、わた、し、にも・・・」
「そうそう、若葉ってね 肉じゃがが大好物だったのよ」
長谷川 カレン「え、あ・・・」
「私が作った料理が大好きだって言ってくれて」
「本当に、いい子だったの」
長谷川 カレン「・・・は、い」
「そんないい子の若葉が、どうして、あんなに酷い虐めにあったのでしょうね」
長谷川 カレン「あ、ご、ごめ、んなさ・・・」
「いいのよ、謝らなくて」
「貴方が反省しようがしまいが、関係ないもの」
長谷川 カレン「え・・・」
「だって貴方は、反省してもしなくても」
長谷川 カレン「あ、え・・・?」
みどりはカレンが死んでしまう前に
どうしても彼女の心を折りたかった。
孫の若葉と同じように
カレンも心がズタズタになってから
死んで欲しかったのでございます。
「それでね、若葉って見た目よりずっとお転婆で」
みどりは、カレンの様子を観察しながら
淡々と孫との思いでを語り続けます。
長谷川 カレン「ごめ、なさい」
「若葉ってば、小学生の頃にね」
長谷川 カレン「ごめん、なさい・・・」
カレンの意識が徐々に薄くなっていきます。
長谷川 カレン「ご、め・・・」
みどりの思い出話を聞きながら
カレンの視界はどんどんと狭く、暗くなってゆきました。
長谷川 カレン「・・・」
完全に体から力が抜け
冷たいコンクリートに頭を打ちつけたカレンが見た
最期の光景は
自分が吐き出したムカデの、死骸でございました。
〇広い厨房
草壁 みどり「ほんと、若葉は普段はしっかりしているのに、大事なところで・・・」
草壁 みどり「あら・・・?」
草壁 みどり「カレンさん?」
草壁 みどり「・・・」
草壁 みどり「・・・そう」
草壁 みどり「もう、おしまいですね・・・」
若葉を虐め殺した人物の一人。
長谷川カレンが、死んだ。
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)
長編書いてると読んでいる方が思う以上に難産なときありますよね…一から作り直したり。
スチルもあるから余計大変そうです。
カレンの事切れる様子は見事でした。読者側にしっかり倒すための理由を描写でみせてるので読んでる側の読後感を最悪にならないよう、コントロールしてるのも凄いですね。
これは書ききるのが大変だったでしょう……!
みどりさんの複雑な感情、壊れる心に胸を打たれます。復讐の鬼とは、こんな苦しみと罪を背負う覚悟なんですね。
ユカリさんは次回登場するのかな?ちょっと楽しみです。でもまたヘビーな予告。怖い、怖いけど楽しみ、複雑……!
こんにちは!コンテストの中でこのシリーズが一番気になっています(笑)でもめちゃくちゃ怖い!めちゃくちゃ怖いのにそういえばあれ…あっ新しい話あがってしまっている…みたいな中毒性が凄いです(笑)予告する、というのも恐怖を煽りますね!あ〜怖かった😂👍