第九話、宿る結晶(脚本)
〇けもの道
長尾晴景「・・・・・・」
長尾晴景「儂は、生きておるのか・・・」
長尾晴景「・・・」
長尾晴景「ふっ。 腹が立つほどきっちりと鎧を着込んでいる」
長尾晴景「やはり、あの逢瀬は夢か・・・」
〇原っぱ
三分一原の戦いは、柿崎景家の裏切りによって上条定憲が討死し、長尾為景が勝利した。
鮎川清長ら阿賀北衆は敗北。
しかし長尾の損失も大きく、追討はなかった。
〇古民家の居間
椎名康胤「・・・」
瑞緒「康胤、もう食べないのですか?」
椎名康胤「・・・はい。失礼します」
鮎川清長「康胤の覇気は中々戻らぬな。景家の寝返りと敗戦が、よほど堪えたのだろうな」
瑞緒「そうですね」
瑞緒「・・・・・・」
〇風流な庭園
一兎「瑞緒様、お話とはなんでしょう」
瑞緒「一兎。その・・・貴方は康胤と、男女の関係はありませんよね?」
一兎「!? なぜ、そのようなことを?」
瑞緒「いえ。なければ良いのです。 近頃の康胤は、その・・・女の気配が強くて」
一兎「・・・」
一兎「誓って、俺と康胤様との間でそのようなことはございません」
瑞緒「そうですよね。 変なことを言ってごめんなさいね」
瑞緒「やはり、景家のことや長尾に負けたことを気に病んで気を張れずにいるのでしょう」
一兎「今の康胤様は表に出ない方が良さそうですね。少し環境を変えるのも良いかもしれません」
一兎「人目につかない療養先を探してみます」
瑞緒「そうね。よろしくお願いします」
一兎「・・・・・・」
〇屋敷の大広間
長尾晴景「父上。お呼びでしょうか」
長尾為景「おお、晴景」
長尾為景「儂もそろそろ、隠居しようかと思っての。 お前に家督を譲りたい」
長尾晴景「・・・謹んで拝領いたします」
長尾為景「多少強引なやり方をしてきたからな、 儂が前に出ると何かと反発される」
長尾為景「代替わりすれば少しは静かになるだろう。 その間に、将軍家との絆を強める」
長尾晴景「本当の意味で隠居する気はなさそうですね」
長尾為景「お前はお行儀が良すぎる。 長尾にはまだ儂が必要だ」
〇神社の本殿
美織「ここが白山神社・・・素敵ですね、佐澄様」
佐澄「こちらに祀られる女神、菊理媛(ククリヒメ)様は私にとって永遠の憧れなのですよ」
佐澄「古の神、イザナギとイザナミの夫婦喧嘩の仲を取り持ち、より強く結びつけたという」
美織「まさに佐澄様のような女神様ですわ」
佐澄「まあ・・・美織ったら。 でも本当にお力をお借りしたいわ」
佐澄「こちらの神様のご利益は、家内安全、商売繁盛、厄除、子宝、安産、それから・・・」
佐澄「縁 結 び ! 張り切ってお参りしてご利益をいただかなければ」
佐澄「ククリヒメ様~! どうぞ、どうぞ、晴景様と朱姫様を!」
美織「ものすごい気合いですね、佐澄様」
美織「康胤様はいらっしゃるでしょうか。 お会いしたいと文を出したんですよね」
佐澄「ええ。ここまで足を伸ばして阿賀北に近づくことは滅多にありませんもの」
一兎「・・・佐澄様でいらっしゃいますね」
佐澄「! はい」
佐澄「貴方は、もしや康胤様の」
一兎「はい。康胤様、こちらへ」
椎名康胤「・・・お久しゅうございます」
佐澄「朱 姫 様 !? あ、いえ・・・康胤様なのですよね?」
椎名康胤「訳あって今はこの姿です。 本日はご相談があって参りました」
佐澄「なんでしょう」
椎名康胤「ここは人目につきます。場所を変えましょう」
〇森の中
佐澄「ああ・・・そのお姿、お懐かしい。 それで、ご相談とは」
椎名康胤「私の果たせなかった・・・側室の役割のことで」
佐澄「! ご自分が朱姫様だと、お認めになるのですね」
椎名康胤「・・・はい。 ですが、どうぞご内密に」
椎名康胤「私は椎名康胤として、 お家を再興することは諦めておりません」
佐澄「”果たせなかった役割”とは?」
椎名康胤「佐澄様に代わり、お世継ぎを産んで差し上げることです」
佐澄「それは、授かり物ですから貴女が気に病むことではないですよ」
椎名康胤「・・・・・・」
佐澄「朱姫様?」
椎名康胤「授かったのです・・・」
佐澄「えっ?」
椎名康胤「晴景様の、お子を・・・」
佐澄「ええええええええええ!?!?!?」
佐澄「えっ、何がどうなって、そのような」
佐澄「そういえば、晴景様が夢を見たとかなんとかおっしゃっていたような・・・あれは」
椎名康胤「はい。戦に紛れて、一夜だけ。 晴景様は夢とお思いかと」
佐澄「あ、ああああっ・・・・・・」
佐澄「ククリヒメ様ー!!! ありがとうございます!!!!!」
椎名康胤「!?!?!?」
佐澄「朱姫様!よくやりました!よくぞ!」
椎名康胤「さ、佐澄様??」
佐澄「やはり想い続けてくださってましたのね! 晴景様のこと!」
椎名康胤「あ、あの・・・」
佐澄「まるで訳がわからないという顔ですね」
佐澄「人の恋路がこの上ない喜びである人間もいるのですよ」
佐澄「私は本当に!ずっと! 願って諦められずにいたのです!」
椎名康胤「そ、そうですか・・・」
椎名康胤「それで、お話の本題なのですが。 私にはまだ成さねばならぬことがあります」
椎名康胤「側に置いても母として接することができず、目を患った私の母にも荷が重い」
椎名康胤「この子が生まれたら、佐澄様に託してもよろしいでしょうか」
佐澄「・・・私、に・・・?」
椎名康胤「私は佐澄様に救われながら、何もできずに、それどころか従者を殺して逃げました」
椎名康胤「晴景様のお子を授かった今、 この子は正室にお返しするべきだと」
佐澄「・・・!」
佐澄「朱姫様。そんな風におっしゃらないで」
椎名康胤「・・・」
佐澄「生まれた子供はもちろん、喜んでお預かりします。我が子と思い育てます」
佐澄「でも、けして負債の代償ではありません」
椎名康胤「・・・」
佐澄「長尾の子とすることに抵抗はないのですか?」
椎名康胤「晴景様と佐澄様のもとであれば」
椎名康胤「父の仇として晴景様を憎むべきだと思い悩んで参りましたが」
椎名康胤「男として戦いを経験した今ならわかります」
椎名康胤「父は殺されたのではない。 武将として戦い、敗れたのです」
椎名康胤「ただ、戦う術のない桜丸を葬った 為景様は許せません」
佐澄「お心、承知致しました」
佐澄「この度晴景様は、長尾の家督を継ぐことになりました」
佐澄「為景様が長を退けば、長尾と手を取り合うこともできますね?」
椎名康胤「はい」
佐澄「子を産むまでの環境は整っていますか?」
佐澄「よろしければ、いえ是非、こちらでご用意させてください!」
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イッキ読みの最中ですが、尊さのあまりコメントさせていただきます🦁
神仏…ええ仕事するやん…ええ仕事するやん…😭
やばい、泣ける…たった一度で。どれだけ想い合って縁のあってのことでしょうね。ロマンチック過ぎる。しかし予想しない展開でした。見逃さないとはこのこととは。
晴景の反応がみたいけど為景の反応が怖い次回です。
衝撃の告白に対する佐澄さんの興奮演出が面白かったです😂爆発エフェクト😂
二人の愛の結晶である赤ちゃん…シンプルに祝えればどれだけ良かっただろう😭続きも楽しませていただきます😆