白い月の光

ましまる

今日の不協和音が明日の協和音(脚本)

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〇テーブル席
美由紀「おまたせ~」
わたし「いえいえ!」
  ──美由紀さんとの定例のお茶会
  この美由紀さんとは
  大人になってからの関係なのだが、
  何だかんだで長いお付き合いになっている
  いつものカフェで、新作のお茶を飲み、
  美由紀さんの愚痴を聞くだけの時間だけど
  これはこれでリラックスできて好きなんだ
  お話の内容も、
  美由紀さんがずっと続けているピアノや、
  子育てのこと、近隣のパン屋のことなど、
  興味のあることばかりだし
  単に私が人付き合いが苦手なので、
  ズケズケと話してくれるタイプの人は
  とても楽なんだよね
美由紀「・・・でさー」
美由紀「この前の子供の音楽のテストを見たら、 回答が「バッハ」でマル貰ってたのよ!」
美由紀「ていうかバッハって名字じゃない! 歌舞伎役者の名前を問うテストで、 「市川」「松本」って答える感じでしょ!」
わたし「ですよね! 「J.S.バッハ」か、せめて「大バッハ」 って答えさせるべきですよね!」
わたし「息子の W.F.Bach とか C.F.E.Bach も、 立派な音楽家ですもんね!」
美由紀「そうそうっ! 音楽家のバッハ一族の他の人達を 全部貶めるような扱いに思えちゃって!」
わたし「ヘンデルみたいに、お医者さんの家で、 音楽家一族でないのでしたら、 名字だけでも理解はできるのですけどね」
美由紀「だよねっ! ていうか、ヘンデルを「音楽の母」って 変なネーミングを付けたのは誰なんだろね」
美由紀「肖像画ではどう見ても ゴッツイ感じのオヤジなのにね!」
わたし「あのネーミングって、 日本で付けられた説がありますよ!」
わたし「バロック期の作曲家で、 「音楽の父」J.S.Bachに並ぶ存在だから 父に対して母をチョイスしたとか・・・」
美由紀「何それっ!? 安直すぎて笑えるんだけど! ヘンデル以外にも、ヴィヴァルディとかラモーとかスカルラッティもいるのにね!」
美由紀「アタシはピアノやってるから、 D.スカルラッティを評価してほしいけど」
わたし「同時代の女性作曲家に対して 「音楽の母」と言うのならまだしも、 あの見た目からしてのオッサンは・・・」
美由紀「だよねー!」
美由紀「・・・ていうか、前から思っていたけど、 アンタって妙に音楽関係に詳しすぎない?」
美由紀「アタシなんか、小さい頃からピアノ漬けで 大学もイチオー音楽学科出てるけど、」
美由紀「アンタって、音楽関係者でないよね? 大学も文学部卒だし・・・」
わたし「まぁ確かにそうですね・・・」
美由紀「家庭の教育方針で、クラシック音楽を ひたすら聞かされたとかあったの?」
わたし「いや、家族でクラシック音楽を聴くのは 私だけでしたよ」
美由紀「えー、意外! 何かキッカケでもあったの!?」
わたし「そうですね、傾倒し出すのは中学生の頃で それからドップリですね」
わたし「中学生の時、クラスの目立ちたがり屋が、 バンドを組んで文化祭で披露したのですが」
わたし「それがあまりにも無残なもので、 聞いていて具合が悪くなったんですよ・・」
美由紀「あー、そういう世代だよね・・・」
美由紀「みんなデタラメな演奏して、 自己満足に浸ってるアレね・・・」
わたし「はい、リズムも音程もメチャクチャすぎて 具合悪くなってゲロ吐きました・・・」
美由紀「うわー・・・」
わたし「さすがにその場では吐きませんでしたよ! でも、トイレでの吐く声がダダ漏れで、 クラスのみんなに聞かれました・・・」
美由紀「それってバンドメンバーと気まずいよね!?」
わたし「はい、 そのバンドのギターと同じクラスで、 後から殴られそうになりました・・・」
美由紀「だよねー」
わたし「で、その気持ち悪さがトラウマで、 ソッチ系の音を聞くだけで具合悪くなり クラシック系の音楽に逃げちゃいましたね」
わたし「そこからドップリとハマってしまって、 独自で色々と勉強するようになりました。 音楽史や和声法も基本的なレベルは・・・」
美由紀「だからなのね! 何だか納得!!」
美由紀「ところで、そのクラスのギターの子との 関係性は大丈夫だったの?」
わたし「すっごく気まずいままでしたよ・・・」
わたし「彼は高校でもバンドを続けたようですが、 あだ名が「ゲロギター」でしたから・・・」
わたし「「聴衆を吐かせる超絶ギターテク」って 馬鹿にされていたみたいです」
美由紀「それは可哀想すぎるかも・・・」
美由紀「でも、アンタも流行りの歌と縁遠かったら なかなか大変だったんじゃないの?」
美由紀「友達との話も合わなくなるし、 カラオケに誘われても苦労したんじゃ?」
わたし「それが、高校に行くと、 苦労どころか”強み”になりましたよ!」
美由紀「”強み”!?」
わたし「私の行った高校は自由放任主義で、 さらに私のクラスはトンデモなところで」
わたし「各自が興味関心のある分野を追求するのが みんなから高く評価されたんですよ!」
美由紀「何それっ!?」
わたし「ですので、知的好奇心のままに、 みんなメチャクチャしてましたよ!」
わたし「授業無視で数学オリンピックの問題に 向き合っている人とか、」
わたし「ありとあらゆる小動物を解剖したがって 放課後は生物室で血まみれになるような 人がいたり、」
わたし「難解な英文学を読み漁っていたり、 『論語』や『孟子』とかの漢文を 原文で読んでいる人もいましたよ!」
わたし「家でロボット工学とか 化合物の調合する人とかも、、、」
わたし「あと、独学でエスペラント語習得を試みた チャレンジャーもいましたね!」
美由紀「何なのそれ!? マッドサイエンティスト養成所?」
わたし「否定はできないですね・・・ 分野によっては教師より詳しい生徒が 何人もいましたから!!」
わたし「極めた知識を持つ生徒は、 「先生」という評価を受けてましたね」
美由紀「うわー、同じクラスでなくてよかった・・」
わたし「そんな空気だったので、 私も自由気ままにいられましたよ!」
美由紀「もしかして、アンタも 音楽の「先生」になっていたとか?」
わたし「”音楽”というか”音楽史”ですね。 音大志望者とか、世界史選択の人には かなり重宝されましたよ」
美由紀「まぁ確かに・・・ アタシも高校の時は、 ショパンとかリストは知っていても、 声楽とか管弦楽とかからっきしだったから」
美由紀「ちゃんと体系的に理解している人がいたら 質問攻めにしていたと思うわ!」
わたし「実際に特定の楽器を演奏している人は、 だいたいそんな感じでしたね。 作曲者名と作品は知っているけど、、、と」
わたし「でも、実際の作品を知っているから、 ”ロマン派”とか”国民学派”とかの分類の 理解はかなり早かったですよ!」
美由紀「そうそう、アタシも何となくだけど、 その分類のイメージはすぐできたね!」
わたし「ただ、普段から音楽を聴いていない人は、 その感覚が一切なくて、 説明に苦労しましたね・・・」
美由紀「だよねー」
わたし「さらに、ちょっと厄介事も 引き起こされたりしましたから・・・」
美由紀「えー、何があったの!?」
わたし「それは・・・」

〇黒背景

〇教室
クラスメイト「ねーねー、 ドビュッシーって名前、何かエロくない!?」
クラスメイト「すっごい気になるから、 ドビュッシーについて教えてよ「先生」!」
クラスメイト「あー、エロい感じするよね! ドビュドビュ、ドビュッシー!!」
クラスメイト「おいおい、お前、 教室でドビュッシーするなよ!? お前のドビュッシーは見たくないからな!」
クラスメイト「しねーよ、お前こそドビュッシーして、 教室をクッサくするなよ!?」
クラスメイト「じゃあ「先生」にお願い、 コイツらが教室でドビュッシーする前に ドビュッシーの授業してもらってもいい!?」

〇テーブル席
美由紀「うわー、最悪・・・」
美由紀「アタシ、ドビュッシーの「月の光」 弾くのも聴くのも大好きなのよ!!」
美由紀「何だか、曲とピアノ自体も、 汚されたような気分がするわ!」
わたし「私も、そんな気分になりましたよ・・・」
美由紀「でも確かに、 高校生にとって”ドビュッシー”って名前 インパクトが強すぎだよね・・・」
わたし「はい、リクエストされた「授業」を そのまましたら調子づかせそうで・・・」
美由紀「だよね! どんな授業をやったとしても、 ソイツらの下ネタが勢いづくだけだよね!?」
わたし「はい・・・ ドビュッシー好きとしては、絶対に避けたい事態だったので、対応に悩みました!」
美由紀「で、どういう対応をしたの?」
わたし「希望者を募って講義をしました! 後期ロマン派から印象派にかけての音楽史を、代表的な作曲家とセットで!」
わたし「と同時に、音楽の中心地が ドイツ・オーストリアからフランスへと シフトする過程についても!」
美由紀「おっ、かなり本格的!」
  【ロマン派音楽】
  西洋音楽史における、1800年代初頭から1900年頃まで続いた潮流であり、最も華やかな時代。
  【後期ロマン派】
  19世紀後半からのロマン派。楽器編成の規模の拡大が見られ、大規模な楽劇や交響詩が描かれている。
  【印象派】
  ロマン派のアンチテーゼとして、従前の調整、リズムに基づかず、雰囲気の表現に比重を置いた音楽様式。
わたし「そして、代表的な作曲家として、 後期ロマン派のウィーンのマーラー (Gustav Mahler)、」
わたし「同じくフランスのシャブリエ (Alexis-Emmanuel Chabrier)、」
わたし「そしてリクエストのあったドビュッシー (Claude Achille Debussy)を 取り上げました!」
  【ドビュッシー】1862-1918
  19世紀末から20世紀にかけてのフランスのスゴイ作曲家。印象派とされるも本人は否定
美由紀「マーラー・・・ シャブリエ・・・ ドビュッシー・・・」
美由紀「あれっ、3人の名前を並べると・・・」
わたし「はい、 クッソ真面目な音楽史の授業を行って、 連中のはしゃぐ余地を与えず、」
わたし「作曲家名での下ネタの上位互換を見せつけ すっかり黙らせることに成功しました!」
美由紀「えげつな・・・」
美由紀「授業内容も、下ネタも、 高校生レベルを超えてるって!」
わたし「してやったりです!」
わたし「連中は以降すっかり大人しくなりました。 「マーラーをシャブリエでドビュッシー」 の三段活用はお気に召したようです」
美由紀「うわー、ヒドイ・・・」
わたし「でも、それを機に、残念なことが・・・」
美由紀「ん、どうしたの?」
わたし「私の「先生」の称号が、 音楽以外にも1つ追加されたんですよ 不本意なものが・・・」
美由紀「あーお察しだわ・・・」

次のエピソード:拍手喝采

コメント

  • 普段からクラシック音楽を聴いたりするのですが、ロマン派が何かすら分からないままでして笑 詳しい人に解説してもらいながら聴いてみたいな〜なんて常々思います🤔

    それにしても、高校生ってちょっとした単語も反応しますよね😂なのに直接的な下ネタにはタジタジになっちゃうっていう笑 まさかの3段活用がツボに入りました笑

    かなり前の作品ですので迷いましたが、面白かったので思い切ってコメントしました😂

  • 姉が音大出身だけどクラシック音楽ど素人ですが
    会話のテンポが良く、豆知識も分かりやすく
    とても楽しめました😆

    (ドビュッシー、そりゃ思春期反応するわ
    (バッハって名字みたいなもんだったんだ

  • 知識は全然ありませんでしたが、とても楽しめました。勉強になりましたが、最後のほうしか記憶に残っていません(笑) 面白そうな学校ですよね。こういうころから天才は生まれるのでしょうか。

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