第一話 復讐者(脚本)
〇屋上の端(看板無し)
〇屋上の端(看板無し)
草壁 若葉(おばあちゃん)
草壁 若葉(ごめんね)
草壁 若葉(・・・)
〇黒
〇血しぶき
〇黒
〇葬儀場
草壁 みどり(若葉が自殺だなんて)
本年75歳を迎える『草壁 みどり』は
自殺した孫の『草壁 若葉』と二人きりで暮らしておりました。
しかし、みどりは若葉が自殺した理由に
皆目見当がつかなかったのでございます。
〇実家の居間
若葉の葬儀も落ち着いた頃
みどりは若葉の部屋で、彼女の日記帳を見つけました。
草壁 みどり「若葉の日記帳・・・」
みどりはどうしても、孫が自害した理由を知りたかった。
草壁 みどり「ちょっと、見させてもらうね」
草壁 みどり「え・・・?」
日記の内容は、若葉が受けていた
凄惨ないじめの記録でございました。
強制的な売春。
草壁 みどり「酷い・・・」
望まぬ妊娠。
草壁 みどり「・・・っ」
そして、強要された自殺。
草壁 みどり「これは、自殺なんかじゃない」
草壁 みどり「必ず犯人たちに」
草壁 みどり「残りの人生、すべてを使ってでも」
〇学校の校舎
〇警察署の入口
〇墓石
みどりは若葉の日記を持って
警察や学校へと出向きましたが
いじめなどは無かった、という事にされました。
理由は明白。
日記に書かれていた
いじめ加害者たちの名前。
その名前が問題でございました。
加害者たちの親や親族は
敵に回してはいけない人物ばかり。
学校も警察も、触らぬ神に祟りなしと
事件を揉み消したのでございます。
草壁 みどり「大丈夫ですよ、若葉」
草壁 みどり「おばあちゃんが必ず、若葉の仇を討ちますからね」
〇古いアパート
みどり宅の裏に建つ、寂れたアパート『天楽荘』
そこに住む、みどりにとっての昔馴染みが
家族に先立たれた彼女にとって
頼ることが出来る、最後の人物でございます。
彼ならば復讐を手伝ってくれる。
そう確信を持って、みどりは『天楽荘』へと向かいました。
〇CDの散乱した部屋
モンちゃん「・・・んで、俺のとこに来たと」
天楽荘の六畳一間に住み着くこの男を、みどりは昔から『モンちゃん』と呼んでおります。
草壁 みどり「モンちゃんが手伝ってくれれば」
草壁 みどり「犯人たちに地獄を見せてやれるはず」
モンちゃん「・・・そりゃ、まあ」
モンちゃん「出来るっちゃあ、出来るが・・・」
モンちゃん「気が乗らねえな・・・」
草壁 みどり「何故です!」
モンちゃん「俺はだな・・・」
モンちゃん「みどりちゃんに、そんな修羅の道を歩いて欲しくはねえんだよ」
草壁 みどり「・・・モンちゃん」
草壁 みどり「私は、若葉の仇討ちに」
草壁 みどり「残りの人生全てを捧げると、決めました」
草壁 みどり「加害者たち全員を地獄に送る」
草壁 みどり「その為なら、私は・・・」
モンちゃん「・・・」
モンちゃん「・・・わかった」
モンちゃん「だが、タダって訳にはいかねえな」
モンちゃん「対価はいただくぜ?」
草壁 みどり「勿論です」
草壁 みどり「私の持っているもの、すべてを支払っても構いません」
モンちゃん「・・・そおかい」
モンちゃん「んじゃあ、今夜」
モンちゃん「本家に来てくれ」
モンちゃん「詳しいことは、そこで話す」
草壁 みどり「・・・わかりました」
〇屋敷の門
みどりにモンちゃんと呼ばれるこの老人
紋吉郎は今でこそ、夜な夜な天楽荘から
みどりの家を覗くようなスケベエではございますが
その実
この地域一帯を牛耳るヤクザである『金田組』
六代目組長でございました。
現在はご子息に組長の座を譲り
天楽荘にて隠居生活を送っております。
〇広い和室
草壁 みどり「モンちゃんがそんな格好をしているのは」
草壁 みどり「随分と、久しぶりですね」
モンちゃん「似合うかい?」
草壁 みどり「よく、お似合いですよ」
モンちゃん「俺はどうにも落ち着かねえ」
草壁 みどり「いつもだらしない恰好をしているからですよ」
モンちゃん「だらしねえ方が、みどりちゃんが構ってくれるからな」
草壁 みどり「・・・あきれた」
モンちゃん「かかっ」
草壁 みどり「・・・」
モンちゃん「・・・」
草壁 みどり「モンちゃん」
モンちゃん「おう」
草壁 みどり「孫の」
草壁 みどり「若葉の復讐の手伝い」
草壁 みどり「その対価に私は何を支払えばいいのでしょう?」
モンちゃん「・・・俺はガキの頃から」
モンちゃん「みどりちゃんに惚れてる」
モンちゃん「今もだ」
草壁 みどり「・・・知っていますよ」
今風に言えば、紋吉郎は
わざわざオンボロな天楽荘で隠居生活をしているのは
天楽荘が、みどりの家の裏にあるから。
近くに住めば、みどりの生活を観察出来るから。
稀にみどりの入浴を覗いている事は、秘密でごさいます。
草壁 みどり「こんなしわくちゃなオバアチャンのどこがいいのでしょうね・・・」
モンちゃん「俺が惚れたみどりちゃんの魅力ってやつを」
モンちゃん「全部語れば、夜が明けちまうが」
モンちゃん「聞いてくかい?」
草壁 みどり「いいえ、結構です」
草壁 みどり「私の寿命を、そんな事で消費する訳にはいきません」
モンちゃん「つれないねえ」
草壁 みどり「それで」
草壁 みどり「まさか、こんな老いた女の体を求める訳では無いでしょう?」
モンちゃん「みどりちゃんを抱けるなら望外だが」
モンちゃん「それだけじゃあ、足りねえ」
モンちゃん「仇討ちの手伝い、その対価として」
モンちゃん「みどりちゃん、あんた」
草壁 みどり「・・・は?」
モンちゃん「おうよ 恋、LOVEってやつだ」
草壁 みどり「・・・」
草壁 みどり「私は復讐に全てを捧げると言ったはずです」
草壁 みどり「恋などという浮かれたものは・・・」
モンちゃん「・・・はぁ」
モンちゃん「おいおい、みどりちゃんよ」
モンちゃん「おぼこい娘っ子じゃあるめえし」
モンちゃん「復讐と恋ぐらい、両立させてくれや」
草壁 みどり「・・・っ」
草壁 みどり「でも、恋だなんて、そんな」
モンちゃん「なんか、問題あるか?」
みどりの脳裏に、今は亡き夫
『草壁 宗介』の顔が浮かびます。
草壁 みどり「・・・」
しかし・・・。
草壁 みどり「・・・」
草壁 みどり「いいえ 問題ありません」
草壁 みどり「私はこれから、モンちゃんに恋をします」
モンちゃん「そおかい」
モンちゃん「そんじゃあ、俺は」
モンちゃん「復讐のお膳立てをしてやる」
草壁 みどり「・・・はい」
〇風流な庭園
モンちゃん「俺はこれから、全力でみどりちゃんを口説く」
モンちゃん「逃げんじゃねえぞ?」
草壁 みどり「勿論です。すべて、受けて立ちます」
草壁 みどり「そして、私はモンちゃんに恋をしましょう」
モンちゃん「かかっ! いいねえ!」
モンちゃん「そんじゃあ、手始めに」
モンちゃん「週末に千葉のでっけえ遊園地で デートとしゃれこもうぜ」
草壁 みどり「分かりました」
草壁 みどり「・・・そういえば」
草壁 みどり「あの遊園地は最近、陸と海に別れたそうですよ」
モンちゃん「なんでえ、内部抗争か?」
モンちゃん「夢の国も世知辛いねえ」
〇黒
〇広い和室
石田「最初のターゲットは『長谷川 カレン』でよろしいのですね?」
モンちゃん「おう」
モンちゃん「俺がみどりちゃんと夢の国でデートしてる間に」
モンちゃん「さらって準備しとけ」
石田「了解です」
石田「・・・」
石田「・・・先代」
石田「何故、『恋をしろ』なんて条件にしたのですか?」
石田「『愛人になれ 』でよかったのでは?」
モンちゃん「・・・んなもん」
石田「生きる意味、ですか」
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恋という、しろといって出来るわけじゃないタスクを与えるという設定が神懸かってました。唯一頼れる人が筋者だったり、所々に驚きもあって、とても面白かったです。
すごい!新しい、面白い!!✨️✨️✨️
紹介だけ見たときは、対象層と離れた年齢でどう感情移入させるのかピンときませんでしたが、こんな風に復讐と緩和材を共存させるとは!刮目する面白さでした!
みどりさんも素敵だし、モンちゃんもギャップがすごい。初登場は脇役の匂いしかしなかったのに、どんどん相手として「アリ」になっていく様がマジックのようでした。凄惨な内容でも構成がお洒落なので拒否感が少ないですね。
多くの読者とは年の離れているであろう主人公にどう感情移入させるのか気になっておりましたが、いじめの様子を短く強烈にまとめて、みどりさんとモンちゃんが良いキャラで、シンプルに感情移入出来て魅力的、これだけで十分ですね…。作品全体がお洒落なので、復讐劇でもどこか上品な雰囲気が漂っているのが凄いです…。