第六話、朱を殺す(脚本)
〇屋敷の大広間
朱は椎名康胤として出陣し、
晴景との再会を果たすが──
長尾為景「椎名康胤とは・・・ もしや、慶胤にゆかりの」
椎名康胤「いかにも、慶胤は私の父です」
椎名康胤「母が清長どのとご縁をいただき、 今は鮎川に世話になっております」
晴景の凝視に気づかぬふりで平静を装う。
心を乱してはならない。
椎名康胤「幼名は桜丸と申しましたが、 覚えておいででしょうか」
長尾為景「ああ、覚えておる。 そうか、このように立派に育たれたか」
笑う為景の目は鋭い。
長尾為景「確か、姉がいたはずだが」
椎名康胤「姉は七年前に死にました」
長尾晴景「・・・死んだ?」
椎名康胤「私はもう記憶もおぼろげですが、母の話では今の私とよく似ていたそうです」
椎名康胤「姉が一時期晴景様の側室であったことは存じております。こちらに見覚えは?」
長尾晴景「これは・・・」
椎名康胤「姉が大事に持っていたものです。 裏側に長尾の家紋が入っております」
椎名康胤「もし晴景様より賜ったものであれば、 お返しいたします」
長尾晴景「本当に、朱は死んだのか」
椎名康胤「はい」
長尾晴景「これは姉の形見としてそなたが持っておれ」
椎名康胤「いえ。私には必要ありません。 お引き取りください」
お家の再興を第一に考えるなら、女の情は邪魔だ。迷うな。覚悟を決めるのだ。
長尾晴景「・・・・・・そうか」
長尾晴景「朱は、死んだのだな」
椎名康胤「はい」
私は朱にとどめを刺した。
〇屋敷の一室
佐澄「晴景様!」
佐澄「美織に聞きました! 椎名康胤が現れたんですって?」
佐澄「しかも、朱姫様に生き写しだと・・・ ご本人だという可能性はありませんの?」
長尾晴景「・・・なくはないが」
佐澄「これは?」
長尾晴景「朱に渡していた御守袋だ。 必要ないと返された」
佐澄「・・・」
長尾晴景「朱は死んだそうだ」
佐澄「それで? なんですの、その諦めに曇った眼は」
佐澄「『取り戻すだけだ』」
佐澄「とか、おっしゃってましたよね?」
佐澄「はーっ、情けない! 男ってどうしてそうですの!」
佐澄「格好をつけるだけで度胸がない! 結局自分のことばかり」
佐澄「私は信じませんわ、朱姫様が死んだなんて」
長尾晴景「・・・佐澄」
佐澄「な、なんですの?」
長尾晴景「そなたの明るさには何度も助けられてきた」
長尾晴景「しかし、事はそう単純ではないのだ」
長尾晴景「家に付随する者と家を背負って戦う者は違う」
長尾晴景「儂は必要があれば、康胤を斬らねばならぬ」
佐澄「・・・! それが、朱姫様でも?」
長尾晴景「そうだ。 朱もおそらくその覚悟だ」
佐澄「・・・そんな」
長尾晴景「今は味方だ、斬る必要はない。 今後敵にならぬよう祈っていてくれ」
〇日本庭園
椎名康胤「・・・」
遡ること半月前──
〇古民家の居間
椎名康胤「上条定憲様が越後守護になり、 守護代を阿賀北衆に?」
鮎川清長「ああ。今の土地を、長尾の干渉なく治められる運びになる」
鮎川清長「上杉家重臣、宇佐美定満様のご提案で、中条藤資が話を持ってきた。後ろ楯は悪くない」
椎名康胤「しかし、長尾為景を討つのは 容易ではありません」
鮎川清長「それは無論だ。計画は二段階で行う。 一度目の挙兵で、阿賀北は長尾につく」
鮎川清長「上条は兵力差に屈する形になるが、 要は不満勢力を印象づければ良いのだ」
鮎川清長「将軍も為景も慎重になり、しばらく晴景守護の計画を止められる」
鮎川清長「その間にじっくり手を回す」
椎名康胤「つまり、阿賀北は一旦味方となって油断させ、二度目の挙兵で裏切るのですね」
鮎川清長「そういうことだ。 初陣のいい機会だと思うが、どうだ」
椎名康胤「わかりました。私も参陣致します」
〇古民家の居間
この七年の間に母は清長の妻となり、
男児を一人授かった。
私の真の性別は、松葉の他、
清長も知るところとなっている。
瑞緒「大丈夫ですか?康胤」
椎名康胤「母上、ご心配なく」
椎名康胤「清長どのがご判断くださったのです。 椎名康胤の初陣に相応しいと」
椎名康胤「長尾を討てば、叔父の後ろ楯もなくなる。 椎名再興の道となります」
瑞緒「・・・わかりました」
〇日本庭園
椎名康胤は世に放たれた。
もう後戻りはできない。
長尾は仇。憎むべき敵。
思い出せ。
父の死に様を。
思い出せ。
冷たくなった桜丸を。
???「朱姫様」
椎名康胤「!?」
佐澄様!?
佐澄「ああ。やはり朱姫様だわ。 会いたかった」
椎名康胤「・・・どちら様でしょうか」
佐澄「あくまでもとぼけるつもりなのね」
佐澄「私は、幸せになって欲しかったのよ。 貴女と、晴景様に」
佐澄「私の大事な二人で未来を繋いで欲しかった」
佐澄「なのになぜ、 二人ともそんな冷たい目をしているの」
椎名康胤「申し訳ありません。 私は姉ではありません」
佐澄「強い香りね。 香で女の香りを誤魔化しているの?」
佐澄「随分日に焼けたこと」
椎名康胤「何をなさるのです! 女人が不用意に男に近づいては・・・」
佐澄「体つきがいかつくなりましたね。 髪も少し傷んで」
椎名康胤「おやめください、怒りますよ!」
佐澄「やっぱり、朱姫様ね」
佐澄「耳の側面に、二つ並んだほくろ。 朱姫様と同じ」
椎名康胤「!!」
佐澄「・・・貴女がこんなことをしているなんて。桜丸は、死んだのですね」
椎名康胤「死んだのは姉です! 私が桜丸です」
佐澄「・・・そう。 つらかったですね」
佐澄「どうして私は、女しか愛せないのかしら」
佐澄「私が晴景様を愛せていれば・・・貴女に嫉妬して、死んでしまえと思えたのに」
佐澄「私を殺してことが終わるのなら、 斬らせてあげたい」
???「なりません!」
佐澄「美織!」
美織「佐澄様!部屋にいらっしゃらないと思えば。危ない真似はおやめください!」
佐澄「・・・ごめんなさい」
美織「康胤様。長尾に弓を引いたとしても、佐澄様に害なすことは許しません」
佐澄「よしなさい、美織。康胤様は我が陣営に参陣くださったお味方よ」
佐澄「申し訳ありません。 侍女は私のことを過剰に心配する性質で」
佐澄「私の妄言も、吹聴したりはいたしませんのでご安心ください。・・・ただ、」
佐澄「いくら貴方が死んだと言っても、 私は朱姫様のことを諦めません」
佐澄様・・・!
なぜ揺さぶるのか。
放っておいてくださらないのか。
晴景様を理性で憎んでも、
佐澄様を憎む理由が、私にはない。
一兎「康胤様」
椎名康胤「一兎。見ていたのか」
一兎「危険があれば出るつもりでしたが」
椎名康胤「・・・少し、肩を貸してもらえるか」
一兎「はい。いつでもお支えします」
椎名康胤「・・・」
〇日本庭園
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朱姫、かっこいい!
康胤になって修行後の活躍が見れて良かった。
しかし、何故疑われるのか。治療してもらって触れたときに気付かれたか。
常にストーリーのどこかしらに緊張感があっていいですね。
次も楽しみです。
愛ではなく仇を取る。朱の覚悟も、晴景の気持ちも生半可なものじゃない。佐澄にも晴景にもウソヲ突き通す朱の気持ちが痛いです😢一兔が優しく寄り添ってくれてて良かった〜😭
初陣前に負傷とは、景家おいおい……という感じですが、彼は勘がするどいのか!? 手を貸してくれるのか、はたまた裏切るのか……引き続き楽しませていただきます!
景家の登場で緊迫していた空気がちょっと和みますね😊でも侮れないやつ!どうして気づいたんでしょう?
佐澄、やっぱりいいなぁ✨いつも味方でいてくれるから安心します。私の癒し😍