タワーディフェンス・レーヴァテイン dominate_ep8

R・グループ

第10話 最果ての戦い(バトル・オブ・エンド・ザ・ワールド)(脚本)

タワーディフェンス・レーヴァテイン dominate_ep8

R・グループ

今すぐ読む

タワーディフェンス・レーヴァテイン dominate_ep8
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇宇宙空間
  シオンベースを出発して2週間
  攻略部隊は目標の自由浮遊惑星アーリマンまであと1日という距離まで接近していた。
  行軍の間、各小隊は交代で母艦インディペンデンスの直掩、哨戒任務についている。
九鬼雄太「周囲はまっくらだねー」
善通寺正吾「肉眼じゃ目印がなんにもねーしなぁ」
月島海斗「アーリマンは強力な電波を出しているから見失うことは無いよ」
善通寺正吾「確か木星と同じぐらいだっけ?」
月島海斗「木星からの電波は地球でも受信できるほど強力なんだ」
月島海斗「海王星以内では位置観測にも使われているよ」
善通寺正吾「そんなデカい惑星を投げて来るなんてアアルにいる"敵"ってのはどんな奴らなんだろうねぇ」
月島海斗「うーん・・・」
九鬼雄太「きっととても怖い怪物だよっ!! がおーって感じ」
善通寺正吾「自然保護とかに興味なさそうだぜ」
月島海斗「それはそうかも」
九鬼雄太「ありえるねー」
  太陽系外縁部はほとんど光の無い世界。
  完全な漆黒の暗闇である。
  その中で目印になるような光は黄色く輝く太陽。そして赤く光るアアル、つまり"グリーゼ710"だけ。
ルスラン・コンドラチェンコ「0101隊長機から各隊へ 18:00より減速ドライブを開始する」
ルスラン・コンドラチェンコ「異常があった場合は報告せよ」
美唄龍馬「第13小隊各機、スケジュール確認。 18:00より減速ドライブ。 19:00より第2小隊と哨戒任務交代」
九鬼雄太「18:00まであと30秒だよっ!!」
善通寺正吾「よーし、定刻通り減速開始だ!!」
  現在、シオンベースからアーリマンまでの距離は近点(※2天体間の距離が最も近づく点)にある。
  それでも30AU(※太陽から海王星ぐらい)以上離れているので、通常の慣性航行で向かえば相当な時間を費してしまう。
  そのため、出発の際にドライブによる加速を繰り返して、速度をあげなければならない。
  だが、それでは到着時の速度が早すぎるので、今度は到着間際に減速が必要になる。
  母艦インディペンデンスや部隊同士の足並みをそろえる為、タイミングを合わせながらの減速が必要であった。
李小龍「第2小隊から第13小隊へ 哨戒任務配置完了」
李小龍「直掩任務を交代する。お疲れ様でした」
美唄龍馬「了解。第13小隊各機は母艦に帰投せよ」

〇コックピット
善通寺正吾「あー疲れた。やっと哨戒任務を終えたぜ」
九鬼雄太「1当直で8時間勤務はキツイよねー」
月島海斗「俺たちと交代した第2小隊はこのまま攻撃開始時まで母艦の哨戒と直掩を継続」
月島海斗「そのまま戦闘参加か・・・」
九鬼雄太「明日からアーリマンの攻略を開始するんでしょ?」
月島海斗「予定では8時間後だね。 俺たちは中核衛星の撃破担当、責任重大だよ」
善通寺正吾「まーこれだけ戦力を整えれば楽勝だろー」
月島海斗「いやいや油断できないよ。戦争は常に不確定要素の塊だし・・・」
サイファ「レーヴァテインの月島中尉、哨戒任務お疲れ様」
オペレーター「お飲み物を用意しています」
善通寺正吾「あーこりゃどうもー!!」
九鬼雄太「ありがとー」
月島海斗「ありがとうございます!」
月島海斗「ふーっ!! 太陽系の果てで飲むガラナは最高にうまい!!」
  今回の作戦では、士気向上の為に希望する飲み物を用意してもらえていた。
九鬼雄太「特別飲料にガラナを指定するのなんて、海斗くんだけだと思うよっ!!」
善通寺正吾「しっかし、αラグナ族はトイレも行かないし、1か月もメシを食べなくても生きていけるんだろ?」
善通寺正吾「飲まず食わずで1か月とかスゲーよなぁ・・・」
九鬼雄太「ボクは絶対ムリだよっ!!」
月島海斗「水分は摂らないとダメだけど、俺たち普通の人間でも食料は3週間ぐらいは大丈夫って聞くけど」
月島海斗「生存に必要なのは、空気3分、水3日、食料3週間って話」
九鬼雄太「3、3、3で語呂が良いね!!」
サイファ「3人乗りのカレイジャスは単独で地球から海王星ぐらいまでなら航行できるの」
サイファ「シオンベースからアーリマンまでも航行可能よ」
善通寺正吾「単独で宇宙を一か月も航行できるなんてすごいよなー」
月島海斗「αラグナ族の持つ強力な"VAF"で加速や機体のエネルギーを供給できるからね」
オペレーター「この艦の加速や減速には1Gエンジン以外にも搭載しているカレイジャスの"VAF"出力を借りています」
善通寺正吾「カレイジャスだけで航行できるなら、母艦がなくてもアーリマンまで攻めていけるってことだろ?」
善通寺正吾「メシも食わない、トイレも行かないでOK。放射線から守れて、強力なエネルギーも供給できるなんて・・・」
善通寺正吾「まさに人類の宇宙用ボディってわけだな!」
サイファ「本艦は惑星破壊ミサイルの携行だけじゃなく」
サイファ「クルーのメンタルケア、機体の整備、不測の事態に備えているのよ」
サイファ「真っ暗な外宇宙で機体が壊れて、迷子になったら一巻の終わりでしょう?」
善通寺正吾「ま、いくら身体が大丈夫でも24時間運転してたら精神が参っちまうからな」
九鬼雄太「自動操縦があっても、操作しているのは人だしねっ!」
月島海斗「昔の宇宙飛行士はもっと長い期間、ずっと狭いところにいる場合もあったらしいけど・・・」
善通寺正吾「うっひゃー、俺にはムリだわー」
九鬼雄太「ボクはお菓子がないと絶対ムリだよぉ!!」
カイト・カザン「海斗くん、お疲れ様。調子良さそうだね」
月島海斗「お連れ様です!! 明日はよろしくお願いいたします!!」
カイト・カザン「海斗君の1304機は完全な長距離戦仕様」
カイト・カザン「海斗君が脅威と判断した"敵"を優先的に狙って欲しい」
カイト・カザン「私たちが周囲の警戒や援護でしっかりフォローするよ」
月島海斗「頑張ります!!」
  1304海斗機はレーヴァテインのみを装備し、接近戦用のコイルマシンガンを外していた。
九鬼雄太「アーリマンに近づくとまた隕石を投げてくるのかなぁ?」
月島海斗「攻撃開始地点は偵察ドローンが侵入した時に、敵に攻撃を受けた場所に指定されているみたい」
九鬼雄太「でも、向こうは目も耳もないのに、どうやって哨戒してるんだろうねぇ?」
善通寺正吾「きっと"気"だ。うん」
九鬼雄太「遠くからでっけー"気"が近づいてくる!!」
月島海斗「重力の僅かな変化を感知しているらしいけど・・・」
善通寺正吾「そんなのほんのちょびっとの変化じゃん・・・わかるもんなのか?」
月島海斗「確かに現在の科学では、大掛かりな設備でも大きな重力の少しの揺らぎしか観測できない・・・」
月島海斗「でもひょっとしたら、俺たちが感じている光の感知も、向こうからしたらちょびっとした変化なのかもしれないよ?」
月島海斗「住む恒星が違えば育つ文明や文化も全然違うものになる可能性はありうるし」
九鬼雄太「うちのワンちゃんは臭いで相手を見分けるし、うちのヘビ君は熱で周囲を感知する事ができるよ!!」
善通寺正吾「なるほどなー周囲を感知する手段もいろいろあるってことかー」
カイト・カザン「アーリマンにはリングがあるし、今までの戦いとは比べ物にならないほど多数の衛星を保有している」
カイト・カザン「もし敵が周囲の衛星全部を重量制御できる状態にしているなら、かなり強い反撃を受けそうだね」
九鬼雄太「輪っかを飛ばしてくるのかなぁ・・・」
月島海斗「レーヴァテインやコイルマシンガンの弾数は限られているし・・・」
月島海斗「ガス惑星の巨大なリングの氷や岩を全部壊したりできない・・・」
善通寺正吾「大丈夫大丈夫!! シオンベースや地球と違ってこっちは動けるんだ」
善通寺正吾「シオンベースに飛んでくる隕石だって破壊するのは準惑星に命中するやつだけじゃんか」
善通寺正吾「丁寧に避けていけば全部迎撃する必要なんてないだろ」
善通寺正吾「タワーディフェンスの基本だぜっ!!」
九鬼雄太「重力制御は急加速や急旋回はできないしね!」
九鬼雄太「しっかりモニターして、しっかり回避すれば大丈夫だよっ!」
月島海斗「確かにそれはそうなんだけど・・・」
北三条英雄「おぅ、マイダーリン♪ 月島くん!!」
北三条英雄「チュッ!!」
月島海斗「あ、"あき"ちゃん・・・」
北三条英雄「クリクリッ!!」
月島海斗「うあっ!!」
北三条英雄「明日からアーリマンで戦闘だー だいぶ緊張しているみたいだからさー」
北三条英雄「リラックス、リラックス!!」
月島海斗「"あき"ちゃんは随分と落ち着いていますね・・・」
北三条英雄「いつも自然体と言ってちょうだいっ!!」
北三条英雄「でー海斗、帰ったら今度こそ一緒にお泊りデート行こうぜっ!!」
北三条英雄「モルディブ諸島のリゾートビーチを確保したから~」
北三条英雄「もちろん、"S&PR500"総動員で好き放題ハーレムプランだぜー」
北三条英雄「凍えそうな樺太の冬は南国のビーチで過ごすに限るぜっ!!」
月島海斗「わかりました」
善通寺正吾「俺もいくぜー 連れてってー」
九鬼雄太「ボクもー」
月島海斗「2人には彼女がいるだろ・・・」
善通寺正吾「男にとってハーレムは別腹だっ!!」
九鬼雄太「ボクもー」
月島海斗「・・・」
美唄龍馬「月島くん、調子良さそうだね」
美唄龍馬「うちの隊は今回の戦闘で攻撃の中軸、その中でも月島中尉の火力にはみんな期待している」
美唄龍馬「君が力を発揮できるよう、隊を挙げて支援するからよろしく頼むよ」
月島海斗「頑張ります!」
美唄龍馬「そういえば、渚が逢いたいって言ってたよ」
美唄龍馬「この作戦から戻ったら話をしてやってくれ」
月島海斗「渚が・・・わかりました」
  そういえば、海斗は休暇前に連絡をとったきり、渚に連絡していない。
善通寺正吾「海斗の幼馴染の彼女?」
九鬼雄太「海斗くんの彼氏?」
月島海斗「そんなんじゃないよ!! 妹分みたいなもので・・・」
月島海斗「一緒にスマクラとかやってるネットゲーム仲間で・・・」
善通寺正吾「彼女がいるのにハーレムに現(うつつ)を抜かすとはっ!!」
九鬼雄太「海斗くんさすがっ!!」
月島海斗「ハーレムは別腹だし・・・」

〇宇宙戦艦の甲板
オペレーター「第11小隊発進スタンバイ」
日高晶「定刻通りっス!!」
夕張万里「第11小隊発進準備完了!!」
夕張万里「さーて、いよいよ作戦当日だ」
日高晶「ところでアニキ、俺たちがまた先鋒なんスね」
夕張万里「そうだよ、志願したんだ」
深川京「アニキはなんでも先頭とか最初が大好きですよね・・・」
夕張万里「いい獲物といい女は先に手を付けた方が気持ちいいもんだろぉ?」
夕張万里「それに宇宙の戦争じゃ前も後ろもたいして関係ねーよ」
夕張万里「むしろバックから攻められる方が俺はイヤだね」
深川京「さすがアニキ!!」
日高晶「かっこいいっス!!」
夕張万里「よっしゃ、いくぜー!! 第11小隊発進!」
深川京「発進!」
オペレーター「第8小隊発進スタンバイ」
サクチャイ・ラオバン「第8小隊発進準備完了」
サクチャイ・ラオバン「李少尉、出撃するぞー」
サクチャイ・ラオバン「まだ海斗くんに嫉妬してんの?」
李維新「そ、そんなことないです!!」
サクチャイ・ラオバン「俺たちは外縁衛星への先制攻撃とリングの誘導による母艦進路の確保だよ」
サクチャイ・ラオバン「長距離射撃の成績より任務の完遂を優先するんだってば」
李維新「分かってますって!!」
サクチャイ・ラオバン「じゃ、第8小隊発進!!」
オペレーター「第13小隊発進スタンバイ」
美唄龍馬「第13小隊発進準備完了」
美唄龍馬「いよいよだ。 みんなベストを尽くそう!」
北三条英雄「宇宙のアイドル! ヒロインの"あき"ちゃんにお任せっ!」
カイト・カザン「いよいよ実戦だ、海斗くん。頑張ろう」
月島海斗「ベストを尽くします!」
美唄龍馬「第13小隊発進!」

〇宇宙空間
  自由浮遊惑星アーリマン
  自由浮遊惑星とは、特定の恒星や褐色矮星などに重力的に束縛されずに銀河を浮遊する惑星のことである。
  現地点は地球から2510AUの地点にあり、太陽系内に侵入して地球に衝突する軌道を取ると予測されている。
  直径13万km、質量は300M(※Mは地球の質量)
  自転周期は6時間、計68の衛星とリングを有している。
  自由浮遊惑星は特定の重力中心を持たないため、赤道傾斜角や公転周期はない。
  組成は水素、ヘリウム、メタン、アンモニア、水で構成されていると予測されるが詳細は不明。
  太陽系の惑星と比較すれば、木星と土星の中間ぐらいの木星型巨大ガス惑星である。
  大気は3000kmの厚いアンモニア雲で覆われており、その下に硫化水素の雲、水の雲があるらしい。
  アーリマン自体はケルビン・ヘルムホルツ機構により、自ら大きな熱を生み出しており、大気の温度を維持している。
  非常に強力な磁気圏を形成しており、木星の約1.5倍、地球の約3万倍もある。これは惑星内の対流が要因とされる。
  衛星は環(わ)、近傍群12、衛星ザッハーク、アルファ群13、ベータ群9、ガンマ群15、デルタ群10、イプシロン群8
  近傍群、ザッハーク、アルファ群が順行衛星で、残りは軌道傾斜角の大きな逆行衛星である。
  環(リング)は主に高度0.7mAUから1mAUに展開し平均の厚さ10m。これは太陽系の土星にあるものに近い。
  主に岩、氷の粒や塵で出来ており、粒の大きさは1cm~10mぐらいと様々である。
  アーリマンのザッハーク以外の各衛星の大きさは5km~100km程度と、かなり幅がある。
  主な衛星は惑星から1mAUから100mAUの範囲に存在する。
  最大の衛星ザッハークは直径約3000km、
  地球の月と同じぐらいで、内部組成の密度は月より高いと予測されている。
  星を温める恒星に属していないので、どの衛星も極めて低温。
  自熱を維持しているアーリマン以外、すべての衛星は5K(-268℃)以下、大気はない。

〇宇宙空間
ルスラン・コンドラチェンコ「隊長機から各隊へ 06:00、定刻通りアーリマン攻略作戦を開始する」
  合計16小隊、64機のカレイジャスはアーリマンの天頂方向から侵入、散開して先制攻撃の態勢に入る。
  作戦計画は次の通り
  事前調査により"スピナー"は大破させられると機能を喪失し、重力制御ができなくなることが判明していた。
  10km以上の衛星はレーヴァテインの直撃でも完全破壊することはできない。
  そこで各衛星に対し、新開発された振動弾による一撃を加えて活動を停止させる。
  この振動弾は"スピナー"に対して効果的な衝撃を衛星全体に与えるレーヴァテイン専用の弾頭である。
  進路の安全を確保後、ミサイルを抱える航宙母艦インディペンデンスを攻撃開始地点まで誘導
  浮遊惑星軌道修正ミサイルをアーリマンに直撃させ、その衝撃によって軌道を逸らす計画である。
  第1、3、5、7、9小隊は散開して軌道長半径が大きな外縁部衛星を攻撃。
  第2小隊は母艦の直掩。
  第4、6、8小隊も外縁部衛星の攻撃を行うが、その後はリングの誘導、若しくは阻止を担当する。
  無数の岩、氷の粒や塵で構成されたリングを破壊することは不可能と見積もられていた。
  もしリングが重量制御されている場合、母艦が攻撃を受けないよう対応する必要がある。
  第11から第16小隊は内縁部攻撃隊として、最大の衛星ザッハーク及びその周辺の順行衛星を狙う。
  どれもアーリマンの比較的近傍を公転している大型衛星のため、外縁衛星が少ない領域から奥深く侵入する必要があった。
美唄龍馬「月島中尉、そこからザッハークのウィークポイント(※弱点)は狙えるかい?」
月島海斗「大丈夫です、いけます」
美唄龍馬「頼もしい返事だ。成功を祈る」
  巨大衛星ザッハークはレーヴァテインでもほとんどダメージを与えられない。
  振動弾による打撃でも衛星全体に影響を及ぼすことは不可能である。
  だが、命中部位次第でその一部を破壊し、軌道から弾き飛ばす事が可能であると計算されていた。
月島海斗「ザッハークは破壊ではなく排除か・・・」
善通寺正吾「月と同じサイズを砕くなんて何発必要かわかんねーぜ!」
善通寺正吾「レーヴァテインの一撃を与えて宇宙の果てに飛ばして無力化。妥当だと思うぜー」
九鬼雄太「弱点を狙うには正確な狙撃が必要だねっ!」
善通寺正吾「海斗の責任重大だな!」
月島海斗「頑張るよ」
夕張万里「こちら前衛、第11小隊より各隊へ」
夕張万里「敵のリングに重量制御によるものと思われる軌道変更を確認した」
夕張万里「敵さん、こっちに気づいてタマを飛ばしてくるようだぜー」
  "敵"がどのような探知能力を持っているか、詳細は未だ不明のままだ。
  よって、過去に偵察したドローンのデータから判断するしかなかった。
ルスラン・コンドラチェンコ「了解、予定より若干早い。 攻撃開始!!」
  外縁衛星攻撃隊は一斉にレーヴァテインを発射。
  たちまち静かな外宇宙は煌びやかな戦場と化した。
  直径5km以下の外縁衛星が次々と破壊される。
アルベルト・カザン「命中率80%、外縁部衛星、健在6!!」
シオンベースのクルー「よし、味方にデータを送ってくれ!」
ルスラン・コンドラチェンコ「外縁部攻撃隊は第二次攻撃、内縁部攻撃隊は攻撃開始せよ!!」
カイト・カザン「月島中尉、進路上の側面アルファ3はこちらで落とす」
カイト・カザン「奥の目標を!」
月島海斗「了解!!」
月島海斗「──ッ!!」
  "敵"はスイングバイを利用する為、大きな衛星ほど重力制御能力が高い。
  また、レーザー砲台など不測の攻撃を隠している可能性もある。
  巨大衛星の中心に弾を当てても効果はほとんどない。よって脆い隅部分に当てて削り取るイメージである。
  海斗のレーヴァテインは寸分たがわぬ正確さで命中。
  ザッハークの側面を縦に撃ち抜いた。
  ザッハークは凹んだボールのように変形し、その軌道を保てなくなってしまう。
月島海斗「よしっ!!」
善通寺正吾「ナイス海斗! 柿の蔕(へた)みたいに千切れだぜ!」
九鬼雄太「さっすが海斗くん!!」
美唄龍馬「第13小隊より各隊へ、ザッハークの軌道変更を確認」
ルスラン・コンドラチェンコ「了解、ザッハークより外縁の敵衛星はすべて重力制御能力の沈黙を確認した」
ルスラン・コンドラチェンコ「各隊はアーリマンに接近し、作戦通りインディペンデンスの侵入路確保に当たれ」
李小龍「直掩から各隊へ、リングが変形を開始している」
李小龍「軌道を修正中、担当部隊は迎撃陣形を取れ」
  アーリマンの環は姿を変え、インディペンデンス方向に変形しつつゆっくりと迫りつつあった。
  リングを構成する粒や塵は小さく速度も遅いが無数に存在し、すべてを迎撃するのは不可能だ。
  そのため誘導部隊が配置されていたが、リングは騙されていないようである。
サクチャイ・ラオバン「維新、俺たち8小隊の方からリングがやって来るぞー」
サクチャイ・ラオバン「少し前ですぎだー、連携して迎撃態勢を取れー」
李維新「了解!!」
李維新「奴らはリングの誘導隊に釣られたりしなかったか・・・」
白大鵬「確かにインディペンデンスの質量が一番大きいけど・・・」
白大鵬「"敵"に脅威度の判断はできるものなのか?」
林玉衡「どういう基準で判断しているんだろう・・・」
李維新「そりゃわからないが・・・」
李維新「アーリマンのリングが波のように変化してまるで龍のようだぜ・・・」
李維新「ありゃ生き物だ・・・」
  波打つアーリマンの環の中から10m程度のやや大きめの質量を持つ岩や氷が個別に飛び出してきている。
  これらは、予め配置されている迎撃隊によって破壊されている。
  また、リングの対策としてコイルマシンガンの弾丸は爆発の衝撃により周辺の粒や塵を弾き飛ばせるように改造されていた。
李維新「脆くて遅い塵の集まりだが、さすがにキリないな」
サクチャイ・ラオバン「やっかいな・・・」
美唄龍馬「第13小隊は近傍衛星へ攻撃開始!」
北三条英雄「よっしゃ、彼ピに負けてらんないよっ!!」
北三条英雄「私たちはリハーサル通り周辺衛星を一気に排除するよっ!!」
大麻慎太郎「リーダーは内股を狙うショットが大得意だよねっ!!」
北三条英雄「まかせといてっ!」
カイト・カザン「レーヴァテインは連射できないが、僚機と協力すれば連続で打撃を与えることは可能だ」
カイト・カザン「火力を集中して一気に近傍群を排除する!」
  第13小隊はザッハーク排除が第一目標だが、海斗の攻撃が不十分だった場合、僚機が支援する事になっていた。
  結局、海斗は一撃で目標を達成し、ザッハークは軌道を外れて宇宙の果てへと向かっている。
  最大の脅威を迅速に排除できたことで、第13小隊はさらに奥の近傍群の衛星へと攻撃を加え始めた。

〇宇宙空間
九鬼雄太「アーリマンの衛星はすべて沈黙したよっ!!」
善通寺正吾「順調だなー」
九鬼雄太「シミュレーション通りだね」
月島海斗「問題はアーリマンの環か・・・」
善通寺正吾「リングは足が遅いし、ササッと近づいて、パパッとやれば大丈夫だろー」
月島海斗「パッシブは?」
九鬼雄太「周囲に危険な障害物の反応はないよ。 リング以外に軌道変更する天体も無し」
月島海斗「アーリマンの衛星は全て完全に死んだ・・・みたいだけど」
善通寺正吾「あとは母艦に搭載したミサイルをアーリマンに当てれば終わりだなー」
月島海斗「そうだね・・・」
ルスラン・コンドラチェンコ「攻撃隊からインディペンデンス。 進路クリア」
ルスラン・コンドラチェンコ「リングの変動も現時点脅威低し、作戦通り進められたし」

〇コックピット
オペレーター「アーリマンの全衛星、沈黙を確認」
オペレーター「新たな重力変動は観測されていません」
オペレーター「リングの形状変更、軌道修正も想定の範囲内です」
オペレーター「迅速に対応すれば問題ありません」
サイファ「わかりました。それでは計画通り前進しましょう」
李小龍「直掩隊からインディペンデンスへ、ミサイル発射予定地点に到着」
李小龍「周辺異常なし」
サイファ「了解、浮遊惑星軌道修正ミサイル発射用意」
オペレーター「カウントダウン開始します」
オペレーター「5」
オペレーター「4」
オペレーター「3」

〇雲の上
九鬼雄太「浮遊惑星の雲海内に高エネルギー反応!!」
月島海斗「えっ!?」

〇宇宙空間
  それは一瞬の出来事であった。
サイファ「!!」
  アーリマン天頂部の雲海が一部開けると、雲の下に筒状の巨大岩石が出現する。
  そしてその筒状の岩から強力なレーザーが放たれた。
  その強力な出力は惑星の気体と反応したプラズマにより肉眼でも視認できるほどである。
  レーザーは宇宙母艦インディペンデンスに直撃。
  さらに抱えていたミサイルに誘爆、同艦は一瞬にして吹き飛んだ。
李小龍「!?」
  付近にいた直援隊も巻き込まれる。
ルスラン・コンドラチェンコ「!!」
  母艦と直掩隊の消滅に驚く暇もなく、アーリマンの姿は変わっていった。
  雲海の数か所晴れ、同じような筒状岩石のレーザー砲台がいくつも姿を現す。
  それは、まるで球体にいくつもの目玉が浮き出たような、とても恐ろしい姿であった。
シオンベースのクルー「う、うわぁーー!!」
シオンベースのクルー「なんだっ!?」
李維新「爸爸!!」
九鬼雄太「直掩第2小隊、第3小隊全滅!!」
善通寺正吾「な、なんだこりゃ!!」
第5小隊長「うわっ!!」
九鬼雄太「第5小隊全滅!!」
善通寺正吾「どうなってんだよ!!」
月島海斗「敵は雲の下にレーザー砲台を隠していたのか!!」
  大混乱の中、海斗は冷静にモニターの様子を確認して判断する。
  ガンマ線レーザーは光の速度で放たれる。
  この至近距離では回避出来ない。
シオンベースのクルー「うわぁーー!!」
善通寺正吾「ミサイルが誘爆しちまった・・」
九鬼雄太「衝撃波がくるよ!!」
善通寺正吾「うわっ!!」
  宇宙空間で伝わる衝撃は、主に残骸の破片によって伝わる。
  ミサイルと母艦の破片によって振動する機体。
善通寺正吾「回避姿勢をとるぜ!!」
  機体の操作は正吾に任せ、被害状況の分析に集中する海斗。
  無表情で淡々と複数のモニターを目で追っている。
月島海斗「ガス惑星のような不安定な液体の地表に浮かぶ固定砲台だ」
月島海斗「簡単に砲火修正することはできないはず・・・」
月島海斗「なのに命中率が高すぎる」
月島海斗「なぜこんなに当たる?」
  味方が次々破壊されている死地の中、海斗は勝つための思考をし続ける。
  レーザーの発射地点は、アーリマンの"目"に限られているようだ。
  しかしそれでは巨大な惑星の陰に隠れている目標は狙えない。
  だが、死角にいるはずの味方機も被害を受けている。
月島海斗「指向性波長や磁力でレーザーを曲げた? いや、違う・・・」
月島海斗「まてよ・・・」
  データをよくみると、レーザーは惑星から放たれた後、沈黙したはずの衛星に命中している。
月島海斗「反射レーザー・・・」
  "敵"の衛星はすべて沈黙し活動を停止したはずだった。
  しかし破壊されても、内部に鏡のようなものを備えており、レーザーの反射能力は維持しているらしい。
  鏡の角度を変えるだけなら衛星自体の重力制御能力を失ってもできるのだろう。
月島海斗「"敵"は雲下の"目"から発射したレーザーを衛星内部の"鏡"で反射させているんだ!!」
  このような地上で発射するレーザーを宇宙の衛星で反射させる仕組みは、人類も遥か昔から検討していた。
  その攻撃手段を"敵"は手の内を隠して待ち伏せし、人類を誘き出した上で実行してきたのである。
ルスラン・コンドラチェンコ「隊長機より各隊へ。 攻撃失敗、各自アーリマンの重力圏から離脱せよ!!」
ルスラン・コンドラチェンコ「繰り返す、各自離脱せよ!!」
  撤退を宣言する隊長
  だが──
シオンベースのクルー「うわぁっ!!」
  撤退命令によりドライブを使って逃走しようとする各機。
  しかし、いくら加速しようと無数の射角を持つ光速のレーザーからは逃げられない。
シオンベースのクルー「ダメだっ!!」
シオンベースのクルー「狙われている!! 回避不能!!」
ルスラン・コンドラチェンコ「すまない・・・」

〇宇宙空間
アルベルト・カザン「た、ルスラン隊長の機が!!」
シオンベースのクルー「どうなってるんだよ!!」
  母艦喪失、隊長機及び福隊長機喪失で攻略部隊は大混乱に陥った。
九鬼雄太「第1小隊、隊長機大破! 第7小隊全滅!! 第12小隊全滅!!」
月島海斗「正吾! 機体を惑星ギリギリまで近づけてくれ!!」
善通寺正吾「惑星の方に!? 逃げるんじゃないのか!?」
月島海斗「その間にレーヴァテインで天頂のベータ4番を狙う」
善通寺正吾「わかった!!」
九鬼雄太「ベータ4番は粉々になったよ!!」
美唄龍馬「月島中尉!! 撤退だ!! 星に向かってどうする!!」
月島海斗「小隊長、敵の攻撃はガス惑星の対流圏の下に隠していた複数のレーザー砲台です」
月島海斗「おそらく、ガス惑星の強烈な圧力と強風に晒されてほとんど仰角をとれません」
美唄龍馬「わかっている! だから至急離脱を・・・」
月島海斗「俺たちが壊したはずの衛星群ですが、残骸にまだレーザーを反射する能力が残っています!!」
月島海斗「このまま惑星から離れる程たくさんのレーザーから狙われます!! 逃げられません!!」
美唄龍馬「それじゃあどうすれば・・・」
月島海斗「天頂付近に対してレーザーを反射可能な敵衛星は破壊しました」
月島海斗「ガス惑星にへばりついて死角に入ればレーザーでは狙われない!!」
月島海斗「そこへいったん集結して退路を切り拓くしかありません!」
美唄龍馬「わかった」
美唄龍馬「第13小隊から各攻撃隊へ、共通無線の通りだ」
美唄龍馬「退却を中止し、アーリマンの天頂方向へ一時退避を進言する」
サクチャイ・ラオバン「了解、第8小隊は撤退中止!! 天頂方向へ向かえ!!」
夕張万里「第11小隊も第13小隊に後続せよ、他隊の残存機も続け!!」

〇雲の上
  アーリマンの天頂付近に接近して集結する攻略部隊。
  ガス惑星の巨大さが仇となり、直進しかできないレーザーではこの至近距離では狙えない。
  天頂を狙える反射衛星の位置も限られており、それらはすでに海斗が撃破していた。
  しかし、すでに34機損失。50%以上の損害が出ている。
九鬼雄太「外はすごい放射線量だよ」
善通寺正吾「"VAF"がなければ即死だな」
  ガス惑星は強力な放射線を放っている。
  普通の人類はここまでガス惑星に接近出来ない。
  強力な磁力も観測されているが、それには機器に予め対策がされている。
九鬼雄太「味方の被害は甚大だよ・・・」
善通寺正吾「半分以下になっちまった・・・」
九鬼雄太「サイファ艦長も、ルスラン隊長も、李君のお父さんも死んじゃった・・・」
善通寺正吾「クソッ・・・どうすりゃいいんだ!!」
サクチャイ・ラオバン「第8小隊長のラオバン中佐だ。 攻略部隊の指揮を引き継ぐ」
サクチャイ・ラオバン「各機は防御円陣を組み、こちらを狙えそうな反射衛星を優先して狙え」
サクチャイ・ラオバン「雲下からの攻撃にも警戒せよ!」
九鬼雄太「リングがこっちへ向かってきているよ!!」
サクチャイ・ラオバン「残存機はコイルマシンガンで迎撃!!」
  リングの粒子をコイルマシンガンの爆風で押し返そうとするが、すぐに形状は戻ってしまう。
  リングは次第に周囲へ回り込んできており、追い詰められているのは明らかだった。
李維新「くそっ!! このままじゃジリ貧だ!!」
白大鵬「維新・・・李中佐が・・・」
李維新「わかってる!! 今はここからどうするか考える方が先だ!!」
林玉衡「維新!! もうコイルマシンガンの弾が尽きる!!」
李維新「わかってるって!!」
李維新「クソッ!! どうすればいい!?」
夕張万里「チッ・・・」
夕張万里「こんなのイチかバチか全員でドライブかけて逃げるしかねぇぞ!!」
サクチャイ・ラオバン「今の状態で死角から離れればすべてのレーザーから狙われるだけだって!!」
夕張万里「それでも天頂から逃げれば数機は生き残れるだろ!!」
夕張万里「このままじゃ犬死だ!! やるしかねぇ!」
月島海斗「待ってください!!」
月島海斗「今、惑星から離れれば南半球の砲台からも狙われます。 一機も残らず全滅です!!」
夕張万里「じゃあ、どうしろっていうんだよ!!」
月島海斗「敵の反射衛星とレーザー砲台を潰しましょう」
サクチャイ・ラオバン「敵のレーザー砲台が雲の下にいくつあるかわからないぞ?」
サクチャイ・ラオバン「さっき露出した他にもまだ隠しているかも・・・」
月島海斗「アンモニアの厚い雲がかかったままではレーザーは撃てません」
月島海斗「データを見る限り、おそらく核爆発のような爆風で対流圏の雲を吹き飛ばし」
月島海斗「砲台を露出させてからレーザーを発射しています」
月島海斗「だから起爆時の熱反応を注視していればこちらが先制して砲台を破壊できる」
サクチャイ・ラオバン「反射衛星はどうやって判別する? 被害を受けてから選別していてはさすがにもたない!」
月島海斗「反射衛星はこちらからレーザーの周波数に合わせたアクティブレーダーを放てばわかります」
月島海斗「各機に事前に収集したデータを送りました。その周波数を使ってください!」
サクチャイ・ラオバン「なるほど・・・これなら成功の公算は高いか・・・」
夕張万里「ほー、なかなかいい仕事するじゃねーか」
サクチャイ・ラオバン「よし、隊を突破部隊と殿(しんがり)部隊の2つに分ける」
サクチャイ・ラオバン「殿部隊は惑星に向けてレーヴァテインを構え、目が開いた瞬間に叩き」
サクチャイ・ラオバン「同時に突破部隊は高度を上げ、反射に使われる衛星を粉砕する」
サクチャイ・ラオバン「これでいこう」
夕張万里「第11小隊了解、コイルマシンガンの残弾がない。考えている暇はなさそうだ」
美唄龍馬「第13小隊、了解です」
サクチャイ・ラオバン「攻略各隊へ」
サクチャイ・ラオバン「これよりリングが迫る反対方向へ低速で離脱を開始する」
サクチャイ・ラオバン「部隊を2つに分ける。奇数番号の部隊は前進しながら地平に現れた反射鏡を備える衛星を粉砕せよ」
サクチャイ・ラオバン「第11小隊の夕張少佐、突破部隊の先頭を頼む・・・」
夕張万里「先頭了解だ。嬉しくて涙がでそうだぜ」
サクチャイ・ラオバン「我々第8小隊を含む偶数部隊は離脱の後尾に位置し、アーリマンの目が開き次第、順次破壊する」
サクチャイ・ラオバン「すまんな、李少尉。死ぬかもしれん」
李維新「いや・・・大丈夫です。俺を気にしないでください」
白大鵬「大丈夫か維新・・・」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:第11話 性の存在理由(ジェンダー・レゾンデートル)

コメント

  • 加油

  • ここに来てついに作者さんの得意とするものが詰め込まれた話に!
    戦術SF宇宙蘊蓄ドラマティック回と言って良いでしょう。
    宇宙戦艦そのブリッジ、戦闘艇、敵衛星や反射等、状況を示すモニターなどが画像表示されたらもっと良くなると思われます。

    問題点は宇宙科学に疎い私はすごい大変なようだが何を言っているのか分からない所がちょいちょいある!と言った所でしょうか(笑

    大変良い回でした!

成分キーワード

ページTOPへ