マッチングアプリ 『4cLets』

花柳都子

マッチングアプリの『秘密』(脚本)

マッチングアプリ 『4cLets』

花柳都子

今すぐ読む

マッチングアプリ 『4cLets』
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇綺麗な部屋
  気がついたら朝になっていた。
  私はほとんど衝動的に
  マッチングアプリ『4cLets』を開く。
  静香を思い詰めさせた場所を、
  静香を追い込んだこの世界を、
  全部バラバラに消滅させてしまいたかった
浅葱寧々「・・・・・・」
  けれど、そんなことはできるはずもない
  私は代わりに
  選択肢を『愛』に変更した。
  結城さんと連絡を取れなくなることは
  名残惜しかったけれど、
  それ以上に知りたいことがある。
  ──知らなければならないことがある。
  私は自由記述の欄に
  静香の言葉を入力した。
  『愛』って何だっけ?
  マッチングする相手の検索条件を
  自由記述の回答だけに絞る。
  数秒待ってみるけれど、
  通知音は鳴らない。
  もしもここで誰かとマッチングしたら、
  その人こそ静香の最期を
  知っているかもしれない
  いや、むしろ──
  静香の死への扉を
  開け放ってしまった人かもしれない
  恐怖や嫌悪、
  そんな感情は一切なかった。
  文句を言おうとか、問い詰めようとか、
  そんなつもりは毛頭なかった。
  私はただ知りたいだけ。
  静香が何を想って、何を伝えようとしたのか
  必死に生きようとした静香に
  手を伸ばしたいだけ
  もう届かないのはわかってる
  もう手遅れなのはわかってる
  だけど、そうしないと──
  静香が生きていた証を、意味を、
  私自身が奪ってしまいそうだから──。
  私が生きていくためにもこれは必要なこと
  その時、唐突に通知音が鳴った。
  メッセージアプリの着信かと
  スマホを覗いてみると──
浅葱寧々「・・・結城、さん?」
  そこには『真田明人』の文字と、
  『結城大地』の写真が
  映し出されていた──。

〇川沿いの公園
  「今すぐ会いたい」
  マッチングアプリで初めて
  そんな普通の恋愛らしい言葉を使った。
  彼は──
  『結城大地』ならぬ『真田明人』は、
  「いつもの場所で」なんて返してきた。
  まるで本当に
  マッチングアプリで出会った
  カップルのように──。
  彼が偽名を使っているらしいこと、
  いつも私のそばにいること、
  絶対に偶然じゃない。
  私は半ば確信していた。
真田明人「お待たせ」
浅葱寧々「・・・・・・」
  いざ目の前に本人が現れると、
  何をどう話していいのかわからなくなった
  どんな質問にでも答えてくれそうだけれど、
  どんな質問もはぐらかされそうでもある。
真田明人「──君は何を知ってるの?」
浅葱寧々「えっ?」
真田明人「どうして『4cLets』に登録したの?」
真田明人「出会いが目的じゃ、ないよね?」
浅葱寧々「えっと・・・」
  あまりにも彼が穏やかな顔で言うものだから
  問い詰められているんだとわからなかった
真田明人「なんて、君だけを責めるのは反則か。 俺のほうが君を騙してたようなもんだし」
浅葱寧々「えっ・・・」
  予想外の連続で私は三度絶句した
真田明人「とりあえず、座ろうか。 俺の話をする前に、何か聞きたいことある?」
真田明人「俺の知ってることは全部話すつもりだけど、 君が知りたいことと同じかわからないから」
浅葱寧々「・・・じゃあ、ひとつだけ」
  この質問に彼が答えられなければ、
  私はそれで静香と彼は無関係だと
  判断することにした。
浅葱寧々「──桜庭静香を知っていますか?」
  答えないで、知らないと言って
  もしも静香と最後に出会ったのがあなたなら
  静香の背中を押したのはあなたかもしれない
  あなたは優しいと私は知っている
  だけど、その優しさが嘘か本当かを
  私はまだ知らない
  もしももっと直接的に聞くのなら──
浅葱寧々「(──静香に『死』を選択させたのは、あなたですか?)」
  彼が答えるまでに、しばらく間があった。
  ほんの数秒が永遠に感じられる。
真田明人「・・・予想はしてたけど、それはなんとも答えにくい質問だね」
浅葱寧々「じゃあ・・・」
真田明人「質問の内容が、っていう意味じゃないよ」
真田明人「答え方が難しいんだ」
真田明人「まぁそれは追々、俺の話を聞いてもらえばわかるとして──」
浅葱寧々「・・・・・・?」
真田明人「桜庭静香さんを、俺は知ってると言えば知ってるし、知らないといえば知らない」
浅葱寧々「・・・誤魔化そうとしてます?」
真田明人「いや、全く。 俺はもう君に嘘を吐くつもりも、誤魔化すつもりもないよ」
  まるで浮気の言い訳みたいなことを言う
  とはいえ、本当に、本来の目的で
  『愛』を選択していたのなら
  二人の間の『秘密』は重要事項だ
  永遠を誓い合う相手に
  結婚を思い止まりそうな
  『秘密』があったら──
  実際、『愛』を選んだ時のチェック項目は
  どこからが浮気だと思いますか?
  あなたには誰にも言えない
  『秘密』がありますか?
  それを相手に話すことができますか?
  『顔』や『金』とは違い、
  『愛』の境目はどうにも曖昧で
  チェック項目もやたらとふんわりしている
  結婚相手にも言えない、
  言わなくてもいい『秘密』だって、
  あってもいいはず
  だけど『秘密』を抱えていることは
  お互いにとっていずれマイナスになる
  ──のかもしれない
浅葱寧々「あなたの話を聞けば、その意味もわかると?」
真田明人「うん」
真田明人「──さて、どこから話そうか」
浅葱寧々「最初──『4cLets』に登録したところから、じゃないんですか?」
真田明人「──あぁ、それは最初じゃないんだよ。 そうだな、長くなるけど出会ったところから話すのが一番かな」
浅葱寧々「出会った・・・?」
浅葱寧々「(誰と?)」
  話の流れから察するに、
  マッチングアプリ内での出会いを
  指しているのではなさそうだった
真田明人「まぁ、まずは俺の本名からだね」
浅葱寧々「(そうだ、この人の名前は一体どっちが本当なんだろう? それともどっちも嘘?)」
真田明人「俺は『真田明人(さなだあきひと)』」
真田明人「『結城大地』は、真相を明らかにするための偽名だよ」
浅葱寧々「偽名──」
  確か静香にアプリを勧められた時に
  偽名で登録することもできると聞いた
  静香はそんな人に会ったことがない
  と言っていたけれど、
  偽名であることを知る機会がなければ当然だ
  かといって、「偽名を使うのだから
  悪いことをしようとしている」というのも
  私の思い込みでしかなかった
  私にはどうしても、
  この人が悪いことをしようとしていたとは
  思えない
真田明人「黙っててごめんね けど、君がこの件に関係してるか 最後まで確信が持てなかったから」
真田明人「──俺にはある友達がいたんだ」
浅葱寧々「友達が「いた」──?」
真田明人「そう。もうこの世にはいない」
浅葱寧々「・・・・・・」
真田明人「これ、見て」
浅葱寧々「──あ、静香!」
真田明人「やっぱり、その子がそうなんだね」
  彼に手渡された一葉の写真。
  そこには同年代くらいの男性と、
  静香の笑顔──。
  哀しそうで苦しそうで、
  でも私にはなぜか
  幸せそうな笑顔に見えた──。
真田明人「隣に写ってるのが、俺の友達」
浅葱寧々「・・・知ってるけど知らないっていうのは」
  桜庭静香の存在は知っているけれど、
  彼女自身のことは何も知らない──
真田明人「そいつはどうにも昔から引っ込み思案でね 俺とは小学校から同じ幼馴染なんだけど」
真田明人「中学生高校生になっても、女子どころか俺以外の人間とは全く関わろうとしなかった」
真田明人「優しくて真面目でいい奴なんだけど、 マイペースでおっとりしてたから 他の人とはリズムが合わない感じ」
真田明人「──ここでの君みたいに」
浅葱寧々「・・・私、そんなに浮いてましたか?」
真田明人「うん。だいぶね」
浅葱寧々「・・・・・・」
真田明人「でも、だから、放っておけなかった」
真田明人「あいつのことも、 君のこともね──」
真田明人「学生時代から随分経って、 今から2年前くらいかな」
真田明人「ある日、そいつが言ったんだよ」
真田明人「マッチングアプリに登録した、って──」
浅葱寧々「・・・・・・」
真田明人「別に反対する理由はなかったけど、 万事消極的なあいつがなんで?と思った」
浅葱寧々「寂しいから──とか?」
真田明人「──どうだろうね。 俺にもまだその答えは出てないよ」
浅葱寧々「・・・続けてください」
真田明人「あいつはね、最初に『愛』を選んだんだ」
浅葱寧々「正直、そういう人が一番多いと思います・・・」
  静香は自分なりの解釈で
  『顔』を選んでいたけれど
  本当に出会いたいと願うなら
  そして特に女性なら──
  誰もが『愛』を選びたくなると思う
真田明人「君も、本来の目的で利用するならそうした?」
浅葱寧々「私は・・・そもそもマッチングアプリに登録することはなかったと思います」
真田明人「・・・だろうね」
真田明人「最初は楽しそうだったよ」
真田明人「「こんな僕でも相手にしてくれる人がいるんだ」って」
真田明人「・・・・・・」
浅葱寧々「(──「こんな僕でも」、か)」
真田明人「俺は、あいつのいいところを知ってる もちろん悪いところも知ってるけど・・・」
真田明人「その全部をひっくるめたあいつらしさを、そのまま愛してくれる人が必ずいたはずなのに──」
真田明人「俺には生き急いでるようにしか見えなかった」
真田明人「案の定、あいつは会う度に表情が曇っていってね」
真田明人「何があったんだって聞くと、出会う女性みんなに『秘密』があったって言うんだ」
浅葱寧々「『秘密』──?」
真田明人「浮気、してたんだって」
真田明人「というか、たぶんあいつは女性の『好意』をうまく見分けられなかったんじゃないかな」
真田明人「マッチングアプリとはいえ、出会った全員が結婚できるわけじゃない」
真田明人「中には相性が合わなくて、一回会ってそれきりっていう人もいる」
真田明人「あいつ以外にも女性たちは並行して何人かの男と会ってたんだろうね」
真田明人「あいつは不器用だったから、一度に複数の女性と出会うことはしなかったはず」
真田明人「あいつは自分と出会った女の子たちが、他の男と一緒にいるだけで「僕は嫌われた」「好かれていなかった」と考えた」
浅葱寧々「・・・・・・」
真田明人「──その女性たちのことを悪く言ってるんじゃないよ」
真田明人「マッチングアプリにしても、リアルの出会いにしても「交際してる」って相互認識がなきゃ「浮気」にはならないからね」
真田明人「あいつにはそれがわからなかったってだけ」
真田明人「恋愛っていうのはそうやって時に傷つけあって、それでも吹っ切れていくものだけど」
真田明人「恋愛に免疫がなくて、傷つくことに慣れきったあいつには、ただただ憂いが量産されるだけの日々だった」
浅葱寧々「(傷つくことに慣れきった──?)」
真田明人「家庭の事情とか、職場の人間関係とか、色々あってね──」
真田明人「学生時代の頃も含めて、あいつはいわば、自己犠牲の塊みたいなやつだったよ」
真田明人「「僕が我慢すれば万事解決」なんて笑って言ってたやつが、ようやく自分の幸せを求めて動き出したっていうのに──」
真田明人「──残酷だよね、世間っていうのは」
浅葱寧々「・・・・・・」
真田明人「ともあれ、実は自分なんか相手にされてなかったんだと知ったあいつは、今度は『金』を選択した」
真田明人「あいつの家は幸か不幸か金持ちでさ、それを鼻にかけるようなやつじゃなかったのに、あえてそれを利用しようとした」
真田明人「最初は良かったと思うよ」
真田明人「女の子たちにきゃあきゃあ言われただろうしね」
真田明人「でも、そのうち嫌でも気がつくよね」
真田明人「結局、寄ってくる女性たちの多くは自分自身じゃなく、お金が目当てだってこと」
真田明人「──そんな時、あいつは『マダム』と出会った」
浅葱寧々「『マダム』──!」
真田明人「そう、あの人に言われたんだって。 いや、そうは言わなかったか・・・」
真田明人「俺が『マダム』に言われたんだろうって解釈しただけなんだけど」
真田明人「『あなたの愛を利用されないで』って」
浅葱寧々「・・・私に言ったのと、同じ」
  そして、静香にも──
真田明人「あいつはその意味を、「利用されるほうじゃなく利用するほうになればいい」と受け取った」
浅葱寧々「えっ・・・?」
真田明人「おかしいと思うでしょ」
浅葱寧々「あ、いや・・・」
浅葱寧々「(正直、曲解だとは思う──)」
  けれど、それは私が静香の日記で
  『マダム』の真意を知っているから──
  というだけなのかもしれない
真田明人「自分が我慢することを選択してきたからとはいえ、これまで利用され続けてきたあいつの感情が一気に爆発した瞬間だったんだろうね」
真田明人「ちょっと話が逸れるけど」
真田明人「・・・実は『金』には、いわゆる『あっち側』と『こっち側』っていうのがあってね」
浅葱寧々「・・・それ、私が参加した婚活パーティーで一緒になった女性たちが言ってました」
真田明人「うん。女性目線の話だからね」
真田明人「男側が金持ちなのが『こっち側』、女側が金持ちなのが『あっち側』──」
浅葱寧々「あぁ、だから──」
  静香を『あっち側』、同じ婚活パーティーに参加した私を『こっち側』と認定したわけだ
真田明人「男性からも女性からも、『あっち側』は敬遠される傾向にあるみたいだね」
真田明人「『あっち側』の女性に寄っていくのはヒモ志望か、お金が必要な男だけ」
真田明人「女性からは「金で男を釣ろうとするなんて最低」みたいに言われる」
浅葱寧々「・・・・・・」
真田明人「『マダム』の言う通り、俺はお互い様だと思うんだけどね」
真田明人「ともあれ、あいつはあえてそういう『あっち側』の女性を対象に出会うことにした」
真田明人「自分が金持ちだってことは伏せてね」
浅葱寧々「そんな・・・」
真田明人「おかしいと思うでしょ、というよりひどい男だと思ったんじゃない?」
浅葱寧々「・・・・・・」
真田明人「当然だよね。でも、本人に悪気はなかったと思うよ」
真田明人「あいつはね、自分と同じ人を探してたんだと思う」
真田明人「何度か会った人には、自分に金は必要ないことを明かしてたみたいだからね」
真田明人「だからといって、女性が『あっち側』であることを利用して近づいたと知られたら、今度は女性側から離れてしまったみたい」
真田明人「それはそうだよね。 「他の男には相手にされないだろうから、僕が相手してあげる」ってふうにもとれる」
真田明人「実際そういう感情を利用しようとしたのはあいつのほうだから」
真田明人「でも、結局またあいつはひとりぼっちになってしまった」
真田明人「「もう誰でもいい」「僕のことなんか好きじゃなくてもいい」「僕だけを見て欲しいなんて言わない」」
真田明人「「でも、僕が必要ないなんて言わないで」「僕はちゃんと生きてる」「ちゃんとここにいる、いていいんだよね?」」
真田明人「──まるで小学生の頃のあいつを見てるみたいだった」
真田明人「家が裕福で経営の才能に溢れる親を持って、けれどあいつにはこれといって秀でているところがなかった」
真田明人「学業の成績は俺と同じ中の上くらいだったし、運動や芸術も人並み程度」
真田明人「俺はそういうところが好きだったんだけど、親には色々言われたみたいでさ」
浅葱寧々「・・・・・・」
  静香とは少し違うけれど、
  波長が似ている気がする──
真田明人「そしてとうとうあいつは『顔』を選択した。 ・・・ひとつだけ言い忘れてたよ」
真田明人「あいつ、顔が良かったんだよね」
浅葱寧々「──優しそうな、人ですね」
  静香と写る写真の彼は、
  飛び抜けてイケメンではないけれど、
  優しくて穏やかそうで、
  雰囲気で言えばやっぱり
  目の前のこの人に似ている気がする
真田明人「──うん。はじめにも言ったけど、優しくて真面目で、あえて悪く言えば八方美人なやつだった」
真田明人「親との関係がうまくいってないのもあって、誰にも嫌われたくなくてそういう性格になったんだろうけど」
真田明人「で、そこであいつに目をつけたのが、君も会ったあの男だよ」
浅葱寧々「──私がホテルに連れ込まれそうになった、あの人ですか?」
真田明人「そう。あのホテル男は『マダム』信者の一人なんだけどね、『金』を選んだ時に無理し過ぎて借金を抱えたらしい」
真田明人「で、そのトラブルを解決してくれたお礼に、『マダム』の布教を自社的に行ってるんだけど」
真田明人「この間、寂しそうにしてる女の子相手に『金で愛を買える』なんて言って信者を増やそうとしてるって話したよね」
浅葱寧々「・・・はい」
  静香にも、おそらく私に対しても
  実際に実行に移したかどうかはともかく
  そういう意図があったんだと思う
  静香は結局、
  自分の意思で『金』を選んだから
  ホテル男くんにしてみれば、
  作戦の途中でターゲットが
  消えたことになるけど
真田明人「男相手にはもっとストレートでさ、俺の友達が金持ちであることを知ると、『金』のほうがモテるってあいつを誘惑したんだ」
真田明人「けど、あいつはあいつで『金』には戻りたくない。だからあえて『マダム』布教の一員になったんだよ」
浅葱寧々「えっ・・・?」
真田明人「もしもあの時『マダム』にアドバイスをもらわなかったら、たとえ刹那的でも今の居心地のいいこの場所は手に入らなかった」
真田明人「恩義があるから手伝わせて欲しいってね」
真田明人「そこからは『愛』に戻って、『マダム』のアドバイス通り愛に飢えた女性たちを『利用』して、『金』のほうに誘導していたみたい」
真田明人「ま、こういうのは全部、あいつが死んでから俺自身がホテル男や『マダム』の懐に入って確認したことなんだけど」
  この人がやけにホテル男や『マダム』に
  同情的だったのは、
  実際に近くにいて、
  自分自身の目で確かめたからこその結論
  ──だったのかもしれない。
浅葱寧々「──じゃあ、最初からずっと私の近くにいたのは・・・」
真田明人「ホテル男の時は偶然かと思ったけど、君が俺の友達の関係者にことごとく接触していたから──だね」
真田明人「初めて君がホテル男と会った時は、『新人研修』とか言われて君との会話の様子を逐一確認させられていたし」
浅葱寧々「──あの夜、私を助けてくれたのも? 裏切り者がどうとか話していたのも?」
真田明人「自分から仲間になったくせに何してんだって思われたんだろうね」
真田明人「俺は端からそんなつもりなかったから。友達の死の真相を知ることが目的で、裏切るも何もない」
真田明人「まぁ、あの時君を助けたのは、やっぱりあいつと似ていたからかもしれない」
浅葱寧々「・・・・・・」
真田明人「──あいつはたぶん、誰かに必要とされたかっただけなんだと思うんだよ」
真田明人「結局、ホテル男や『マダム』のことを調べてみても、あいつがどうして『死』を選択したのかまではまだわからない」
真田明人「最初はその一緒に写真に写ってる子を探そうと思ったんだけど、悩んでたあいつの様子からその子は『死』に関係なさそうだったし」
  その時、ピロンと場違いな通知音が
  私の鞄の中から聞こえた。
  同時に隣にいる彼のスマホも震えた
  ステータスが更新されました
浅葱寧々「・・・こんな時に?」
  マッチングアプリ『4cLets』の
  『秘密』へようこそ
浅葱寧々「『秘密』──そういえば、4つの幸せの法則がなんとかって最初に・・・」
真田明人「あぁ、そういえばそんなこと言ってたっけ」
  あなたはこの度
  『顔』『金』『愛』全ての選択肢において
  一度以上のマッチングを達成されました
  そこで『秘密の扉』を解放します
  ここでは本当の出会いが必ずあります
  時間がかかるかもしれませんが、
  絶対にあなたしか出会えないお相手です
  『秘密の扉』を解放しますか?
浅葱寧々「私も・・・」
真田明人「え?」
浅葱寧々「私も知りたかったんです、ずっと。静香が『死』を選んだ理由を」
浅葱寧々「どうして死ななければならなかったかを」
浅葱寧々「ここで、『はい』を選択したら わかる気がするんです」
真田明人「──俺も、そう思うよ」
  私たちは同時に『はい』のボタンを押した
  あなたが結婚相手に求めるものは何ですか?
浅葱寧々「自由記述欄だけ・・・?」
真田明人「つまり、この自由記述で全く同じ解答をした人とだけマッチングするってこと──」
浅葱寧々「それって、いつまで経ってもマッチングしないこともあるんじゃ・・・」
真田明人「うん。でもこの『秘密の扉』とやらを解放しても他の選択肢は今まで通り選べるから、出会いながら待つことはできる」
真田明人「それに、同じ解答なんて時間がかかる上、超次元的に難しいからこそ・・・」
真田明人「『運命の相手』と思えるかもしれない──」
浅葱寧々「『運命の相手』・・・?」

次のエピソード:マッチングアプリの『真実』

成分キーワード

ページTOPへ