マッチングアプリの『真実』(脚本)
〇川沿いの公園
浅葱寧々「結城さ──あ、いえ、真田さん」
真田明人「・・・なに?」
浅葱寧々「私、あなたと『愛』でマッチングした時、自由記述欄のみの検索に絞ったんです」
真田明人「うん」
浅葱寧々「つまり、あなたも同じ解答をしたってことですよね?」
そこだけを見れば、私たちがここにいることは超次元的な確率だったはず
でも私たちは同じ目的を持っていた──。
真田明人「写真の裏、見てみて?」
静香と真田さんのお友達な笑顔の写真。
裏返してみると──
『愛』って何だっけ?
浅葱寧々「──これ!」
真田明人「俺もついこの間、気がついたんだ」
真田明人「試しに入力したら、君とマッチングした」
『4cLets』は3つの選択肢の中の
さらに細かな選択項目の一致数が多いほど
マッチング確率が高い
自由記述欄の言葉が同じ時は、
そういうふうに通知されるので
お互いにすぐにわかる
今回のように自由記述欄だけを
検索条件にすれば
全く同じ解答をした人のみとマッチングする
真田さんのお友達も
本当はそうやって心の中で
本当の出会いを求めていたのかもしれない
浅葱寧々「私、この答えを見つけられるかもしれません」
真田明人「・・・え?」
さっき真田さんが言った『運命の人』──
私はこの言葉を最近どこかで見た
そう、何度も、何度も。
静香のSNS、最後の投稿──。
見つけた私の運命の人──
これは暗号なのかもしれない
私と静香だけの『秘密』
どうして私が見ないと知っているSNSに
書き残したかはわからない
けれど、絶対にそうだという確信がある
一身上の都合で会社を辞めます、
なんて自分の人生で使うことない──
そう思ってた。
実際は暗号というほどのこともない
文章の一文字目が一つ目の文字。
文章の二文字目が二つ目の文字。
書き方を工夫しないと
斜めに読めてしまうのだけど、
これはSNSだから
文章=一つの投稿と仮定すれば──。
浅葱寧々「(一文字目は、漢数字の『一』ね)」
情緒不安定なの許して欲しい。
こんな気持ちになったの
初めてなんだもん。
友達に紹介したの間違いだったかな・・・
浅葱寧々「(この”友達”って私のこと?)」
浅葱寧々「(だったら嬉しいし、これはやっぱり私へのメッセージってことだよね?)」
名前を呼ばれると嬉しかった
だって、このままじゃ
私が私じゃなくなっちゃいそうだから──
なんでこんなことになっちゃったんだろうね
話しただけで解決するわけじゃない
でも、聞いてくれてありがとう──
浅葱寧々「(これも全部、私と電話した時のこと?)」
寂しくて悲しくてたまらないよ
浅葱寧々「(静香・・・ごめん、気づいてあげられなくてごめんね)」
早く私のこと忘れてね
来世で、また会えると信じてる
見つけた私の運命の人──
浅葱寧々「・・・・・・っ!?」
浅葱寧々「・・・・・・静香、そんな、どうして、そんなこと──」
暗号は解読できた。
四文字目だけは私たちだけの解読法だから、
きっとこれは誰にも解けない。
私は『死』という文字を嫌っている。
だから静香の提案で
『4』=『シ』=『ヨ・ヨン』に変換──
それを漢字に直して
暗号の中に入れるから──
『一緒に死んでくれる人』
真田明人「・・・さん、浅葱さん・・・?」
涙で返事ができない私に、
彼はそっと寄り添ってくれた。
背中に感じる手が大きくて、温かくて──
私はそのまま静香の最期の言葉を想って
泣き続けた。
〇綺麗な部屋
私が泣き止んだあの後も、
彼は何も聞かずにいてくれた。
静香と私だけの『秘密』という約束
──だったけれど
私は真田さんには
教えなければならないと思った。
〇川沿いの公園
真田明人「そう、そんなことを──」
真田明人「・・・あいつ、らしいな」
浅葱寧々「──静香は、らしくないです」
真田明人「そう。 でも、出会ってしまったんだね」
浅葱寧々「はい」
真田明人「俺は本当の意味で あいつがそれを書いたんじゃないと思うよ」
浅葱寧々「・・・・・・?」
真田明人「一緒に死ねるくらいの覚悟で、死ぬ時まで一緒にいようっていう一途な想いで、書いたんだと思う」
浅葱寧々「・・・それなら静香もありそう、です」
真田明人「うん。でも、やっぱり──」
〇綺麗な部屋
あれから私はずっと
静香の遺した暗号詩集とSNSとを
見返している。
あれだけ私に
『4』は幸せの『シ』だよ──と
教えてくれた静香が
最期の暗号文に
そのまま『死』という意味で使うなんて
ショックでたまらなかった
もしかしたら私のせいなんじゃないか、
そう思ってしまう
静香の苦しさや寂しさに
気づけなかったことも
SNSを見もせず、
会いにも行かなかったことも
考えてみれば、私の無意識の行為だって
静香に『死』を選択させる理由になっていた
それでも静香は最期まで
私を友達と言ってくれた
──静香の『死』の原因は
マッチングアプリであって、
マッチングアプリではなかった
奇しくも真田さんと
同じ様な言い方になるけれど、
マッチングアプリだけじゃなく、
家庭のこと、私とのこと、
色んなことが積もり積もった結果
行き着くところまで
行き着いてしまった──。
そんなところも含めて、
私の知らない静香にたくさん出会った
けれど、やっぱり
私の中には
私の知ってる静香しかいないから
誰かや何かを恨んでるわけじゃない、
って静香らしい言葉、
ちゃんと信じることができるよ
静香は私を責めようなんて思ってない
だけど、私はきっとこれからも
私自身を責めると思う。
もしかしたらお母さんもそうかもしれない
真田さんも今頃
同じ想いをしているのかもしれない
浅葱寧々「(ねえ、静香)」
私も真田さんが言う通り、
静香が最初から一緒に死ぬ人を求めて
書いたわけじゃないと思ってる
だけど、私もやっぱり
こう書いて欲しかった
『一緒に生きてくれる人』
〇川沿いの公園
真田明人「──もう会わないって、言ったのに」
そう、
あの日を最後にもう会わないと決めていた。
私たちには
お互いの存在が重すぎる
だからきっと、
もう会わないほうが幸せになれる
浅葱寧々「(でも)」
浅葱寧々「──信じてみたくなったんです、もう一度」
浅葱寧々「静香が勧めてくれたマッチングアプリが 危ないばかりじゃないってこと」
真田明人「・・・そうだね、俺もそうかもしれない」
真田明人「色んな出会いがあって、人を絶望に導くこともあるけれど──」
真田明人「希望だって必ずある」
浅葱寧々「はい」
私は大事な友達を喪った
それはもしかしたら
自分のせいでもあるのかもしれない
けれど
私は生きている
いつか自分の罪の重さに
押しつぶされそうになった時、
ひとりぼっちで
誰にも会えなくて苦しくなった時、
この人ならそばにいてくれる
どんなに辛くて
生きていくことが嫌になっても
この人とならきっと一緒に乗り越えられる
浅葱寧々「(それはたぶん、静香や真田さんのお友達が望んだことと同じ)」
浅葱寧々「──私はそう信じてるよ」