罪  恋―TSUMIKOI―

望月麻衣

エピソード18 終止符(脚本)

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〇空
  ――その後、
  久弥について何もわからないまま
  月日が経過した。

〇事務所
梓「はい、高橋法律事務所の河村梓です。 ・・・はい、ただいま、高橋に変わります」
  決して大きくはないオフィス。
  時代錯誤な固定電話機の保留をボタンを押して、声を張り上げる。
梓「先生、クライアントから 2番にお電話です」
「分かった。 河村くんはこのまま出るのか?」
  受話器の上に手を乗せながら、ホワイトボードを確認しつつ上司が尋ねる。
梓「はい。 人と会う約束をしていまして、お先に失礼します」
  ペコリと頭を下げて、
  
  
  職場である法律事務所のオフィスを後にした。

〇渋谷のスクランブル交差点
  杉田さんに、
  久弥のことを伝えられてから、8年。
  私は弁護士になっていた。
  いつか久弥と再会した時に、もう何もできない自分では嫌だと思ったから。
  彼を守れる人間になるには、どうしたら良いだろうと考えた結果、
  弁護士になろうと、まるで自然の流れのようにそう思った。

〇渋谷のスクランブル交差点
  決して優秀ではなかった私。
  だけど、あの日から、人が変わったように勉強した。
  一分一秒すら、惜しむように。
  あまりの変貌に、
  家族を心配させたほどだった。
  そうして、なんとか25歳で新人弁護士になることは出来たけれど、まだまだ何もできないヒヨッ子な上、
  久弥がどうなってしまったのかすら、今も分かっていない。

〇渋谷のスクランブル交差点
  あらためて、スマホを確認する。
  『緊急で伝えたいことがあるから会いたい』
  
  
  それは、杉田さんからのものだった。
  あの日カフェで共に涙を流した彼とは、
  今や定期的に会って、互いの報告をし合う、友人同士とのような間柄となっていた。
  優秀で人脈のある彼は、進路についても相談に乗ってくれて、
  今の決して大きくはないけれど、良質な法律事務所を紹介してくれたのも彼だった。
  思えば縁というのは、本当に不思議なものだ。

〇テーブル席
  彼とはいつも同じカフェで会っている。
梓「杉田さん、お待たせしました」
  私は、杉田さんに向かって歩み寄りながら、頭を下げる。
「梓さん」
  彼は時間を惜しむように身を乗り出した。
梓「どうされたんですか?」
  と、向かい側に腰を下ろした私に、彼はビジネスバッグから新聞を取り出した。
  それは家庭に配布される一般の新聞ではなく、所謂『業界新聞』だった。
「これを見てくれ」
  と、紙面を広げた杉田さん。
  彼が指した記事を見て、
  
  
  私は目を見開いた。

〇テーブル席
  『高宮グループ、東京支店、
  新支社長内定』
  その文字の下には、
  
  
  まぎれもなく、久弥の写真。
  驚きすぎて、言葉が出ない。
  新聞を持つ指先が、震える。
  あの頃より、大人となった久弥の顔。
  だけど『変わらない』と感じさせた。
  どうして、久弥が
  
  グループの支社長に内定という話が出ているんだろう?
  彼はまた、地獄のようなところから、自らの手腕で這い上がって来たのだろうか。
  それより何より、
梓「・・・無事、だったんだ」
  吐き出すと共に、すべての力が抜ける気がした。
  嬉しくて
  
  
  
  目頭が熱い。

〇テーブル席
  半ば放心状態で、写真の下に小文字で書かれたプロフィールを目で追う。
  『高宮久弥。ペンシルバニア大でMBAを取得後、同グループに入社。
  NY支社での業績が認められ、25歳という若さで東京支店・支社長に内定の運びとなる』
  
  
  思わず、目を凝らした。
梓「高宮久弥?」

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