読切(脚本)
〇タクシーの後部座席
(・∀・ )「長くタクシードライバーをやっているとね、おかしなことに巻き込まれるなんてザラなんだよね」
乗客「はぁ・・・」
後ろから激しいクラクションの音が鳴り響く
(・∀・ )「こういうのってやっぱり人によって違ってね」
(・∀・ )「酔っ払いを乗せることが多い奴は車内でゲロ吐かれたり、漏らされたりとかね。理由がはっきり分かるタイプからさ」
(・∀・ )「なぜか幽霊に無賃乗車されまくる奴とか、なんか理由もわからないタイプとかね」
乗客「そうなんですか・・・」
(・∀・ )「ちなみにボクは」
会話を遮るように後続車が激しくパッシングしてくる
バックミラーにはかなりギリギリまで接近して走る後続車の姿が未だに映っている
(・∀・ )「なぜかあおり運転を受けることが多いんだ。3日に1回は絡まれるんだよね」
乗客「うわぁー! こんなのタクシー乗るんじゃなかった!」
──タクシードライバー──
(・∀・ )「それにしても今日はいつにも増してクラクションがうるさいね」
乗客「なに日常みたいにいってるんですか?! クラクションを蝉の鳴き声みたいに言わないでくださいよ!」
(・∀・ )「え? クラクションくらい鳴り響いて当たり前でしょ?」
(・∀・ )「あっ、お客さん。もしかしてあんまり車乗らない人でしょ? いるんだよね、自分の当たり前が世界の当たり前みたいに思ってる人」
乗客「いや、あんたに言われたくないですよ?!」
乗客「クラクション鳴らされまくるのが世界の当たり前なんかじゃないですから! 世界中の優良ドライバーに謝れ!」
(・∀・ )「えー・・・」
優良ではない後続車は相も変わらずクラクションを鳴り響かせる
(・∀・ )「流石にこうも鳴らされると気が滅入るし、音楽でも流そうか」
乗客「なにがあります?」
(・∀・ )「オススメは『ジャイアン・リサイタル Vol.3』かな」
乗客「まさかのチョイス。いや、そもそもそんなのどこで手に入れるんですか」
(・∀・ )「ファンクラブ会員特典だからね。簡単には手に入らないよ」
乗客「まさかのファンクラブ」
乗客「でもジャイアンリサイタルはあまり・・・」
(・∀・ )「お気に召さないならこっちはどうかな?」
(・∀・ )「『ジャイアン・リサイタル Vol.7』」
(・∀・ )「Vol.3はパリピなアップテンポで煩い曲がメインだけど、Vol.7は哀愁漂うのを煩く歌い上げてる粒ぞろいだよ」
乗客「結局、どっちも煩いだけみたいなんですが?」
(・∀・ )「やれやれ、じゃあ秘蔵の『ジャイアン・リサイタル Vol.11』だ」
(・∀・ )「かの引退リサイタルで歌った曲を収録した感動と煩さの傑作だよ」
乗客「あ、引退したんですね」
(・∀・ )「すぐに復帰したけどね。そしてこれがあの煩くて有名な復帰記念講演を収録した『ジャイアン・リサイタル Vol.12』」
乗客「あ、もういいです」
(・∀・ )「そう? これを大音量で流すとお客さんも煽ってくる車も動かなくなるからいいのに」
乗客「それ、共倒れじゃないですか・・・」
不意に車が大きく揺れる──
(・∀・ )「っとぉ!」
乗客「ひっ! ぶつけられた?!」
(・∀・ )「ここらは道が悪いんだよ。普段ならこんなに揺れないんだけど、流石に時速40kmオーバーだからねぇ」
乗客「なるほど・・・ って、あんた何kmで走ってるんだ?!」
(・∀・ )「ふふふっ、ないしょ」
乗客「うわぁ、そのニヤケ面が無性に腹立つ!」
(・∀・ )「ちなみにもうすぐ曲がりくねった道が続くからしっかり捕まっててね」
乗客「え? ちょっ、待って!」
(・∀・ )「ヒャッハー! 死のドライブの始まりだ! このスピードについてこれるか?!」
乗客「タクシーの運転手の台詞じゃねぇ」
悪路をギリギリのコーナリングで越えてゆくも、後ろのあおり運転の車もかろうじて付いてくる
(・∀・ )「なんて奴だ。俺のテクニックにこれだけついてくるなんて! 面白れぇ、ここからは本気でいくぜ!」
(・∀・ )「不運と踊っちまっても知らねぇぜ!」
乗客「もう降りたい・・・」
〇タクシーの後部座席
(・∀・ )「まさか、あの死のカーブを潜り抜けるとはな。おまけに煽りのレベルを上げてきやがって」
乗客「壁にぶつかって折れたサイドミラーを投げつけるからですよ」
(・∀・ )「いやぁ、まさか当たるとは思わなかったよ。当てるつもりだったけど」
乗客「ろくでもねぇな、この人!」
(・∀・ )「つい熱くなって激しくしたけど、トランクのゴルフバッグは大丈夫かな?」
乗客「え?」
(・∀・ )「あのでかくて、すごい臭いやつ。すごく高そうなんだから、ちゃんと洗いなよ」
乗客「いや、あれはもう捨てるんで・・・」
(・∀・ )「あー、そうなんだ。じゃあ、また際どい走りをしても──」
乗客「ゴルフバッグの心配より、私の心配をしてくれませんかね」
(・∀・ )「ちっ、仕方ねぇな」
乗客「なんで舌打ちしてるの?」
(・∀・ )「クレーマー乗せちゃったなぁって思いが溢れちゃった」
乗客「クレーマーじゃないけど?! つーか、あおり運転には動じないのにクレーマーには容赦なさすぎない?」
(・∀・ )「あおり運転は〇っちまってもいいけど、クレーマーは〇っちゃダメだからね。世間的に」
乗客「どっちも〇っちまっちゃダメだと思うけど」
〇タクシーの後部座席
(・∀・ )「雨降ってきちゃったね」
(・∀・ )「もうすぐあそこだっていうのに」
乗客「今度はなんですか?」
(・∀・ )「これはタクシーの運転手の中じゃ有名なんだけどね」
(・∀・ )「幽霊が出るんだよ、このあたりは」
乗客「なっ、ゆ、幽霊?!」
(・∀・ )「ボクも一度だけね、見たことあるよ」
(・∀・ )「こう、窓に変な気配が付きまとうからさ、ちょっと横を見たら・・・」
(・∀・ )「ぼやーっとした人の顔がこっちを見ててさ」
(・∀・ )「『違う、こいつじゃない』って言って消えたの」
乗客「ひぃっ!」
(・∀・ )「いや、参ったよ。人違いなら一言謝れよ!って言いそびれちゃってさ」
乗客「え? そこ怒るところなの? なに、この人、心臓がオリハルコンでできてるの?」
(・∀・ )「あのときも、こんなあおり運転受けてた日だったな」
乗客「あおり運転受ける頻度、本当に高いんですね」
(・∀・ )「今日あたり、でるんじゃないかな。こうやって横を見ると・・・」
幽霊「・・・」
(・∀・ )「あ、お客さんの隣だった」
乗客「うわぁあっぁあぁ!」
幽霊「・・・お前だー!」
(・∀・ )「誰が犯人だ、ボケ! まだ誰もやってねぇわ!」
乗客「まだとか言うな!」
幽霊「・・・」
幽霊はこちらの迫力に慄いたのか、スゥーッと姿を消した・・・
(・∀・ )「ちっ、逃げたか! 今度会ったら謝罪させてやる!」
乗客「もういやだぁ・・・」
〇タクシーの後部座席
(・∀・ )「ふふふっ、ついにここまで煽り続けてきたか。中々しつこい奴め」
乗客「なんとかしてほしいですね」
(・∀・ )「ここまでくれば安心さ。この先に警察署があるんだ。よし突っ込もうか!」
乗客「へ? は?」
乗客「な、なに言ってるんですか?!」
(・∀・ )「大丈夫、大丈夫。行燈を緊急点滅にして突っ込めば理解してくれるから」
乗客「いや、そうじゃなくて・・・」
(・∀・ )「おらおら、ついてこいやー!」
乗客「ま、待って!」
〇警察署の入口
(・∀・ )「いやぁ、あおり運転してたやつも一緒に警察署に突っ込むとはね」
(・∀・ )「現行犯逮捕されてやんの」
乗客「はは・・・」
(・∀・ )「で、なんでお客さんも捕まってるの?」
警官「この方はある事件の重要参考人として捜査線上に上がっていたのですが・・・」
警官「ゴルフバッグに死体を詰めて運んでいたので緊急逮捕となりました」
(・∀・ )「あー、あの臭いゴルフバッグ・・・」
乗客「こんなタクシー使ってなければ、今頃、証拠隠滅できてたっていうのに・・・」
(・∀・ )「連れていかれたか」
(・∀・ )「あおり運転に合わなければ、誰にも気づかれずに死体は処分されてしまったのかも知れないな」
幽霊「・・・」
(・∀・ )「悪いやつの行いが他の悪いやつの悪行を暴く手掛かりになるとは、事実とは小説より奇なりとはよく言ったものだ」
(・∀・ )「ん? 今、誰かいたような? 気のせいか」
(・∀・ )「タクシードライバーやってると変なことに巻き込まれるよねぇ」
読切りとしてすごく面白いですね!!🤩
ドライバーの顔が見えないのもセンスがあります。
ドライバーの過去が気になり、乗客の方には注意が向かなかったのですが、それが一種のミスリードになって、最後のオチなんかやられた!! って感じでした😅
ドライバーさんのご尊顔を拝見したいけど声のみの出演なんですね。実写化されたら誰に演じてもらうのがいいか、読んでる間に想像と夢が膨らみました。でも良い子が真似したら困るのでやっぱり実写化はNGですね。
タクシードライバーさんの、様々な「普通」からのズレ、楽しすぎます!軽妙な会話で読み流してしまいそうになるも、よくよく見れば物凄いコト言ってますよねww