ネクタイリング

サトJun(サトウ純子)

ネクタイリング(脚本)

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〇テーブル席
  短い髪。ブランドものではありそうだけど、
  地味な色のパンツスーツ。
  名門校の派手な奥さまたちに群れない、
  浮いた感じ。
  何より、怯えているような、
  戦っているような目。
  ──あの目。
  ・・・あの頃の私と一緒。

〇テーブル席
河村杏奈「良かった、良かった!」
河村杏奈「玲菜の結婚が決まってホッとしたわ!」
倉島昇「いやぁ。ビックリしましたよ! 今、巷で有名なあの社長と結婚、だなんて!」
岩本玲菜「昔、携わったプロジェクトで一緒に仕事をしたことがあって。それからずっと声をかけてくれてたんだけど・・・」
河村杏奈「玲菜がいつも軽くかわしていた人ね! まさか、あの社長だとは思わなかった!」
倉島昇「僕も、もうちょっと頑張れば、なんとかなったのかなぁ」
河村杏奈「はぁ?なに言ってんのよ!」
倉島昇「あー、ごめん、ごめん。 杏奈ちゃん。怒らないでぇー」
岩本玲菜「披露宴、本当に河村部長は呼ばなくて良いの?」
河村杏奈「本人も「申し訳ないけど、出席は難しい」って言ってたから」
河村杏奈「当然よ!来賓は会社のお偉いさんだらけじゃない。合わせる顔がないわよ」
岩本玲菜「・・・」
岩本玲菜「杏奈、大丈夫?」
河村杏奈「全然平気!」
河村杏奈「姑が全面的に私の味方についてくれてね。 めっちゃ優しくなったの」
河村杏奈「ただ、モノをハッキリ言うだけの、わかりやすいおばあちゃんだったわ」
岩本玲菜「・・・それで、良いの?」
河村杏奈「・・・うん。 今は子供も小さいし、今更ガッツリ働く自信無いし」
河村杏奈「今後の事は、慌てずゆっくり考えるわー」
岩本玲菜「そうね」
倉島昇「杏奈ちゃんには、僕がいるから大丈夫っす!」
河村杏奈「まー、安心して誘えるのは、昇しかいないしね」
岩本玲菜「こう見えて、中身は生真面目でしっかりしてるからねー」
倉島昇「えー。棒読み。それ、褒めてるの?」
河村杏奈「おっと!そろそろ夕飯の準備しなくちゃ!」
河村杏奈「それじゃ、またねー!」
倉島昇「また、誘ってくださいねー!」
岩本玲菜「・・・」

〇オフィスのフロア
  一ヶ月前。
  河村部長の直属の部下が会社の屋上から飛び降りた。
  下に庭木が生い茂っていた為、彼女は骨盤と右手、右足骨折だけで奇跡的に一命を取り留めたが
  精神的なショックからか、その時の記憶が無いらしい。
  ただ、彼女の残した遺書には、河村部長との関係が赤裸々に綴られていたという。

〇病室のベッド
  その日、「杏奈が過労で倒れた」という報告を受け、玲菜は慌てて病院に駆けつけた。
河村杏奈「ありがとう。もう大丈夫。 落ち着いたから」
河村杏奈「・・・」
河村杏奈「あのね。前に、足立さんの奥さんを確認しに行ったじゃない」
河村杏奈「あの時、玲菜が何もせずに「わかったからいい」って帰った理由、今ならわかる」
  奥さま、全然幸せそうな顔をしていなかった
河村杏奈「・・・」
河村杏奈「あの女も、同じような顔をしていたわ」
河村杏奈「でも、私は、黙っていられずに、あの女に追い討ちをかけた」
河村杏奈「その結果が、これ」
河村杏奈「・・・」
河村杏奈「でも、全然後悔していないの。 旦那の事も絶対許せない」
河村杏奈「・・・はぁ」
河村杏奈「玲菜みたいに優しかったら、こんな風にはならなかったわよね」
河村杏奈「・・・」
河村杏奈「なんか、疲れちゃった・・・」

〇テーブル席
  自分を裏切った人と、夫婦でいるって
  どんな気持ちなんだろう──
岩本玲菜「はい。もしもし」
「俺!ごめん。少しだけ遅れる!」
岩本玲菜「えーっ!」
岩本玲菜「じゃ、パンケーキ奢りね!」
「おう!アイスもつけるから!」
岩本玲菜「やったー! じゃ、待ってまーす」
岩本玲菜「大好きな人を待っている時間が、こんなに楽しいだなんて・・・」
岩本玲菜「・・・」
  ねぇ、杏奈。
  私、全然優しくないわよ。
  私は既にやっちゃってるのよ。
  6年前に・・・

〇シックなリビング
岩本玲菜「また、あの女と比べたの・・・?」
岩本玲菜「いつまで過去の女のことを引きずってるの?」
岩本玲菜「それは愛なの?情なの?」
岩本玲菜「・・・」
岩本玲菜「ハッキリしなさいよ!」
岩本玲菜「・・・」
岩本玲菜「・・・ねぇ」
岩本玲菜「ずっと思っていたんだけど」
岩本玲菜「大きい声出せば、 皆、言うこと聞くと思ってんの?」
岩本玲菜「・・・はぁ」
岩本玲菜「黙って言うこと聞いてたら、どんどん調子に乗って」
岩本玲菜「悪い仔犬ちゃんね」
岩本玲菜「・・・はぁ」
岩本玲菜「しっかりしつけをしなくちゃ!」
岩本玲菜「このネクタイリングは首輪なのよ」
岩本玲菜「あなたは私の飼い犬」
  あまり調子に乗らないでね
  ただじゃ済まないから
  この後、少ししてから
  ”お前と付き合うのは無理だ”
  と、言い残して
  涼太は去った

〇テーブル席
  涼太が今もネクタイリングをしている理由
  本当に、今も玲菜に忠誠を誓っているのか
  もしくは、美桜への当て付けなのか
  もう、どうでもいい
  ”涼太は変わっていない”
  それだけがわかれば──
古城文彦「お待たせーっ! ごめん、ごめん!」
岩本玲菜「もぉー! 今日は早めに来るって言ってたのにー!」
古城文彦「さっ!気を取り直して。 パンケーキとアイス食うか」
岩本玲菜「あー、でも、やっぱりアイスはやめておく・・・」
古城文彦「遠慮するなよ」
岩本玲菜「あまり食べるとドレスが入らなくなるから。ダイエット中なの!」
古城文彦「ちょっとぐらい太ったって、玲菜は可愛いから大丈夫!」
岩本玲菜「じゃ、食べちゃおっかなー」
  私が他の人と幸せになる事が
古城文彦「俺も一緒に食べるぞーっ!」
  涼太への最大の復讐
岩本玲菜「文彦さんは、周りの評判は上々だし、私にもすごく優しい。典型的な良い人」
岩本玲菜「彼と今まで付き合った事がある人の大半は、「優しすぎてつまらない」が別れた原因だったと耳にした」
岩本玲菜「でも・・・」
岩本玲菜「涼太も最初はとても良い人だった。 今も外面は変わらず良い人のまま」
  文彦さんは、大丈夫かしら・・・
岩本玲菜「・・・」
岩本玲菜「ねえ。文彦さん」
岩本玲菜「・・・」
  ネクタイリング
  ほしい?

次のエピソード:33才の冬

コメント

  • ん? ちょっと、流れが急展開で、追いつけてない感じです。次回を見てみまーす。

  • ネクタイリング、そういうことだったのですね!
    怖っ!女の執着を見せられた感じでした……
    まだ3人のことも色々あるし、これからの二人もどうなるのか……考えるとまだまだ闇が潜んでいそうですね😱
    また続き楽しませていただきます😊

  • ちょ、おおお😱見事なタイトル回収!!
    二人に何があって別れることになったのかと思いきや…そういう事でしたか!!
    被害者であるところの主人公が復讐する話かと思ってたら…鳥肌立ちました😇
    一旦の完結お疲れ様でした!

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