侯爵令嬢アガットは、赤髪皇子の妃になりたい

椎名つぼみ

9.残酷な現実と氷のキス(脚本)

侯爵令嬢アガットは、赤髪皇子の妃になりたい

椎名つぼみ

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〇城の会議室
「・・・」
「・・・」
アガット(なぜ、このメンバーで食事なんて・・・)
  皇帝陛下のお取りはからいで、私たち4人は正式に顔を合わせる。
  皇太子となるのは、
  皇后にふさわしい女性と結婚した者
  あの宣言から、5日目のこと。
ホワイト公爵令嬢「お招きありがとうございます。 ミカエル殿下とご一緒できて、光栄ですわ」
ミカエル「ああ」
アガット(・・・ ホワイト令嬢が呼ばれたってことは、 ラフの相手は決まったということかしら)
アガット(彼女は社交序列1位の、公女)
アガット(それに比べて私は、序列3位の侯爵家の娘)
アガット(今まで気にしてなかったけど、 こう並べられると、だいぶ見劣りするわね)
  ミカエル殿下のお相手は、本当に私でいいのかしら?
アガット(皇后は『帝国の月』であり『母』という尊い存在よ)
アガット(外見の美しさに加えて、品位、知力、社交性 財力のある家柄が求められる)
アガット(私じゃ弱いわ・・・)
  もしかしたらミカエル殿下はもう、他の候補者を探しているかもしれない。
アガット(今日を最後に、婚約破棄ってことも・・・)
アガット(ハッ!!)
アガット(いいじゃない、別にそうなったって! 計画通りだわ!)
アガット「・・・」
ミカエル「・・・フッ また1人百面相だな」
アガット「え? やだ、私ったら。 すみません」
ミカエル「謝ることはない。 見ていて飽きないと、前にも言っただろう?」
ミカエル「でも少々、元気がないのは気になるが」
  そう言うと、
  ミカエル殿下はこちらに手を伸ばし、
  長い指で、私の額にかかる前髪をそっと払う。
  そして躊躇うことなく、自分の額をピタリと私のに合わせた。
アガット「で、殿下!?」
ミカエル「熱は、ないようだな」
ホワイト公爵令嬢「あら、まあ!」
アガット「ないですよ、熱なんて。 お腹がすいて、お料理が待ち遠しいだけです」
ミカエル「なら、良い。たくさん食べろ」
アガット(ハッ! ・・・ヤダ また食いしん坊発言をしちゃった)
ラファエル「・・・」
アガット(うん、こんな時でも美味しい♪ デザートも嬉しい♥️)
ホワイト公爵令嬢「ごめんなさい、ラファエル殿下。 私、小食で・・・ デザートまで食べられませんわ」
ラファエル「令嬢はいつも小鳥のようですね。 とても可愛らしいと思いますよ」
アガット「・・・」
ミカエル「・・・アガット。 ほら、君は私の分も食べろ」
アガット「えっ!? それはさすがに! お行儀も悪いですし・・・」
ミカエル「プライベートな食事だ。気にすることはない」
ミカエル「それに私は、 君の美味しそうに食べる姿が好きなんだ」
アガット「え!?」
ミカエル「いつものように、大口を開けてくれて構わないぞ」
ミカエル「何なら宮殿の食材を、全て持ってこさせよう」
アガット「も、もう。ミカエル殿下ってば! またそんな大袈裟なことを」
ラファエル「チッ」
ラファエル「兄上。少しアガットを、 甘やかせ過ぎなんじゃないですか」
ミカエル「どうした、突然」
ラファエル「自分の伴侶を、いずれ皇后にと考えるなら、 それなりの振る舞いを求めるべきです」
ラファエル「今のアガットじゃ『皇后になるべく女性』とは言いがたいのでは?」
アガット(ラファエル・・・ やだ、こんなところで・・・)
ミカエル「・・・」
ミカエル「弟よ、1つだけ言っておく」
ミカエル「私は彼女を── アガットを皇后にする気はない」
アガット(なっ・・・)
ラファエル「へー、それはまた。 ここにきて、ずいぶんな発言ですね」
ラファエル「オレから強引に引き離しといて? さんざん彼女にも、期待させておいて?」
ラファエル「最終的には、 隣国の王女でも娶るつもりですか!?」
アガット(うそっ!? ミカエル殿下が!?)
ミカエル「何とでもほざくがいい。 ラファエル、今お前に話すことは何もない」
ラファエル「そうですね。 お互い手の内を、まだ見せる時ではないですし」
ミカエル「・・・」
アガット(ああ、やっぱり。 ミカエル殿下は私では物足りず、新たなお相手を・・・)
アガット(・・・・・・)
アガット「あの、すみません。 私ちょっと、化粧室に失礼しますわ」
ミカエル「ああ」

〇要塞の廊下
アガット「・・・」
アガット「うっ・・・」
アガット「・・・うっく・・・ひっ・・・ぃ」
  絶対に泣きたくない。
  彼のためになんか、涙を使いたくない。
  なのに、止めどなく溢れて──
  悔しくて、苦しくて仕方がない。
アガット(ズルい。勘違いもするわよ。 あんなに必死に、優しくされたら・・・)
  ああ。私は思ってた以上に
  ミカエル殿下のことを、好きになってしまったみたい。

〇華やかな広場
  7歳の時、お父様に連れてこられた皇宮
  迷いこんだローズガーデンで、
  私はラフと出会い、将来を誓い合い
  そして幼いキスをした。
  笑うたびに、髪がキラキラ光って揺れる
  太陽みたいな人だった。

〇幻想
  それから5年の月日が流れ──
  再会したのは、12歳
  第2皇子のお相手として、私の名前が正式に上がってからだった。

〇大広間
アガット(12歳)(赤髪皇子・・・ラフよね?)
アガット(12歳)(何だかすっごく大人っぽくなって、 一瞬分からなかったけど・・・)
アガット(12歳)(うん、カッコよくなってる♥️)
ラファエル(14歳)「あっ!」
アガット(12歳)「ラフ、やっと会えたね」
ラファエル(14歳)「お前・・・ ベリー侯爵家のアガットか?」
アガット(12歳)「うん!」
ラファエル(14歳)「ハハッ!! 皇子を公共の場で愛称で呼ぶなんて、 大したヤツだな」
アガット(12歳)「あ、ゴメン・・・じゃなくて、 申し訳ありません、殿下・・・」
ラファエル(14歳)「イイよ、気にするな。 度胸があるとこ気に入った!」
ラファエル(14歳)「顔もカワイイしな!」
アガット(12歳)「え!?」
ラファエル(14歳)「オレは皇太子になって、 いずれはこの国の『皇帝』となる男だ」
ラファエル(14歳)「末永く、仲良くしようぜ!」
アガット(12歳)「うん!!」
アガット(12歳)(私が支えてみせる)

〇華やかな広場
  ここ数日、あなたとの事を思い出していた。
  だからね。
  この場所に呼び出された時、覚悟を決めなくてはと思ったの。
  サヨナラを言われ、
  サヨナラを言う、覚悟を・・・
ラファエル「アガット・・・」
ラファエル「オレは皇太子の座につき、 いずれこの国の皇帝となりたい」
アガット「うん。ラフならきっとなれるわ」
ラファエル「だから・・・アガット」
アガット「うん・・・」
アガット(いよいよ、ね)
ラファエル「・・・」
ラファエル「いずれ『皇妃』としてお前を迎え入れる。 それで、イイか?」
アガット「え!?」
アガット(何を言い出すの? だって皇妃って、側室・・・)
ラファエル「お前も分かってるだろ? 『皇后』は家柄も重視されるんだ」
ラファエル「侯爵家では心許ない」
ラファエル「だからホワイト公爵の令嬢を『正室』にする」
ラファエル「でも一番大切なのは、アガット! お前なわけで!!」
アガット「・・・だから、私を 第2婦人に望むと言うのね」
ラファエル「ああ。理解してくれ。 オレは皇帝になって、お前を迎えに行く」
ラファエル「それまで待っていてくれ! そうすれば、ずっと一緒に──」
アガット(何て・・・残酷な現実かしら)
アガット(ラフとの愛おしい10年が、全て壊れてしまったみたい・・・)
  もう、あの頃には戻れない。
  そして、キレイに離れることさえできない。
アガット(でも、これで吹っ切れたわ)
アガット「・・・・・・」
アガット「ラファエル殿下、 謹んでお断り申し上げますわ」
ラファエル「なっ!?」
アガット「私はミカエル殿下に惹かれています。 彼は不器用だけど、真っ直ぐな人で・・・」
アガット「だから信じてついていく。 私の幸せはそこにあると思うの」
ラファエル「バカ! お前らしくない。 何簡単にほだされてるんだよ!」
ラファエル「知ってるだろ? 兄上は冷淡で身勝手な男だ」
ラファエル「オレに対抗するために、きっとそのうちお前を捨てる。 隣国の王女を選ぶ!」
アガット「例え結果、そうなったとしても・・・」
アガット「ミカエル殿下なら絶対に、 私に「側室になれ」とは言わないでしょう」
ラファエル「・・・」
ラファエル「ダメだ、許さない。 お前を兄上の元になど、絶対に行かせない!」
  尖った目で、そう声を荒げると
  ラファエルは私の肩を乱暴に引きよせ、
  強引に唇を重ねた。
  私を支配するためだけの、冷たいキス──
アガット「イヤっ」
  悲しくなって、思い切り突き飛ばす。
アガット「ひどい! 想い出のつまったローズガーデンで、 こんなこと!」
アガット「ここは初めてキスをした、 暖かくて大切な場所なのに・・・」
ラファエル「はあ? 何だよ、それ」
ラファエル「アガットお前もう、 兄上と口づけを交わしたのか!?」
アガット「そうじゃなくて、ここは 子供のころに隠れてキスをした・・・」
ラファエル「子供のころ? オレと出会う前か? いったい誰とだよ!?」
アガット「忘れてしまったの? 「僕の妃になれ」って誓いのキスを・・・」
ラファエル「そんな話、聞いたことない。 お前はどこのどいつに、唇を許したんだよ!?」
アガット(・・・どういうこと?)
  ラファエルは覚えていない。
アガット(あの約束とキスは、私の心の支え。 そんなに軽いものだったの?)
アガット(それともまさか本当に、 ラフは知らない・・・?)
ミカエル「・・・・・・」
アガット「み、ミカエル殿下・・・」
  振り返るとそこには、彼が静かに立っていて
  私が名を呼ぶと
  今まで見たことがないほど、寂しげに笑んだ。

次のエピソード:10.私は『赤髪皇子』の妃になりたい

コメント

  • ワァ〜!
    過去回が誤解された記憶だったんだ〜😱😱😱
    スゴい面白いです!
    こういう展開が好きすぎる。
    タイトル回収ですね!ワクワク♪

  • 嘘でしょ!?そういうことだったの!?
    え?え?えーーー!?
    ああなるのかな、こうなるのかな、と頭の中の妄想が全て砕かれてしまい、どうなるのか全く見当のつかない状況に驚きです💦
    アガットが選ぶのはどの気持ちなのか、引き続き楽しませていただきますね🍀

  • あっあっあーっ、そういうことかー!!😆✨️
    キスシーンがシルエットだったのは……
    変な笑いが出てきましたwww
    ミカエルは信号機だったんですね?(黄色はバナナ)

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