エピソード2 脚本家をヨイショするの巻 (脚本)
〇ホールの舞台袖
MCフジモト「俺は流しのMCフジモト」
MCフジモト「MCとはMaster of Ceremony(マスターオブセレモニー)」
MCフジモト「つまり司会者」
〇マンションの共用廊下
MCフジモト「今日、俺がこのムダにイイ声を使う相手は、たった一人」
MCフジモト「依頼内容は、悩める脚本家マダムマサコをヨイショして、イイ気持ちにさせること」
MCフジモト「ヨイショで原稿がはかどる」
MCフジモト「そんなおめでたい話があるのだろうか」
〇汚い一人部屋
MCフジモト「床面積に対して物が多過ぎる部屋」
MCフジモト「依頼人は片付けられない性分らしい」
MCフジモト「足の踏み場を探しながら、初対面のマダムマサコに近づく」
MCフジモト「はじめましてマサコさん。わたくし、こういう者です」
マダムマサコ「名刺をどうも。脚本(キャクホン)さん」
脚本?
MCフジモト「いえ、脚(あし)に本(ホン)と書いて『脚本』ではなく、」
MCフジモト「藤(ふじ)に本(ホン)と書いて『藤本』です」
マダムマサコ「失礼しましたフジモトさん」
マダムマサコ「でも、『藤本』と『脚本』って似てますね」
MCフジモト「似てますか?」
マダムマサコ「似てない?」
マダムマサコ「やっぱり私、世間の感覚とズレているのね・・・」
マダムマサコ「だから書けないのね・・・」
MCフジモト「しまった」
MCフジモト「マダムマサコがドーンと落ち込んでしまった」
MCフジモト「マダムマサコに気持ち良くなってもらわなくてはギャラをもらえない」
MCフジモト「いやー似てますよねー」
MCフジモト「わたくし、常々そう思っていたんですが、なかなか気づいてもらえなくて」
MCフジモト「名刺を見て、名前の文字面(づら)に注目するなんて」
MCフジモト「さすが脚本家さんですね!」
マダムマサコ「良かった」
マダムマサコ「脚本のことばかり思い詰めているから『藤本』が『脚本』に見えたのかと思ったけど」
マダムマサコ「フジモトさんも思ってたんですね。『藤本』と『脚本』が似てるって」
MCフジモト「はいっ! わたくしMCフジモト、声真似が得意でして、何かにつけ、真似するのが大好きなんです!」
MCフジモト「それで芸名も脚本に寄せちゃいました!」
マダムマサコ「良かった。『藤本』が『脚本』に見えても、心配いらないんですね」
MCフジモト「もちろんです。それだけ一途に脚本のことを考えているって、健気で素敵です」
マダムマサコ「健気で素敵・・・」
マダムマサコ「ありがとう。フジモトさんって、ほめるの上手」
マダムマサコ「あれ? どうしよう」
マダムマサコ「『藤本幸利』が『脚本脚利』(キャクホンキャクトシ)に見えてきちゃった」
脚本脚利?
MCフジモト「キャクホンキャクトシ、ですか」
マダムマサコ「藤本の『藤』と脚本の『脚』(キャク)は似てるけど」
マダムマサコ「幸利の『幸』(ユキ)の字、『幸せ』と脚本の『脚』(キャク)は似てないわよね」
MCフジモト「確かに全然違いますね」
マダムマサコ「やっぱり私、世間の感覚とズレているのね」
マダムマサコ「だから書けないのね・・・」
MCフジモト「しまった」
MCフジモト「マダムマサコがドーンと落ち込んでしまった」
MCフジモト「マダムマサコに気持ち良くなってもらわなくてはギャラをもらえない」
MCフジモト「そんなことないですよ!」
MCフジモト「幸利の『幸せ』と脚本の『脚』(キャク)って、よく見ると似てますよ!」
マダムマサコ「似てる? どこが?」
MCフジモト「どこが似てるだろう。似ているところを探さなくては・・・」
MCフジモト「あった!」
MCフジモト「マサコさん、脚本の『脚』(キャク)の字の真ん中を見てください」
マダムマサコ「脚本の『脚』(キャク)の真ん中?」
MCフジモト「よーく見てください。幸利の『幸せ』に似てませんか?」
マダムマサコ「脚本の『脚』(キャク)の真ん中と、幸利の『幸せ』・・・」
マダムマサコ「あ、『土』(つち)がおんなじ!」
MCフジモト「そうです。どちらも『土』がついているんです!」
マダムマサコ「ほんとだ! 脚本の脚と幸せって似てるのね❤︎」
マダムマサコ「やだ、不吉」
MCフジモト「え? 不吉、ですか」
マダムマサコ「相撲で『土がつく』って負けることじゃない?」
MCフジモト「あ! 確かに」
MCフジモト「土がついたらマズいですね」
マダムマサコ「これって暗示よね?」
マダムマサコ「私、世間に負けるのね・・・」
マダムマサコ「そうじゃなくて、弱い私自身に負けるのね・・・」
マダムマサコ「どっちにしても負けるのね・・・」
MCフジモト「どうしてそうなる?」
MCフジモト「めんどくさい・・・」
MCフジモト「しかし、マダムマサコに気持ち良くなってもらわなくてはギャラをもらえない・・・」
MCフジモト「いやー、さすが脚本家」
MCフジモト「その豊かな教養とたくましすぎる想像力があれば何でも書けますよ!」
マダムマサコ「ほんと? 何でも書ける?」
MCフジモト「藤本幸利、いえ脚本脚利(キャクホンキャクトシ)、マダムマサコの脚本愛に感服しました!」
MCフジモト「『藤本幸利』と書いて『脚本脚利』(キャクホンキャクトシ)、いいですよねー」
MCフジモト「キャクホンキャクトシ、こっちのほうがいいかも。いっそ名刺作り直しちゃおうかな」
マダムマサコ「良かった」
マダムマサコ「こんなに脚本のことを思い詰めちゃうって、私、どこかおかしいんじゃないか、何かの病気なんじゃないかって心配だったの」
MCフジモト「マサコさん、それは病気なんかじゃありませんよ」
MCフジモト「健気です」
マダムマサコ「病気じゃなくて健気?」
MCフジモト「でも、あまり根詰めちゃダメですよ」
MCフジモト「健気はほどほどに。健やかな気と書いて『健気』ですから」
マダムマサコ「健やかな気と書いて『健気』」
MCフジモト「『藤本』と書いて『脚本』。『藤本幸利』と書いて『脚本脚利』(キャクホンキャクトシ)」
MCフジモト「『病気』と書いて『健気』」
マダムマサコ「『病気』と書いて『健気』?」
マダムマサコ「やっぱり病気なのね私」
マダムマサコ「永遠に一行目を書き出せない病なのね・・・」
MCフジモト「しまった」
MCフジモト「ついうっかりして、馬脚を現してしまった!」
マダムマサコ「フジモトさん」
マダムマサコ「それを言うなら、馬脚じゃなくて、馬・脚・本(バ・キャク・ホン)を現す、でしょ」
MCフジモト「バ・キャク・ホン。なるほど」
MCフジモト「あれ? マサコさん、なんだか、お声もお顔も明るくなってません?」
マダムマサコ「ありがとうフジモトさん」
マダムマサコ「いい気晴らしができたわ」
マダムマサコ「おかげで書けそうな気がしてきた」
MCフジモト「まさかのヨイショ成功!?」
MCフジモト「良かったです。ご満足いただけましたでしょうか」
マダムマサコ「大・満・足❤︎」
MCフジモト「それで、ギャラなんですが・・・・・・」
マダムマサコ「カラダで支払わせて」
MCフジモト「カラダで?」
マダムマサコ「フジモトさんがカラダを張ってくれたから」
マダムマサコ「私もカラダを張って、今の話、脚本にしてあげる」
MCフジモト「は?」
マダムマサコ「マダムマサコが藤本幸利主演ドラマの脚本をあて書きしてあげるって言ってるの」
MCフジモト「え、いや・・・」
マダムマサコ「フジモトさんったら、ぽかんとしちゃって。感激で言葉にならないのね」
MCフジモト「・・・」
〇マンションの共用廊下
MCフジモト「晴れやかなマダムマサコと引き換えに、俺は、スッキリしない気持ちでマダムマサコの部屋を後にした」
〇二階建てアパート
MCフジモト「間もなくマダムマサコから、あの日の会話を文字起こししただけの脚本が送られてきた」
〇二階建てアパート
MCフジモト「あれから一年」
〇アパートのダイニング
MCフジモト「ドラマ化の連絡は、まだない・・・」
〇アパートのダイニング
あ、電気・・・
😆めちゃくちゃおもしろかったです!!!
流しのMCフジモトさんの結末はいかに???
MCフジモトさんにお仕事がたくさん来ますように🙏
映画化?ドラマ化?アニメ化?期待してます〜
めんどくさすぎるマダムマサコがすごく面白かったです🤣🤣🤣
第2弾はかなりクセの強いマダムマサコに翻弄されるフジモト。いつになればパッと花が咲くのか!?頑張れフジモト!!