崩壊の時代(脚本)
それは、あまりに突然のこと。
〇渋谷のスクランブル交差点
「────え?」
「何、今の音?」
〇池袋西口公園
「嘘でしょ・・・また・・・?」
「もう・・・逃げる場所なんて・・・」
記録
『20XX年6月21日、渋谷駅近辺、センター街にて、原因不明の爆発事故が発生』
『被害・・・死者62名、負傷者233名、行方不明者1名。建造物への被害、交通、インフラへの被害は依然として不明』
『原因究明は警察の総力を挙げて行われるも、爆発物などの痕跡がなく、捜査は難航』
『原因の特定に至っていない中──池袋駅近辺、南池袋公園にて、第二の爆発事件が発生』
『被害・・・死者55名、負傷者349名、行方不明者1名』
『渋谷での爆発とは異なり、目撃者がいたことで事件の全容判明へと繋がる』
『爆発は──突如として、通行人の一人が発光し、その人物から放たれた衝撃波によるものだと断定された』
『あまりに奇怪な現象となったため、警察側は完全に手をこまねく事態となり、事件の捜査は進行せず』
『──その後、渋谷での事件から1ヵ月間、1日も途絶えることなく、世界中で同様の爆発事件が発生』
『死者が200名を超える大規模なものも発生。全てにおいて、発光した人物から発せられた衝撃波が原因となった』
『同時多発的に世界を襲った、未曾有の異常爆発事件』
『これらの事件が、現在に至るまで60年以上続く「崩壊の時代」の幕開けとなり──』
『異常な力を持ち合わせた超人、「超能力者」が闊歩する時代が訪れた』
〇港の倉庫
関東第5防衛区、幕張シェルター。
少女「待てー!」
少年「へへ、俺の方が足早いもんね!」
母親「ちょっと、海に落ちないようにしなさいよ」
子供が元気よく駆けていく。
当たり前であるべきこの光景は──既に失われて久しい。
高い壁で仕切られたシェルターの中は居住地でいっぱいであり、子供が何も気にせず遊べる公園などない。
そして、シェルターの外に出ていくことは、もはや命がけの行為だ。
対策をしなければ、瞬く間に人が人でなくなっていく。
〇荒廃した街
〇荒廃したセンター街
〇荒廃した国会議事堂
シェルターの外は、決定的なまでに人間を拒絶した世界となっている。
原因は不明だが、人間のDNAを書き換える毒素、ウイルスらしきものが充満しているらしい。
故に、それらを排除したシェルターの中でしか人は生活できない。
だが──シェルターにいても、安全ではない。
〇港の倉庫
シェルター住民A「なぁ、あれって──」
シェルター住人C「待ってよ・・・前回から3週間しか経ってないのに・・・!」
シェルター住人B「こりゃいけねぇ、すぐに避難準備だ!」
「────緊急警報、レベル4。『超能力者』の攻撃が確認されました。住人の皆様は、直ちに避難を開始してください」
平和を享受していたシェルターに、突如としてふりかかる災い。
『超能力者』が、襲来したのだ。
母親「まずいわ・・・ここにいたら狙われる」
少年「お母さん・・・もう遊べないの?」
母親「・・・ごめんね。せっかく港で遊べるのに。 これが終わったら、今度はボールを持って来ましょうね」
少年「うん・・・分かった」
少女「早く逃げようよ。早くしないと──」
母親「────あ」
「ああ、攻撃が来た!港の方角だ!」
「くそ・・・なんでこんな時に・・・!」
〇港の倉庫
『超能力者』が港湾部の上空に出現。
熱線による攻撃によって港湾部を攻撃した後、シェルター中心部への攻撃を開始。
その姿を人が肉眼で捉えることはできなかったが、観測機器が正確な姿を捉えていた。
その姿は、もはや生命であるかどうかすら疑わしい。
発光する球体にいくつかの棒が突き刺さったかのようなその体の大きさは、全長20メートルほどもある。
棒からは超高温の熱線が放たれ、シェルターを覆うドーム状の防護壁を容易く貫通し、居住区域に突き刺さった。
シェルター住人D「クソ・・・足を挫いて──」
シェルター住人D「嫌だ・・・死にたくねぇ・・・!」
幕張シェルターは、前回の襲撃からまだ復興していない。
対超能力者を想定した防護壁も、欠損状態であった。
当然のように、追い返すための手段もない。
できることといえば、ただ隠れて、破壊の嵐が収まることを待つことくらい。
〇殺風景な部屋
「ああ・・・お家が・・・」
「来るのが早すぎるだろ・・・なんで他のシェルターに行かないんだ」
「ちくしょう・・・どうして・・・」
〇港の倉庫
超能力者の行動は、一貫して『人間への攻撃』である。
その手段に、限りはない。
兵器のような攻撃手段もあれば、ガスをばら撒く個体もいる。
怪人「・・・熱線の連続放出。 『T8型』か」
一人の人影が、シェルター外部から飛び立った。
小型機であれば軽々と追い越すほどの速度で、それは浮遊する超能力者へと向かっていく。
その拳に、黒く蠢く──尋常ならざるエネルギーを込めて。
拳は闇を纏ったまま、超能力者へと叩きつけられ──
「・・・誰だ、あれ?」
「超能力者が・・・倒された?」
奇怪な姿をした人物は超能力者を一撃の下で撃破した後、シェルターの中へと降り立った。
怪人「先ほどの超能力者は倒された。 もう出てきて大丈夫」
「あ・・・あなたは、一体・・・?」
怪人「私は・・・『怪人』と名乗る者だ。 今はそれだけ、覚えて欲しい」
〇野営地
キャンプの少年「あ、帰ってきた!」
「みんなー! 怪人さんが帰ってきたよ!」
怪人「・・・」
「あ、怪人さん、おかえりなさい!」
「遅かったね! お腹すいたでしょ?」
「今日はみんなのお饅頭を作ったんですよ! 怪人さんも食べてください!」
怪人「・・・いや、私は──」
ライ「ちょっとー、『おかえりなさい』って言われたら、真っ先にすべきことがあるでしょー!」
怪人「・・・」
怪人「た・・・ただいま・・・」
ライ「はい、よくできました!」
非認可防衛地、江戸川シェルター。
シェルターといっても、超能力者の攻撃や外界の毒を無効化する防護壁は存在しない。
だが住人たちは平然としている。
何せ彼らは──人が人でなくなることに、恐怖を覚えない。
体の一部が液状になった者。
想像上の怪物のような姿となった者。
本来ならあり得ない部位が発現した者。
ここに集まっているのは、人が人ならざるものへと変異していく過程の存在──
『怪能』と呼ばれる者たちである。
〇野営地
ライ「そういえば、横須賀シェルターから来て欲しいっていう連絡来てたよ」
ライ「防護壁が壊されたんだけど、エンジニアがこの前全滅したせいで直せないんだって」
彼女──ライだけは、怪能ではない。
だが一般的な人間の体のまま、外界の毒に耐えることができる特異体質を持っている。
ある日突然この集落に現れ、いつの間にか打ち解けていた。
今ではすっかり、集落の人気者である。
怪人「分かった。大谷と一緒に向かうよ」
ライ「私も一緒の方がいいんじゃないかな? あそこは、ほら、アレじゃん」
怪人「・・・そうだな。 一緒に来てくれ」
ライ「やった! あそこのおにぎり屋さん、握り方が良くて美味しいんだよね」
怪人「食べ物目的か・・・はは」
「あれが怪能か・・・本当に、人間じゃないんだな」
「なんか・・・気持ち悪い」
「本当に味方なのかな・・・」
怪人「・・・・・・」
〇廃墟の倉庫
怪人「・・・クソッ」
「ごめんなさい・・・役に立てなグd・・dddddddoooooo」
「な、何あれ・・・」
「ひ・・・やっぱり・・・」
戦えど、救えど、そして死ねども、報われることなどなく、そして期待してはならない。
怪能が人を助けても、得られるものなどない。
待っているのはいつだって、果てしないほどの孤独。
人の心でありながら人でない者は、やはり人ではないのだろう。
少なくとも、彼らにとっては。
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元々は同じ人間でありながら「外も中も人間」「外は異形、中は人間」「外も中も異形」という三者の対立構造を描くことで、中間に位置する存在の苦悩が一番大きいという本質を突いた切なさが読者の胸に迫る物語でした。
説得力のある文章に終始引き込まれました。怪能と呼ばれる人たちは、何か私達現実社会に存在する一部の者を比喩されているようにも感じましたが、姿が人間であれば人間なのか、中身が人間であれば人間なのか、など今一度その大切な基本を振り返る時ですね。
魅力的なストーリーであるとともに、様々な考えさせられるテーマが詰まっていますね。アイデンティティと差別、共同体と排除、など、人類社会そのものについて思いを馳せたくなる物語ですね。