侯爵令嬢アガットは、赤髪皇子の妃になりたい

椎名つぼみ

7.熱い唇、温かな手。やわらぐ胸の痛み。(脚本)

侯爵令嬢アガットは、赤髪皇子の妃になりたい

椎名つぼみ

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〇宮殿の門
  次の休日はあいにくの空模様。
  皇宮からきた迎えの馬車に、半ば強制的に乗せられた私は、
  窓の外に流れる景色を、恨めしい気持ちで眺めていた。

〇上官の部屋
ミカエル「・・・」
アガット「・・・・・・」
ミカエル「アガット、その・・・」
ミカエル「怒っているのか?」
アガット「なぜそう思われるのですか?」
ミカエル「・・・すまない。 急な仕事が入ったため迎えにも行けず、 まだ君の相手もできない」
ミカエル「もう少し待っていてくれ。 きっとその間に、雨も止むだろう」
ミカエル「そうしたら共にローズガーデンに降りてだな・・・」
アガット「・・・」
アガット「ミカエル殿下は、私がほうって置かれていることに腹を立て、」
アガット「バラさえ見られれば、機嫌が直るとお考えなのですね」
ミカエル「え?」
アガット「だったら当分、晴れることなんてないでしょう」
アガット「書類が山積みのようですし、どうぞ私にはお構いなく。 殿下は仕事に集中して下さい!」
ミカエル「・・・」
ミカエル「もう少しだけ待っていてくれ。 ──彼女にお茶を」
外交官「それでは殿下。 まずはこちらに目を通して頂き、サインをお願い致します」
ミカエル「ああ、先日の近隣諸国との──」
補佐官「こちらも至急の案件となります。 殿下のご意見をお聞かせ下さい」
ミカエル「頼んでおいた帝都のハザードマップだな。 よし、これは──」
アガット(ホントに忙しそうね。 私、出直した方がいいんじゃないのかしら)
ミカエル「ああ、アガット。 もし退屈なら、自由に本など読んでいてくれても構わない」
ミカエル「だから・・・その とりあえず、もう少しだけそばに・・・」
アガット「・・・」
アガット「雨も上がったようですし、ちょっと散歩に出てきますわ」
アガット(その方が邪魔にならないでしょう)
アガット「一段落ついたら、改めてお声がけ下さい」
ミカエル「・・・」

〇結婚式場の廊下
アガット(さっきの私の態度、少し可愛げなかったかしら)
アガット「ううん、これでいいのよ。 『嫌われ作戦』その6! 大成功よ!」
  だってミカエル皇子は出会った時から、威圧的で利己的で──
  私の気持ちに寄り添うことなく、身勝手な欲望を押しつけてきた。
アガット(思いやりが足りないのよ! 今日だって私が何で怒ってるのか、分かってないご様子だし)
アガット(それなのに、焼き菓子? 本? 気をつかってる素振りなんか見せちゃって・・・)
アガット「・・・」
アガット(でも優しくないわけじゃないの。 プレゼントもデートも、どこか一生懸命で)
アガット(冷酷そうに見えて、あのバナナ事件も冗談で済ませてくれて・・・)
  何だかとても不器用な人。
アガット「・・・あーもう! 彼のことを考えると、心がモヤモヤするわね」
  この何とも形容しがたい、もどかしい感情は何なんだろう。
  ずっとそばにいたラファエルには、抱いたことのない苛立ち──。

〇華やかな広場
アガット「あら、来ちゃった」
  足は自然とローズガーデンに向かっていた。
  ラファエルと初めて会った、思い出の場所。
アガット「うわぁ~キレイ♥️ 珍しい~」
アガット(教えてあげたいな。 まあでもラフって、こういうのにあまり興味がないのよね)
  じゃあ、ミカエル殿下は?
  キレイなものがお好きかしら?
  一緒に見たいと思うかしら?
  それともまた私の顔ばかり眺めて、「表情が豊かだ」なんて笑うのかしら。
アガット「・・・」
???「アガット?」
ラファエル「お前、何でここへ!?」
アガット「ラフ、あなたこそどうしてここへ!?️」
ラファエル「いや、それが、その・・・」
アガット「あ、もしかして! 私の姿が見えたから追いかけて来てくれたの?」
アガット「ゴメンナサイ。 今日は約束を守れなくて・・・」
アガット「でも、会えて嬉しい──」
ホワイト公爵令嬢「ラファエル殿下、こちらの庭園はいつ来ても、本当に美しいですわね」
アガット「あ・・・」
ホワイト公爵令嬢「あら、ベリー侯爵令嬢。 ご機嫌よう」
アガット「ご機嫌よう、ホワイト公爵令嬢・・・」
ホワイト公爵令嬢「このたびはミカエル皇子とのご婚約、おめでとう。 後れ馳せながら、お祝い申し上げるわ」
アガット「ありがとうございます・・・」
「・・・・・・」
ホワイト公爵令嬢「・・・そう言えば、奥にある新種のバラは、もうご覧になったかしら?」
アガット「いえ、まだ・・・」
ホワイト公爵令嬢「ため息が出るほど美しくてよ。 ねえ、ラファエル殿下?」
ラファエル「あ、ああ」
ホワイト公爵令嬢「殿下にお誘いいただけた時は、本当に嬉しかったわ。 今日が、どれだけ楽しみだったことか♥️」
ホワイト公爵令嬢「だからベリー令嬢も、ぜひ」
ホワイト公爵令嬢「もちろん、お1人でも十分に楽しめてよ。 ねえ、ラファエル殿下」
ラファエル「いや、まあ。それは・・・」
アガット「・・・」
アガット(ホワイト公爵令嬢と約束してたのね)
アガット(私がお断りの連絡をしてから? それともその前から?)
アガット(ラフを責められない。 そんなの分かってる。けど──)
  ローズガーデンだけは、私を1番に誘って欲しかった。
  キレイな思い出が、また一つ上書きされていく──
アガット(自分勝手もいいとこね。 私だってミカエル殿下に誘われて来たくせに)
アガット「・・・では、私はこれで」
  できる限り口角を上げてから、私は乱暴に踵を返した。
  その瞬間。
  飛び出していたバラの棘が、レイピアみたいに私の左腕をかすめる。
アガット「イタっ!!」
ラファエル「アガットどうした!? 見せてみろ!!」
  ラファエルがそう叫んで手を伸ばし、私に触れた刹那──
???「気安く触れるな!!」
  背後からミカエル殿下が現れ、私をさらうように自分の胸に抱き寄せた。
ミカエル「ラファエル、身をわきまえろ。 彼女はもうお前の婚約者ではない!」
ラファエル「兄上・・・」
アガット「で、殿下!? 大量の仕事は? まさか無理をして・・・」
ミカエル「私のことはいい。それより君だ。 棘が刺さったのか? 腕を見せてみろ」
アガット「平気、ちょっとこすっただけです。 何ともないわ」
ミカエル「白い肌が赤く腫れて、血が」
アガット「いえ、本当に。見かけほどじゃ・・・」
  私が言い終わるのを待たず、
  彼は私の背中を抱きしめたまま、傷口にそっと自分の唇を押しあてた。
  うっすらと滲む血。
  それを舌先でからめとり、チュッと小さな音を立てて吸う。
アガット「ミ、ミカエル殿下・・・」
ミカエル「痛かったであろう。 もう、大丈夫だ」
  見せつけるような仕種。
ラファエル「・・・」
  そして優しく頭を撫でてくれる。
  まるで、慰めるかのように。
アガット(「痛かっただろう」って、ミカエル殿下・・・)
  傷のことを言ってるの?
  それとも先ほどのやりとりを見て・・・
ミカエル「行こう、アガット。 バラは日を改めよう」
アガット「ええ」
ラファエル「アガット、待て──」
アガット「・・・」
アガット「ラファエル殿下、ホワイト公爵令嬢。 失礼致します」
ミカエル「さあ、こっちへ」
アガット「はい」
  まっすぐに差し出してくれた手が、とても温かいものに感じて、
  私は無意識に指をからませる。
  胸が華やかに、鳴った気がした。

次のエピソード:8.揺れ動く心。ラフの手が冷たくて

コメント

  • フギャアアアアッ!(脳内が…😍)
    タイトルからして甘々でしたが、シチュエーションの破壊力の強さよ♥♥♥
    やったぜミカエ〜ル!!!
    ワッショ〜イ!
    お利口さんに見えたのに、人様の前でコレが出来ちゃうなんてッ!?
    アガットの好感度も爆上がりの様子に大満足です〜🥰⤴️
    ラフも負けじと仕掛けてくるッ?
    期待!!🤣🤣

  • ミカエル、ラフの前では見せつけるように、二人のときは気を使い時折笑い、でも政治の駒だと言い張り……。彼の本音が分からないですが、アガットの揺れ動く気持ちも分からなくもない……。
    そして、個人的にはラフがデートしていてショックでした😱やめてー、ラフ〜💦これ以上アガットを傷付けないで😭(ラフ推しより)

  • いやー、完全当て馬ポジからここまで追い上げる力量が素晴らしいです!😆
    ミカエルは充分追い上げたと思うので、ラフの巻き返しにも期待してます💕

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