マッチングアプリ 『4cLets』

花柳都子

マッチングアプリの再会(脚本)

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〇テーブル席
  あれから選択肢を『金』に変えた私は、『マダム』とやらに会うべく、目下、婚活パーティーを探している。
  『個別』形態で探していた時は、画面に
  男性の写真がずらりと並んでいたけれど、
  『複数』形態に変えた途端、今度は
  婚活パーティーのタイトルがずらりと並ぶ。
  それぞれに参加資格が設定されていて、
  主に男性側の条件が厳しい。
  年収、学歴、職業に肩書きまで、
  中には年収いくら以上の医師限定なんて
  ものまである。
  それに比べて、女性側の設定条件は緩く、
  参加費タダは半ば当たり前だった。
浅葱寧々「(「女性だから」って理由だけで参加費タダは気が引けるような・・・)」
浅葱寧々「(あくまで男性の厚意であって、なんだかそれを当たり前と思っちゃいけない気がする・・・)」
  そう、奇しくもホテル男の彼が言った通り、
  私はできるだけ相手と対等にいたい──。
  私は数ある『マダム』主催のパーティーの中から、女性4,444円の男女合わせて8人限定参加のタイトルを選んだ。
浅葱寧々「4が4つかぁ・・・不吉・・・」
仁科美来里「何が不吉?」
浅葱寧々「わっ! 美来里! びっくりさせないでよ」
仁科美来里「あぁ、ごめんごめん。 それで? 何が不吉なの?」
浅葱寧々「・・・4が4つと8が一つ並んだら、 『死を呼ぶ死者』になるなぁと思って」
  ──今そんなの洒落にならないのに。
  決して静香のことをそう思ってるわけじゃないのに──
  ついつい学生時代の癖で語呂合わせをしてしまう。
浅葱寧々「(それも、静香との大切な思い出のひとつだから──)」
仁科美来里「あはは! 何それ、ゾンビの話?」
  美来里と静香に面識はないから、
  無邪気に笑う美来里に
  あまり哀しい話も聞かせたくない。
仁科美来里「他には?」
浅葱寧々「えっ?」
仁科美来里「いや、だから、それ以外に他の数字出てこないの?」
浅葱寧々「(開始の時間が10:00だから──)」
浅葱寧々「・・・10なら出てくるけど」
仁科美来里「あは、最高!」
浅葱寧々「何が?」
仁科美来里「『幸せ呼ぶ天の使者』」
浅葱寧々「・・・・・・」
仁科美来里「10と4で『天使』でしょ? 3桁の番号が必要な時、これにしてるんだ〜」
浅葱寧々「そんなこと私に教えて、 パスワードとかに設定しないでよ?」
仁科美来里「あはは、大丈夫大丈夫。 それより、4と死を重ねるなんて古くない? っていうか、安直!」
浅葱寧々「うーん、そうなんだけど。子供の頃に「4は不吉な数字」って祖父母に刷り込まれた気がする・・・」
仁科美来里「あぁ、そういうのって抜けないよね〜 でも不吉な例えばっかり考えないで、もっと楽しく行こうよ!」
仁科美来里「私の推しの数字でもあるんだから」
浅葱寧々「あー、うん、そうだよね。 ごめんごめん」
仁科美来里「数字の読み方だって意味だって、 結局、個人の解釈の違いでしょ」
仁科美来里「天使と悪魔の話じゃないけど、日本と海外じゃ文化も宗教も違う。そもそも英語で『4』を『シ』とは読まないし」
仁科美来里「『死』も『シ』じゃないしね〜」
仁科美来里「ま、笑い事でもないけどさ。 考えるだけ疲れちゃうよ」
浅葱寧々「そうだね・・・」
仁科美来里「でも懐かしいな〜 寧々って大学時代から そうやって言葉遊びしてたよね」
浅葱寧々「・・・うん。 高校時代、友達と授業中に 筆談で内緒話してたの」
浅葱寧々「でも教科書やノートに書いて誰かに見られたら困るから、暗号みたいにして」
仁科美来里「あぁ、それで!」
浅葱寧々「そうそう。 そういえば、その時も言われたなぁ・・・」

〇教室
浅葱寧々「・・・うーん」
桜庭静香「なに〜そんな深刻な顔して」
浅葱寧々「今日は4ばっかりみるなぁって── 今朝目が覚めたら4:44だし、 星占いも4位だし、」
浅葱寧々「ほら、これも444円!」
桜庭静香「あはは、4のゲシュタルト崩壊!」
浅葱寧々「もう〜笑わないでよ こんなに4ばかり続くと 嫌なこと考えちゃうじゃん」
桜庭静香「なんで? 4は幸せの『シ』でしょ? ラッキーじゃん」
浅葱寧々「うう、そうやって思えるなら こんなふうに気にならないって・・・」
桜庭静香「確かに、寧々って『死』とか『殺』とか、そういう字嫌ってるよね」
浅葱寧々「だって書いたり読んだりするだけで、嫌な気分になるでしょ?」
桜庭静香「まぁね〜 でも『◯◯◯殺人事件』みたいな小説は好きじゃん」
浅葱寧々「それはフィクションだから・・・」
桜庭静香「あーなるほどね。 寧々は音感に囚われすぎだって。 もっと自由でいいじゃん!」
浅葱寧々「自由って?」
桜庭静香「『4』イコール『死』なんて、凝り固まった思想ってこと!」
桜庭静香「たとえ一文字で表せなくても、幸せの『シ』だって『4』でもいいはずでしょ?」
浅葱寧々「うーん、そうだけど・・・ でも、幸せの『シ』も『4』は『シ』だよ?」
桜庭静香「──あ、じゃあ、こうしたら?」
桜庭静香「『4』は必ず『ヨン』って読むの!」
浅葱寧々「普段からそうしてるつもりだけど──」
桜庭静香「それなら、暗号で練習しようよ!」
浅葱寧々「練習?」
桜庭静香「そう。暗号で『シ』を表現したい時は、 『ヨン』とか『ヨ』に変換して書くの」
桜庭静香「数字で書いちゃダメだよ? ちゃんと漢字でね」
浅葱寧々「何それ、難しくない? 前後で文章が繋がらなくなるじゃん」
桜庭静香「そこをどうにかするのが、腕の見せ所! 実際、そのほうが暗号もバレにくいし。 『寧々と私だけの秘密』になるでしょ?」
浅葱寧々「──そうだね。 こんなくだらない悩み、他の人には相談できないし」
桜庭静香「でしょでしょ! じゃあ、決まりね」

〇テーブル席
浅葱寧々「・・・・・・」
仁科美来里「・・・ね、寧々、寧々〜?」
浅葱寧々「あ、ごめん。 昔のこと思い出してた」
仁科美来里「『4』は幸せの『シ』って話?」
浅葱寧々「──うん。 前にもそうやって私の解釈を変えようとしてくれた子がいたなぁって」
仁科美来里「そっか〜 でも、じゃあ、まだ変わってないってこと?」
浅葱寧々「結局ね・・・ 意識すればするほど『4』は『シ』って考えちゃうんだよね」
仁科美来里「まぁ『意識しない』って考えること自体が『意識してる』からね」
浅葱寧々「そうなの・・・」
仁科美来里「まぁ無理に直せとは言わないけどさ、私は好きだよ。『4』って数字」
浅葱寧々「推しの数字だから?」
仁科美来里「うん、そう!」
浅葱寧々「はいはい。幸せそうで何より」
仁科美来里「あっ、今できたじゃん! 『4』は幸せの『シ』だよ〜」
浅葱寧々「ほんとだ!」
仁科美来里「よし、解決解決〜。 あ、待って、新しいガチャ発表になってる!」
仁科美来里「あぁ、素敵! はい、課金決定!」
浅葱寧々「・・・課金って、そんな簡単に?」
仁科美来里「そりゃ推しのためなら!」
仁科美来里「・・・って言いたいとこだけど、一回課金しちゃったら、もうあとは麻痺してるだけ」
浅葱寧々「なるほど」
仁科美来里「まぁでもね、私は仕事してるから、お金はあるけど時間がない」
仁科美来里「イベが始まっても毎日かかりきりになれるわけじゃないから、多少はお金かけないと」
浅葱寧々「諦めるって選択肢はないわけね」
仁科美来里「うん、ない!」
仁科美来里「推しの愛はお金で買えないけど、 私の愛をお金に代えることはできるから!」
仁科美来里「推しにはできるだけ長く、私のそばに存在してて欲しいじゃん!?」
仁科美来里「『時は金なり』だよ、寧々! 時は有限だから、金も必要!」
浅葱寧々「あ、うん・・・金も有限だからね? 気をつけてよ、美来里」

〇綺麗な部屋
浅葱寧々「(さて・・・)」
  マッチングアプリの自由記述欄が空白のままだったことを思い出し、私は帰宅早々、アプリを起動した。
  あなたが『金』から思い浮かべる言葉は何ですか?
  昼間の美来里の言葉を思い出し、入力する。
浅葱寧々「(『時は金なり』──と)」
浅葱寧々「(・・・うーん。結婚に対して、そんな言い方はないかなぁ)」
浅葱寧々「まあいっか」
  今回は『マダム』という手がかりが既にある
  それに婚活パーティーは自分で選べるから、
  この言葉がマッチングに
  直接関係することはないはず──
浅葱寧々「(こんな簡単に決めちゃって、私も麻痺してるのかな・・・)」

〇ホテルのレストラン
浅葱寧々「・・・・・・」
  参加費4,444円が嘘のような、高級ホテルのレストラン──
  男性側の参加費は書いていなかったけれど、明らかに場違いな気がする・・・
女A「あら、あなた初めて?」
女B「ほんと。あんまり見かけないわね?」
浅葱寧々「あ、ええっと・・・」
浅葱寧々「と、友達に紹介されて──」
女A「あら、どなたかしら? 私たちも知っているかもしれませんわ」
女B「そうね、どなた?」
浅葱寧々「あ──桜庭、静香です」
女A「ああ、あの子! 知ってますわよ」
女B「ええ、ええ。 でも、あなた、彼女と友達なのに『こちら側』なのね?」
浅葱寧々「(『こちら側』──?)」
浅葱寧々「どういう意味でしょう?」
女A「あら、知らないで来たの? 友達なのに──?」
浅葱寧々「(う、痛いところを突いてくる──)」
女B「お友達っていうから、てっきり同類──ああ、いえ、失礼」
浅葱寧々「(今、『同類』って言った──?)」
浅葱寧々「(また私の知らない世界が、ここには広がっている──らしい)」
浅葱寧々「・・・・・・」
真田明人「こんにちは。また会ったね」
浅葱寧々「えっ!?」
真田明人「しっ──。 大きな声出すと『マダム』たちに聞こえる」
浅葱寧々「・・・あ、ごめんなさい」
真田明人「いや、急に声かけたこっちも悪かったから」
マダム「さて、お集まりの皆さん── ようこそお越しくださいました」
マダム「今日は初めてご参加の方もいらっしゃるの。 素敵な時間にしましょうね」
浅葱寧々「(あの人が噂の『マダム』か──)」
  確かに上品で穏やかで、トラブルを抱えている人たちもたちまち戦意喪失してしまいそうな雰囲気だけど──
  そもそも私は
  ここでの不要なトラブルを避けたいし、
  どうやって自然に『マダム』に近づけばいいだろう・・・
  それにむしろ、この世界では
  男性以上に女性陣との関係のほうが
  よっぽどシビアそうだし──
  女性陣の会話や行動には逐一、
  気を配るべきかもしれない
真田明人「ところで、君・・・」
浅葱寧々「・・・・・・?」
真田明人「──お金に興味ある?」

次のエピソード:マッチングアプリの『金』

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