ハニーブレッド

入江恵衣

8話. 苦蜜(脚本)

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〇オフィスの廊下
  カツカツカツ───
  コソコソコソ──
総務1「夕日先輩がまさか妊娠してたなんて・・・」
総務2「救急車呼ぶなんて、絶対ただ事じゃないよね・・・」
総務2「それにさ・・・」
総務1「うん・・・。 鏑木さん、様子がおかしかったよね・・・」
総務2「女子トイレから怒鳴り声が聞こえてきたって言うし」
「あの2人、揉めてたのかな・・・」
  コソコソコソ──
藤森流伽「・・・」
  カツカツカツ───

〇ビジネス街

〇応接スペース
沢田亨「──とうことで、御社の新規事業を余すことなくアピールできる販促企画となっております」
取引先A「うん。いいね」
取引先A「さすが金原くんの後輩だね。 サービスの強みが全面に押し出されている素晴らしい企画書だよ」
沢田亨「ありがとうございます!!」
沢田亨「それで、次はデザイン案なのですが・・・」
沢田亨「つ、鏑木さん?」
沢田亨「鏑木さん!」
鏑木芹那(つみきせりな)「は、はい!」
沢田亨「鏑木さん!過去のデザインブックを・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「あっ! こ、こちらです!」
鏑木芹那(つみきせりな)「弊社が過去に作成したデザインですが、御社のカラーに合わせたものをいくつかお持ちしました」
取引先A「おっ!ありがとう」
  パラパラパラ・・・
取引先A「なるほどね」
取引先A「あの戸塚広告賞を受賞しただけのことはあって、どれも素晴らしいよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「なんで、戸塚広告賞のこと・・・」
取引先A「ん? だって有名な賞じゃないか。 うちの社内で鏑木さんを知らない人はいないよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「あ、ありがとうございます・・・」
取引先A「でもね、鏑木さんことは戸塚を受賞する前から噂で聞いていたんだよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「う、うわさ!?」
取引先A「いや、悪い噂じゃないんだよ。いい噂」
取引先A「おたくの金原くんがね、 うちのデザイナーは凄いんだって いつも自慢していたんだ」
鏑木芹那(つみきせりな)「え・・・ 金原さんが・・・」
取引先A「うちの鏑木のデザインは、見る人の心を優しくさせる不思議な力があるんです!っていつも言ってたよ」
沢田亨「ははっ!金原さんはデザイナー鏑木の一番のファンですから!」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
取引先A「新規事業であるこのサービスは、ギスギスした現代社会を緩和するために生まれたマッチングサービスだ」
取引先A「鏑木さんのデザインは、このサービスにぴったりだよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「ありがとうございます・・・」

〇車内
沢田亨「やりましたねー! 俺らのタッグで新規契約とれたの 初めてじゃないっすか!」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん・・・。 そうだね・・・」
沢田亨「・・・」
沢田亨「えっと・・・」
沢田亨「鏑木さん、大丈夫っすか??」
鏑木芹那(つみきせりな)「あ、ごめん!」
鏑木芹那(つみきせりな)「ちょっと考え事しちゃってた!」
沢田亨「いやいや、無理しなくても大丈夫っす。 夕日さんが倒れた現場にいたんだし 気になるのは当然っす」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん・・・」
沢田亨「あ・・・」
沢田亨「夕日さんが運ばれた病院に 寄りましょうか?」
鏑木芹那(つみきせりな)「え!!」
鏑木芹那(つみきせりな)「いいよ!いいよ! 寄らなくて大丈夫だよ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「ほら、仕事も溜まってるしさ。今行っても迷惑になるだけだから。 ねっ」
沢田亨「まあ確かに・・・ 今は様子見の方がいいかもしれないっすね・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん。だからさ、 私たちは早く会社戻ろう!」
沢田亨「そっすね! 早く部長に褒められたいっす!」
鏑木芹那(つみきせりな)「あははっ! ほんとだね!」

〇オフィスのフロア
  カチャカチャカチャカチャ・・・
「鏑木!」
花園チカ「少し話があるんだけど、 ちょっとだけいい?」
鏑木芹那(つみきせりな)「は、はい・・・」

〇綺麗な会議室
花園チカ「ごめんねー。忙しい時に」
鏑木芹那(つみきせりな)「いえ、大丈夫です」
花園チカ「そういえば、沢田と契約取ったんだって?」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい。ユニバーシティホールディングスさんの新規事業に関するデザインを任せてもらえることになりました」
花園チカ「ユニバーシティホールディングスは事業展開が目覚ましいからね」
花園チカ「ここで上手く乗れると他の事業のデザインも任せてもらえるかもよ。 鏑木、頑張ってね!」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい!ありがとうございます!」
鏑木芹那(つみきせりな)「それで、あの・・・ 話って・・・」
花園チカ「ああ、うん・・・」
花園チカ「夕日さんのことなんだけどね」
花園チカ「鏑木はさ、彼女が妊娠してたこと、 知ってたの?」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「金原さんから聞いて、 知っていました・・・」
花園チカ「そっか。知ってたのかぁ」
「・・・」
花園チカ「あのね、夕日さんが倒れた時」
花園チカ「女子トイレから、鏑木の怒鳴り声を聞いたって子が数人いてね」
花園チカ「2人の間になにかあったんじゃないかって 社内で噂になってるのよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
花園チカ「夕日さん、少し出血があったらしくてね。 当分入院するそうよ」
花園チカ「それでね・・・」
花園チカ「鏑木には申し訳ないんだけど」
花園チカ「噂が少し落ち着くまで、出社せずに自宅からリモートで仕事をしてほしいんだ・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「えっ! リモートで?」
花園チカ「うん・・・」
花園チカ「会社には金原もいるしさ。 彼らの心情を考えたら・・・、ね。 分かるでしょ」
鏑木芹那(つみきせりな)「そんな!私は何もしてないのに!」
花園チカ「鏑木。落ち着いて」
鏑木芹那(つみきせりな)「あの時だって、 夕日さんが突然私の腕を・・・!」
鏑木芹那(つみきせりな)「私はなにもやってない!!」
花園チカ「鏑木、ちょっと落ち着い──」
鏑木芹那(つみきせりな)「なんで私ばっかり・・・!」
鏑木芹那(つみきせりな)「悪いのは・・・、 悪いのは全部あいつじゃない・・・!」
花園チカ「鏑木!」
花園チカ「落ち着きなさい! ここは会社よ」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・はい」
花園チカ「ふーっ・・・」
花園チカ「自宅にパソコンはあるでしょう? 制作環境は整ってる?」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい。一応・・・」
花園チカ「じゃあ、必要な書類とかまとめて。 とりあえず明日から一週間、 自宅からお願いね」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい・・・」

〇オフィスのフロア
鏑木芹那(つみきせりな)(案件の資料や各種データ、自宅のパソコンに送らないと・・・)
  カチャカチャカチャカチャ・・・
  鏑木、明日からリモートで
  仕事することになったらしいぞ
  夕日さんが倒れた原因って
  やっぱり鏑木なのかな
  コソコソコソ──
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」

〇大企業のオフィスビル
鏑木芹那(つみきせりな)「まさか、一週間もリモート作業になるなんて・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」

〇総合病院
鏑木芹那(つみきせりな)「ここに・・・ 夕日さんが運ばれたのね・・・」

〇大きい病院の廊下
  カツカツカツ──

〇病室
  ガラッ!
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「みーつけた」

次のエピソード:9話. 追憶

コメント

  • 芹那さん、メンタルバランスが完全に崩れちゃってますね。クールダウンが必要な状況なのですが、、、
    ラストのヒキ、怖すぎます……

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