流しのMCフジモト

今井雅子(脚本家)

エピソード1 両手にキャバ嬢の巻(脚本)

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〇ホールの舞台袖
MCフジモト「俺は流しのMCフジモト」
MCフジモト「MCとはMaster of Ceremony(マスターオブセレモニー)」
MCフジモト「つまり司会者」

〇神殿の門
MCフジモト「今日の現場はキャバクラ。新年会の司会を頼まれた」
MCフジモト「店の名前は、勇ましい猫と書いて、」
  勇猫(ユーニャン)
MCフジモト「しびれるネーミングだ」

〇ホストクラブ
「おはようございます!」
MCフジモト「重厚なドアを開けると、黒服たちが俺を出迎える」
MCフジモト「しまった! 黒のスーツを着てきてしまった!」
MCフジモト「これではMCが黒服に紛れてしまう」
MCフジモト「そこに近づく、えらそうな靴音」
「おはようございます支配人」
MCフジモト「支配人さんだ」
MCフジモト「おはようございます。本日はお声がけいただき・・・」
支配人「ちょっと新入り、バックヤード手伝って」
MCフジモト(え? 黒服と間違えられてる?)
MCフジモト「違います! わたくし、本日の新年会のMCの・・・」
支配人「エムシーって何?」
MCフジモト「マスターオブセレモニー。つまり、司会です」
支配人「あんた司会?」
MCフジモト「はい! フジモトです!」
支配人「プロフィール写真と顔違うよ」
MCフジモト「あ・・・あれはちょっと古い写真でして」
支配人「本当に司会?」
MCフジモト「はい」
MCフジモト「(MC口調で)本日は、キャバクラ勇猫の新年会にようこそおいでくださいました。皆様、盛り上がって参りましょう!」
支配人「確かに、サンプルで聴いた声によく似ている」
MCフジモト「はい! 本人です!」
支配人「だが微妙に違う」
MCフジモト「は?」
支配人「あんた、ものまね芸人だな」
MCフジモト「違います!」
支配人「何かものまねやってみろ」
MCフジモト「え?」
支配人「猫の鳴き真似はできるか?」
MCフジモト「猫、ですか」
支配人「できないの? あんたプロなんだろ?」
MCフジモト「できます! やります!」
MCフジモト((猫の鳴き真似))
支配人「ふむ。さかりのついた猫は?」
MCフジモト「さかりのついた猫、ですか」
MCフジモト((さかりのついた猫の鳴き真似))
支配人「ふむ。プロの意地、見せて来たな。では、お腹の空いたユーニャン」
MCフジモト「ユーニャン?」
支配人「うちの猫だ」
MCフジモト「飼い猫の名前だったのか。ユーニャンって、どんな猫だよ・・・」
支配人「できないのか? プロの限界か?」
MCフジモト「できます! やります!」
MCフジモト((迷いながらの鳴き真似))
支配人「その悩ましい鳴き声。そっくりだ!」
MCフジモト「そっくり、ですか」
支配人「まるで生き写しだ・・・」
支配人「見せてくれたな。プロのものまね芸人の意地」
MCフジモト「ありがとうござい・・・」
MCフジモト「違います! わたくし、ものまねが得意なMCでして」
支配人「だから、ものまね芸人でしょ? MCのMは、ものまねのMじゃないの?」
MCフジモト「違います!」
アケミ「支配人、この方、本物の司会者さんだと思います」
支配人「アケミ、そうなのか?」
アケミ「私、ラジオでこの人の声、聴いたことあります」
支配人「さすが一度聞いた客の声は忘れない耳接待の女王。アケミが言うなら間違いないな」
MCフジモト「わかっていただけて良かったです」
支配人「このところ芸人の売り込みが多くてね。疑って悪かった。ハジモトさん」
MCフジモト「フジモトです」
支配人「その衣装じゃあ華がないな。アケミ、ハジモトさんに衣装見立ててあげて」
アケミ「ハジモト様、こちらへ」
MCフジモト「フジモトです。失礼いたします」

〇洋館の廊下
MCフジモト「アケミさん、でしたっけ。助かりました。私のラジオ、聞いてくださっていたんですね」
アケミ「聞いてませんよ」
MCフジモト「え?」
アケミ「こちら、衣装部屋です」

〇城の客室
アケミ「貸しができちゃいましたね、フジモトさん」
MCフジモト「アケミさん、顔、近いです」
アケミ「綺麗な形の耳たぶ」
MCフジモト「はい?」
アケミ「噛んでいい?」
MCフジモト「あ・・・はい♡」

〇華やかな広場

〇城の客室
MCフジモト「あ、いや、ダメです」
アケミ「うちの年間MVP、司会が選ぶのよね」
MCフジモト「はぁ」
アケミ「今年は私とユリって子の一騎打ちになりそうなんだけど、私に勝たせて」
MCフジモト「はい?」
アケミ「あの子にだけは勝たせたくないの」
MCフジモト「そういう取引は・・・・・・」
アケミ「誰も見てない。誰も知らない」

〇華やかな広場

〇城の客室
MCフジモト「でも、ダメです・・・・・・」
MCフジモト「うわっ。耳たぶ、なめないでください!」
アケミ「噛むほうが好き?」
MCフジモト「どちらかといえば・・・・・・」

〇華やかな広場

〇城の客室
MCフジモト「・・・じゃなくて!」
アケミ「ねぇフジモトさん。私、こんなにドキドキしてる」
MCフジモト「アケミさん、ちょ、ちょ、手、離してください!」
ユリ「アケミ、何やってんの?」
アケミ「ユリ!」
MCフジモト「ユリコ!」
ユリ「あんた何やってんのこんなとこで!」
MCフジモト「ユリコこそキャバクラで何やってんだ!?」
ユリ「何って、見ての通り仕事だけど」
MCフジモト「俺も、見ての通り仕事だよ」
ユリ「新入りの黒服って、あんたのこと?」
MCフジモト「違うよMCだよ。新年会の」
ユリ「黒服にしか見えない」
MCフジモト「だから衣装を借りようと思って・・・」
アケミ「ちょっと待って。ユリと司会者さん、知り合い?」
ユリ「・・・・・・ダンナ」
アケミ「ダンナ?」
MCフジモト「別居中、ですが」
アケミ「一応ダンナってわけ?」
ユリ「人の一応ダンナと、何してたの?」
MCフジモト「ないないない、何もない!」
ユリ「MVPを獲らせて欲しいって、そそのかしてたんでしょ。色仕掛けで」
アケミ「そんなことするわけ・・・・・・」
ユリ「この人の鼻の下が、こーんなに伸びてる」
MCフジモト「伸びてない伸びてない」
ユリ「伸びてるのは鼻の下だけ?」
MCフジモト「ユリコ、そんなことより・・・」
ユリ「アケミより私を選んでよ」

〇城の客室
アケミ「あんたにだけは勝たせたくない」
ユリ「そのセリフ、シャンパンタワーつけてお返しするわ」

〇城の客室
アケミ「もう冷めきってるんでしょ?」
ユリ「私が勝ったら、賞金の100万円、山分けしてあげる」
MCフジモト「いいの?」
ユリ「一応、まだ夫婦だから」
MCフジモト「賞金100万を山分けして50万・・・・・・」

〇城の客室

〇城の客室
アケミ「ちょっと、何グラっと傾いてんのよ?」
MCフジモト「え、だって、50万・・・」
アケミ「耳たぶなめてあげたのに」
ユリ「そんなことしてたの?」
MCフジモト「・・・」
アケミ「じゃあ私も山分けで」
MCフジモト「どっちが勝っても50万・・・」
ユリ「私が勝ったら、もう10万のせる!」
MCフジモト「ユリが勝ったら60万・・・」
アケミ「フジモトさん、今日の司会のギャラ、聞いてます?」
MCフジモト「いえ、聞いてませんけど」
アケミ「50万」
MCフジモト「50万!」
アケミ「私を勝たせてくれたら、50万と50万で100万」
MCフジモト「100万!」

〇城の客室

〇城の客室
アケミ「耳たぶも噛んであげる」
MCフジモト「耳たぶ・・・♡」
アケミ「でも、ユリを勝たせるなら、支配人に言いつける。この人、ユリのダンナだって」
「!!」
アケミ「ダンナだから妻を勝たせたんだって」

〇城の客室
ユリ「姑息」
アケミ「どっちが?」

〇城の客室
MCフジモト「ユリ、ここはアケミさんに勝っていただこう」
ユリ「アケミに勝たせるのだけはイヤ!」
MCフジモト「でも、50万と50万で合わせて100万・・・」
ユリ「100万と私のプライドとどっちが大事?」
アケミ「フジモトさん、み・み・た・ぶ♡」
MCフジモト「耳たぶ・・・♡」

〇洋館の廊下
支配人「アケミ、いつまで衣装探してるの?」

〇城の客室
支配人「お客さん来ちゃうよ。お出迎えしないと」
アケミ「支配人来ちゃった」
支配人「ちょっと、ユリまで衣装部屋で油売ってちゃダメじゃない」
アケミ「支配人、この司会者さん、実は・・・」
ユリ「アケミ、言わないで!」
MCフジモト「お願いします!」
支配人「ん?」
アケミ「ものまね芸人です」
「え?」
支配人「あれ? さっき、この人の声、ラジオで聞いたって」
アケミ「あれ勘違いでした。この人のものまね芸、テレビで見たんです」
支配人「そうなの?」
アケミ「猫がカリカリ食べ過ぎて吐きそう」
MCフジモト((ものまねする))
アケミ「『先生』としゃべるヤギ」
MCフジモト((ものまねする)先生)
アケミ「巨大ロボットが近づいて来る」
MCフジモト((ものまねする))

〇渋谷駅前

〇城の客室
支配人「ほう」
ユリ「あんた、何腕上げてんのよ?」
MCフジモト「ユリが出て行って、淋しかったから」
ユリ「淋しかった?」

〇アパートのダイニング
MCフジモト「家の中が」
MCフジモト「としてたから、いろんな鳴き声や音を出して、にぎやかにしてた」

〇城の客室
ユリ「やだ。キュンキュンさせないでよ」
MCフジモト「キュンキュン、した?」
ユリ「私、バカだった。ユキちゃん仕事なくて、生活きつくて、」

〇アパートのダイニング
ユリ「このままじゃどこにも行けないと思ってた」

〇城の客室
ユリ「お金があれば自由になれると思って、キャバ嬢になったけど、」
ユリ「ユキちゃんのその声があれば、どこだって行けるじゃない」
MCフジモト「そうだよ。この声があれば」

〇密林の中
MCフジモト「ジャングルだって」

〇雪山
MCフジモト「雪山だって」

〇地球
MCフジモト「宇宙だって」

〇城の客室
MCフジモト「どこにだってユリコを連れて行ける」
ユリ「ユキちゃん・・・」
MCフジモト「ユリコ・・・」
支配人「アケミ、この二人、どうなってるの?」
アケミ「お似合いですよねー」
ユリ「ユキちゃん、行こ」
MCフジモト「え? でも・・・」
ユリ「新年会なんか」
MCフジモト「いいのか? MVP獲れたら100万。俺のギャラと合わせて150万」
ユリ「その七色の声でいくらでも稼げばいいじゃない」
MCフジモト「そうだよな! あ、でも、耳たぶ・・・・・・」
ユリ「私が噛んであげる」
MCフジモト「うん♡」

〇神殿の門
MCフジモト「こうして俺とユリコは手を取り合ってキャバクラ勇猫(ユーニャン)から立ち去った」

〇アパートのダイニング
MCフジモト「あれからひと月」

〇アパートのダイニング
MCフジモト「仕事は、まだない」

〇アパートのダイニング
  あ、電気・・・

次のエピソード:エピソード2 脚本家をヨイショするの巻

コメント

  • 第一弾❣️楽しく読ませていただきました〜
    絵があると立体感があって面白いですね。
    またMCフジモトさんご本人にも読んでいただきたいですね。
    シリーズが増えて行くのを楽しみにしてます😊

  • 半分実話で半分架空話し笑
    ここまで話を膨らませられる今井さんが凄すぎて脱帽です。とにかく滑稽なストーリー。モノマネの声を入れたくなりますが、絵があるのでイメージが湧いて楽しかったです。フジモトの今後の行方はどうなるのか?!頑張れ!フジモト!!

  • clubhouseで聴いた皆さんの声、藤本さんのモノマネが浮かんできて、大爆笑でした😆
    BGMで戦いの臨場感が出ていてワクワク感満載!
    声で想像するのと、絵で想像するのとで、見方が変わる。
    これは、両方で楽しみたい作品ですよね!
    あー、お腹痛かった🤣

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