仇よ花の錆となれ

咲良綾

第五話、再生と始動(脚本)

仇よ花の錆となれ

咲良綾

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〇けもの道
一兎「その調子です。しっかり振り抜けています。 音に鋭さが出てきた」
  当面の課題は、戦闘能力の強化。
  武家の男が戦えなければ話にならない。
  一兎の指南で毎日ひたすら基礎鍛練し、
  どうにか刀が振れるようにはなった。
椎名康胤「まだまだ、使い物になるには 時間がかかりそうだな」
一兎「しかし、成長は目覚ましいですよ」
一兎「そろそろ、俺は見張りの交代時刻です。 康胤様、戻りましょう」
椎名康胤「私はもう少し振ってから戻る」
一兎「いえ。お一人にする訳には参りません」
椎名康胤「一兎は過保護だな」
松葉「おーい、一兎!交代の時間だぞ」
一兎「ああ、今行くところだ」
松葉「若君はあたしが連れて戻るから、 さっさと行きな」
一兎「・・・わかった、頼む。 では」
椎名康胤「・・・」
椎名康胤「松葉さんは、なぜ男のようななりを?」
松葉「あー、まあ、 そもそもこういう方が性に合っててね」
松葉「母親はくノ一(女忍者)だったし、 女は戦わないって空気もなかったわけよ」
松葉「男に消費されるだけの女になりたくない。 あたしは戦力になりたいんだ」
松葉「若君は? どうして男のなりを?」
椎名康胤「!」
松葉「そんな怖い顔するなって、他言する気はないよ」
松葉「男どもは大雑把だから気づいてない。 どえらい美少年とは思われてるけどね」
椎名康胤「・・・」
松葉「女はね、どうしたって力で劣る。 男とは筋肉のつき方も可動域も違う」
松葉「でも対等に渡り合えないということはない。 女には女の戦い方がある」
椎名康胤「!」
松葉「あたしなら効率的な戦い方を仕込んでやれる」
松葉「どう?仲良くしようよ」
椎名康胤「・・・・・・」
  戦い方だけではない。
  今、私が幼子だった桜丸を名乗って表に出ても無理がある。数年間の潜伏が必要だ。
  その間、事情を知る女がいれば心強いが・・・要は、松葉が信頼できるかどうか。
椎名康胤「見返りに、何が欲しい」
松葉「あたしは女のまま、戦の世で名を成す道を志したい。一緒に戦わせて欲しい」
松葉「家督を取り戻した暁には、家臣にしてくれ」
  野心か。
  きれいごとよりよほど信用できる。
椎名康胤「戦い方を教わりたい。よろしく頼む」
松葉「はは、交渉成立だな!」

〇風流な庭園
鮎川清長「なあ、瑞緒どの。 椎名慶胤というのは、どんな男だった?」
瑞緒「そうですね。穏やかで凛々しく芯の強いお方でした。子煩悩で、家族には温かい」
瑞緒「でも頑固でしたね。 簡単には考えを曲げようとしない方」
鮎川清長「なるほどな。 康胤は父親に似ているようだな」
瑞緒「ふふ、そうですね」
鮎川清長「康胤以外、子供は残ってないんだろう。 何人いたんだ」
瑞緒「4人です。 おのこが3人、おなごが1人」
鮎川清長「そうか。 儂も4人だ。松葉だけが残った」
鮎川清長「妻の楓は4人目を産むときに死んだ。 丈夫な女だったんだがなぁ」
瑞緒「・・・そうでしたか」
鮎川清長「運命を呪ったよ。 でも後から思った。あんなの運命じゃねぇ」
鮎川清長「死んだのは、ただの不幸だ。 意味などあってたまるか」
鮎川清長「だが、残った命にはきっと意味がある」
鮎川清長「死ねば楽かもしれねぇと思うことはあるが、 生きてれば何かある」
瑞緒「そうですね」
鮎川清長「儂との出会い、運命だと思わぬか」
瑞緒「良きご縁ですね。 康胤も感謝しております」
鮎川清長「くーっ、その余裕!大人の対応! いいねいいねぇ!」
鮎川清長「ありがてぇから拝んどこう・・・」
瑞緒「どうしてそうなるのです。 面白い御方」

〇屋敷の大広間
長尾為景「何・・・慶胤の墓が?」
椎名長常「はい。縁の寺に突如建てられ。 為景様にお心当たりはございませぬか」
長尾為景「いや、儂は知らぬ」
椎名長常「寺によれば、『椎名康胤』の手配だと」
長尾為景「康胤・・・」
椎名長常「無関係の者が椎名を騙って財を投じ、慶胤の墓を建てる利点など思い当たりません」
椎名長常「思うに、逃げ仰せた桜丸ではないかと」
長尾為景「・・・やはり、生きておるか。 元服するにはまだ幼かったようだが」
椎名長常「このような状況で元服を早めたことは充分考えられます」
椎名長常「放っておけば火種となるのは必定。 どういたしますか」
長尾為景「火種は出てきたときに潰せば良い。 儂もそこまで暇ではない」
長尾為景「それより一向一揆の鎮圧はどうなっておるのだ」
長尾為景「このままでは管領様の力を借りるしかないではないか」
椎名長常「・・・は。 その件では追加の援軍をいただきたく」
長尾為景「ふん。我が国も阿賀北衆に手こずっておるが、越中も難儀な国よの」

〇黒
  そして、七年の月日が流れる──

〇屋敷の一室
佐澄「墓の建立以降、未だ朱姫様の手がかりはございませんの?」
長尾晴景「・・・ああ。 手は尽くしているのだが」
長尾晴景「縁者を調べるには椎名長常の協力が必要だが、長常もそれどころではないらしい」
長尾晴景「一向一揆の頻発に加え、かつて椎名と共に滅びた神保も勢力を取り戻しつつある」
佐澄「為景様も、越中は面倒だと投げ出し気味のようですね」
佐澄「しかし、これだけ時が経っては、 朱姫様のお心も移ろっているやも・・・」
長尾晴景「朱の心は朱にしかわからぬ。 余計な推測はやめなさい」
佐澄「申し訳ございません」
長尾晴景「儂の心に変わりはないのだ。 朱もそうだと信じて、取り戻すだけだ」
佐澄「なんと頼もしい」
美織「佐澄様、晴景様!失礼します」
佐澄「美織?」
美織「上条定憲様が、 長尾に向けて蜂起いたしました!」

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コメント

  • 晴景は…男子は七年ずっと好きだったりするんですよね。好きな子は一発でわかりますよ。朱は(立ち絵、気付かなかった)次の男性が居なければ晴景をまだ心に想っているはずですが、さて次回落ち着いていられるのか。そして桜丸の仇も目の前に。
    どうか落ち着いてやり過ごしてくれと祈ってます。

  • 7年も一途に朱を思っていた晴景😭

  • 松葉と朱(康胤)の話がなかなかグッときました!二人の野心に燃える気持ちと受け取る気持ち……女だからといって、甘んじていない感じがかっこよかったです!
    そして再会、すぐに朱と気付く晴景がステキでした。が、朱はあくまで康胤と名乗り……
    どうなってしまうのか、ゆっくりになってしまいますが続きも楽しませていただきます😆👍

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