仇よ花の錆となれ

咲良綾

第四話、新たな名前(脚本)

仇よ花の錆となれ

咲良綾

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〇山中の川
  桜丸の遺体は、山の奥で荼毘に付した。

〇山中の川
  髪と遺骨を御守袋に入れ、
  母と1つずつ持つ。

〇山中の川
  残りは川に流した。
  可愛らしい私の弟。
  もう会うことは叶わないけれど、
  貴方の命は繋げてみせる。
「・・・・・・・・・・・・」
朱「一兎。母上。 涙を流すのはこれで終わりにしましょう」
朱「桜丸は生き返ります」
瑞緒「どういうことですか?」
朱「椎名慶胤の血はまだ滅びていません。 私にも父の血は流れています」
朱「今日から、私が桜丸です」
朱「桜丸はあの襲撃を逃げて生き延びたのです」
瑞緒「朱・・・!」
朱「朱は死にました。 そして、桜丸は元服します」
椎名康胤「我が名は桜丸改め、 椎名康胤(しいなやすたね)とします」
椎名康胤「すこやかなあの子にぴったりでしょう」
一兎「姫様・・・!」
椎名康胤「姫ではありません。 今後は、康胤と呼んでください」
一兎「康胤・・・様」
椎名康胤「一兎、協力してくれますね。私は女であることを捨てても、女の体は捨てられません」
椎名康胤「影武者が必要な場面もあると思います。昔から私たちの側にいた貴方ならできるはず」
一兎「はい」
椎名康胤「母上には不便な生活を強いると思いますが、ついてきてください」
椎名康胤「必ず、椎名家の再興を見届けていただきます。私の心の支えとなってください」
瑞緒「貴方がそう決めたのならば、 私も覚悟を決めましょう」
椎名康胤「まずは拠点を定める必要があります。 一兎、良い場所はありますか」
一兎「越後の北側に、阿賀北と呼ばれる 地域があります」
一兎「越後領ですが長年為景に反発し、反骨心の強い武者が軒を連ねている」
一兎「そこに心当たりがあります」
椎名康胤「では、行きましょう。阿賀北へ」

〇屋敷の大広間
長尾晴景「父上! 朱が逃げたとは、どういうことですか」
長尾為景「はっ!恐ろしい女よの」
長尾為景「催促があったので母と弟を上杉に送ってやればあの娘、」
長尾為景「佐澄姫の従者をたぶらかして後を追い 椎名の残党と共に襲撃しおった」
長尾為景「儂の兵も佐澄姫の従者も皆殺しよ」
長尾晴景「残党・・・」
長尾為景「心当たりがあるか?」
長尾為景「儂が長常に送った使者も、椎名の残党とおぼしき草の者に襲われた」
長尾晴景「・・・・・・」
長尾為景「仇の慰みものとして生きるのに 耐えられなかったのであろうな」
長尾為景「やはり、恩を売ろうと恨みは消えぬ。 敵の敗将は族滅に限るぞ」
長尾晴景「・・・失礼します」

〇屋敷の寝室
  そこまで苦痛だったか・・・
  いや、当然か。
  身内を人質に卑怯な真似をする男に抱かれ、どれほど屈辱だっただろう。
  儂もどうかしていた。
  女に狂うなど、愚行と侮っていたのに。
  たとえ憎まれても、どうあっても
  生かしたかった。側に置きたかった。
  考えまいと思っていたが・・・
  朱は、あの忍の男と
  心を通わせていたのではないか。
  駄目だ、やはり考えてはならない。
  焼けるように心が乱れ、気が狂いそうだ。
美織「晴景様、佐澄様がこちらへ お渡りでございます」
長尾晴景「佐澄が?」
佐澄「失礼するわ」
佐澄「思った通り、しょぼくれてらっしゃるわね」
佐澄「みっともないからおよしなさい」
長尾晴景「・・・・・・」
佐澄「貴方、朱姫が絡むと本当にうつけね。 為景様の言葉を鵜呑みにしているの?」
佐澄「晴景様。これを見てください。 翠緑院の文です」
長尾晴景「・・・これは」
佐澄「父上は為景様と口裏を合わせるでしょうが、上杉からの催促はなかったと思います」
佐澄「私はこれを見て、弟君を害する企みが あるのではと懸念を抱きました」
佐澄「為景様には朱姫が従者を連れ出したと 申し上げましたが、」
佐澄「従者を貸し与え 後を追わせたのは私です」
佐澄「朱姫様は逃げようと画策なさったのではありません」
佐澄「先に牙を剥いたのは為景様です」
長尾晴景「・・・!」
長尾晴景「確かに儂は、うつけであった。 相手はあの父上だというのに」
佐澄「加えてこちら、ご覧くださいませ。 私が朱姫とやり取りした文です」
佐澄「『晴景様が雀を手懐けようと下手な鳴き真似をして逃げられてしまったのを見て笑った』とか」
佐澄「『晴景様がうなされて寝汗をかいて心配したが月の光で汗が宝玉のようで、不謹慎にも見とれてしまった』とか」
佐澄「『晴景様は普段腹の見えぬ顔をされているのに食べ物の好き嫌いはすぐ顔に出て面白い』という文に至っては似顔絵まで」
佐澄「おわかりでしょう?この文の内容・・・」
佐澄「ほ ぼ 惚 気 !!」
佐澄「まあ私があれやこれやと 聞き出したのですけれど」
佐澄「憎らしく思う相手にこんなこと、 媚びようと思っても出てきませんわね」
長尾晴景「・・・!」
佐澄「私が男を愛せないことは、 もう気づいてらっしゃいますね?」
佐澄「正室として貴方を愛することができず、 人の喜びを与えることができなくて、」
佐澄「ずっと辛かったのです」
佐澄「あの方を愛するさまを見て私は救われました。そして私は気づいたのです」
佐澄「他者のものであれば 男女の恋にもときめくことができる!」
長尾晴景「え?」
佐澄「思わぬ発見でしたわ!」
佐澄「晴景様、さっさと朱姫を探し出して、 私に新たな供給をくださいまし!」
長尾晴景「佐澄・・・お前」
長尾晴景「くっ、そのように愉快なおなごだったとは」
佐澄「まあ!愉快とはなんです。 雅で聡明とおっしゃって!」
佐澄「私はどこまでも味方になりますから、 どうぞ諦めないで」
長尾晴景「儂は父上の傀儡として生きてきた」
長尾晴景「あのように心を奪われ何かを欲したのは 初めてだったのだ」
長尾晴景「諦めようにも諦められぬ」
佐澄「その意気ですわ! どうぞお励みくださいませ」
長尾晴景「ありがとう。佐澄」
佐澄「私も、私を曲げないままで 夫に寄り添うことができて幸せです」

〇けもの道
椎名康胤「ここが、阿賀北・・・」
瑞緒「さっきまで平地だったのが、 急に険しくなりましたね」
一兎「この山城が大葉澤城です」
一兎「城主の鮎川清長の亡くなった妻は 俺の父方の叔母です」
一兎「数年前鮎川が為景に反乱を起こした際、 父も加勢しました」
???「お前たち、何者だ」
  女?

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コメント

  • 一つ潰れているのか…痛かっただろうなぁ。
    まあそれはさておき。

    登場人物が多い割に読者に理解を促す流れづくりがとても上手なので話がすっと入ってきますね。
    そしてなるほど。好きな展開のツボが同じというのが少しだけわかりました。お互い好意を持っているのに敵味方の運命が二人を分かれさせてしまうというのはなんとも切ないですね。
    よいですな。これはよい…。

  • 物語の緩急の付け方がさすがですね😳
    怒涛の展開から、一瞬ふと緩んでしまった自分に驚いていました💦
    晴景のキャラクター背景にもしっかり焦点を当てているので、登場人物それぞれが魅力的で目が離せません!✨

  • ご正室の推しカプを愛する心、最高です👍

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