32醒:『止める』ことなんてできない。私たちにできることは『受け止める』ことだけ(脚本)
〇雲の上
30分が経過し、私は中国領空内に入った。
しかし、声はまだ遠い。
手動操縦に切り替え、さらに先へ飛ぶ。
レドは泣き止んだだろうか...
〇空
地上はとても暗かった。
あの場所が、いかに温かだったか。
いかに希少だったか。
人間は灯だ。
地上に人間がほとんどいないから、
空の方が明るい。
星を眺めて涙をきらきらさせる。
流れ星だけ泣けば十分だ。
〇空
ネフを追って、私は飛び続けた。
涙が流星群のように溢れる。
やっぱりネフは、私を置いていこうとした。
なんで?
どうして?
置いていかれることが悲しいんじゃない。
置いていかれるような自分であることが、
とても悔しい。
あとどれだけ、賢くなればいいだろうか。
あとどれだけ、頼りになればいいだろうか。
あとどれだけ、強くなればいいだろうか。
あとどれだけ...
あと、どれだけ...
星の数だけ自分を嫌いになって、
押し寄せてくる微睡に私は身をまかせた。
〇黒
〇霧の立ち込める森
ネフテ「ん...」
ネフテ「...」
ネフテ「まさか降り立った場所が森とはね...」
ネフテ「呼ばれている場所が近いから、手動モードに切り替えて走行しようと思ったけど...」
ネフテ「昨日は、暗くて何も見えないから、ここで夜を過ごした。」
ネフテ「それなのに、朝になっても霧が深くて視界が悪いとか冗談じゃないわ。」
ネフテ「なんて場所に住んでんのよ、まったく。」
ネフテ「こうなったらオートで行くしかないわ、運転苦手だし。」
ネフテ「任せたわよ、エッグ。 ここから真っ直ぐに進んでちょうだい。」
ネフテ「進路はその都度指示する。 まったく面倒だけどね。」
かしこまりました。
直進で走行いたします。
〇黒
〇霧の立ち込める森
ガタガタ、ガタガタ...。
レドイ「う、うーん...」
レドイ「ネフは!?」
ただいま、自動追尾モードで運転中です。
今朝は、イギリス領土内で夜を明かし、現在は前方のエッグを追尾しております。
レドイ「まだ、着いていないんだ。」
レドイ「呼ばれている、って言ってた所。」
レドイ「エッグ、このまま追尾モードを続けて。」
かしこまりました。
〇黒
〇森の中の小屋
ネフテ「ふぅ。やっと着いたわ。」
ネフテ「こんな辺鄙な所に連れてきて、ソイツに会ったら、まずは文句を言わせてもらわないとね。」
ネフテ「...」
ネフテ「それにしても薄気味悪い所...」
ネフテ「レドを連れてこなくて正解ね。」
ネフテ「ん!?」
ネフテ「...」
ネフテ(近くに誰かいる。)
ネフテ(どうする...)
ネフテ(このまま無視...はできないわね。)
ネフテ「隠れても無駄よ!!」
ネフテ「そこに居るのは分かってるんだから!!」
ネフテ「出てきなさい!!!!」
シーン...
ネフテ「これが見える?」
ネフテ「銃口よ。」
ネフテ「でもね、これはただの銃口じゃない。」
ネフテ「私はね...」
ネフテ「人間に造られたロボット兵器なのよ!!」
ネフテ「この辺り一帯を消し炭にできるようなモノ、体中にたくさん持っているわ!!」
...
ネフテ「ハッタリじゃないわよ?」
ネフテ「3秒数える内に出てこなければ...」
ネフテ「ここを火の海にするわよ!!!!」
レドイ「ま、待ってよ!!」
ネフテ「はぁ!?」
レドイ「私だよー!!」
ネフテ「なんであんたがここに!?」
レドイ「ついてきちゃった...」
レドイ「エッグで...」
ネフテ「あんたってば...」
ネフテ「...」
ネフテ「本当にばかね。」
ネフテ「あそこまで言われてるのに、どうして着いてくるのよ。」
レドイ「ごめん...」
ネフテ「...」
ネフテ「ごめん、じゃなくて...」
ネフテ「一体どうしたら...」
ネフテ「どうしたら、あんたは着いてこなくなるの...?」
レドイ「それは...」
レドイ「私が死ぬくらいじゃないと...」
ネフテ「本当にばかね。 私なんかに命懸けんじゃないわよ。」
レドイ「そんなこと言わないで。 ネフがいなくなったら...」
レドイ「ネフがいなくなったら、死んじゃうんだよ。」
レドイ「死んじゃうんだよ、心が。」
ネフテ「そんなの、私だって...」
ネフテ「...」
ネフテ「もう、本当にばかなんだから。」
ネフテ「あんたのばかさ加減には負けたわよ。」
ネフテ「私にはもう、あんたを振り払う術はない。」
ネフテ「着いて来るなら、勝手に着いて来なさい。」
ネフテ「どうなっても知らないんだからね!!」
レドイ「...」
レドイ「ごめん。ネフ。」
レドイ「私、もっと頑張るから。」