【読切】最恐の透明怪人(脚本)
〇漁船の上
霧島水穂「まだ生きているでしょうか?」
玉村祐司「幽閉されてもう30年経つんだ」
玉村祐司「普通なら、もう死んでるだろうな」
霧島水穂「でも、私たち人間の常識が通用しない怪人だったんですよね?」
玉村祐司「ああ」
霧島水穂「だったら生きている可能性も否定できない」
玉村祐司「何しろ、長い間人が足を踏み入れていない無人島だから」
玉村祐司「すべては行ってみないとわからないよ」
船長「もうすぐ着くぞ」
〇海岸の岩場
玉村祐司「行けるか?」
霧島水穂「はい、大丈夫です」
玉村祐司「それじゃ、船長さん」
玉村祐司「2時間ほどで戻ると思いますので」
船長「あいよ」
玉村祐司「それじゃ、ご対面といきますか」
〇霧の立ち込める森
霧島水穂「アペイロンって怪人は、怪人軍団の総督の手によって、ここに幽閉されたんですよね?」
玉村祐司「この間面会した時、本人がそう言ってたな」
霧島水穂「そもそも、何で総督は政府に匿われてるんですか?」
玉村祐司「政府にとって、まだ利用価値があると考えてるんじゃないかな」
太田「政府の考えそうなことだな」
霧島水穂「で、その総督ですが、なぜ自分の組織の怪人を拘束したんでしょう?」
玉村祐司「彼の話によると」
玉村祐司「アペイロンは、ヒーローを倒す指令が下りたとき」
玉村祐司「すぐにヒーローとは戦わなかった」
〇アパートのダイニング
四文字の妻「お願いです、娘だけは!」
〇古民家の居間
四文字の父「な、なんだお前は!」
〇霧の立ち込める森
玉村祐司「ヒーローの奥さんと娘さんを惨殺し」
玉村祐司「その後、実家にいたご両親も殺害したそうだ」
霧島水穂「えっ・・・」
玉村祐司「そして、それから姿を消した」
霧島水穂「ヒーローとは戦わずに、ですか?」
玉村祐司「ああ」
霧島水穂「何故そんなことを・・・」
玉村祐司「これは、あくまでも俺の想像なんだが」
玉村祐司「その極悪非道ぶりを考えると」
玉村祐司「奴は、ある実験をしたんじゃないかと思う」
霧島水穂「実験?」
玉村祐司「家族を殺されたヒーローがどうなるのか」
玉村祐司「奴は、身を隠してそれを観察してたんじゃないかと、俺は思っている」
霧島水穂「そんな事があるんですか・・・」
霧島水穂「あまりにも酷い話で受け入れられません・・・」
玉村祐司「だな」
玉村祐司「君と同様、さすがの総督もこのやり方を許容できなかった」
玉村祐司「だから全力を挙げて、組織でアペイロンを探した」
霧島水穂「だから捕まったんですね」
玉村祐司「結果的には、そうなんだが」
玉村祐司「奴を捕まえる前に組織は壊滅したそうなんだ」
霧島水穂「えっ、どうしてですか?」
玉村祐司「怒り狂ったヒーローが組織の本拠地に乗り込み」
玉村祐司「総督以外は全員、息の根を止められたからだ」
霧島水穂「そりゃ理性なんか吹っ飛んじゃいますよね」
霧島水穂「でも、総督以外って、総督は逃げたんですか?」
玉村祐司「命からがら本拠地から抜け出すと、その足で必死にアペイロンを探し」
玉村祐司「奴のやったことを褒めるふりして捕らえたそうだ」
霧島水穂「そして、この島に幽閉された・・・」
玉村祐司「まあ、だいたいそんな経緯だ」
〇薄暗い谷底
霧島水穂「ここにアペイロンが?」
玉村祐司「扉が壊れてるな・・・」
〇地下室
玉村祐司「居ない・・・」
太田「死んだことを物語るものもありませんね・・・」
霧島水穂「つまりそれは、逃げたってことですか?」
玉村祐司「入口の頑丈な扉が破壊されてたから、覚悟はしてたけどな」
霧島水穂「じゃあ、いまこの島内に!?」
玉村祐司「もし生きているとしたら非常に危険だ」
霧島水穂「どうしましょう?」
玉村祐司「今日の所は本土に戻って、また体制を整えて出直そう」
玉村祐司「狭い島内だから、探索しつつ船まで戻るぞ」
〇高層ビル
〇応接室
松尾庸介「牢獄には居ませんでしたか・・・」
玉村祐司「少し探索はしましたが、島内に居るようにも思えませんでした」
松尾庸介「遺体もその跡もなかったんですね?」
玉村祐司「ええ」
松尾庸介「ご報告ありがとうございます」
松尾庸介「この件は、今後、政府が引き継ぎます」
玉村祐司「と、いいますと?」
松尾庸介「危険ですので、これ以上怪人を追うのは止めてください、ということです」
玉村祐司「いや、それでは番組が!」
松尾庸介「玉村さん、もはや事態はそんな事を言ってる状況ではありませんよ」
〇国際会議場
アペイロン対策本部
松尾庸介「もし、アペイロンが生きていた場合、国民は非常に危険な状態に晒されることになります」
武藤京太郎「うーん・・・」
官房長官「でも、そんなのが国内にいたら、今頃大騒ぎになっているはずだ」
官房長官「今のところ、そいつを目撃したっていう報告はないんだろう?」
松尾庸介「はい」
官房長官「だったら、もう死んでるんだよ、きっと」
松尾庸介「いかがいたしますか、総理」
武藤京太郎「とりあえず、島の捜索を自衛隊の方でお願いします」
防衛大臣「それについては、既に指示を出して取り掛かっております」
武藤京太郎「流石ですな」
防衛大臣「ちょうど中間報告がある時間ですので席を外します」
武藤京太郎「ん?」
四文字修人「遅くなってすみません」
武藤京太郎「あなたは?」
松尾庸介「30年前、怪人軍団を相手に日本を守っていただいた四文字修人さんです」
武藤京太郎「ああ、あなたが」
松尾庸介「アペイロンの事では一番お詳しいと思い、私の独断でお呼びしました」
松尾庸介「すみません」
武藤京太郎「構わんよ」
四文字修人「アペイロンが生きてるとか?」
松尾庸介「まだはっきりとわかってはいませんが・・・」
四文字修人「正直、私は昔の事なんか思い出したくないんだ」
四文字修人「だが、あいつが生きてるなら話は別だ」
四文字修人「協力させてもらうよ」
松尾庸介「ありがとうございます」
武藤京太郎「ぜひ、お願いします」
四文字修人「それで状況は?」
松尾庸介「幽閉されていた場所に姿はありませんでしたが」
松尾庸介「目撃情報もありませんので、今のところ本土には渡ってないと推察しています」
四文字修人「そうか、皆さんはご存知ないのか・・・」
武藤京太郎「何を?」
四文字修人「アペイロンには他の怪人にはない、ある特殊な能力があります」
松尾庸介「特殊な能力?」
四文字修人「30年前、なぜ総督は奴を殺さずに生かしたのか」
四文字修人「それは、奴が持つ能力が偶然の産物であり」
四文字修人「当時の技術では、原因の特定ができなかったからです」
松尾庸介「つまり、生かすことで後にそれを解明しようとしたと?」
武藤京太郎「で、その能力とは何なんだね?」
四文字修人「奴は、自由自在に自分の姿を変えることができます」
四文字修人「対象が生物であれば何にでも」
松尾庸介「えっ!」
四文字修人「これは、私が住んでいたアパートの住人から30年前に聞いたんですが」
四文字修人「奴は、私の姿で私の部屋に入り」
四文字修人「妻と娘を殺した後、怪人の姿で出て行ったそうです」
武藤京太郎「変身できるだと・・・」
防衛大臣「総理、大変です!」
武藤京太郎「ちょっと待て、今こっちも大事な話を」
防衛大臣「島の岩場で、テレビクルーを漁船に乗せた船長の死体が見つかりました!」
武藤京太郎「何だと!?」
松尾庸介「でも、彼らは無事に本土に戻ってますが・・・」
四文字修人「松尾さん、奴は既に本土に渡っています」
松尾庸介「船長に化けたと?」
四文字修人「状況的に見て、間違いないでしょう」
松尾庸介「ちょっと待ってください」
松尾庸介「もしもし、玉村さんですか?」
〇海岸の岩場
船長(あと1時間か)
船長「な、なんだ!?」
〇国際会議場
武藤京太郎「どうだったんだ!?」
松尾庸介「行きと同じ船長だったそうです・・・」
武藤京太郎「何ということだ・・・」
武藤京太郎「誰にでも変身できる奴をどうやって見つけろというんだ!」
四文字修人「あっ!」
松尾庸介「どうしました?」
四文字修人「総督が危険です」
四文字修人「奴は、自分を監禁した総督を恨んでいるはずです!」
松尾庸介「確かにそうですね!」
武藤京太郎「松尾君、すぐに施設に電話!」
松尾庸介「はい!」
松尾庸介「出ません・・・」
武藤京太郎「まさかもう・・・」
四文字修人「松尾さん、行きましょう!」
〇おしゃれなリビング
総督(今夜はやけに静かだな)
総督「これは、これは総理」
総督「自らここに来られるとは珍しい」
総督「お、お前!」
〇大きい研究施設
〇血まみれの部屋
四文字修人「おい、しっかりしろ!」
総督「・・・」
松尾庸介「四文字さん、無駄です」
松尾庸介「もう死んでます」
四文字修人「くそっ!」
松尾庸介「ここにも変身して入り込んだんでしょうか?」
四文字修人「施設の入口で騒ぎが起こると、それを察知した総督に逃げられる可能性がある」
松尾庸介「ってことは、顔パスが利く人物に変身したのか」
四文字修人「総理か、もしくは君か・・・」
松尾庸介「どうやって私の顔を・・・?」
四文字修人「そんなこと今はどうでもいい」
四文字修人「早く総理に報告して、周辺に緊急配備をかけるんだ!」
松尾庸介「でも、確保対象が・・・」
四文字修人「変身できても身分証明書は持ってない」
四文字修人「怪しい奴は片っ端から捕まえて、身分を確認だ!」
松尾庸介「わかりました!」
四文字修人「総督、あんたが造った化物がまた暴れだしたぞ」
総督「・・・」
四文字修人「死んで逃げるなよ」
四文字修人「ん?」
四文字修人「松尾君か?」
〇国際会議場
武藤京太郎「まだ見つかりませんか?」
官房長官「怪しい人物の報告はありません」
武藤京太郎「何かあったらすぐに報告してください」
官房長官「わかっております」
松尾庸介「ただいま戻りました」
武藤京太郎「四文字さん」
四文字修人「はい」
武藤京太郎「他に怪人を見分ける術はありませんか?」
武藤京太郎「身分証明書を持ち歩いている人が、大勢いるとは思えないので」
四文字修人「そうですね・・・」
武藤京太郎「何でもいいんです!」
四文字修人「あっ、そうだ」
武藤京太郎「ありますか!?」
四文字修人「これは、怪人全般に言えることですが」
四文字修人「奴らに赤い血は流れていません」
松尾庸介「色が違うということですか?」
四文字修人「ええ、確か緑色っぽい血だったと思います」
武藤京太郎「四文字さん、ありがとうございます!」
武藤京太郎「よし、松尾君」
武藤京太郎「身分証明が提示できない人については、血液の色で判断するように手配してくれ」
松尾庸介「承知いたしました」
四文字修人「そうか・・・」
武藤京太郎「どうしました?」
四文字修人「この会議室、多くの人が出入りしてますよね?」
武藤京太郎「それが何か?」
四文字修人「怪人が次に狙うのは、総理、あなたかもしれない」
武藤京太郎「わ、私を?」
武藤京太郎「なぜ?」
四文字修人「いや、私はその可能性があると申し上げているだけで」
四文字修人「あいつが何を考えているかまでは、残念ながらわかりません」
武藤京太郎「なんだ、脅かさないでくれよ・・・」
四文字修人「ただ、一応、ここに居る人間も確認しておいた方が良いと思います」
四文字修人「血か赤いかどうか」
武藤京太郎「確かにその方が安心か・・・」
松尾庸介「手配終わりました」
武藤京太郎「松尾君」
松尾庸介「何でしょうか?」
武藤京太郎「至急、ここに居る人間の血液もチェックしてくれ」
松尾庸介「え?」
松尾庸介「ああ、なるほど・・・」
武藤京太郎「すまないが、君もな」
松尾庸介「わかりました」
四文字修人「あと私と総理も」
〇渋谷のスクランブル交差点
〇国際会議場
武藤京太郎「とりあえずここに居る全員が、怪人ではない事はわかった」
武藤京太郎「その上で今後について協議したい」
武藤京太郎「さしあたって、怪人の存在を国民に知らせるかどうか」
官房長官「そんなの知らせないに決まってますよ、総理」
官房長官「こんなことを国民が知ったら、日本全国がパニック状態に陥ります」
防衛大臣「私も同意見です」
防衛大臣「そもそも国民が知ったとしても、対処のしようがない」
防衛大臣「皆が恐れて外出しないようになってしまっては」
防衛大臣「日本経済が立ち行かなくなってしまいます」
松尾庸介「おふたりの主張も良くわかります」
松尾庸介「ただ、相手は卑劣極まりない上に狡猾さも持ち合わせています」
松尾庸介「我々が国民に公表しないことを利用されないかが、私は心配です」
武藤京太郎「確かに我々からではなく、怪人からその事実が公になった場合」
武藤京太郎「国民は政府を信用しなくなり、パニックは我々が公表するよりも大きくなるかもしれない」
〇二階建てアパート
〇寂れた一室
四文字修人(これに書いてある住所はここのようだが)
四文字修人(こんな寂れた部屋に住んでたのか)
四文字修人(まあ、それも当然か)
この怪人は、人間に姿を変えることができる特徴があります
国民の皆様におかれましては、怪人に注意をしつつも、できるだけ普段の生活を送っていただきたい
相手は目に見えない敵のようなものです
ですが、我々には目に見えないウィルスと闘ってきた歴史があります
四文字修人「苦しい言い訳だ」
四文字修人「クックックッ」
アペイロン「愚かな人間たちよ」
アペイロン「そうだ、ひとつ言っておくが」
アペイロン「俺の血は赤いからな」
〇山並み
〇ボロい駄菓子屋(看板無し)
女性客(こんな田舎に現れないわよね)
商店の店主「いらっしゃいませ!」
女性客「きゃっ!」
商店の店主「どうかしましたか?」
女性客「いえ、何でもないです!」
商店の店主「あ、ちょっと、お客さん!」
〇安アパートの台所
男(よし、これさえあれば・・・)
山田さーん、いるんだろ?
アペイロン「いま出まーす」
借金取り「今日こそは借りた金、返して・・・」
アペイロン「何だ?」
借金取り「何だお前・・・」
借金取り「も、もしかして政府が言ってた怪人か!?」
アペイロン「殺すぞ!」
借金取り「うわーっ!」
アペイロン(やった・・・)
アペイロン(怪人様様だ!)
〇バスの中
母親「うるさくてすみません」
母親(いつもは大人しいのに、どうしたのかしら・・・)
運転手「次は、苦護寺、苦護寺」
母親「すみません、降ります!」
運転手「賢いお嬢さんだ」
母親「えっ!?」
〇東京全景
怪人の破壊力と透明人間の匿名性を合わせ持つハイブリッド無双怪人というアイデアが面白い。誰でも怪人でありうるという状況を逆手にとって借金取りを追い払う男の出現など、透明で目に見えない悪意そのものが社会に蔓延っていく様にいちばんゾッとしました。最終的には怪人そっちのけで人間対人間の戦いになって自滅しそうですね。
総督が襲撃された際のエフェクトもある意味伏線という狙いですかね。
疑心暗鬼となった社会で対抗策は生まれるのか…。
見えない敵と戦うことほど馬鹿らしいことはないですね。透明怪人、そのネーミングも性質も説得力があって、思わず納得している自分がいます。