ネクタイリング

サトJun(サトウ純子)

33才の夏(脚本)

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〇モヤモヤ
  ”玲菜を絶対失いたくない!”
  ”ずっと俺の側にいてくれ!”
  あの時
  そう
  言ったよね?

〇テラス席
岩本玲菜「平日の昼からお酒を飲むなんて。 なんか罪悪感と優越感を感じるなぁ」
河村杏奈「それでね!聞いてよー! さっきも言ったけど、うちの旦那。 全然子育て協力してくれないのよー」
岩本玲菜「酔っているからか、さっきから同じ事言っている・・・」
岩本玲菜「爪からはみ出ているネイル。 首の色と全然違うファンデーション。 全体的に濃いメイク。 髪はとりあえずのひとつ縛り」
岩本玲菜「結婚前は、月イチで美容DAYをつくるほどのこだわりを見せていたのが、嘘のよう」
岩本玲菜「なのに・・・」
岩本玲菜「文句ばっかり言っているのに、とっても幸せオーラが出ている」
岩本玲菜「・・・これが『結婚』の魔力か!」
河村杏奈「それでね!義母様ときたら、いちいち口を出してきて・・・」
岩本玲菜「まあまあ」
岩本玲菜「なんだかんだ言って、旦那さまと仲良いし、チビちゃんも可愛いし。お姑さんとも上手くやれてるじゃない」
河村杏奈「えー。私は、自由に自分にお金がかけられて、バリバリ仕事をしている玲菜がうらやましいー」
河村杏奈「あの時、妥協して結婚しなかったら 「綾瀬部長」って呼ばれていたんだなーって、未だに思う」
河村杏奈「今は、何をしても「河村さんの奥さま」 「真也くんのお母さん」よ」
河村杏奈「旦那も、私の事を紹介する時は「妻です」だし」
河村杏奈「私にも「杏奈」って言う立派な名前があるのよ!なのに、全然呼んでもらえない!」
岩本玲菜「・・・なんだろう。 心がザワザワする」
  30才を過ぎた頃から
  「妻」「奥さま」「お母さん」というワードが、
  ものすごく「特別」に感じるようになった
  もうすぐ33才になる。おまけに厄年。
  私もあの時、結婚していれば・・・

〇豪華な社長室
  ──6年前
  私は、社長から頼まれて、お見合いをした。
足立涼太「はじめまして。 足立と申します。N社で営業課長をしてます。よろしくお願いします!」
岩本玲菜「あら、写真よりずっと良い感じ」
足立涼太「・・・」
足立涼太「ご紹介ではありますが・・・すみません。 私は誰ともお付き合いする気はありません」
岩本玲菜「はぁ? じゃあ、どうしてここに来たの?」
  出会いこそは最悪だったが、その、はっきりした態度にお互い信頼を深め。
  ”友人として”親しくなっていった。

〇テーブル席
  そんな数ヶ月を過ごすうちに
  二人の距離はだんだん縮まっていき
  二人は付き合うようになった。
  そのうち、結婚の話にもなり
足立涼太「俺、指輪は苦手なんだよね」
岩本玲菜「じゃあ、私の指輪とお揃いのネクタイリングをあげる!」
  これが、二人の「約束の証」だった。

〇テラス席
岩本玲菜「あの時、結婚していれば、私も変わったのかな・・・」
岩本玲菜「・・・」
岩本玲菜「いや、ないない」
河村杏奈「・・・ねえねえ」
河村杏奈「・・・あっちに座っている男の人たち、さっきからこっちを見てるんだけど」
河村杏奈「二人とも、めっちゃイケメン!ヤバい!」
岩本玲菜「はいはい。 わかったから、そろそろ出ようか。 夕飯の支度があるんでしょ?」
河村杏奈「え?なに? 一人、こっちにくるけどぉ!」
倉島昇「・・・突然、失礼します。 岩本さん・・・ですか?」
岩本玲菜「・・・はい。岩本は私ですけど」
倉島昇「やっぱりそうなんですね! ちょっと待っててください!」
河村杏奈「え?なになに? 玲菜の知り合い?」
岩本玲菜「ううん。知らない人」
岩本玲菜「でも、この店は会社の関係者がよく利用しているから、どこかで会っているかもしれない」
岩本玲菜「だとしたら、なおさら今は仕事の話しはしたくないから、行こう!」
  玲菜は急かすように杏奈の肩を叩くと、バッグを手にして立ちあがろうとした。
足立涼太「・・・本当に玲菜だ!」
足立涼太「久しぶり!元気だった?」
岩本玲菜「りょ、涼太・・・さん!?」
  まさか、こんなところで会うなんて──
  驚きで、玲菜の心臓が激しく鼓動する。
  次の瞬間、目の前が真っ暗になった。

〇シックなリビング
  涼太の顔を見た瞬間に思い出した。
  封印していた記憶──
足立涼太「なんですぐに連絡返さないんだ?」
足立涼太「できるよなぁ?連絡くらい。すぐ」
足立涼太「他に男がいるんじゃないだろうなぁ。 あ?昔からの知り合い?そんなの切れよ」
足立涼太「あー、他の男の前でスカートなんて履かなくていいから」
  涼太はそう言いながら、クローゼットに入っているスカートを全部引っ張り出し、片っ端からハサミを入れた。
足立涼太「俺といる時はスマホは預かるから。 会社からの連絡? 知らねーよ。そんなの」
足立涼太「親も切れよ。面倒くせぇ」
  そんな日々が続いて
  それでも玲菜は「愛されているから」と、耐えて、耐えて、我慢して。
  ある日突然
  ”お前と付き合うのは無理だ”
  と、言い残して
  涼太は姿を消した

〇テラス席
河村杏奈「玲菜!大丈夫?」
岩本玲菜「あ、ごめん、ごめん。 ちょっと立ちくらみがして・・・」
  涼太のネクタイには、あの、ネクタイリングが光っていた。
岩本玲菜「まさか、寄りを戻しに来たんじゃ・・・」
  この人ならやりかねない
足立涼太「大丈夫か?玲菜は昔から無理するところが あったからなぁ」
倉島昇「え、え、なんすか? お二人はそんなに仲良かったんですか?」
河村杏奈「そうよ、そうよ! どういう関係なの?」
足立涼太「んっと・・・」
足立涼太「元カレ、元カノ。だよな!」
「元カレ、元カノ!?」
倉島昇「えー! あんな可愛い奥さんがいるのに。 こんな美人な元カノさんまでいるなんて」
倉島昇「部長ばっかり、ずるいー」
河村杏奈「なーんだ。結婚なさっているのですね! せっかく玲菜にもチャンスが来たと思ったのに・・・」
  玲菜はそっと涼太の左手を見た。
岩本玲菜「薬指に結婚指輪! 本当に結婚しているのね」
岩本玲菜「この人は一生結婚できないと思ってた。 良かった。そういう人に巡り会えたのか」
  自分に危害を加えるような事はもうない。
  玲菜はまず、そこに安堵し
岩本玲菜「結婚したのは知らなかったわ。 良かった。心配しちゃったじゃない!」
  心から涼太が幸せである事を祝った。
倉島昇「あー。俺も相手が欲しいー 何がダメなんすかね?」
河村杏奈「玲菜はどお? この子、恋人募集中よ!」
足立涼太「玲菜はお前には無理だなー」
足立涼太「だってさぁ。 天井の電球を自分でせっせと変えちゃうんだぜ?」
足立涼太「虫とか出ても「きゃー!」とも言わずに無言で潰すし」
岩本玲菜「ちょっとー! 黙って聞いていれば・・・酷くない?」
  まさか。また一緒に笑える日が来るなんて
  本当に良かった

〇テラス席
河村杏奈「あれ? もうこんな時間!?」
足立涼太「ヤベッ! カミさんに怒られるっ!」
河村杏奈「じゃあ、私は帰るね! 今日はありがとうー!」
足立涼太「俺も帰るわ! じゃ、玲菜。また、機会があったら!」
岩本玲菜「待っている人がいるって、いいですねー」
倉島昇「僕はまだ、一人の方が気楽ですけどねー」
倉島昇「足立部長なんて、学生の頃から好きだった人が奥さんなんすよ!凄くないすか?」
倉島昇「一途っていうか、もったいないっていうか。 男はもっと遊んでおいた方がいいと思うんだけどなー」
岩本玲菜「なるほど! 奥さま一筋なんですね、」
倉島昇「まぁ、信用できますよね。 人として」
岩本玲菜「確かに涼太は不器用なくらい自分の気持ちに素直な人だった」
岩本玲菜「今日はお二人に会えて良かったです。 声を掛けてくださって、本当にありがとうございました」
岩本玲菜「涼太との事、やっと本当の意味で忘れられそう」
倉島昇「いやぁ、部長は「わざわざ声をかけなくていい」って言ったんですけどね」
倉島昇「さっきも「連絡先聞かなくていいんですか?」って言ったら、「奥さんに心配させたくないから」って」
岩本玲菜「・・・」
岩本玲菜「そうなんですね。 それだけ奥さまが大好きなんですね」
倉島昇「また、娘さんが可愛いんですよー!」
倉島昇「今年小学校に入学したんですけど、有名な私立に行ったらしいですよ!」
岩本玲菜「私には「子供はいらない」って言っていたのに・・・」
岩本玲菜「・・・今年入学ってことは、小学一年生?」
倉島昇「そうです! 部長、もう、デレデレですよ。 親バカ丸出しで自慢してきますから」
岩本玲菜「・・・」
  6年前といえば・・・
岩本玲菜「・・・」
岩本玲菜「昇さん、でしたよね? 今度一緒に呑みませんか? 良いお店、知ってるんです」
倉島昇「え!? いいんすか? 僕はいつでも良いっすよ!」
岩本玲菜「予定が合えば、ぜひ! 足立さんにも一応声かけた方がいいかと」
岩本玲菜「・・・どうせ、夜は出て来れないでしょうけどね!」
倉島昇「そうですね! 奥さん、うるさいらしいですからね」
岩本玲菜「そしたら、二人で呑みましょう!」
倉島昇「やったぁ!」
岩本玲菜「・・・」
岩本玲菜「なので、」
  昇さんの連絡先、教えてください。

次のエピソード:思い出の店

コメント

  • 人物描写やお話がリアルでゾワゾワしました…。
    本当に有り得そうな話。『本当にあった怖い話』的な。
    イヤな予感しかしないけど、続きが気になっちゃう。
    良い不穏でした!

  • 33歳は微妙なお年頃のようですね、遠雷が聴こえてくるような終盤、次回をみてみます。

  • うわわっ。束縛系の男子が出てきた時点でもう恐怖しかないです。主人公どうなっちゃうのか心配でたまりません。
    昇さんがいい人なのを祈って追いかけます!

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