鬼ヶ島へ向かう犬と猿とキジと合流(脚本)
〇小型船の上
数時間後、最低限の荷物だけを持ち、船の上にいた。
スマホを弄りながら、この事を告げた時の祖父母の悲しそうな顔を思い出す。
祖父「そんな会社なんかやめて、わしのあとを継ぎゃあいい!」
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「ありがとう・・・・・・、でも、俺行ってくるよ」
祖母「桃ちゃん・・・・・・」
ばあちゃんはせめてと手作りのおはぎを握ってくれ、じいちゃんはせめてと戦時中にお守りにしていた短刀をくれた。
これを持っていくのは軽く銃刀法違反だと思ったけど、俺は祖父母のことはゲームの中の彼女と同じくらい愛しているから、
嬉しい気持ちになりながら受け取った。
じいちゃん、ばあちゃん。俺、がんばるよ。
〇小型船の上
着くまで何もすることないだろうし、SNSでもチェックするか・・・・・・。
鬼ヶ島へ向かう途中なんだけど、超だりぃww @momotaro09
そう呟いてから、鬼ヶ島と言われる部署についてネットを駆使して調べてみるが、
何も情報は掴めない。
──ところが
私も今鬼ヶ島へ向かっています @wannyan
自分も @kana_yellow
あたしも同じく @kizimunar
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「え、まじで? レスが三つも?」
俺が呟いてこんなに反応があったのは初めてじゃないか。
今乗ってる乗り合いの船には、船員を除けば、四人しか居ないことに改めて気づいた。
ちょ、うはw 珍しくめっちゃレスついたしw
ウケるww @momotaro09
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「ねぇ、もしかしてあなたがmomotaro09さん?」
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「う、うん、そうだけど・・・・・・」
やばっ! 声が裏返った!
突然可愛い女の子に声かけられたから、思わずリアルだっていうの忘れて即答しちゃったよ。
でもだって、しょうがないじゃないか。
目の前の彼女はレイナインたんそっくりだったんだから!
落ち着け俺、落ち着くんだ俺。
猿野加菜美(サル)(24)♀「へぇ〜。君が我々の同志と言うことですか」
猿野加菜美(サル)(24)♀「SNSではやや攻撃的な性格に見えましたが、ふむ、現実とギャップを抱えるよくいるタイプみたいですね」
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「同志? ギャップ?」
何か品定めされてるみたいだけど、黒フレームの眼鏡がやたら似合う綺麗なひとだなぁ。
でも、どうして船の上でスーツ?
木次山惣子(キジムナー)(17)♀「はっ! こんななよっとしたのが、あたしたちのリーダーかよ!」
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「な、なよっとしたやつってのは的確すぎるんだけど・・・・・・」
この子は高校生ぐらいなのかな?
赤い髪がすごく鮮やかで、バンドのボーカルみたいだ。
けど、なんでこんなに俺が注目されているんだ?
俺は目の前の状況が把握できず悩む。
でも俺がリーダーだというなら、ひとつ思い当たる。
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「もしかして・・・・・・、俺達で鬼ヶ島へ行って鬼退治?」
三人が、息を飲んだように見えた。
木次山惣子(キジムナー)(17)♀「何、お前知ってたわけ? じゃあ、説明なんかいらねーじゃん、なあ?」
猿野加菜美(サル)(24)♀「いえ、何となく彼は何も聞かされていない気がします」
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「とにかく! 私達の話も聞いてもらおうよ」
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「あ、え、じゃあ、はい。 よくわかってないけど、よろしくお願いします」
三人の勢いに俺は押されてしまったのだった
〇小型船の上
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「じゃあ、まずは私から話させてもらうね。 私はイヌって呼ばれる当人としてはとても不本意な呼び名で呼ばれているんだけど、」
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「名前は戌村ハナ。23歳だよ。 服飾関係の仕事してまーす」
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「とあるCMが登場するまでは、ごく普通の呼び名だったんだけど、変わっちゃったんだよね」
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「元々ふわふわもこもこの真っ白な服装が好みなんだ。 白い小型犬に見えるとか友達に言われたりしてたけど、」
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「さすがに私のことをイヌ呼ばわりする人はいなかったよ?」
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「でも、ソフトパンクって有名な有名な会社あるよね? その会社が白い犬をお母さんとして、そのお母さんを大黒柱としたCM」
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「あれ、あれのせいなの。 私はあのCMのせいでイヌと呼ばれるようになったのです、しくしく。 それが私の唯一のコンプレックス」
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「ハンドルネームは @wannyan。 名前の通り、わんことにゃんこが大好き!」
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「でもイヌって呼ばれすぎるのは・・・・・・ちょっと困りものかも」
猿野加菜美(サル)(24)♀「なら、次は私の番かしら。 子どもの頃から私は自分でも賢しい女だって自負しています。 猿野加菜美、24歳」
猿野加菜美(サル)(24)♀「自分で言うのも何だけど、友達や先生を巧く動かし、順調に出世の道を駆け上がっている最中」
猿野加菜美(サル)(24)♀「会社からも優遇されている方だと思います。 その姿が周囲には小賢しく見え、大きくない容姿も相まって、」
猿野加菜美(サル)(24)♀「陰口ともいえない声量で私をサルのようだと揶揄されることも結構あるわ。 正直、私のプライドが許しません」
猿野加菜美(サル)(24)♀「自嘲気味の @kana_yelloというハンドルが私」
木次山惣子(キジムナー)(17)♀「大トリはあたしだな! 今は、沖縄在住。 そのおかげで日サロ行かなくても肌、良く焼けたぜ。 木次山惣子、17歳だ」
木次山惣子(キジムナー)(17)♀「ん? この髪か?この真っ赤な髪、目立つだろ? おじいちゃんの血を強く受け継いでるらしくて、元々赤茶に近い色味なんだけどな」
木次山惣子(キジムナー)(17)♀「バンド活動するのにちょうどいいとは思ってたけど、最近もっと赤くしたくてカラー入れたんだよ」
木次山惣子(キジムナー)(17)♀「誰がいつから呼び始めたのか、わかんないけど、多分あたしを怖がってる子らか、敵対してるチームだろ」
木次山惣子(キジムナー)(17)♀「沖縄の妖怪にちなんでキジムナーって呼ばれてる。 だからネットでの名前は @kizimunar」
俺は黙って三人の話を聞き終えた。
ちなみに俺のハンドルは
@momotaro09。
まだ俺には状況を飲み込めていない。
分かったことといえば、みんな”嫌なニックネーム”をつけられているなってことぐらいだ
〇小型船の上
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「えっと、その話がこれから島へ行くこととどう関係してくるんだろう?」
猿野加菜美(サル)(24)♀「どうやら私の推測通り、本当に何の説明を受けることなくこの船に乗せられたようですね」
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「うーん、なんでなのかな。リーダーなのに」
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「俺がリーダーなのは確定なの?」
木次山惣子(キジムナー)(17)♀「そうだよ」
猿野加菜美(サル)(24)♀「不本意ですが、私のことはサルと読んでくれて構いません。 白いあなたはイヌ、赤い髪のあなたはキジ、そしてあなたが桃太郎」
猿野加菜美(サル)(24)♀「桃太郎さん、あなたをリーダーだと我々が言っていることに・・・・・・ この仇名を聞いてピンときてはいませんか?」
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「やっぱり、鬼ヶ島へ鬼退治・・・・・・?」
みんな静かに頷いていた。
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「鬼退治って、具体的には何を・・・・・・」
猿野加菜美(サル)(24)♀「それは聞かされていません」
戌村ハナ(イヌ)(23)♀「・・・・・・もうすぐ島に着くみたい」
俺たちは船から降りることとなった。