社畜とブラック企業と鬼ヶ島(脚本)
〇水たまり
これはあるところ、ある場所でのお話。
そこには、桃太郎と呼ばれる青年がいました。
俺は岡山僚太。
岡山出身で名字が岡山というだけで幼少の頃から”桃太郎”と、あだ名を付けられたごくごく平凡な男。
趣味はアニメ・ゲームにニコニパ動画への投稿。
特にコメント職人としての自負は、他に認める人はいない自己満足なもの。
専門学校を卒業後IT系の会社に勤めていたけど、
こんなブラック会社見たことがない!
と、叫びたくなるほどに職場環境は劣悪だった。
何も選択肢がないまま家業を継ぐのが嫌で、卒業後、上京してIT企業に入ったのは良いけど、いや、良くなかったんだけど。
ブラック企業って本当にあるんだなって実感する毎日が明日も続いていくかと思うと嫌になる。
そんな俺に起きた転機となる、ちょっと不思議な出来事について語らせてもらおう。
『仇名ビースト』
〇オフィスのフロア
同僚A「おい、桃太郎。ビックマッグが200円らしいから、20個大急ぎで買ってこい」
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「えと・・・・・・お金は・・・・・・」
同僚A「・・・・・・・・・・・・」
先輩は無言で椅子に座る俺を見下ろした。
これも特別なことじゃない、いつもの日常だ。
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「あ、いえ、なんでもないです・・・・・・買ってきます」
先輩「あ、そうだ、桃太郎くん。私にもLLセットでそれお願い。 セットでもらえるグラス、彼氏が集めてるのよ」
こうして俺は今日も自腹で買い出しに行かされ、これが食事だと言わんばかりに自分の仕事のみをもくもくと消費し続ける毎日。
俺はずっとこの日々が続くものと思っていた。
しかし、俺が思い描く現実とは程遠く、ある日直属の上司から呼び出しを食らうのだった。
〇オフィスのフロア
上司「あー、君はいつも勤勉に働いてくれていて助かっているよ」
いつもインターネットを閲覧し、そこでは饒舌な俺には、すぐに悪い話だと思い至った。
上司「鬼ヶ島って呼ばれてるあの場所知ってる? ちょっと君にはそこに行ってもらいたいんだ」
上司「左遷? 違う違う、君が優秀だと話したら先方に是非にと言われてね。 僕も優秀な部下を失うのは痛いよ」
上司「僕も優秀な部下を失うのは痛いよ。 これ新幹線と船のチケット、唐突で悪いけどすまないね」
俺は無表情に無言でチケットを受け取った。
開くよう促されてると感じて中身を見る。
驚いた。
岡山僚太(桃太郎)(21)♂「これって今日の日付・・・・・・ですよね・・・・・・」
上司「なあに、ちょっとした休暇、そうだな、旅行とでも思って行ってくれればいいから。 では、気をつけて」
そう言うと上司はここから出ていけとジェスチャーで示し、俺を追い出した。