デスゲームに参加したくないので小料理屋始めました!

AAKI

予約8.フカ野 海斗と冬瓜のスープ(脚本)

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〇スーパーの店内
朝生 葉大「撃たないで!」
  命乞いをする声が食糧室に響き渡った。
  葉大に向けられているのは黒光りする銃口。
  このデスゲームが始めて以来のピンチである。
  最悪な状況でないのは、なんとか食糧棚の薄い壁を挟めるからである。
朝生 葉大「どうか、話を聞いてください」
  両手を挙げて見せ、声を震わせながらも説得しようとする。
  逃げ出したいが、逃げ出せない。
フカ野 海斗「聞いてるよ!」
フカ野 海斗「お前何しにきやがった!?」
  銃口を突きつけられたまま問われ、葉大は必死に弁解しようとしていた。
朝生 葉大「ですから、料理を──」
朝生 葉大「――料理人なので二階のキッチンまで出張料理にきたんです!」
  できるだけ端的に説明する。
フカ野 海斗「それがわからねぇって言ってんだよ!」
  当然の話である。
  こうなったのは何時間か前に戻る。

〇広い厨房
宇古 鶏太「ここ二三日の結果を発表するっすよ」
  計画事をしていた2人を前に、鶏太がドッキリ大成功とばかりに声を上げた。
  無駄にテンションを高くして拍手するのは当人と鴨姫だけ。
芹沢 鴨姫「良くやった!」
  パチパチパチ。
芹沢 鴨姫「朗報を聞かせてくれるんだろうね?」
宇古 鶏太「当然っす・・・と言いたいところっすけど、完璧じゃぁないんっすよねぇ」
  結果はそこそこといった様子だ。
芹沢 鴨姫「おやぁ、それは返答次第では償って貰わないと」
芹沢 鴨姫「当然、命で」
宇古 鶏太「待って待て!」
宇古 鶏太「待って欲しいっす!」
  横でみている分には冗談だとわかるが、鶏太にはそう聞こえないのか慌てて静止する。
芹沢 鴨姫「とりあえず聞こう」
  漫画のキャラのマネごとめいた態度をとるが、鶏太には死刑宣告の直前であった。
宇古 鶏太「え、えっと、なんとか、ここを逃げ出すための協力をするって話はとりつけられたっす!」
  まずは上々の結果を報告する。
  ただ、芳しくない部分の理由もわからなくはない。
宇古 鶏太「ただ、さすがにあのおっかない姐・・・長髪の人と、2階の食い物を占領してる893な人は、ちょっと手に負えなかったっす」
  薫と、もう1名だけは――葉大は存じないが――厄介だということのようだ。
芹沢 鴨姫「あ~、うん、まぁ、薫ちゃんとその怖い子ちゃんはしかたないよね」
  ついに会ってもいない人物までちゃん付けで呼び始めた。
  とは言え、一定以上の理解は示していた。
芹沢 鴨姫「下っ端未満の半グレみたいな鶏ちゃんには無理にだったかぁ」
  からかうのはやめていないが
  ひでぇっすという鶏太の言葉をスルーして、鴨姫は話を促す。
芹沢 鴨姫「他の人たちから何か情報は得られたかな?」
宇古 鶏太「ま、まぁ、いろいろとあるっすね」
宇古 鶏太「まず、ここに連れて来られたのは9人ってぇのがわかったっす」
宇古 鶏太「2人は姐さんたちで殺っちまったっすね」
宇古 鶏太「さておき、エディブルっていう子は警戒こそしてるっすけど、話はできるっす」
芹沢 鴨姫「なるほど、それは私の聞きたいことを聞けるチャンスかもね」
  想定よりも良い方向に動いていると知り鴨姫は言う。
  良くてきたことに関してはちゃんとよしよしするあたり、鶏太とは別の巧みさを持ち合わせているようだ。
宇古 鶏太「へへへっ、それで、もう一人のデ・・・でかいヤツのことなんっすけどね」
  ホメられて調子を良くしたのか、ペラペラと話を続ける。
  連れてこられた人数からすると、取捨選択した場合、その勝であろう男が関わった最後の1人だ。
宇古 鶏太「これは余談なんっすけど、どうやら俺、あいつに例の事件の日に絡んでたみたいなんっすよ」
宇古 鶏太「それと、もう一枚のカードキーもそいつが持っていたっすよ」
朝生 葉大「え?」
芹沢 鴨姫「ん?」
  意外な話に、しばし黙っていた葉大まで声を上げる。
芹沢 鴨姫「今、なんって?」
宇古 鶏太「いや、だから、カードキーを富田ってヤツが」
芹沢 鴨姫「違う」
芹沢 鴨姫「もう一つ前、かっちゃんに絡んだことがあるって部分だよ」
  確かにカードキーのことも大事なのだが、誰かは持っているだろうと、どうせ協力関係になれば手に入る思っていた。
  大事なのは、事件の関係全てだ。
宇古 鶏太「あ、あぁ、えっと、酔っ払っていたんではっきり覚えてなかったんっすけど、確かに誰かに絡んだ感じは・・・」
  あると、なんとか断言した。
芹沢 鴨姫「それで、何を話して何があったのかな?」
  鴨姫が食い入るように質問する。
宇古 鶏太「えぇっと、単に飲み直す金をせびったくらいの話っすよ?」
宇古 鶏太「ベンチで寝入ってしまったんで、ただそれだけっす」
宇古 鶏太「本当っすよ?」
  そんな身にもならないようなことを鶏太は話し終える。
  しかし、鴨姫はそれ以外に何かがあったと疑っているようだった。
芹沢 鴨姫「目を覚ました後は何もせず帰ったのかな?」
  さらに追求され、鶏太も目を泳がせつつ答える。
宇古 鶏太「ちょっと、むしゃくしゃしてモノに当たり散らしたことはあるっすけど・・・」
芹沢 鴨姫「ふぅん」
芹沢 鴨姫「なんだかんだと覚えている――思い出せるんだねぇ」
  攻めるでもなく、ただただ小さな声でボソッとつぶやく。
宇古 鶏太「え、えっと、いろいろと話を聞いてたら少しずつっすねぇ」
  思い出せて嬉しいはずなのに、静かに詰められしどろもどろになる。
  ただ鴨姫はそれ以上追求はせず、次の話に移った。

〇洋館の廊下
芹沢 鴨姫「今日は特別に出張料理だ──」
  そんな言葉と同時に、特に説明もなく連れ出された。
朝生 葉大「いきなりで困惑しているんですが?」
  葉大は言われるままに引っ張り出され、よくわからない内に館の二階へと向かう。
  ただ、事情を聞くのは諦めていた。
芹沢 鴨姫「向こうを連れてくるのは無理だから、こちらから赴こうって腹さ」
  このような状況だ。
  その説明だけで、どこの誰にというのはわかってしまう。
  調理道具の確認も兼ねて二階のキッチンを通り、食糧室に向かう。
芹沢 鴨姫「さて、私はここまでだよ」
  途中、鴨姫はそう言い出した。
朝生 葉大「え?」
  さすがに、ヤクザのいるような場所に1人で放り出すのは無責任ではないだろうか。
  しかし、取り出したナイフを弄ぶ姿を見て、すぐにその理由を理解した。
朝生 葉大「根木さんもここの人を狙ってるんですね・・・」
  そう、薫の性格を考えると、鴨姫がいつもの店にいなければこっちへ移ってくるとわかる。
  ピリピリとしているであろう暴力的な男性との三つ巴など危険極まりない。
  ならば、誰かが薫を足止めしなければ行けないというわけだ。
朝生 葉大「・・・わかりました」
  葉大がかけられる言葉はそれだけだった。
  無事は祈りたいがどうなるかなどわからないし、そもそもがそんなことを祈れる立場でもない。
芹沢 鴨姫「ギブ・アンド・テイクだから仕方ないよね」
  鴨姫はそうつぶやいてどことなく寂しそうな表情をした。
  当人はその理由を知らず、ゆえに告げることもなくキッチンを出ていった。
  そして葉大も1人取り残される。
朝生 葉大「よしっ」
  調理の準備を終え、鴨姫の覚悟を無駄にしないためにも意を決して食糧室の方へと向かう。
  気配を殺していたわけではないが、足音を広い部屋に響かせた瞬間――。
  カチャリ。
  食糧棚の向こうから、どこからかわからないまでも音が聞こえてくる。
  鶏太は、食糧室に隠れている男性がいつ寝ているのかわからないと言っていた。
  確かに、すぐに反応できるあたり予想通りといったところだろう。
朝生 葉大「出張料理にきました!」
  食料棚の間を慎重に移動していく足音と、そう宣言する声が駆け抜けていく。
  そして話は冒頭へと戻る。

〇スーパーの店内
  少し前のことを、彼らの決めた方法を話し終えた葉大。
フカ野 海斗「何をバカなこと・・・」
  それを聞いた海斗は、表情と銃の向きはそのままに迷いを見せる。
  それに何の意味があるのか理解できないのだろう。
  自分に料理を振る舞う真意まで葉大が話せていない――知らないのが原因だ。
フカ野 海斗「その芹沢って小娘は、何を考えてやがる?」
朝生 葉大「多分・・・貴方からの情報が必要なんだと」
  問われて出てくる答えはそれだけだった。
  それでも、それだけでも多少は海斗を納得させることはできた。
  だからといって、葉大たちを信じてくれたわけではない。
フカ野 海斗「話はわかったが、下手なマネはするんじゃねぇぞ」
  上手なマネなら許されるのだろうか。
  銃口をなんとか外してくれたが、おかしな考えが浮かんだのを捨てて気は許さず葉大の出方を見る。
朝生 葉大「どうせこっちの材料を使わせてもらえないと思っていたんで」
  すでに準備できているため、後は食べてもらうだけだ。
  キッチンまで案内しようとするも、海斗は動かなかった。
  当然だ。
朝生 葉大「あ~・・・こっちに持ってきますね」
  自分の安全地帯から出ようとしてくれないため、料理を運んでくることにする。
  数分もしないうちに、深皿に入れられた黄金色の液体が海斗に供される。
フカ野 海斗「何だ、こりゃ?」
フカ野 海斗「出張料理だなんていうから、もっと贅沢なもんがでてくるかと思ったんだが」
フカ野 海斗「こいつが前菜か?」
  聞かれるものの、正直なところ首を横に振るしかなかった。
  上手く説得できれば別の料理を作ることは可能なため、今は一縷の望みに賭ける。
朝生 葉大「すみませんが、今、用意できているのはこれだけです」
フカ野 海斗「あ?」
  海斗の不機嫌さが膨れ上がった。
  葉大は慌てて棚の影に隠れた。
朝生 葉大「どうかご勘弁を!」
朝生 葉大「必要なら改めて作りますから、まずこちらから召し上がりください!」
  平身低頭でお願いしたものだから、さすがの海斗も威嚇できないと思ったのか。
フカ野 海斗「チッ、まぁ良い」
  それだけ言うと、顎でスープを指した。
朝生 葉大「・・・」
フカ野 海斗「・・・」
  少しの沈黙を置いて、葉大はやっとその仕草の意味を理解した。
朝生 葉大「あぁ、毒見ですか」
フカ野 海斗「それ以外に何があるってぇんだ・・・?」
  葉大のとぼけたような反応と、これまでのことを思い呆れる海斗。
朝生 葉大「いやぁ、これまでの人って言って来ない人がほとんどだったんで」
フカ野 海斗「何だそりゃ・・・能天気が勢ぞろいか?」
  言われてみれば全くもってその通りである。
  約2名ばかりが殺し合っているものの、海斗にとっては良い結果になっていない。
  無理に2階の食糧室を占領したのは、1階の方に参加者が集まるように仕向けたかったからだろう。
  そんな計画をぶち壊したのが葉大だとバレたらどうなるかわからないため、黙って別に用意したスプーンでスープを一口含む。
朝生 葉大「ごく」
朝生 葉大「どうです?」
  毒味を終えて、ついに料理を食べてもらえる段になる。
フカ野 海斗「・・・まぁ、そこまでするんなら信用してやろうじゃねぇか」
  一応は信じてくれたようで、距離を取った葉大に代わってお皿へと近づいていく。
フカ野 海斗「あ~、野菜だけのスープかよ」
フカ野 海斗「こんなところとは言え、さすがにみすぼらしいんじゃ・・・ん!?」
  まず一口、すっと飲み下した瞬間に目を見開いて唸る。
フカ野 海斗「なんて言や良いんだ?」
  料理の評価に迷っている様子だ。
  どこか大きな組の若頭補佐という立場なことをつぶやいたり、フルコースの経験もあるとの内容を言っていた。
フカ野 海斗「一級の料理にこそ及ばなくても、見劣りするわけじゃない・・・」
フカ野 海斗「鶏の出汁でコクを出しつつも脂の処理は丁寧で、味だって濃いのに棘がない」
フカ野 海斗「体に染み込むような心地よさは・・・なるほどな」
  感想を述べた後、何かに納得したように葉大を見つめてくる。
フカ野 海斗「お前が糸を引いてやがったか」
  参加者同士がほぼ殺し合わない原因が葉大にあることを理解したのである。
  わざわざ肯定まではしなかったが、上手く事が運んだ手応えを感じ微笑む。
フカ野 海斗「具は冬瓜だな?」
  食にはうるさいのか、すぐに中身を把握する。
フカ野 海斗「しかも、ナッツを砕いて入れてあるから、飲み込み易くも口が暇にならない」
  一品だけでありながらも、凝らされた工夫に飽きることなく皿を空っぽにした海斗。
  他に何か作ろうかと提案する前から、満足したのが伺える。
フカ野 海斗「腹ぁいっぱいだ」
  そう言うと、棚の平面に背中を預けて銃を手放す。
  こうなったのは料理の出来だけではない。
朝生 葉大「良いですよ」
朝生 葉大「今は芹沢さんが抑えてくれているので、俺も何かあったらすぐ起こしますし」
  葉大もまるで子供をあやすような優しい声音で言う。
フカ野 海斗「あぁ、少し休ませてもらうぜ・・・」
  それだけ言うと、海斗は深い眠りについてしまった。

次のエピソード:予約9.記憶とお粥

コメント

  • まさかの剣呑な雰囲気のスタートに驚いてしまいました。その空気感を打破する冬瓜、恐るべしですね!
    冬瓜は挽肉と合わせても美味しいですが、やっぱりスープが一番ですね。丸ごとくり抜いて作られたスープなんてメインを張れるご馳走ですし!

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