デスゲームに参加したくないので小料理屋始めました!

AAKI

予約9.記憶とお粥(脚本)

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〇洋館の廊下
根木 薫「おい!」
根木 薫「ちょこまかと逃げんなさんな!」
  薫の怒鳴り声が響く。
  鴨姫は、そんな怒気を受けつつも楽しげに笑う。
芹沢 鴨姫「はははっ、やだよ~」
  まるで鬼ごっこで遊んでいるかのようだ。
根木 薫「そこら中にブービートラップしかけやがって・・・!」
芹沢 鴨姫「こうでもしないと薫ちゃんの足を殺せないからね」
  鴨姫の考えた作戦は簡単だった。
  薫が先回りしてきそうな位置に洗剤やテグスを仕掛けて足止めをする。
根木 薫「チィッ!」
  さらに薫の苛立ちに合わせて攻撃を仕掛け、また逃げるというヒット・アンド・ウェイの繰り返し。
  しかし、ついに逃げ切れず個室の袋小路へと追い詰められる。
根木 薫「さぁ、もう逃げられないぞぉ」
芹沢 鴨姫「あはは・・・」
  ずいずいと迫ってくる薫に苦笑を返した。
  しかし、まだ諦めてはいなかった。
  扉を開いて奥へと逃げ込み、追いかけてくる薫にシーツを投げつける。
根木 薫「チッ、姑息な!」
  ホコリをかぶったヴェールを短剣で切り裂きながら鴨姫の出方を伺う。
  ただし、鴨姫の目的は反撃ではなく逃げること。
根木 薫「――だろうと思ったよ!」
芹沢 鴨姫「ぐ、ぎっ!」
  さすがは鼻が利く薫だ。
  机を蹴って横をすり抜けていく鴨姫の動きを、視界を奪われていながらも捉え切りかかってきた。
  腰から膝近くまでスリットが出来てしまった。
芹沢 鴨姫「まったく、厄介な人・・・!」
  赤いものを撒き散らしながらも廊下へ転がり出る。
  扉を閉め、2階キッチンからの持ち出して用意してあったパイプ椅子をつっかえ棒にする。
根木 薫「てめっ!」
根木 薫「開けやがれ!」
  当然そう喚くが、当然開けることなんてない。
芹沢 鴨姫「残念・・・さっきのダメージが大きくて、私もこれ以上は動けそうにないのだよ」
  鴨姫は壁に背中を預けてて答える。
  覚悟はしてきたが、共倒れという最悪のパターンを引いてしまったらしい。
  そして少しずつ意識が遠のいていく。
  ――。
???「――――さん!」
  呼びかける声。
???「芹沢さん!」
朝生 葉大「鴨姫さん!」
  なぜ、ここに葉大がいるのだろうかと朦朧とした意識の中で考える。
  けれど、その声が夢か現かどちらにせよ、決まりは決まりだ。
芹沢 鴨姫「なんてバカなことを・・・」
  抱きかかえられるのを感じながらも小さくつぶやいた。
朝生 葉大「すみません、根木さん」
朝生 葉大「ちゃんと、後でつっかえは外しますから」
  葉大は、どちらも助けようとする。
  そんな恩人に刃を向けたのは、出血のショックがもたらした凶行ではなかった。
  それが2人の間に交わされた契約だったから――。

〇広い厨房
花・エディブル「2人とも何をやってるんですか、全く!」
  花が呆れたように怒る。
芹沢 鴨姫「いやはや、大変申し訳ない」
芹沢 鴨姫「花ちゃんには足を向けて寝られないよ」
  まず、足をケガしているため椅子に座ったまま腰を曲げて謝罪する鴨姫。
朝生 葉大「すみません・・・」
  続けて、腹部に赤い痕跡を残した葉大が首をうなだれて謝った。
花・エディブル「私が間に合ってなかったら、2人とも人生終了だったんですよ・・・!」
  謝罪の有無の問題ではないのだろう。
  契約という呪いに縛られて、誰も救われない形で終わっていた可能性に、花は怒っているように見えた。
  いろいろと手を打ってきて、ここぞというところでキーパーソンが倒れるなどバカバカしいに決まっている。
花・エディブル「まさか、助けに来てくれた朝生さんを殺そうとするなんて・・・」
  花は呆れて先が出てこない様子である。
芹沢 鴨姫「ははは・・・わざわざこうして応急手当してくれたってことは、話すべきことを話してくれるってことなのかな?」
  説教を受け流すためか、鴨姫は話題を振った。
  状況がわかっていないのかとばかりに、普段は気弱な感じの目で鴨姫をにらみつける。
  こうして、普通に喋れていること自体が奇跡みたいなものなのだから。
花・エディブル「黙っていても何をしでかすかわからないので話しますが・・・」
芹沢 鴨姫「話が早くて助かるよ」
芹沢 鴨姫「あ、一応、そういう打算があって葉大を刺したわけじゃないからね」
  言葉を引き出せてラッキーと喜ぶ鴨姫。
  花は当然だとばかりにまた睨んだところで、その葉大にも視線を向けた。
  暗に、こいつを許すつもりなのかと。
朝生 葉大「やぁ、まぁ、契約のことを忘れて探しにいった落ち度は俺にありますから」
  葉大は頭を掻いて答える。
花・エディブル「なんですかそれ」
花・エディブル「もうお尻に敷かれてるじゃないですか・・・」
  もうダメだと、花は諦めモードだ。
  諦めがついたところで、当初の目的を思い出した彼女はキッチンへ立った。
  エディブルさん?
花・エディブル「そんな体じゃ料理なんて出来ないでしょ?」
  呼びかけると、包丁を向けて静止させられてしまう。
朝生 葉大「それもそうですね・・・」
花・エディブル「後、主催者さんには輸血用のパックと点滴をお願いしておきましたから」
  2人が意識を失っている間に用意の良いことだ。
  さすがに治療道具は出してもらえなかったようだが、死なないであろう人間を無下には放り出せなかったといったところか。
芹沢 鴨姫「何を作ってくれるのかなぁ?」
  そんなやりとりなど知らないといった様子で、出来てくる料理を楽しみにしている。
  そして出来上がったのは――。

〇広い厨房
花・エディブル「お待たせしました」
  そう言って提供されたのは、白。
芹沢 鴨姫「ほう、お粥か」
  鴨姫の言う通り、白飯をさらに水で炊いた料理。
  簡単と言ってしまえばそれまでだが、その一品を選んだ理由は手間以上のものだ。
芹沢 鴨姫「私の胃袋はそんなにヤワじゃないのだけれど、気遣いありがとう」
  足の傷とはいえ流血のため肉体は弱っている。
  そこを見越して用意してくれたことに、鴨姫は感謝の言葉を述べた。
花・エディブル「作れるものが対してないだけですよ」
花・エディブル「笑っても良いんですよ・・・!」
  ホメられてなるものかと、ふんっと鼻を鳴らす。
  しかし、思いやりを笑うなんてことはしない。
芹沢 鴨姫「いただきます」
  いつもと変わらない所作で、今回はスプーンを手にして食べ始める。
芹沢 鴨姫「ふぅ~ふぅ~」
  軽く吐息を吹きかけ冷ますと、静かに口の中へと流し込む。
  まだ熱さの残った粘性物を、ハフハフと舌の上で転がし、軽く噛み締めて飲み下した。
  そしてホゥと熱のこもった息を吹いて恍惚の表情を浮かべた。
芹沢 鴨姫「うん、私のことを良くわかっているんじゃないかというほどに調整された塩加減」
芹沢 鴨姫「私にどれほどの余力があるのかさえも計算しつくされた六分ほどの炊き具合」
  褒める褒める。
  染み渡る旨さと心遣いを、果たして誰が笑えるだろうか。
芹沢 鴨姫「認めたくないけど良妻賢母の器だよ、花ちゃんは」
花・エディブル「は?」
花・エディブル「はぁ~!?」
花・エディブル「何を言ってるんですかぁ・・・!!」
  2人はそんなよくわからない会話を始めた。
  聞かされるだけの身である葉大としては困るだけである。
花・エディブル「そりゃ、まぁ、盗み聞きするような人に負けるつもりはありませんけど・・・あ」
  恥ずかしさを紛らわすためか発した言葉が、隠していたようでしまったとばかりに目を泳がせた。
芹沢 鴨姫「申し訳ないとは思ったけれど、普通とは違う顔を見られて嬉しいよ」
  鴨姫は一矢報いたといった風だ。
花・エディブル「ふぅ・・・敵に回したくはない人ですね」
  気を取り直して言う花は、観念したかのように思えた。
芹沢 鴨姫「話してくれるね?」
芹沢 鴨姫「花ちゃんの特殊な記憶は、決定的な情報になるのだからね」
  こっちはわかっているぞとばかりに、笑顔ながらもジッと睨みを聞かせる。
朝生 葉大「特殊な記憶、ですか?」
  葉大は首をかしげて聞いた。
芹沢 鴨姫「印象的な事件があったのは確かだけど、さすがに覚えてい過ぎだと思わないかな?」
  またしても始まる推理ごっこ。
  言われてみれば、確かに一目見ただけの通りすがりの顔を覚えているのというのは不可解だった。
  何か薄っすらと聞き覚えがある。
朝生 葉大「瞬間的に見たものを記憶できるってヤツですか」
花・エディブル「えぇ・・・私の頭には克明にこれまでの記憶が残っています」
  あまり知られたくなかったらしく、わかりやすく表情を暗くしてポツポツと話し始める。
花・エディブル「芹沢さ――鴨姫さんが知りたいことって多分、皆さんがその日に履いていた靴ですよね?」
芹沢 鴨姫「正解っ」
  花の答えにサムズアップで喜びを表現する。
朝生 葉大「靴がどうしたんです?」
  理解できていないのは葉大だけだ。
芹沢 鴨姫「例の事件が捜査打ち切りになったのは、犯人がわからなかったからだよ」
  わかりきった話を繰り返す。
芹沢 鴨姫「なぜわからないのかというと、残された証拠が少なすぎたかありきたりすぎたかだ」
芹沢 鴨姫「正確な部分を抜かしているので伝わっていないかもしれないけど、暴行未遂殺人というのが正しい部分だね」
  重要なことをいまさらのように言い出す。
芹沢 鴨姫「そうなると大した証拠はなく、可能性があるとすれば足跡くらいだろうね」
朝生 葉大「なるほど、だから誰がどの靴を履いていたかが重要と」
朝生 葉大「エディブルさんが覚えていれば、犯人を特定できますね」
  得心いったと葉大は話を継ぐ。
  しかし、鴨姫からの採点は良くて半分正解。
芹沢 鴨姫「履いていた靴は重要だけど、犯人は特定できないのだよ」
芹沢 鴨姫「警察が捜査を打ち切ったのは、ありきたりな靴だったから特定できなかったという前提を忘れてもらっては困る」
  そこまで聞いて、また葉大の頭の上にはクエッションマークが浮かんだ。
  しかし、鴨姫の考えはその方向の真逆を行っていた。
芹沢 鴨姫「ありきたりな靴跡を証拠に出来ないのは法ゆえに、だよ」

次のエピソード:予約予備.事件の日とコンビニ弁当

コメント

  • 今回は花さんの料理シーン、葉大くんの姿も含めて新鮮な回ですね。中華粥あたりは近年人気ですが、やっぱりシンプルな白一色のお粥は身にも心にも優しいですよね。その一方でストーリー展開は鋭くなっていっていますね!

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