エピソード1(脚本)
〇草原
機械生物が闊歩(かっぽ)する世界、
メタリア。
彼らは“ギアーズ”と呼ばれ、その巨大な力で大地を支配していた。
人間はギアーズに怯(おび)える暮らしを余儀なくされた。
——しかし、中にはギアーズに立ち向かう勇敢な者たちがいた。
〇黒
彼らは集団でギアーズを狩り、ギアーズから資源や部品を回収して、人々の暮らしを支えていた。
人々は憧れと尊敬を含めて彼らをこう呼んだ
——"機械狩り(コレクター)"、と。
〇西洋の市場
ティムシール歴1605年サモタルの月 7月
ここメルザムは、世界最大の人口を誇る都市国家だ。
右を見ても左を見ても、多種多様な店舗が軒(のき)を連ねており、街は活気に満ち溢れている。
この地に、ひとりの少年が降り立った。
〇ヨーロッパの街並み
亜麻色(あまいろ)の薄汚れたマントに身を包んだその少年の名は、ニルといった。
マントはぶかぶかで裾(すそ)につきそうになっている。
隙間から見える右腕は、機械のような鎧でできていた。
ニル「すごいなあ・・・」
ニル「こんなに人がいるところ、初めて来たな」
見渡す限りの人の波に、ニルは思わず感嘆の声をあげる。
〇西洋の市場
——ザワザワ、ザワザワ
ニル「なんかクラクラしてきた」
門兵「旅人さん、ようこそメルザムへ!」
ニル「あ・・・どうも」
門兵「メルザムにはなにをしに? 観光? 買い物? それとも出稼ぎ?」
ニル「コレクター試験を受けにきました」
門兵「ハハハッ! コレクター試験! 冗談がお上手ですね!」
ニル「・・・えっ」
門兵「やはりコレクターには憧れますよね」
門兵「いや、気持ちはとても分かります。私も一度は、ギアーズたちを一刀両断してみたいものです」
ニル「いや、あの・・・」
門兵「・・・まさか、本気ですか?」
頷(うなず)いたニルを見た門兵は、眉をひそめた。
門兵「悪いことは言いません。生半可(なまはんか)な気持ちで挑むのは、やめておいたほうがいいですよ」
門兵「怪我(けが)で済めば、いいほうです」
ニル「はあ・・・」
門兵「試験ですらも、命の危険があります」
門兵「しかも合格するのは10人に1人・・・」
門兵「言い方は悪いですが、旅人さんのような線の細いかたには・・・」
ニル「・・・・・・」
ニル「まあ、落ちたらそのときはそのときで。 ご心配ありがとうございます」
去っていくニルの背中を見つめながら、門兵は呟(つぶや)いた。
門兵「・・・あれは、ダメだろうなあ」
〇西洋の城
ニル「・・・こんなに大きな建物も初めて見たな」
ニルの目の前には、天に突き刺さりそうなほど巨大な建物がそびえ立っていた。
門の上の看板には「ギルド=メタリカ」とある。
ギルドとは、商工業者の間で結成された職業別組合である。
ギルド=メタリカはコレクターを中心に結成され、ギアーズから採取できる機械資源“メタリアル”や、部品“パーツ”を取引するギルドだ。
コレクターはギルドから出される依頼をこなし生計をたてる。
コレクターとして活動するには、年に一度ギルド=メタリカが主催するコレクター試験に合格しなければならない。
〇西洋風の受付
ギルドの中に入ると、むわりとした独特の熱気がニルを包み込んだ。
ロビーはかなりの広さだ。酒場も兼ねていて、左手にはバーカウンターもある。
向かいから歩いてきた体格の良い男性を、身体(からだ)を横にして避け、ニルはまっすぐ受付へ向かった。
〇西洋風の受付
ニル「すみません、コレクター試験を受けたいんですけど」
ギルド職員「かしこまりました。 こちらの書類に記入をお願いします」
ニルはさらさらと記入を済ませる。
ニル「お願いします」
ギルド職員「・・・、・・・、ニルさんですね。 ありがとうございました」
ギルド職員「確認事項ですが、試験により負傷、または死亡した場合、当ギルドは一切の責任を負いません」
ギルド職員「よろしいですか?」
ニル「大丈夫です」
ギルド職員「それでは、待機場所まで案内いたします」
〇西洋風の受付
ギルド職員「こちらです。 お時間までお寛(くつろ)ぎくださいませ」
ニル「・・・・・・」
案内された先には、すでに百を超える受験者たちが集まっていた。
彼らはニルの方へ一瞥(いちべつ)をやると、すぐに興味がなさそうに視線を逸(そ)らす。
ニル(えらく殺伐(さつばつ)としているなあ)
窓際に移動し腰を下ろすと、数人の若者たちがニルに近づく。
先頭に立つ男が口を開いた。
エドガー「やあ。君も新顔だろ。 名前は?」
ニル「どうも・・・。 ニルだけど」
エドガー「僕はエドガー・アルベルト・ブッシュバウム」
エドガー「ブッシュバウム家の嫡男(ちゃくなん)だ」
ニル「へえ。 よろしく、エドガー?」
平然(へいぜん)としたニルの態度に、エドガーの周りの若者たちがどよめく。
エドガー「・・・君、ブッシュバウム家を知らないのか?」
ニル「ごめん、知らないや。 メルザムには今日来たばかりなんだ」
エドガー「はっ・・・同い年くらいのやつが来たからどこの出かと思えば・・・話にならないね」
エドガーはまじまじとニルを見つめる。
エドガー「よく見りゃ服装もボロいし・・・ というか君、武器は?」
ニル「・・・これだけど」
エドガー「はあああ? これ、ギルド支給の鉄剣じゃないか」
エドガーとその取り巻きたちが、憐(あわ)れみを含んだ目でニルを見る。
エドガー「僕の剣を見せてやろうか?」
ニル「え、いいよ・・・」
エドガー「遠慮するなよ。 ほら、見ろ!」
ニルの目の前に、いかにもという具合の絢爛(けんらん)豪華な一振(ひとふ)りが差し出される。
エドガー「こいつは特級ギアーズの部品(パーツ)でできてるんだ」
エドガー「この世で最も硬い鉱物と言われているバイナマイト鉱石より頑丈(がんじょう)で、それをメルザム屈指の名工に鍛えさせた産物だ」
ニル「へぇ〜。 すごいね」
ゴォーン ゴォーン
「!」
鐘の音が鳴り響き、ギルドの職員が奥の扉から出てきた。
ギルド職員「では、時間となりましたので、 ただ今よりコレクター試験会場へ移動します」
エドガー「・・・フン」
エドガー「それじゃ、精々(せいぜい)死なないようにね」
エドガー「いこう、みんな」
エドガーが合図すると、ぞろぞろ一行は去っていった。
ニル「都会には色んな人がいるなあ・・・」
ニル「さて、いよいよか。もし落ちたりしたらギルにめちゃくちゃバカにされる・・・」
〇草原
受験者は20人前後の組に分けられ、各試験会場へ移動した。
ニルのグループが向かったのは、“ラパークの森”。
メルザムからさほど離れていない場所に位置する森林地帯である。
ギアーズは生息しているが、ほとんどは攻撃性を持たないため、比較的安全な場所として知られている。
「この班の試験管を務める、上級コレクターのアイリ・バラーシュよ」
よく通る凛(りん)とした声が響いた。
姿を現したのは、プラチナブロンドの長髪を風になびかせたひとりの少女。
つり目がぱっちりもした瞳が印象的だ。
腰には二振りの剣が備わっている。
——ザワ
途端に周囲がざわつき始める。
ニルは不思議そうに首を捻(ひね)った。
ニル「・・・?」
「アイリって・・・あのアイリかよ」
「俺、本物初めて見たよ」
アイリ「静かに。試験が始まる前に落とすわよ」
鬱陶(うっとう)しそうにアイリが凄(すご)むと、ざわつきはすぐに静寂(せいじゃく)に変わった。
静かになった受験者たちをぐるりと見回すと、アイリは腰につけた袋からなにかを取り出す。
それはアイリの拳と同じくらいの大きさの、赤く光る物体だった。
アイリ「試験の説明を行うわ」
アイリ「合格条件はひとつ。 ラウルのコアを時間内に3つ集めること」
ニル(ラウル・・・“オオカミ型”か)
ラウルは狼に似た体躯(たいく)を持つが、大きさは通常のオオカミの約2倍だ。
もしもその牙に貫(つらぬ)かれることがあれば、決して無事では済まない。
凶暴性が高いのも相まって、ラウルによって命を落とした者も多い。
アイリ「ラパークの森には基本的に戦闘能力の低いギアーズしかいないけど、ラウルだけは別」
アイリ「ナメてたら死ぬから、気をつけて」
アイリ「制限時間は今日の日暮れまで。 その時点で3つ所持している者が合格よ」
アイリ「あらかじめ言っておくけど、受験者での奪い合い・殺し合いは禁止ね」
アイリ「じゃ、検討を祈ってるわ」
アイリ「——試験、開始!」
最後から2タップ目、「検討」ではなく「健闘」では?