〇黒背景
「う・・・」
「こ、ここは・・・？」

〇電脳空間
葛城大河「はっ!?」
葛城大河「な、なんだこれは・・・」
葛城大河「ここが、『デルタ』の中なのか・・・？」
　　そこにあったのは、どこまでも透明で透き通った世界だった
　　世界はどこまでも広がっていた
　　葛城は、自分が海に落とされた一滴の雫であるかのような感覚に陥った
　　自分は空間の一部にすぎず、気を抜けば空間と混ざり合って消えてしまいそうな気がした
葛城大河「これが、量子世界の内側なのか・・・」
葛城大河「”ダイビングマシン”は上手く起動したようだな」
葛城大河（唯、お前はよくやった）
　　葛城は周りを見渡した
葛城大河（才の姿は、見当たらない）
葛城大河（急がなければ、唯とノイマン教授が危ない）
葛城大河（才は、ここにいるはずなんだ）
　　葛城は、透明な地面の上を走り始めた
葛城大河（不思議な感覚だ）
葛城大河（走っていても、地面を踏みしめる感覚がない）
葛城大河（五感が全て奪われたみたいだ）
葛城大河（自分という存在がなんなのか、分からなくなりそうになる）
葛城大河（才はこんなところに閉じ込められていたのか）
葛城大河（今から助けてやるからな、才・・・!!）

〇電脳空間
葛城大河「くそっ、一体ここはどれだけ広いんだ!?」
葛城大河（走っても走っても、終わりが見えない）
葛城大河（才、お前はどこにいるんだ・・・!!）
　　その時、葛城の視界の隅に、何かが映った
　　透明な世界の中、葛城の視界に映った”それ”は鮮やかな紫色をしていた
葛城大河「才!!」
　　葛城が振り向くと、そこにはただ透明な世界が広がっているだけだった
葛城大河「才！近くにいるのか!?」
葛城大河「いるなら返事をしてくれ！」
　　返答はなかった
　　するとまた、葛城の視界の端に紫色のものが映った
　　今度は、髪の揺らめきまで見て取れた
葛城大河（間違いない、才だ!!）
　　葛城は、才を見た場所まで走っていった
　　そこに才はいなかった
　　しかしまた、葛城の視界に何かが映る
　　それは、才の横顔だった
　　才はこちらには気づかず、遠くの方へ歩いていく
葛城大河「才!!」
　　葛城の声は才には届いていないようだった
　　葛城は、才を目掛けて走り出した
葛城大河（あの日、あの瞬間、才は俺の目の前にいた）
葛城大河（なのに俺は、その体を掴むことが出来なかった!!）

〇黒
　　・・・私を見つけて、くず

〇電脳空間
葛城大河（今度こそ必ず、俺はお前を・・・！）
葛城大河「才!!」
　　才は何かに気づいたように、葛城の方を振り向いた
　　葛城は、才に向かって手を伸ばした
葛城大河「俺はもう、お前を離さない!!」
　　葛城が伸ばした手が、才の体に触れた
　　次の瞬間、葛城の手は才の体を通り抜けた
葛城大河（なっ!?）
　　体が宙に投げ出される
　　葛城は走った勢いで、透明な地面に倒れこんだ
葛城大河「くっ!!」
　　葛城は、急いで顔を上げた
葛城大河「才!!」
　　そこには、葛城の顔を不思議そうに覗き込む、猫元才の姿があった
　　葛城は、驚いた顔で才の顔を見つめた
　　葛城と才、二人の目が合った
猫元才「ふふっ、信じられないようなものでも見たような顔してる」
　　才は、微笑みながら言った
猫元才「見つけてくれたんだね、くず」

〇電脳空間
葛城大河「才・・・」
　　葛城は、倒れた体を起こして立ち上がった
　　そして、今度は慎重に、ゆっくりと手を伸ばす
　　しかし、葛城の手はやはり才の体をすり抜けた
猫元才「・・・ここにいるのは、私たちの意識」
猫元才「私たちの実体はここにはない」
猫元才「だから、触れることもできないみたいだね」
葛城大河「・・・そうか」
葛城大河「・・・お前は才なんだな？」
猫元才「そうだよ。私がオリジナルの”猫元才”」
猫元才「”デルタ”に体を奪われ、意識だけがここに閉じ込められている」
猫元才「それが、今の私」
葛城大河「そうか。そうなんだな」
葛城大河「・・・聞きたいことは山ほどあるが、今はそれどころじゃないんだ」
葛城大河「唯と教授が危ない。お前の姿をした”デルタ”が襲い掛かってきて・・・」
猫元才「うん。全部わかってる」
猫元才「でも、大丈夫」
猫元才「現実世界の一年でさえ、ここでは一秒にも満たないから」
葛城大河「そうなのか!?」
猫元才「うん」
猫元才「私は、ここからすべてを見ていた」
猫元才「教授が、唯ちゃんが、そしてくずが、全力を尽くして私を探してくれたのも知ってる」
猫元才「だからまずは、お礼を言わせて」
猫元才「私を見つけてくれて、ありがとう」
葛城大河「・・・・・・」
葛城大河「俺は一度、お前を目の前で失ってしまった」
葛城大河「もう、あんなことにはさせない」
猫元才「・・・頼りになるね、くずは」
葛城大河「俺なんて、まだまだだ」
葛城大河「お前の方が・・・」
猫元才「でも、私を見つけてくれた」
猫元才「・・・いろいろと気になっているところだとは思うけど」
猫元才「話は、全てが終わってからにしようか」
葛城大河「ああ。そうだな」
葛城大河「才。ここから脱出し、”デルタ”を止めるにはどうしたらいい」
猫元才「考えはある」
猫元才「・・・というか、これしかないと思う」
葛城大河「どうするんだ」
猫元才「・・・・・・」
猫元才「量子コンピューター『デルタ』を、破壊する」