7話【告白】(脚本)
〇部屋のベッド
時間を少し遡り、美琴が崇矢宅を訪れる数時間前。
美琴は六車とのスマホを介した定期連絡を行っていた。
六車「ならもう住所はわかっているんだな?」
六車は、相変わらず変成器で加工された声で美琴に語りかける。
柊美琴「はい・・・尾行して調べましたから」
柊美琴「部屋番号も把握済みです・・・」
六車「そうか!そうか!俺が教える前に調べるとは、大した女だなぁ」
柊美琴「え?それって、知ってたって事ですか?なんであなたがそんな事を・・・」
六車「お前が知る必要があるか?前にも言ったはずだ!」
六車「お前は俺が出された指示をただ遂行していればいいんだ!妙な詮索はするな!」
柊美琴「す、すいません・・・」
六車「住所が分かってるんなら、さっさと突撃してこい!」
柊美琴「で、でも・・・」
六車「なんだ?なんか問題あるか?」
柊美琴「部屋に・・・鳥丸が居たら・・・」
六車「安心しろ。今部屋には加賀美しか居ない」
柊美琴「え?」
六車「鳥丸崇矢は今バイト先に居る!調べてあるから心配するな・・・」
柊美琴(調べてあるって・・・)
柊美琴(こいつ一体何者?)
柊美琴「・・・・・・」
六車「まだ疑ってんのか?それならお前の親父狩りの秘密を公に」
柊美琴「違います!違います!すいません!」
柊美琴「あなたを疑ったりしてませんから!ですから、どうかあの話だけは!」
六車「なら信じて住所に向かえ!いいな?」
柊美琴「・・・・・・」
柊美琴「はい・・・分かりました・・・」
〇高級マンションの一室
加賀美天馬「・・・・・・」
柊美琴「天馬くん・・・」
加賀美天馬「は、はい・・・」
柊美琴「私はね・・・心から天馬くんを愛してる・・」
加賀美天馬「・・・・・・」
柊美琴「この前は申し訳ない事をしちゃった・・・」
柊美琴「そう・・・思ってる」
加賀美天馬「美琴さん・・・」
柊美琴「でもこれだけは分かってほしい・・・」
柊美琴「別に天馬くんを怖がらせたかったわけじゃないの・・・」
柊美琴「ただ・・・私ってね・・・」
柊美琴「昔から、人を好きになっちゃうと、周りが見えなくなっちゃうの・・・」
加賀美天馬「・・・・・・」
柊美琴「自分の気持ちをを伝えたい・・・」
柊美琴「どんなに好きか知ってほしい・・・」
柊美琴「私の愛を受け入れてほしい・・・」
柊美琴「そう想えば想うほどに、相手を無視して暴走しちゃうんだ・・・」
柊美琴「だからこの前みたいな事・・・本当にごめんなさい・・・」
加賀美天馬「美琴さん・・・」
柊美琴「お友達の鳥丸さんにも悪い事をした・・・」
柊美琴「でも、天馬を好きって私の気持ちには嘘はない・・・」
加賀美天馬「・・・・・・」
柊美琴「天馬くん・・・アレ・・・持ってる?」
加賀美天馬「あ、アレ?アレって・・・」
柊美琴「ううん・・・持ってなくたっていい・・・」
柊美琴「私・・・天馬くんと・・・ひとつになりたい」
そういうと美琴は、一目散にキッチンに向かって走り出した!
加賀美天馬「ちょ!美琴さん!まって!」
〇おしゃれなキッチン
加賀美天馬「美琴さん!キッチンなんかに来て何を・・・」
美琴は手に包丁を握りしめていた。
加賀美天馬「美琴さん・・・包丁なんて・・・」
柊美琴「私ね・・・」
柊美琴「好きな人を包丁で刺した後に、無理矢理エ○チするのが好きなの・・・」
柊美琴「たまらなく好きなの・・・」
加賀美天馬「な、なにを馬鹿な事言ってるんですか!」
柊美琴「ホラ見て・・・」
柊美琴「天馬くんの血を想像しただけで・・・」
柊美琴「はぁ・・・はぁ・・・」
柊美琴「こんなに濡れちゃった・・・」
加賀美天馬「何を馬鹿な事・・・」
実際の話、美琴にそんな性癖など無く、これは六車からの『恐怖を与えろ』という指示を遂行する為
美琴が作り出した『架空の性癖』
しかしそんな美琴の事情など知る由もない天馬にとって、目の前の状況は、恐怖以外の何者でもない。
柊美琴「私はね・・・天馬くんを愛してる」
柊美琴「だから・・・血を見せて・・・」
加賀美天馬「やめてください!美琴さん!」
天馬は今日のあまりに逃げ出す。
〇高級マンションの一室
加賀美天馬「やめてくれ!美琴さん!」
柊美琴「なんで私を拒絶するの?」
柊美琴「私はこんなに・・・天馬くんの事を愛してるのに!大好きなのに!」
加賀美天馬「いや・・・だって・・・血なんて・・・」
柊美琴「天馬くんの血を見たいの!」
加賀美天馬「やめてくれぇ!」
その時──
柊美琴「ぐ・・・」
美琴は何者かに蹴り飛ばされてしまう。
加賀美天馬「あ・・・」
天馬は驚きを隠せなかった。
それもその筈だ。
美琴を蹴り飛ばさした人物は、午後からもバイトをしなければならなくなったと言っていた
崇矢だったからだ。
鳥丸崇矢「大丈夫か!天馬!怪我はねぇか!」
加賀美天馬「何で崇矢が居るの?バイトは・・・」
鳥丸崇矢「んな事より、コイツだ!」
柊美琴「またアンタ・・・」
柊美琴「何で・・・仕事中のはずでしょ・・・」
鳥丸崇矢「あ?何でそんな事をお前が知ってる?」
柊美琴「うるさい!うるさい!うるさい!」
柊美琴「アンタのせいで・・・計画が台無しじゃない!どうしてくれるのよ!」
加賀美天馬「け、計画?」
鳥丸崇矢「はぁ?何訳の分からねぇ事言ってんだ!」
柊美琴「もう私は・・・引き返せないの・・・」
柊美琴「邪魔しないで!」
美琴は包丁を握りしめて向かってくる
加賀美天馬「美琴さん!やめてくれ!」
鳥丸崇矢「天馬!危ない!」
その時──
美琴の包丁が崇矢の脇腹を掠めた。
鳥丸崇矢「うぐ・・・」
崇矢は脇腹を手で押さえながら、その場にうずくまる
加賀美天馬「崇矢ぁぁぁ!」
柊美琴「あ・・・・・・」
加賀美天馬「崇矢!大丈夫?崇矢!」
崇矢は天馬の問いに、ただただ唸り声を上げるしか出来なかった。
加賀美天馬「美琴さん!あんた自分で何やったのか分かってるんですか!明らかな殺人未遂ですよ!」
柊美琴「私は・・・悪くない・・・」
柊美琴「そいつか・・・邪魔・・・するから」
柊美琴「私は・・・」
柊美琴「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
精神錯乱となった美琴は、一目散にその場から逃げ出した。
加賀美天馬「ま、待て!逃げるな!」
鳥丸崇矢「ま・・・待て!お・・・追うな!」
美琴を追おうとする天馬を崇矢が静止する
加賀美天馬「崇矢!大丈夫?」
鳥丸崇矢「あ、あぁ・・・カスっただけだよ・・・致命傷じゃない・・・」
加賀美天馬「すぐ救急車呼ぶからね?」
鳥丸崇矢「ははは・・・悪いな・・・」
程なくして、天馬の電話により、救急車が駆けつけた。
〇病院の診察室
崇矢の傷は思いのほか浅く、4針縫う程度で済んだ。
また、警察に通報するべきだ!という天馬の提案を崇矢は断った
逆上して人を刺すような人間だから、警察に通報された報復に、またやってくるかもしれない!と
崇矢の言い分には納得できなかった天馬だったが、ここは堪えた。
崇矢が無事だったのだからそれで構わない
天馬と崇矢はその日のうちに自宅に帰る事が出来た。
〇男の子の一人部屋
加賀美天馬「今日はゆっくり寝てなよ?」
加賀美天馬「病院の先生からも安静にしてな!って言われたんだから!」
鳥丸崇矢「あ、あぁ・・・」
加賀美天馬「もう!何であんな危ない事したんだよ!」
加賀美天馬「美琴さんは包丁持ってたんだよ?」
鳥丸崇矢「・・・・・・」
加賀美天馬「崇矢が死んじゃわないかって、すげぇ不安だったんだから!」
鳥丸崇矢「天馬!」
崇矢は天馬に優しく口づけをする
加賀美天馬「つ・・・・・・」
鳥丸崇矢「・・・・・・」
加賀美天馬「ど、どうしたんだよ・・・急に・・・」
鳥丸崇矢「俺さ・・・」
鳥丸崇矢「ガキん頃からずっと・・・」
鳥丸崇矢「天馬の事が好きだったんだ・・・」
加賀美天馬「え・・・」
鳥丸崇矢「好きなやつに危険が迫ってる!って考えたらさ・・・」
鳥丸崇矢「なんつーか、体がさ、勝手にに動いちまったんだよ・・・」
加賀美天馬「崇矢・・・」
鳥丸崇矢「気持ち悪いよな・・・男同士なのに・・・」
加賀美天馬「崇矢!」
崇矢の告白を聞いた天馬は、瞳にうっすらと涙を浮かべながら抱きつく。
加賀美天馬「嬉しいよ・・・崇矢・・・」
鳥丸崇矢「気持ち悪くねぇのか?男だぜ?俺は・・・」
加賀美天馬「ううん・・・気持ち悪くなんか無いよ!」
加賀美天馬「すげぇ嬉しいよ!崇矢!」
鳥丸崇矢「天馬・・・」
加賀美天馬「好きだよ・・・崇矢・・・」
鳥丸崇矢「え・・・」
加賀美天馬「何驚いてんだよ!」
加賀美天馬「その・・・付き合おうって・・・事だろ?」
鳥丸崇矢「じゃあ・・・天馬・・・」
加賀美天馬「その・・・付き合おうよ!」
鳥丸崇矢「マジで!!」
崇矢は嬉しさのあまり、ベッドからとび起きる
鳥丸崇矢「あっつぅ・・・」
しかし、今朝縫ったばかりの傷がズキっと痛む
加賀美天馬「コラコラ!そんなに動かない!」
加賀美天馬「安静にしてなってば!」
鳥丸崇矢「天馬・・・俺・・・もう・・・」
崇矢はベッドに天馬を寝かせると、天馬の上に覆いかぶさる。
加賀美天馬「ちょ!崇矢!」
鳥丸崇矢「嫌か?」
加賀美天馬「いや、そうじゃなくて・・・」
加賀美天馬「今朝傷を縫ったばかりだし・・・」
加賀美天馬「その・・・抜糸だって終わってないんだし」
鳥丸崇矢「俺の傷・・・心配してくれてんのか?」
鳥丸崇矢「優しいな・・・天馬・・・」
加賀美天馬「バ・・・バカ!優しいのは崇矢だよ!」
加賀美天馬「こんな傷を負ってまで俺を護ってくれた!」
加賀美天馬「好きだよ・・・崇矢・・・」
鳥丸崇矢「俺もだ・・・天馬・・・」
鳥丸崇矢「嬉しいよ・・・」
天馬と崇矢は口づけを交わし──
崇矢は天馬を抱いた。
〇男の子の一人部屋
寝静まった深夜。
天馬は崇矢の隣でスヤスヤと眠る。
そんな天馬の寝顔を、優しく見守る崇矢。
鳥丸崇矢「天馬・・・」
鳥丸崇矢「ちょっと出かけてくるな・・・」
鳥丸崇矢「すぐ戻るからな・・・」
崇矢は天馬のオデコにキスをすると、クローゼットからバッグを取り出し、何処かへ向かった。
〇マンション前の大通り
〇ゆるやかな坂道
〇公園のベンチ
〇コンビニ
鳥丸崇矢「・・・・・・」
鳥丸崇矢「・・・・・・」
〇開けた交差点
美琴は自分がやった罪の重さに押しつぶされそうになっていた。
柊美琴(私・・・なんて事を・・・)
柊美琴(鳥丸・・・死んだかな・・・)
その時──
美琴に『非通知』からの着信が入る。
柊美琴「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
柊美琴「六車だ・・・」
美琴は恐る恐る電話にでる。
〇開けた交差点
柊美琴「も・・・もしもし」
六車「よぅ!美琴ちゃん!」
柊美琴「あの・・・私・・・」
六車「よくやってくれた!感謝するよ!」
柊美琴「え・・・」
柊美琴「それは・・・どういう・・・」
六車「お前の仕事は終わりって事だよ!」
柊美琴「で、でも私・・・鳥丸を・・・」
六車「アイツは死んでねぇよ!」
柊美琴「し、死んで無い?生きてるんですか?」
六車「ああ!生きてるよ!」
六車「意外に傷が浅かったらしくてなぁ、数針縫うだけで済んだらしい!」
柊美琴「よ、よかったぁ・・・」
六車「ふはははは!殺人犯にならずに済んで良かったなぁ!」
柊美琴「でも・・・また電話してきたって事は新たな指示なんですよね?」
柊美琴「次は何を・・・」
六車「いや、もう終わりだよ・・・」
柊美琴「終わり!じゃあ、もうやらなくていいんですか?」
六車「何だ?随分と嬉しそうじゃねぇか・・・」
柊美琴「いや、そういう訳じゃ・・・」
六車「まあ、お前が嫌々やってたってのは分かってるからよ」
六車「そんなに言わねぇでおいてやるか!ふはは!」
柊美琴「じゃあ、もう・・・」
六車「そういう事だ!俺とお前の関係も、この電話をもって、完全に終わりだよ!」
柊美琴(よかったぁ・・・)
六車「じゃあな!達者でな!」
柊美琴「あ!待ってください!」
六車「何だ?またあんのか?」
柊美琴「その・・・約束は果たしたんですから」
柊美琴「その・・・あの話は・・・」
六車「ああ!そうだったなぁ!」
六車「お前がマッチングアプリでオヤジ引っ掛けて、金騙し取った話を、黙っといてやるって話だったなぁ」
柊美琴「・・・・・・」
六車「心配するな・・・」
六車「お前は約束を果たしからなぁ、今度はこっちの番だ・・・」
柊美琴「じゃあ・・・」
六車「ああ!安心しろ!黙っといてやる!」
柊美琴「あ、ありがとうございます・・・」
六車「じゃあな!元気でな!あばよ!」
六車との通話は終了した。
それは同時に、美琴の辛く苦しい日々の終わりでもあった。
柊美琴(よかった・・・)
柊美琴(これで安心して眠れる・・・)
柊美琴(もう・・・終わったんだ・・・)
それから数日間──
毎日のようにかかっていた、六車からの着信がパタリとやんだ。