エピソード5(脚本)
〇壁
翌朝、私はテーブルに突っ伏して寝ていたことを携帯電話の着信で理解します。
「あ、はい。もしもし・・・」
私は駆け出していました。
駅前まで来るとタクシー乗り場に並ぶ列に加わりました。
もどかしい時間が過ぎます。
ほんの10分ぐらいの待ち時間が永遠にも続くような気持ちになり、焦燥感に襲われます。
やっと私の番になると矢継ぎ早に行き先を告げました。
『私』「総合病院までお願いします!!」
〇病室のベッド
総合病院の一室に夫は横たわっていました。
ちょうど通りがかったお医者さんにたまらず聞きます。
『私』「『夫』さんに何があったんですか・・・?」
医者「ああ、あなた『夫』さんの奥さん? うん、今朝様子がおかしいと運ばれてきたんだが、外傷もなく検査にも問題がなく、」
医者「今は点滴と呼吸器をつける措置を取っている」
『私』「あの、どういうことなのでしょうか?」
医者「原因不明の病、ドリーマー病とも呼ばれてはいるんだけど。それが一番近いかな」
お医者さんの半ば諦めているような言葉は私の心を突き刺しました。
ひょっとするともう二度と目覚めることはないのかもという絶望感に満たされます。
〇壁
入院に必要なものを取りに家に帰る途中、勤め先のスーパーから連絡がありました。
そういえば、今日はパートの日でした。
夫のことですっかり忘れてしまっていて、休む連絡もしていなかったので、連絡をくれたのでしょう。
怒られる覚悟で電話を取ります。
店長「もしもし? 『私』さん、今日シフト入ってたよね? 今日は来なくていいから」
店長の声色に怒気が含まれている気がして尻すぼみになってしまいます。
『私』「あの、もしかして、クビでしょうか・・・?」
店長「違う違う。どこから話したもんかなぁ・・・」
小泉さんがスーパーで高熱を出して倒れたみたいでした。
運び込まれた病院から感染症の疑いもあるからと、忠告を受け、
今日はお店自体を休みにしたという連絡でした。
店長「ちょっと、まだ次のシフトとかが決まりそうにないんだよなぁ。また連絡するから」
『私』「はい、よろしくお願いしま──」
店長「なんだって!!!?」
『私』「ど、どうされたんですか??」
もう連絡は済んだのかと思っていたところに耳が痛くなるほどの大声が聞こえてきて驚きました。
かと思うと、別人のような静かな声で店長は告げました。
店長「・・・小泉さん、さっき病院で亡くなられたそうだ。急性心不全だったらしい。感染症の疑いはなくなったが・・・うーん・・・」
店長「とりあえず、今日は休みだから」
と言って、店長は一方的に電話を切りました。
なにがなんだかわからず。
まず携帯電話をしまおうとポケットに手を入れると硬い手応えが。
『私』「どうして・・・?」
あの綺麗な石がポケットに入っていました。