財布を落としただけなのに

×××

6話【共同生活】(脚本)

財布を落としただけなのに

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〇高級マンションの一室
  崇矢の暮らす部屋は、大学生が暮らすには不釣り合いなほどに広く、豪華な造りだった。
  家族4人が暮らしても、窮屈を感じる事なく暮らせそうだ。
加賀美天馬「ひぁー!広いね!立派な家だなぁ」
鳥丸崇矢「一人暮らしには勿体ない広さだったからさ、天馬が来てくれてちょうどよかったよ!」
加賀美天馬「でも大学生なのに、よくこんな立派な部屋が借りられたね?」
加賀美天馬「敷金礼金だけで、とんでもない金額になりそうだけど・・・」
鳥丸崇矢「実はここは親の所有物件でよ」
加賀美天馬「あっ!そっか!確か崇矢の両親って会社やってるんだったよね!」
鳥丸崇矢「まぁ、相変わらず小さな会社だけどな」
加賀美天馬「コラコラ!会社やってるってだけで凄いよ!」
鳥丸崇矢「俺は自分で借りるって断ったんだけどさ」
鳥丸崇矢「色々トラブルとかあるだろうからって、無理矢理に入居させられたんだ」
加賀美天馬「でも、なんか俺の家と比べると劣等感が・・」
鳥丸崇矢「なんでだよ!」
加賀美天馬「いや、こうも部屋が凄いとさ・・・」
加賀美天馬「俺の部屋が見すぼらしく思えてくるというか」
鳥丸崇矢「俺なんて親が敷いたレールの上を、ただ歩かされてるだけだよ」
鳥丸崇矢「俺からしてみれば天馬の方が羨ましいよ」
加賀美天馬「え?」
鳥丸崇矢「自分の道を自分の意思で歩いてる」
鳥丸崇矢「すげー羨ましいし、輝いて見えるよ」
加賀美天馬「そ、そんな事ないって・・・」
鳥丸崇矢「まぁ、相変わらず危機管理能力はダメダメだけどな!」
加賀美天馬「ホラ!またそうやってバカにする!」
加賀美天馬「すぐコレなんだから!」
鳥丸崇矢「いつもの冗談だろ!そんな怒んなよ!」
加賀美天馬「まったく!」

〇高級マンションの一室
鳥丸崇矢「じゃあ、そろそろ飯にするか?」
加賀美天馬「あっ!もうそんな時間かぁ!」
  天馬が時計を確認すると、すでに午後20時を過ぎたあたりだった。
加賀美天馬「どっかに食べに行く?」
鳥丸崇矢「バカ!俺が作るんだよ!」
加賀美天馬「えぇ?崇矢って料理出来たっけ?」
鳥丸崇矢「声デケェよ!そんなに驚くトコか?」
鳥丸崇矢「失敬なヤツだな・・・」
加賀美天馬「ご、ごめん、そういう意味じゃなくて」
鳥丸崇矢「今は男女関係なく台所に立つ時代だぜ!」
鳥丸崇矢「男だろうが、料理くらい出来ねぇとな!」
加賀美天馬「うぅ・・・耳が痛いよ・・・」
鳥丸崇矢「はははは!まぁ、ゆっくりしてろよ!ちゃっちゃと作ってやるから!」
加賀美天馬「うん!ありがと!」

〇高級マンションの一室
  天馬は崇矢が晩御飯の支度をしている間、昔のことを思い出していた。
加賀美天馬「崇矢は凄いなぁ!」
加賀美天馬「俺に無いものをいっぱい持ってる!」
加賀美天馬「昔からそうだったなぁ・・・」

〇学生の一人部屋
  ──小学生の頃──
加賀美天馬「わぁ!それ最新のゲームじゃん!」
鳥丸崇矢「天馬とやりたくてさぁ!やらずに待ってたんだ!」
加賀美天馬「なら早くやろうよ!ね?早く!早く!」
鳥丸崇矢「焦んなって!ゲームは逃げねぇから!」
鳥丸崇矢「子供みたいにはしゃぐなよ!」
加賀美天馬「あ!また馬鹿にした!」
鳥丸崇矢「あははは!実際に子供だろ!」

〇公園のベンチ
  ──中学生の頃──
加賀美天馬「ちょっと・・・待ってよ崇矢・・・」
加賀美天馬「早いよ・・・」
鳥丸崇矢「何言ってんだよ!これで早いなんて言ってたら」
鳥丸崇矢「マラソン大会で完走できねぇぞ!」
加賀美天馬「だってぇ・・・」
鳥丸崇矢「一緒に完走しようって約束したろ?」
鳥丸崇矢「俺が一緒に特訓してやっからさ!」
鳥丸崇矢「頑張ろうぜ!な?」
加賀美天馬「崇矢・・・」
鳥丸崇矢「大丈夫!天馬なら出来るって!」
加賀美天馬「うん!俺頑張るよ!」
鳥丸崇矢「そうだよ!その意気だ!」
鳥丸崇矢「て事で、あと1時間走り込みだ!」
加賀美天馬「そんなぁ・・・」

〇教室
  ──高校生の頃──
女子生徒「うっそ!鳥丸くんって、今まで女の子と付き合った事ないの?」
鳥丸崇矢「・・・・・・」
加賀美天馬「そうなんだよ!」
加賀美天馬「勿体無いと思わない?崇矢はこんなにカッコいいのにさ!」
女子生徒「ほんとそれ!」
鳥丸崇矢「興味がねぇんだよ。男女の恋愛に・・・」
加賀美天馬「勿体無いよ!崇矢がその気になればモテまくり間違いなしなのにさ!」
女子生徒「じゃあ好きな人とかは居ないの?」
鳥丸崇矢「・・・・・・」
女子生徒「なんで加賀美くん見てるの?」
加賀美天馬「どうせあれだよ!」
加賀美天馬「こいつだって彼女いねぇぞ」
加賀美天馬「って言いたいんだよ!」
加賀美天馬「悪かったね!崇矢みたいにカッコ良くなくて!」
鳥丸崇矢「そんな事ねぇよ。天馬は・・・」
女子生徒「天馬は?なに?なに?」
鳥丸崇矢「何でもねぇよ・・・」
加賀美天馬「何ソレ!変なの・・・」
鳥丸崇矢「・・・・・・」

〇勉強机のある部屋
鳥丸崇矢「天馬・・・泣くなよ・・・」
加賀美天馬「だって・・・「涼風さん」は、初めてできた彼女だったんだよ?」
加賀美天馬「それなのに・・・付き合った次の日に、交通事故で死ぬなんて・・・」
加賀美天馬「そんなの無いよ・・・」
鳥丸崇矢「天馬・・・」
鳥丸崇矢「気持ちはわかるけどさ。あれは不慮の事故だったんだ・・・」
鳥丸崇矢「お前がそんなにメソメソしてちゃ、天国に居る涼風さんが悲しむぞ?」
加賀美天馬「だって・・・」
鳥丸崇矢「分かったよ天馬・・・」
鳥丸崇矢「今日は思う存分泣けばいいよ・・・」
鳥丸崇矢「俺が側に居てやるからさ!な?」
加賀美天馬「うぅ・・・」
加賀美天馬「っ・・・、ぅ・・・、」
鳥丸崇矢「・・・・・・」

〇高級マンションの一室
加賀美天馬「崇矢って未だに女の子と付き合った事がないなんて勿体無いよなぁ」
加賀美天馬「崇矢は俺なんかとは違ってイケメンで、スポーツ万能で、こんな立派な家に住んでて」
加賀美天馬「マイナス要素なんて無いのに・・・」
鳥丸崇矢「何がマイナスだって?」
加賀美天馬「うわぁ!びっくりしたぁ!いきなり声かけないでよ!」
鳥丸崇矢「ははは!悪い!悪い!」
鳥丸崇矢「で?何がマイナスなんだ?」
加賀美天馬「いや、別に何でもないよ!独り言だよ!独り言!」
鳥丸崇矢「どうせ俺の悪口言ってたんだろ?」
加賀美天馬「崇矢の悪口なんて言った事ないよ!」
鳥丸崇矢「そんなムキになんなって!いつもの冗談だろ?」
加賀美天馬「まったく!」
鳥丸崇矢「それよりホレ!出来たぜ!」
  崇矢は手慣れたように、出来上がった料理をテーブルに並べる。
加賀美天馬「わぁ!すげぇ!店で出る料理みたい!」
鳥丸崇矢「大袈裟だろwww」
加賀美天馬「いや凄いよ!天才じゃん!」
鳥丸崇矢「バーカ!スープだってインスタントだし、豆腐だって切るだけだぜ?」
鳥丸崇矢「まぁ、天馬からしたら、手の込んだ料理に思えるかもだけどな」
加賀美天馬「言い返したいのに、言い返せないのが、なんとももどかしい・・・」
鳥丸崇矢「はははは!まぁ俺は慣れてるだけだよ!」
鳥丸崇矢「さぁ!冷めねぇウチに食おうぜ!」
加賀美天馬「うん!いただきます!」

〇高級マンションの一室
  それから数日間崇矢の家での共同生活は続いた。
  最初は一泊だけするつもりだった天馬であったが、今すぐに自宅に戻れば、また美琴に狙われかねない。
  天馬の事を心配した崇矢からの提案によりしばらく厄介になる事にしていた。
  あれ以来、美琴からのLIMEもパタリと止み、天馬こんな生活がずっと続けばいいのにと束の間の平穏を満喫していた。
  しかし、同時にどことなく寂しげな表情をしていた。
  それは、一緒に昼食を食べに行くと約束していた崇矢から直前に電話連絡があり
  午後からもバイトをしなければならなくなった為、行けなくなったと言われてしまったからだ。
  仕事だから仕方ないとはいえ、楽しみにしていた天馬はだいぶショックを受けているようだ。
加賀美天馬「もー!なんだよ!楽しみにしてたのに!」
加賀美天馬「でも、バイトなら仕方ないよなぁ」
加賀美天馬「はぁ〜、なんかこの部屋無駄に広いから一人だと虚無感がすごいなぁ〜」
加賀美天馬「崇矢、はやく帰ってこないかなぁ〜」
  天馬がつまらなさそうにしていると──
  インターフォンが鳴り響く。
加賀美天馬「あれ?崇矢かな?ずいぶん早いなぁ」
加賀美天馬「もっと、遅くなるって聞いてたけど・・・」
加賀美天馬「崇矢ったら鍵持って行かなかったのかなあ?」

〇飾りの多い玄関
加賀美天馬「もう、そんなに鳴らさなくったって開けるから!」
加賀美天馬「鍵くらい持って行けよなぁ・・・」
  天馬は呆れた様子でドアを開ける。

〇玄関の外
加賀美天馬「もう崇矢!きちんと鍵を」
  天馬の言葉はそこで止まった
加賀美天馬「・・・・・・」
  いや正確には『喋れなくなってしまった』という方が正しいだろう。
  ドアを開けて、目の前に居たのは崇矢ではなく
  美琴だったからだ。
柊美琴「や♫天馬くん♫久しぶり♫」
加賀美天馬「み、美琴さん?なんで?」
  天馬は予想外の出来事で目の前が真っ暗になる感覚に苛まれていた。
柊美琴「あれ?お友達は?えーっと崇矢さんだったっけ?」
柊美琴「彼は居ないのかな?留守?天馬くん一人?」
  天馬の問いなどお構いなしと言った様子で、美琴は自分の話をする。
  ここで崇矢が留守だと正直に話してしまえば、美琴に何をされるか分かったものでないと。
  天馬は思考を巡らせ──
加賀美天馬「あっ、えっと、今風呂に・・・」
  しかしそんな嘘は美琴に通用していなかったようで
柊美琴「もー!嘘ばっかり!崇矢さんはお仕事中でしょ?天馬くんのウソツキ!バレバレだよ!」
  天馬は返す言葉がなかった。
  早く帰ってくれと内心ヒヤヒヤしていたが、そんな気持ちは美琴には通じておらず
柊美琴「ちょっとお邪魔させてもらうね!お邪魔ましまぁす♫」
加賀美天馬「ちょ、美琴!なにを勝手に!」
  美琴は天馬の静止を振り切り、ズケズケと部屋の中へ入っていく。

〇高級マンションの一室
柊美琴「へぇ、立派なお部屋!素敵ねぇ。もしかして彼ってお金持ちなの?」
  美琴はまるで自分の部屋だと言わんばかりに、ソファに座り天馬に微笑む。
加賀美天馬「ちょっと美琴さん!帰ってくださいよ!お願いですから!」
柊美琴「もぅ天馬くんったら、敬語なんてよそよそしいんだから!」
柊美琴「恋人なんだから敬語なんて使う必要ないじゃん!タメ語で話そうよ!ね?」
  今の美琴は以前部屋に突撃して来た時よりも、さらに暴走している。
  今はどんな言葉を投げかけたところで、意味をなさないと判断した天馬は
  美琴に言われるがまま、ソファに腰を下ろす。
柊美琴「じゃあお話ししましょうか♫」
柊美琴「邪魔者は誰一人居ないわけだし!ね?」
加賀美天馬「・・・・・・」
  天馬は心の中で──
加賀美天馬(崇矢!お願い!早く帰ってきてくれ・・・)
  と祈る事しか出来なかった。

次のエピソード:7話【告白】

コメント

  • 臨場感溢れる恐怖に包まれています。エスカレート具合が現実感があるので、リアルに引き込まれています。

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