GoToフェス!(2)(脚本)
〇荒廃した教会
荒ぶるヒナ「がるるるる!がるるるる!」
根室「すまないが人の言葉を喋ってくれないかな?」
トラ「おいヒナ、とっとと人間に戻れ」
ヒナ「なんでえなんでえさっきから、どいつもこいつも馬鹿の一つ覚えみたいに自由自由って。お教か!」
ヒナ「なんか、お前らの自由って気味悪いんだよ」
根室「そうそう。そういうクエスチョンが大事なんだ」
根室「じゃあ逆に聞くけど気味のいい自由とは何だい?」
ヒナ「そ、そんなの分かんねえけど・・・」
ヒナ「とにかくそっちの言ってる自由とバロンの言ってる自由は、なんかが違うんだ」
根室「そうか。ではバロン吉宗に直接聞いてみようじゃないか。どちらの自由がより自由か」
トラ「自由決戦ですね!こいつは凄いや!」
デンキ「根室先生とバロン、勝った方が一番自由な自由王だ!」
ヒナ「お前らちょっとアホになってきてないか?」
根室「もののたとえだよ。ユーモアと言ってくれたまえ」
根室「ともあれバロンに会おう。桜子君、討論の勉強だ。ついてきたまえ」
桜子「分かりました」
執事「ここにいらっしゃいましたか、お嬢様!」
執事「女学校にも出席せずあろうことか貧民窟に出入りしているとは。義孝様が生きておられたら何と仰られるか」
桜子「概ね想像はつきますが『だから何です?』と言い返しましょう」
根室「桜子君は書を捨て町に出る時が来たのだ。女学校では学べないものを手に入れる為」
執事「学ぶ事は大変宜しい」
執事「ですが染まるべきではありません」
桜子「どういう意味?」
執事「随分とお屋敷に戻って来られぬ日々が続いております」
執事「私どもは今、何の為に掃除をし、誰の為に料理を作っているのかお伺いしたい」
桜子「根室さんとはあなた方が思っているような関係ではありません!」
根室「下らん邪推はやめたまえ。僕達は男女を越えた同志なんだ」
「ははは。インテリの常套句だね」
「そして時を待たず愛欲の沼に溺れてゆく。理性という学問と欲望というアートを都合よく使い分けて。全く新時代の若者は御しがたい」
桜子「叔父様・・・」
実朝「なんて、今流行のモボモガ風に説教してみたけど。届いたかな?」
実朝「まあようは、絆や団結も結構だが、一人になって冷静に考える時間も重要という話だ」
実朝「より妄念が強まる危険もあるがね」
桜子「私は父とは違います。妄執や偏見に囚われたりしません」
根室「そう、その為の読書であり勉学だ。君も僕も新しい時代を生きる人間さ」
桜子「ですが叔父様を心配させるわけにはいきません。今日はこれで失礼します」
根室「そ、そうかい」
桜子「根室さんのディベート、見れなくて残念ですわ。ではまた」
根室「ああ。いつでも待っているよ」
実朝「さあ君達も解散解散。貧民窟の夜はおっかないよ~」
活動家「確かに・・・」
活動家「も、戻りましょう」
根室「仕方ない。本日の集会はこれで」
ヒナ「待たんかい!」
ヒナ「自由決戦だか何だか知らねえけどバロンに会うんじゃねーのか」
トラ「そうっすよ!サシでやりあうの見たいっす」
デンキ「ぜひぜひ勉強させて下さい」
根室「き、君達にはまだ早い」
根室「それに今日は疲れた。また今度にしよう」
ヒナ「インテリさんは生っちろくていけねえや。ま、いつでも相手になってやるぜ」
ヒナ「バロン吉宗がなっ!」
トラ「じゃあ俺らもこれで」
根室「う、うむ」
実朝「・・・」
根室「・・・あ、いや、その。桜子さんを巻き込むつもりなど全くなく」
根室「むしろ彼女の方から私の思想に共感して」
実朝「あのね。君、奥さんいるんでしょ?」
実朝「そういうスタイルも含めてアナキストなのかも知れないけど、もうすこし諸々慎んだ方がいいね」
根室「申し訳ありません」
実朝「まあ、進んでいる道は間違ってないと思うけどね」
根室「来栖川さんには決してご迷惑をおかけいたしません」
実朝「はははは。こんな老人を貧民窟まで出張らせといてよく言うね・・・」
実朝「次はないよ」
根室「・・・参ったな」
根室「ゴミ溜めに長居するもんじゃないな。全く」
〇暖炉のある小屋
義孝「・・・」
義孝「ククク・・・」
義孝「ワーッハッハッハッハ!」
義孝「音が出たぞおおおーッ!」
義孝「この俺にかかれば雑作もないわーッ!」
義孝「うおおおーッ!」
義孝「・・・」
義孝「どうだあ―ッ!」
ヒナ「で・・・その2つのファの音でいったい何を演奏するつもりなんだ?」
ヒナ「まるでラッパじゃねーか。豆腐でも売る気か?」
義孝「おのれ。厳しいばかりが教育ではないぞ」
義孝「もっと人の長所というものをだな」
ヒナ「行ってきまーす」
ヒナ「・・・」
ヒナ「なあバロン」
義孝「どうした?」
ヒナ「自由ってなんだ?」
義孝「え?」
義孝「左様なもの・・・」
義孝「・・・」
ヒナ「・・・」
義孝「・・・そうだな。一言では言いきれんが」
ヒナ「いいよ。聞いてみただけ」
ヒナ「しっかり練習しろよ」
義孝「ああ、ちゃんと思い出して・・・」
義孝「・・・練習?」
義孝「・・・」
義孝「まさかな・・・」
〇ナイトクラブ
『自由・・・』
〇川沿いの原っぱ
『自由・・・』
〇警察署の資料室
『自由・・・』
〇城の会議室
『自由・・・』
〇暖炉のある小屋
義孝「自由と我儘との境は、他人の妨げをなすとなさざるとにあり」
義孝「・・・違う。ヒナはバロンに聞いている」
義孝「だがつまるところ自由同士の衝突が他者に危害をもたらす場合それを制限せねばならない事は既に世界的に決定されている!」
義孝「・・・だからヒナはバロンに聞いているというのだ」
義孝「正解など幾らでも出せる。だがヒナが求めているのはそうではない」
義孝「おい、お前ならどう答えた?」
義孝「どんな下らない答えを出したのだ?」
〇西洋風の駅前広場
『自由・・・』
『自由・・・』
〇川沿いの原っぱ
『自由・・・』
〇廃倉庫
『自由・・・』
〇華やかな裏庭
『自由・・・』
〇暖炉のある小屋
義孝「桜子・・・」
義孝「教えてくれ。自由とは何なのだ」
義孝「聞かせてくれ」
義孝「もう・・・怒らぬから」
〇空
『ああん?今、なんつった?』
〇古民家の居間
義孝「ま、まあそう殺気立つものではない」
義孝「これはその、あれだ、交渉」
お蝶親分「ア゛ア゛ン?」
義孝「いや要望、いやお願いをしているんだ」
義孝「半日、いや一時間でいい。館に戻らせてもらえないか」
お蝶親分「・・・目的は?」
義孝「着替えを取りに」
お蝶親分「女子か!」
猪頭「親分、信用しちゃいけやせんぜ」
鹿沼「すぐさま軍に戻って報復行動に出てくるのは明らかだ」
義孝「嫌だなあ君たち。一刻でも同じ街で暮らした仲間じゃないか」
お蝶親分「あんた一応憲兵(スパイ)なんだろ」
お蝶親分「猿芝居も満足に出来ねえとは、出世なんぞするもんじゃないね」
義孝「ああそうだ芝居だ!よくぞ見抜いた!」
お蝶親分「全く、この街は人をアホにするガスでも漂ってるのかねえ・・・」
お蝶親分「お前がこの街を生きて出るか否かはヒナが決める」
お蝶親分「虚飾は人生を蝕む。きちんと現実を受け入れろ。そっちが言った言葉じゃないか」
義孝「・・・」
お蝶親分「何だいそのツラは。私はもう肚を括ったよ」
お蝶親分「ヒナにもちゃんと受け入れさせる。二度と道は踏み外させない」
お蝶親分「女をなめんじゃないよ!」
義孝「・・・」
義孝「・・・一目でいい」
お蝶親分「あ?」
義孝「娘の様子を確認したいだけだ」
お蝶親分「・・・」
義孝「この通りだ」
お蝶親分「・・・」
お蝶親分「その甘ったれた言葉、バロン吉宗にも言えるかい?」
義孝「・・・!」
お蝶親分「娘に会いたいと・・・」
義孝「・・・」
お蝶親分「いいかい。この街はお前を逃がさないよ」
猪頭「ここは蓬莱街。帝都のゴミが流れ着く瓦礫の街だ」
鹿沼「ちょっとやそっとで抜け出せると思うなよ」
お蝶親分「分かったら、バイオリンのお稽古を続けるこった」
〇モヤモヤ
『バロン義孝・・・』
〇市場
「根室・・・」
「振り返るな」
「そこの君もだ。振り返らず一緒に雑踏を抜けろ」
桜子「ね、根室さん・・・」
根室「言う通りにしよう・・・」
???「ど、どけっ!」
???「くそ、見失ったか」
???「だがあのナイフを突きつけていた男。間違いない」
???「けものたち、が動き出したぞ」
???「フフフ・・・フフフフ」