〇洋館の玄関ホール
　　◆あらすじ◆
　　身の上を明かしためぐりに
　　テンセイは改めて愛を伝えた。
　　一行は王城へ。
　　私たちは城へ足を踏み入れた。
ソウビ・アーヌルス（うわ・・・）
　　城内は、かつて私たちがいた頃とは、
　　まるで雰囲気が変わってしまっていた。
ソウビ・アーヌルス（人がいない・・・。 チヨミが軍を率いて来たと知って 逃げたのか、それとも・・・）
ソウビ・アーヌルス（すでに、ヒナツに愛想をつかして 離れてしまったのか・・・）
　　掃除が行き届いておらず、薄汚れている。
　　さらに、かなりの数の貴重品が
　　持ち去られているようだった。
メルク・ポース「閑散としてて、人の気配がないねぇ。 これが一国の王のおわす城とは」
タイサイ・アルボル「ちょっと離れている間に、 ここまで荒れるものかよ・・・」
チヨミ・アルボル「ヒナツ・・・」
ソウビ・アーヌルス「行こう、チヨミ。 ヒナツはきっと、こっちだよ」
チヨミ・アルボル「うん・・・」

〇謁見の間
ヒナツ・プロスペロ「・・・・・・」
　　ラニを小脇に抱いて
　　王座にふんぞり返るヒナツがいた。
チヨミ・アルボル「ヒナツ！」
　　私とチヨミが
　　部屋に足を踏み入れた時だった。
　　背後で扉が閉まった。
チヨミ・アルボル「え？」
兵士「ひぃ・・・」
兵士「すみません！」
ヒナツ・プロスペロ「よくやった、お前たち」
　　鍵を閉めた兵士たちが
　　おびえた表情のままヒナツの方へ走る。
　　そしてそのわきを抜けると
　　部屋から逃げ出していった。
ソウビ・アーヌルス「みんな！」
　　扉で分断された向こう側に、
　　メルク王子やその他の仲間が
　　全員取り残されている。
ソウビ・アーヌルス（くっ、ロックがかかってる！ どうすれば開くの!?）
ソウビ・アーヌルス「みんな！　そっちは無事!?」
テンセイ・ユリスディ「こちらの心配は無用です！ すぐにここを開けて合流します！」
　　今この部屋にいるのは
　　ヒナツとラニ、チヨミ、
　　そして私の四人だった。
ヒナツ・プロスペロ「久しいな、わが妻。 そして、わが愛妾よ」
ソウビ・アーヌルス（何を・・・）
　　苛立ちを覚えながら、
　　傲慢な笑みを浮かべるヒナツを私は睨む。
チヨミ・アルボル「・・・・・・」
　　チヨミは、まっすぐにヒナツを見ていた。
　　濁りを纏ったヒナツを、
　　澄みきったまなざしで。
チヨミ・アルボル「ヒナツ、話をしに来たの」
チヨミ・アルボル「今日はあなたに何を言われても 私が思っていることを言わせてもらう」
チヨミ・アルボル「あの日、あなたを気遣い 言葉を飲み込んだことで こんな事態を招いてしまったのだから」
ヒナツ・プロスペロ「・・・・・・」
ラニ・アーヌルス「ヒナツ様！」
　　ラニが怯えて、ヒナツにしがみつく。
ラニ・アーヌルス「ヒナツ様、私怖いですわ。 私、あの者らに殺されるのは嫌です！ まだ死にたくありません！」
ヒナツ・プロスペロ「・・・・・・」
ソウビ・アーヌルス「ラニ・・・」
ラニ・アーヌルス「御覧なさいませ、 お姉さまたちのあの悪鬼のように 恐ろしいお顔！」
ソウビ・アーヌルス（ぅおい！ 失礼だぞ、そこの美少女！）
ラニ・アーヌルス「ヒナツ様、この世で最も強く、 最も正しく、最も尊いお方、 必ずや私を守ってくださいましね？」
ラニ・アーヌルス「甘言にほだされて 私を見捨てないでくださいましね？」
ヒナツ・プロスペロ「あぁ、ラニ、わかっている・・・。 お前は何も案ずるな」
ヒナツ・プロスペロ「お前だけは、 俺を見捨てずにいてくれたのだからな」
チヨミ・アルボル「・・・・・・」
　　ヒナツがゆっくりとした動きで
　　王座から立ち上がる。
　　そして剣を鞘から抜くと、
　　重々しい足取りで一段、また一段と
　　階段を下りてきた。
ソウビ・アーヌルス（ひぇ、こわ・・・！）
チヨミ・アルボル「ソウビ、下がってて」
チヨミ・アルボル「ヒナツ、 あなたに王の座から下りてもらう」
ヒナツ・プロスペロ「・・・・・・」
チヨミ・アルボル「あなたは王位を トロフィーか何かのようにしか 思っていない」
チヨミ・アルボル「でもね、 その地位はこの国の誰よりも 責任の重いものなんだよ」
チヨミ・アルボル「おもちゃのように扱ってはいけなかった！」
ヒナツ・プロスペロ「・・・・・・」
チヨミ・アルボル「国中の全ての人の幸せを想いながら、 あなたは地位や力、そして その体や頭脳を駆使しなきゃ ならなかった」
チヨミ・アルボル「でも、あなたの目に入っていたのは ラニだけ」
チヨミ・アルボル「あなたの自尊心を満足させてくれる 幼い少女一人・・・」
チヨミ・アルボル「それは王にはふさわしくない行いなの！」
ヒナツ・プロスペロ「うるさい」
チヨミ・アルボル「民があなたに求めたのは、 自分たちと同じ目線を持ち、寄り添い 共に歩んでくれる強い指導者」
チヨミ・アルボル「けれどあなたは、 そんな民の望みを、命を ないがしろにした」
チヨミ・アルボル「今、この国に、 あなたを王にいただきたい人間は もういない！」
ヒナツ・プロスペロ「黙れ!!」
ヒナツ・プロスペロ「誰よりも高い地位にあり、誰よりも尊い！ 俺に命令できる人間は、もはや 誰もいない！」
ヒナツ・プロスペロ「民が俺にそうあれと望んだのだ。 今さら何を言う！」
チヨミ・アルボル「くぅっ！」
ソウビ・アーヌルス（いけない！ チヨミがいくら策謀を得意としていても、こんな真正面からじゃヒナツには 勝てない！）
　　私は自分の内部へ意識を集中させる。
ソウビ・アーヌルス（補助魔法でチヨミを助けよう）
　　何とか頭に叩き込んだ古の言葉を、
　　ヒナツに気づかれないよう詠唱する。
ソウビ・アーヌルス（防御力アップ！）
ソウビ・アーヌルス（攻撃力アップ！）
ソウビ・アーヌルス（敏捷性アップ！）
　　チヨミに補助魔法を
　　ガンガン重ね掛けする。
　　劣勢だったチヨミが、
　　徐々に持ち直し始めた。
ソウビ・アーヌルス（よし！　バフ盛り盛り！　いける！）
ソウビ・アーヌルス（けど、原作ゲームだとチヨミは１人で ヒナツと対峙するんだよね？ ここ、どう攻略するの？）
ソウビ・アーヌルス（負け確定イベント？ それともレベルマックスまで育てて 経験値で殴る系？）
ヒナツ・プロスペロ「ほぅ？」
　　ヒナツがこちらを見て、
　　ニタリと目を細めた。
ヒナツ・プロスペロ「ソウビ、 面白い真似をしているではないか！」
ソウビ・アーヌルス（ぎゃああああ、こっち来たぁああ!!）
チヨミ・アルボル「行かせない！」
ヒナツ・プロスペロ「邪魔だ、どけ！」
チヨミ・アルボル「こんな時くらい、 私だけを見てくれてもいいでしょ？」
ヒナツ・プロスペロ「チィッ！」
チヨミ・アルボル「ヒナツ、一番伝えたい言葉を 私はまだ言ってない！」
ヒナツ・プロスペロ「うるさい！ お前の口から出てくるのは、 いつも俺を否定する言葉ばかりだ！」
チヨミ・アルボル「聞いてヒナツ、私は・・・！」
ヒナツ・プロスペロ「黙れぇえ!!」
　　第二十七話　決戦　──終──
　　
　　第二十八話に続く