寵姫は正妃の庇護を求む

香久乃このみ

第二十六話 寄り添えたら(脚本)

寵姫は正妃の庇護を求む

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〇英国風の部屋
  ◆あらすじ◆
  自分の身の上を
  仲間に明かしためぐり。
  その夜、誰かが部屋を訪れる。
ソウビ・アーヌルス(ん? 誰かノックしてる?)
ソウビ・アーヌルス(あ、でも瞼がもうくっつきそう・・・)
テンセイ・ユリスディ「ソウビ殿、 入ってもよろしいでしょうか?」
ソウビ・アーヌルス(テンセイ!? 夜這いイベント!? いや、そんなのなかったはず!)
ソウビ・アーヌルス(このゲームはCERO Bだったし!)
テンセイ・ユリスディ「ソウビ殿? もうお休みでしょうか?」
ソウビ・アーヌルス「は、はーい! 起きてまーす! どうぞ!」
テンセイ・ユリスディ「夜分遅く、失礼いたします」
ソウビ・アーヌルス「ううん、テンセイなら歓迎。 何かあった?」
テンセイ・ユリスディ「・・・・・・」
テンセイ・ユリスディ「いつから、なのでしょうか?」
ソウビ・アーヌルス「? いつから、とは?」
テンセイ・ユリスディ「メグリ殿、とおっしゃいましたか」
テンセイ・ユリスディ「あなたがソウビ殿として この世に降臨したのがいつからなのか、 それをお聞きしたい」
ソウビ・アーヌルス(あ・・・)
ソウビ・アーヌルス(そっか、 テンセイにとってソウビは婚約者。 私は途中からその地位を 乗っ取ったようなものだ)
ソウビ・アーヌルス(気分、よくないよね。 見知らぬ他人が、 自分の婚約者のふりをして 側にいたなんて)
ソウビ・アーヌルス(気付かれてないのをいいことに、 馴れ馴れしくしていたなんて・・・)
テンセイ・ユリスディ「ひょっとしたら、ですが。 ヒナツが王位についたことを祝った 宴の日ではございませんか?」
ソウビ・アーヌルス「あの・・・、ごめん、 騙すつもりじゃ・・・」
テンセイ・ユリスディ「あの日、 貴女を部屋まで迎えに行った際に 違和感を覚えたのです」
テンセイ・ユリスディ「ソウビ殿とは このように可愛らしい表情をする 方だったかと」
ソウビ・アーヌルス(え・・・?)
テンセイ・ユリスディ「婚約者となって以来、 自分とソウビ殿はろくに 話らしい話をしておりませんでした」
テンセイ・ユリスディ「自分は面白い話などできない男で、 そんな自分といるソウビ殿は いつも退屈そうにされておりました」
テンセイ・ユリスディ「自分たちの間に、愛情と呼べるものは まるでなかったと言っても 過言ではないでしょう」
テンセイ・ユリスディ「寂しい話ですが、立場や利害最優先の 形だけの繫がりでした。 ・・・よくある話です」
テンセイ・ユリスディ「ですが、 あの夜のソウビ殿は違ったのです」
テンセイ・ユリスディ「こちらを見た瞬間に目を輝かせ、 頬を染め、 嬉しそうに微笑まれました」
テンセイ・ユリスディ「妙なことを口走ってはおられましたが、 温かな好意が伝わってきたのです」
テンセイ・ユリスディ「あの日から、 貴女だったのではないですか?」
ソウビ・アーヌルス「・・・・・・。 そんなところ」
ソウビ・アーヌルス「正確には、牢から助け出された時。 気が付いたらあの場所にいたんだ」
テンセイ・ユリスディ「そうでしたか」
テンセイ・ユリスディ「では、自分が心惹かれたのは ソウビ殿ではなく メグリ殿だったのですね・・・」
ソウビ・アーヌルス(テンセイ・・・!)
テンセイ・ユリスディ「教えてください。 貴女はいつまで ここにいられるのでしょうか」
テンセイ・ユリスディ「この命尽きるまで、 自分は貴女に寄り添って いられるのでしょうか・・・」
ソウビ・アーヌルス「わからない・・・」
テンセイ・ユリスディ「・・・・・・」
ソウビ・アーヌルス「わからないよ。 私だってずっとテンセイといたいけど、 でも・・・」
ソウビ・アーヌルス「これは、夢だから・・・。 いつ覚めるか、私にもわからない」
ソウビ・アーヌルス「それに物語は終盤に向かってる。 ひょっとすると物語のクリアと共に この夢は・・・」
テンセイ・ユリスディ「・・・っ」
  テンセイの力強い腕が、
  私をきつく抱きしめた。
  グッと押しつぶされた肺から息が漏れる。
テンセイ・ユリスディ「儚いお方だ。 今にも、この腕の中から 消えてしまいそうだ」
テンセイ・ユリスディ「俺は、それが怖い・・・!」
ソウビ・アーヌルス「テンセイ・・・」
テンセイ・ユリスディ「魂の捕らえ方など俺は知らない」
テンセイ・ユリスディ「こうして手に触れられる相手であるなら、 無理やりにでも つかまえていられるものを・・・」
テンセイ・ユリスディ「愛している、ソウビ。 いや、メグリ。 俺から離れないでくれ」
ソウビ・アーヌルス「・・・っ」
テンセイ・ユリスディ「貴女でなければだめなのだ!」
  胸が焼け付くように痛む。
  幸せなのに苦しい。
  気が付けば、涙が頬を濡らしていた。
ソウビ・アーヌルス「私だって、 このまま一緒にいたいよ・・・」
ソウビ・アーヌルス「だけどわからないんだ、本当に。 自分がこの先どうなるのか・・・」
テンセイ・ユリスディ「・・・っ」
テンセイ・ユリスディ「メグリ・・・、メグリ・・・、 メグリ・・・!」
  上ずって掠れた、切なく甘い声。
  それが幾度も私の名を呼ぶ。
  私の髪を、愛し気に指で漉きながら。
  テンセイの声が耳に届くたび
  私の体から力が抜け、
  こわばりがとけてゆく。
テンセイ・ユリスディ「どんな形でもいい。 貴女と同じ世界で寄り添えるなら・・・」
テンセイ・ユリスディ「俺は、何を捨てても構わない!」
ソウビ・アーヌルス(あぁ、私はなんて幸せ者なんだろう・・・)
  狂おしいほどに切ない、
  テンセイのふり絞るような声を
  聞きながら、私は思う。
ソウビ・アーヌルス(推しの姿を、 ただ近くで見られるだけでよかった。 声が聴けるだけで幸せだった)
ソウビ・アーヌルス(なのに、こんなに愛してもらえた・・・)
ソウビ・アーヌルス(もう悔いはない。 でも・・・)
ソウビ・アーヌルス(やっぱり、ずっと一緒にいられたら 幸せだろうな・・・)
  第二十六話 寄り添えたら ──終──
  
  第二十七話に続く

次のエピソード:第二十七話 決戦

コメント

  • 切ないですね……
    触れられない魂を引き留める術がない。
    現実世界で生きていても同じなのかもしれないと思いました。
    明日なくなってもおかしくないあやふやなものだからこそ、大切にしなければ。

  • 切ない…。
    異世界恋愛ものの最大のネックはここですよね。
    更にめぐりは本人じゃなくてソウビとしてこの世界に存在してるから、余計にテンセイとの繋がりは心だけ。でもそれが一番大切で…うう、二人とも幸せになって!

  • 紡ぐ言葉一つ一つが儚く、情熱的で、すごく浸れます。ゲームの世界であることを忘れてしまいそう。いつか終わりが来ると感じながらも、永遠を望んでしまう。

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