エピソード12(脚本)
〇一戸建て
久保田光「・・・・・・」
久保田光「ここが、最後」
スゥーっと大きく深呼吸する光。
久保田光「よし」
「あれ、久保田?」
久保田光「え、はい?」
〇おしゃれなキッチン
櫻が台所の流しで洗い物をしている。
ピンポーン
インターホンの音と同時に、部屋の壁に取り付けられた丸型のライトが点灯する。
灰島櫻「!」
〇一戸建て
長瀬美鈴「よっ、食材と飲み物、買ってきたよ」
美鈴が立っていて、櫻に向かって手話で語りかける。
長瀬美鈴「あと、こいつもいるよ」
久保田光「ちょっと、長瀬先生」
ドアの影に隠れていた光をヘッドロックして、引きずるように連れてくる美鈴。
灰島櫻「・・・・・」
久保田光「・・・こんばんわ」
〇綺麗なリビング
仏壇に五十代の男女の写真が飾られている。
その仏壇の前で美鈴が手を合わせる。
長瀬美鈴「ほれ、お前も」
久保田光「あ、はい」
光も手を合わせ、お線香をあげる。
長瀬美鈴「お前はジュース、はい、乾杯!」
久保田光「え、あ、はい」
長瀬美鈴「うっひー、キクねー」
久保田光「・・・・・」
ジュースを飲みつつも、仏壇の方を眺めている光。
長瀬美鈴「・・・もう、二年と半年かな」
久保田光「え」
長瀬美鈴「櫻の両親が亡くなって。 交通事故だった。優しい人たちだったよ」
久保田光「・・・そうですか」
長瀬美鈴「毎月、月命日にこうやって、櫻ん家で一緒に飯食ってんだ」
長瀬美鈴「まあ、あたしゃ食い専だけどね」
灰島櫻「はい、お漬物」
櫻がやってきて、美鈴に手話で語りかける。
長瀬美鈴「お、いいねえ」
灰島櫻「もう飲んでるし」
長瀬美鈴「お先頂いてまーす」
灰島櫻「まあ、いつものことだけど」
長瀬美鈴「なんも手伝うことないよね?」
美鈴が尋ねると、櫻はジャガイモとピーラーを取り出す。
灰島櫻「ジャガイモの皮むき、お願いします」
灰島櫻「光くん」
久保田光「は、はい!」
灰島櫻「光君も食べてくでしょ、ご飯」
久保田光「あ、えっと、はい」
光が頷くと、櫻は微笑んでキッチンの方へ消えていく。
久保田光「・・・・・・」
長瀬美鈴「はあ、じゃあ皮剥きますかね」
久保田光「はい」
じゃがいもの皮を剥き始める二人。
長瀬美鈴「まあ、あいつの飯はうまいから、そこはあたしが保障する」
久保田光「ですよね、きっと」
そう言いながら、光はキッチンへ向かった櫻を見ている。
長瀬美鈴「あれ、てか、お前はなんで櫻ん家の前に?」
久保田光「え、えっと、あの・・・」
慌てて光が部屋を見渡すと、テーブルの上にオーディオコンポを見つける。
久保田光「そう、コンポ、コンポの点検に・・・」
長瀬美鈴「そっか。お前んとこ、修理とかもやってんだっけな」
久保田光「むしろ、そっちがメインと言うか」
長瀬美鈴「しかし偶然だよな、櫻がお前んとこでコンポ買ってたなんて」
久保田光「ああ、ええ・・・。 てか僕も、お二人が仲良いって知った時はビックリしました」
長瀬美鈴「んー。 結構長いからな、あいつとの付き合いも」
久保田光「ほら、僕って日陰に生えたドクダミみたいに根暗じゃないですか」
久保田光「だから先生と櫻さんの明るさが羨ましくって」
長瀬美鈴「おま、ドクダミって」
久保田光「元気もらえます」
長瀬美鈴「・・・明るい、か」
久保田光「・・・・・・」
長瀬美鈴「・・・お前のおかげだよ、久保田」
久保田光「え!?」
思いがけない美鈴の言葉に、光は思わず皮むき機で指を切る。
久保田光「あっつ・・・」
長瀬美鈴「おい、大丈夫か?」
長瀬美鈴「見せろ、止血するから」
久保田光「ありがとうございます・・・」
美鈴が光の傷の手当てをする。
長瀬美鈴「櫻の手首のさ、切り傷見たことあるか」
久保田光「・・・え?」
長瀬美鈴「普段は時計で隠してるけどな」
久保田光「それって・・・」
長瀬美鈴「あいつの両親が死んで、あいつ、ちょっとおかしくなっちゃったんだよ」
久保田光「・・・・・・」
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