シュレーディンガーの方程式

Nazuna

第六話:ディラックの電子論(脚本)

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〇警察署の食堂
三条唯「全ての、元凶・・・」
葛城大河「そうだ」
葛城大河「そいつの正体は・・・」
葛城大河「なんだ!?」
三条唯「火災報知器の音ですね」
葛城大河「火災?まさか・・・」
三条唯「猫先輩!?」
葛城大河「いや、違う!!」
葛城大河「唯、危ない!」
  葛城は唯の体を突き飛ばした
  ”猫元才”の放ったナイフは、唯と葛城の間を通り過ぎた
  ナイフを取りに行く”猫元才”
葛城大河「今の内だ、逃げるぞ!」
  葛城は唯の手を引き、部屋の外に出た
猫元才?「・・・・・・」

〇廊下のT字路
三条唯「はあ、はあ」
葛城大河「とりあえず、ここまで来れば大丈夫か」
三条唯「な、何なんですかあれ!」
葛城大河「今はあまり時間がない」
葛城大河「だから、結論だけ言うぞ」
葛城大河「今、猫元才の体を動かしているのは・・・・・・」
葛城大河「”デルタ”だ」
三条唯「・・・!」
三条唯「どういうことですか」
葛城大河「才の体を消し、才に入れ替わって俺たちの前に現れた」
葛城大河「全ては、量子コンピューター”デルタ”によって仕組まれたことだったんだ」
三条唯「『デルタ』が、コンピューターが意志を持ったというんですか!?」
葛城大河「ああ。そうだ」
葛城大河「それしか考えられない」
三条唯「・・・”デルタ”は、何を企んでいるんですか」
葛城大河「あいつの目的は、才に完全に成り代わることだ」
葛城大河「そのために、『デルタ』本体に残る、」
葛城大河「オリジナルの才の意識を抹消しようとしている」
葛城大河「プログラムによる内側からの破壊はお前が阻止した」
葛城大河「次は恐らく、外側からの破壊を試みるだろう」
三条唯「つまり・・・」
葛城大河「ああ。狙いは、『デルタ』本体だ」
葛城大河「そして同時に、真相を知る俺たちも消すつもりだ」
三条唯「・・・そういうこと、だったんですか」
葛城大河「俺は、『デルタ』本体が保管されている部屋に向かう」
葛城大河「あれが壊されると恐らく、才はもう助からない」
三条唯「・・・・・・」
葛城大河「唯、お前は逃げてもいい」
葛城大河「才のことは俺がどうにかする」
葛城大河「ここに残れば、お前の命も危なくなる」
葛城大河「お前がどうするかは、唯、お前が決めろ」
三条唯「・・・わかりました」
三条唯「葛城先輩は、『デルタ』がある部屋に向かってください」
葛城大河「・・・そうか。わかった」
葛城大河「才のことは、俺に任せろ」
三条唯「勘違いしないでください」
三条唯「私は、先に研究室に向かいます」
三条唯「・・・あれが役に立つかもしれない」
葛城大河「・・・!!」
葛城大河「助かるよ」
葛城大河「・・・お前がいた方が、心強い」
三条唯「・・・急ぎましょう」
三条唯「”デルタ”が目的を達成するより先に、猫先輩を救うんです」
葛城大河「ああ。気をつけろよ」
  唯は走ってその場を去った
葛城大河「さあ、俺も急がなければ」
葛城大河「”デルタ”を止め、才を救う」
葛城大河「タイムリミットはすぐそこだ」

〇研究所の中枢
葛城大河「はあ、はあ」

〇研究所の中枢
葛城大河「よし、あいつはまだ来ていないようだな」
葛城大河「『デルタ』本体も、無事だ」
  葛城は『デルタ』の側面に手を触れた
葛城大河「才。待ってろよ」
葛城大河「俺と唯が、なんとかしてみせる」
三条唯「はあ、はあ」
葛城大河「唯!」
三条唯「あいつはまだいないみたいですね」
葛城大河「ああ。人目につかないよう行動しているからだろう」
葛城大河「火事を起こしたのもきっと、人払いのためだ」
三条唯「それでも、出来る限り急いだ方が良さそうです」
三条唯「葛城先輩、これを」
葛城大河「これは?」
三条唯「・・・猫先輩が帰ってきた後も、『デルタ』内の手がかりがどうしても気になって」
三条唯「少しづつ作っていたんです」
三条唯「名付けるなら、それは”ダイビングマシン”」
葛城大河「どうやって使うんだ?」
三条唯「これを使うことで、」
三条唯「人の意識だけをコピーして、」
三条唯「量子テレポーテーションを使って別の場所に転送することができます」
三条唯「物理的には行けないような場所、例えば量子コンピューターの中にでも」
葛城大河「なるほど。すごいじゃないか!」
三条唯「脳科学と量子論についての論文を読んだときに思いついたんです」
三条唯「私たちの考えが正しければ、」
葛城大河「ああ。才はきっと、”この中にいる”」
  葛城は『デルタ』を見上げながら言った
三条唯「・・・ですが、これはまだ試作機の段階です」
三条唯「失敗するリスクも大きい、一か八かの賭けです」
葛城大河「・・・・・・」
葛城大河「・・・俺がやる」
葛城大河「”ダイビングマシン”を、『デルタ』に接続してくれ」
三条唯「本当に、いいんですか」
葛城大河「ああ、構わない」
三条唯「・・・わかりました」
  『デルタ』に線を繋ぎ、コンピューターを操作する唯
  キーボードを操作する唯の手は、震えていた
葛城大河「唯・・・」
三条唯「・・・上手く作動するか、自信がありません」
三条唯「もし失敗して、葛城先輩の意識が戻らなかったら・・・」
  葛城は、唯の肩を叩いた
葛城大河「自信を持て」
葛城大河「必ず成功する」
三条唯「・・・・・・」
葛城大河「準備はできたか?」
三条唯「・・・はい」
葛城大河「”ダイビングマシン”を貸してくれ」
三条唯「葛城先輩がそれをつけて、私がEnterボタンを押せば起動します」
葛城大河「・・・よし」
葛城大河「”デルタ”・・・!」
  ”デルタ”の投げたナイフが、唯の腕をかすめた
三条唯「ああ!!」
  唯の白衣が赤く染まっていく
葛城大河「唯!」
  ”デルタ”はもう一つの包丁を手に、二人に向かって走る
  その時だった
  ”デルタ”の動きが止まる
  ”デルタ”の肩に後ろから手を回し、動きを止めたのは、ノイマンだった
葛城大河「ノイマン教授!」
ノイマン「私の生徒に・・・」
ノイマン「手を出すなあああ!!」
  ”デルタ”の体が床に押し倒される
  その衝撃で、ナイフが”デルタ”の手から離れる
  ノイマンは、”デルタ”の上に馬乗りになった
三条唯「葛城先輩、今のうちに!」
葛城大河「わかった!!」
  葛城はヘッドセットを装着した
三条唯「いきます!」
  唯の指が、Enterのキーを押す
葛城大河「ぐっ!!」
三条唯「脳に負担がかかります!!」
三条唯「気をしっかり持って!!」
葛城大河「ぐあああああ!」
三条唯「・・・葛城先輩!!」
三条唯「・・・猫先輩を、頼みます」
葛城大河「・・・!!」
葛城大河「ああ!!任せろ!!」
  ノイマンが拳を振り上げると同時に、
  ”デルタ”の手がナイフを掴む
  ノイマンが拳を振り下ろし、その脇腹に”デルタ”がナイフを振りかざす
葛城大河「飛べええええええ!!」

〇黒
  葛城の意識は、そこで途切れた──

次のエピソード:第七話:神はサイコロを振らない

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