②堕ちた人(脚本)
〇無機質な扉
僕「サンカー!今日は扉の向こうに行かなくていいからねー!」
サンカ「え!!そうなの!?行く気マンマンだったんだけどなぁ」
僕「今日は、チョウトさんに会いに行くよ」
サンカ「チョートさん?誰?」
僕「作家さんだよ。物語を書く人だね。今回も会う時間決めているから、早速行こう。遅刻してしまう」
サンカ「うん! でもトリカブトさんのとこに行ったとき、遅刻したのはサンカのせいじゃないよ?」
サンカ「どっかの誰かさんが急にお腹痛いとか言い出すから」
僕「・・・お腹痛いのは仕方ないじゃないか」
サンカ「ふーん・・・」
〇玄関の外
僕「さぁさぁ、着いたよ。ここが、チョートさんの家だ」
サンカ「すごくきれいな家だなぁ」
ピンポーン
はい、チョウトです
僕「あ、チョウトさんですか?ジョン・ドウです」
あぁ、ジョンさん。お久しぶりです。今日はお一人ですか??
僕「いいえ、今日は2人です。優しい子と一緒に来ました」
そうですか。今鍵開けましたので、ぜひ中へお入りください。
僕「はい、ありがとうございます。 サンカ、入ろうか」
サンカ「うん!!!」
〇シックなリビング
チョウト「やあやあ。ジョンさん。お久しぶりです。ちょっと痩せましたか?」
僕「痩せてませんよ。チョウトさんは僕に会った時、毎回それ言いますよね」
チョウト「実際、痩せたように見えるんですけどねぇ・・・」
チョウト「おや、この子は?」
僕「僕の相棒ですよ」
サンカ「サンカです!よろしくお願いします!!」
チョウト「君がサンカちゃんですね。噂には聞いていました。会えてうれしいです」
チョウト「さぁさぁ、ソファに座ってください。紅茶でも飲みながらおしゃべりしましょう」
チョウト「さてさて・・・。ジョンさんは初めましてではないから説明はいらないとして、」
チョウト「サンカちゃんは、どのくらい私のこと知っていますか?」
サンカ「ええと・・・。作家さんということしか・・・」
チョウト「そうです。私は作家です。特に、”悪役”が主人公のお話を書いていました」
サンカ「悪役って悪い人のことですよね?」
チョウト「はい。人をだましたり、傷つけたりする悪い人のお話を書いていました」
サンカ「それって、人気出たんですか?あんまり悪役って人気あるイメージが無くて・・・」
チョウト「それが、人気が出たんですよ。私の予想以上でしたね」
チョウト「世の中には悪いことをする人がいる。でも、そうする理由があるのかもしれない」
サンカ「悪いことする理由?」
チョウト「例えば、物を盗まないと生活できないくらい貧しいとか。親に愛されなかったとか、いじめられたとか」
チョウト「何か理由があって悪い人になってしまっただけで、もともと悪い人ではない、ということです」
僕「悪役なんてヒーローをいじめるから嫌い、と思っていた人も、」
僕「こんな理由があるならしょうがない。と思うようになったんですよね」
僕「「完全な悪役などいない」という内容が大ヒットした理由でもあるんだ」
サンカ「なるほど・・・。ただ悪いって決めつけるだけじゃダメなのか」
チョウト「ま、時々どうしようもない人もいますがね」
サンカ「どうしようもない人?」
チョウト「いやいや、ごめんなさい。気にしないでください」
チョウト「それで、”悪役”が主人公の本は何冊か出して、色々な賞を取ったり、映画化したり、ドラマ化したりしました」
チョウト「取材もたくさん受けましたし、お金もたくさん入って来ました」
サンカ「すごい・・・!!」
チョウト「でもある時を境に、急に人気が落ちてしまったんです」
チョウト「本は読まれなくなったし、映画にもドラマにもならなくなり、」
チョウト「やる気を失ってしまって、全く書けなくなりました」
チョウト「本屋さんに行くと、「チョウトの本見ないよね、あの人堕ちたんじゃない?」「一発屋だったんだよ」」
チョウト「とか言われました。言った本人は、すぐ近くに私がいること気づいていなかったでしょうが」
サンカ「ひどい・・・。大丈夫ですか?」
チョウト「いやぁ、もう全然大丈夫だです。当時は落ち込んだりしましたけど、今は大丈夫」
チョウト「私がロングセラー作家になれなかったのは、それで受ける幸せが、私に合わないと、神様が思ったからでしょう」
サンカ「合わない幸せ?」
チョウト「はい。確かに、たくさん売れていた時期は、たくさんお金も入って来たし、たくさん取材も受けました」
チョウト「人気者になれた気がして、嬉しかった。でもそれが、プレッシャーにもなっていました」
僕「あの頃のチョウトさんは荒れてたからなぁ」
チョウト「ほほ・・・。ずっと売れる本を書き続けなければ、と思っていましたから」
サンカ「今は書いていないんですか?」
チョウト「今も書いていますよ。広場の掲示板に貼っています」
サンカ「え!掲示板!?」
チョウト「そう。だからお金は入ってきません。でもね、楽しいんだ」
チョウト「誰かの評価や数字、締め切りも気にせず、誰が読むかも分からない物語を書く」
チョウト「これが、結構楽しいんだ」
僕「掲示板に貼りに行くとき、いつも楽しそうですもんね」
チョウト「はい。周りは「堕ちた」と言うでしょうが、私にはこの方が合っている。背負うものがなくて、とてもいいですよ」
〇無機質な扉
僕「どうだった?」
サンカ「楽しかったし、なんかいい話だったなぁ」
僕「そうだね。周りの評価じゃなくて、自分の中に幸せを見つけるって、大事だよね。難しいけど」
サンカ「でもさ、どうしてこのタイミングでチョートさんに会ったの?」
僕「今後のためだよ。今後の、僕とサンカの2人の旅のため」