優しい人から潰れていく街

玄野しろ

③未来の街(脚本)

優しい人から潰れていく街

玄野しろ

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〇無機質な扉
  無機質な廊下を歩き続け、ようやく扉が見えてきた。今日は、ここ。渡された紙に、穴が開くくらい確認した。
  だから間違っていないはずだ。今日は、「未来の街」に行く。

〇中東の街
僕「おぉ~何というか。しっかりと豊かな街なんだけどなぁ」
僕「質素、なんだよなぁ」
僕「わちゃわちゃしてないというか。街の財政状況が良くないのかな?」
僕「でもわざわざ「未来の街」と名付けられているぐらいだし」
僕「「扉を出て東側に公園があります。そこに向かってください」と。よし、行くか」

〇湖畔の自然公園
男の子「はぁ・・・」
  あの子か。
僕「こんにちは。ごめんね、急に話しかけて。ちょっと、いいかな?」
男の子「え?あ、はい・・・」
僕「1人で何をしていたの?」
男の子「僕、この場所が好きで。ちょっと気分転換に・・・。もうそれもできそうにありませんけど」
僕「何かあったんだ?」
男の子「はい・・・。でもこれ僕だけじゃなくて、みんなそうなんですけど」
僕「いいよ、話してごらん」
男の子「僕は小学6年生で、受験を控えているんです」
僕「受験か。ということは、この街はかなり発展しているんだね」
男の子「そうだと思います。街によっては街灯がない所もあると聞きますから」
男の子「それで、受験に合格するために勉強をしているんですけど、疲れてしまったんです」
男の子「6年生全員が受験するわけじゃない。僕が勉強している間、遊んでいる友達だっている」
男の子「それが羨ましくて。いいなぁ、って思って、何だか泣いちゃったんです」
男の子「それで1か月くらい、ほぼ毎日ここに来てます。ここは誰も来ない場所ですから」
男の子「・・・ずっと朝から夜まで勉強して、ご飯を食べるときですら本を読めと親に言われました」
僕「それは辛いねぇ」
男の子「それで、1日だけ休ませてくれないか、と親にお願いしたんですけど、ダメだってすごく叱られてしまって」
僕「勉強しなさい!って?」
男の子「はい。「勉強をやめたら他の子に追い越されて、良い学校に行けないよ、そうすると良い会社にも就職できないよ」って」
男の子「「疲れたなんて理由では、大人になったら休めないよ」って」
男の子「ずっとずっと、未来のことばかり心配するんです」
  「未来の街」
僕「なるほどね・・・」
僕「さっき君が、「僕だけじゃない、みんなが悩んでいる」って言ってたけど、受験するお友達はみんな言われている感じ?」
男の子「そうですね。この街の風潮なんですよ。未来のことを心配しすぎる、というのは。お兄さんは最近引っ越してきたんですか??」
僕「そうだね」
男の子「何だかこの街って質素だって、思いませんでした??」
僕「思った、思った。それやっぱり、ちゃんとした理由があるの?」
男の子「はい。未来に備えて、今使う資金を極限まで削っているんです」
男の子「特に学校や公園の設備ですね。個人の家まで金額の上限が決まっています」
僕「それ嫌だって思う人はいないの?」
男の子「僕の同級生にはいますけど、大人たちは・・・。それが当たり前だと思っていますから」
僕「うーん。なるほどね。それで、休みたいって言っても、未来の心配ばかりされてしまうわけだ」
男の子「はい。苦しいのは今なんです。助けてほしいのも今。でも、大人たちは未来しか見ていない・・・」
男の子「今だって、いつかの未来じゃないですか。未来のため、未来のため、って言って、」
男の子「本当に、未来のためになっているところを見たことがないんです。・・・まだ12年しか生きていないですけど」
僕「12年しか生きてない子供にそう言わせるんだから、よほどだよ」
男の子「お兄さん、僕の今は、どうなってしまうんでしょうか」
僕「・・・難しい問題だよね。ごめん、まだ街のことを知りたいから、少し待っていてくれないかな」
男の子「はい・・・」

〇中東の街
僕「少し街を歩いてみるか・・・。情報も足りないし」
主婦A「で、最近はどうなの?近くの街は平和?」
門番「まぁな。最近騒ぎがあった隣の街だけどよぉ」
門番「そこは何十年もずっと唯一神教だっただろ?それで、良いことは全部神のおかげだっていう解釈らしい」
門番「とある子供が難病になって、何人もの医者が頑張ったのによぉ、」
門番「その子供の病気が治ったのは、神のおかげだってよ、医者のおかげじゃなくて」
門番「で、神が治してくれるんだから、医者なんていらないってんで、医学の勉強が禁止になったんだとさ」
主婦A「それはまた・・・怖いわね」
門番「だよな。色々街の人たちも訴えたみたいだが、政府は医学を廃止するの一点張りだったらしい」
門番「それが何十年も続いたんだ。もちろん疫病は蔓延したし、赤ん坊も生まれなくなった。それでも政府は変わらなくて、」
門番「もうどうしようもないってんで、ついに来たらしいぞ」
主婦A「え?何が?」
門番「ほら、時々噂になってる奴ら」
主婦A「まさか・・・”あの人”たち?」
門番「らしいぜ。あいつらがこんな近くに来たのは初めてだよなぁ」
主婦A「まさか、この街には来ないはずよね?」
門番「だと思うぞ。横柄な政治家もいないし、犯罪で溢れかえっているわけでもないからな。この街は」
  さあ、どうかな

〇西洋の市場
僕「市場に出たし、もう少し人がいるかな・・・」
  市場には、手をつないで歩く親子連れや、明日発売の本を楽しそうに待っている学生がいた。
僕(どうしようもない・・・わけではないか)
僕(この街の歴史を知れるところに行きたいなぁ)
僕「あの、すいません。役所はどこにありますか?」
主婦B「少し歩きますけど、ここの道をまっすぐ行ってください。突き当りに地図があるので、それを見たらわかると思います」
僕「わかりました。ありがとうございます」

〇警察署の資料室
役所の人「ここは資料室になっておりまして、当時の新聞記事なども読むことができます」
僕「資料が充実しているんですね。素晴らしいです」
役所の人「これも未来のためですから」
役所の人「あなたは、大学の先生でいらしたんですよね?研究か何か?」
僕「そうですね。この街の「未来のために備える」というところが珍しいと思いまして、研究しています」
僕「その「未来に備える」ということが、この街の特徴になったきっかけでもあったんでしょうか」
役所の人「ありました。これはまだ私が5歳のころです。だから私も記事でしか知りませんが、」
役所の人「とてもおぞましい出来事だった、ということはわかります」
僕「おぞましい・・・?」
役所の人「ええ。この街は北区、南区、東区、西区、と別れています。その北区に、両親と子ども2人のある4人家族が住んでいました」
役所の人「とても仲が良くて評判のいい家族だったそうです」
役所の人「しかしある時、急に長男が乱心して、一家全員を殺めたのち、家を放火しました」
役所の人「そしてその後、何を思ったか家族だけでなく、近隣住民を手にかけ、警察に通報しようとした人も殺し・・・」
役所の人「そうして、北区の住民が全滅してしまったそうです」
僕「全滅か・・・。当時北区の住民は何人でしたか?」
役所の人「134人だったそうです」
僕「なるほど・・・。それで未来への備えですか」
役所の人「またいつ、あのように乱心した人が出てくるかわかりませんから」
僕「どうして彼が大量殺人をしたか、わかっていますか?」
役所の人「彼の身柄は東区の警察官によって捕まえられたのですが、」
役所の人「その時に、「いつも違うところばかり見ていた」「自分のことを見てくれなかった」と意味不明なことを言っていたそうですよ」
僕「「自分のことを見てくれなかった」か」
役所の人「・・・何か?」
僕「その殺人を犯してしまった人も、親が今を見てくれなかったんじゃないでしょうか」
役所の人「人もって・・・。他にいるんですか?」
僕「未来はいつだって今日の上に耕されますから」
僕「未来を守るなら、今を充実させるのも、大事なことではないでしょうか」
僕「未来がどうしようもなくなる前に」
役所の人「だから、どうしようもなくなる前に、備えているんじゃありませんか」
僕「そこなんですよね。ちょっとだけ、ずれていますよ」
僕「これで僕は失礼します。もう少し仕事をしたら、自分の街に帰ります。ありがとうございました」
役所の人「・・・何だったの」

〇湖畔の自然公園
僕「よっ!」
男の子「あ、こんにちは。街見てきましたか?」
僕「うん・・・。君は何区に住んでいるの?」
男の子「北区です」
僕「なるほどねぇ」
僕「役所の人と話してきたんだけどさ、」
僕「街の常識と言うのは、すぐには変わらないかもしれない」
僕「だけど、少しずつ変わっていくよ。確かにね・・・」

〇西洋の市場
住民「逃げろ!火事だ!家の火がここまで広がっているぞ!」
消防士「早く逃げろ!」
住民「おい、火元の家族は・・・」
消防士「・・・今はとにかく逃げろ」
男の子「え・・・」
  少しずつ変わっていくよ。確かにね
男の子「まさか・・・」

〇西洋の市場
男の子「火は消えたか。何だったんだろう」
男の子「もう情報出てるんだ」
新聞屋「号外でーす!!号外でーす!!」
男の子「火元から両親と弟の遺体・・・。犯人は兄・・・。刺し傷があり、殺害した後に放火したとみられる・・・」
男の子「犯行の動機について、「受験を控えていた。将来の心配ばかりして、僕のことは心配してくれなかった」
男の子「あなたのため、と殴られたこともあった。今が辛いといっても、聞いてくれなかった」
男の子「助けてほしいのは、今だった」
男の子「もう、うるさいことを言われないと思うと嬉しい」
男の子「僕のことを心配してほしかったけど、あんな人の優しさなんて、もういらない」」
男の子「と述べている」

〇中東の街
男の子「・・・ただいま」
母「おかえり」
母「聞いた?火事の話」
男の子「・・・うん」
母「前、勉強お休みしたいって言ってたわよね。いいわよ。友達と遊んでもいい」
母「勉強だけじゃ、疲れてしまうでしょ?お母さん、あなたの今を大事にしようと思って」
母「お隣さんの娘さんも、明日は勉強しないで、お買い物に行くみたい」
  ・・・確かに、変わった。

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