読切(脚本)
〇シックなカフェ
時田 洋平「宝 いつまでツボ磨いてんだ!」
時田 洋平「早く来い!」
時田 宝「もうそんな時間!?」
時田 宝「ごめん、おじさん すぐ行くよ」
俺の名前は時田 宝
古物商になって世界を飛び回るのが夢だ
いまはこの洋平おじさんの元で見習いとして働いてる
時田 洋平「・・・ったく 熱心なのはいいけど、時間が守れないんじゃ商談につれていけなくなっちまうぞ?」
時田 宝「うぅ・・・ホントごめん・・・」
時田 洋平「ま、わかってんならいいさ さっさと行くぞ」
〇開けた交差点
時田 宝「今日は小物の買い取りに行くんだっけ?」
時田 洋平「そうそう 2ヶ月前くらいから頼まれてたんだ 曽祖父の代から継がれてきた宮廷献上品っていう触れ込みでな」
時田 洋平「そんな大層なもんはなかったけど、なかなかこれが粒揃いでな 今日が相手方の都合がいいっていうんで行くことになったわけよ」
時田 宝「へえ〜早く見てみたいな」
時田 洋平「大量にあるからな 店に帰ったら目利きのテストするぞ」
時田 宝「えぇっ!?普通に見せてよ テストなんてやだよ」
時田 洋平「ダメダメ こんな機会めったにないんだからちゃんと勉強しなさい」
時田 洋平「お前を立派な古物商に育てなきゃ、空の姉貴に叱られちまうからな」
時田 宝「うん、そうだね 俺も早く独り立ちしなきゃ」
〇線路沿いの道
時田 洋平「よし、着いたぞ」
時田 洋平「ありゃ!? もういくつか荷物出してくれてるな」
時田 洋平「お前はトランクに荷物の積み込みする準備しといてくれ 俺はお客さんと話してくるから」
時田 宝「わかった! ・・・積み込んでる間にちょっとなら 買い取った商品見てもいい?」
時田 洋平「おう!いいぞ 壊さないように慎重に運ぶんだぞ~」
時田 宝「はいはい、わかってるって」
時田 宝「さて、と」
時田 宝「何が入ってるかわからないから、一旦中身を開けて確認っと ・・・ん?」
ガチャッ
時田 宝「やばいっ! なんか落とした!?」
時田 宝「良かったぁ 傷はないっぽいな」
時田 宝「今日の買取品に刃物なんてあったっけ? 見た感じ結構古そうではあるけど、どこの意匠だろう?」
時田 宝「にしても、綺麗なナイフだなぁ・・・ 黒い刀身が日に当たると少しだけ赤く反射するのもいい」
時田 宝「ん?刀身に文字が彫り込まれてるな なになに・・・?」
時田 洋平「待たせたな~ ここの段ボール全部入れていいってよ」
時田 宝「うわっ、おじさん!? もう話は終わったの?」
時田 洋平「ああ、査定は前に済ませてたし積み込む荷物の確認だけしてきたからな なんか驚くことあったか? ・・・ってか、そのナイフ何?」
時田 宝「その、これは・・・ 荷物に紛れ込んでて・・・」
時田 洋平「ふーん 持ってけば?」
時田 宝「いいの!?」
時田 洋平「いいんじゃない? 段ボールに入ってるもの全部持っていって 良いって確認とってるし」
時田 洋平「それより、さっさと積み込んじまうぞ トランク開けてくれ」
時田 宝「了解!」
〇黒背景
〇おしゃれな住宅街
時田 洋平「いや〜 良い品が大量に入って満足満足!」
時田 宝「結局、このナイフがどこのかものか わからなかったね」
時田 洋平「確認したけど段ボールに入ってたものは お宅に譲りますよって言われちまったしなぁ」
時田 洋平「そいつがシンの宝だったら良かったんだがな」
時田 宝「ん? おじさんなんか言った?」
時田 洋平「いんや なんでもねぇよん」
〇黒背景
〇開けた交差点
時田 宝「このナイフがどこの国のものかおじさんは わかる?」
時田 洋平「うーん インド方面っぽい装飾だけど、見たことがない意匠なんだよなぁ」
時田 洋平「黒い刀身は黒曜石っぽいけど赤く光るなんて聞いたことないし・・・」
時田 洋平「売れないし大事に持っとけば?」
時田 宝「こんな高価そうなのに、ホントにもらっちゃっていいの?」
時田 洋平「その様子だとナイフが気に入ったんだろ? なら持っとけって」
時田 宝「・・・ありがとう。ホントいうと欲しかったんだ」
時田 洋平「あれっ!? いまそのナイフ光らなかったか?」
時田 宝「え?」
時田 洋平「・・・俺の見間違いか?」
時田 洋平「ところで、さっきからなんか渋滞してるな」
時田 宝「交差点の中に人が立ってる。危ないな」
交差点に立つ男「・・・」
時田 宝「ずっと立ってるね」
時田 洋平「ずっと立ってるな」
ガラの悪い運転手「邪魔くせえんだよ! とっととどけこの馬鹿野郎!!」
時田 洋平「邪魔臭いってのは同意だけど、 怒鳴り散らすのも不愉快なんだがな」
時田 宝「さっき怒鳴ってた人、立ってる人の横をすり抜けて行こうとしてるね 無茶なことするなぁ」
交差点に立つ男「──!」
ガラの悪い運転手「アホらしい 馬鹿の相手なんかしてらんねぇよ ったく・・・ん?」
交差点に立つ男だった者「ガアアアァ──!!!!」
ガラの悪い運転手「なっ──なんだこのバケモ・・・」
交差点に立っていた男の体から火が上り、
炎の中から現れたのは異形のものだった
それは脇をすり抜けようとした軽トラックを掴み上げると大きく振りかぶって運転手ごと地面に叩きつけた
ガラの悪い運転手「ぎゃぶッ」
一瞬のことだった
悲鳴を上げた女性「きゃああぁぁ!!」
その女性の悲鳴を引き金に街はパニックに陥った
車を捨てて逃走する人、恐怖で泣き崩れる人、手を引いて友人と逃げようとする人
そんな混乱の渦が一気に広がっていく
母とはぐれた少女「うえぇーん!! お母さぁん!!どこいったのー!?」
時田 宝「あの子、母親とはぐれたんだ!」
交差点に立つ男だった者「グルゥウガァアアア!!」
時田 洋平「あんにゃろうあの子に気づきやがった! 嬢ちゃん!走って逃げろ!!早く!!」
時田 宝「ダメだ! 見てられない!!」
時田 洋平「あ、こら! 宝!早く車に戻れ! 馬鹿野郎!ガキの喧嘩じゃねぇんだぞ!?」
時田 宝「危ないことはわかってる! でも見てられない!助けなきゃ!!」
???「・・・全く、なんと短絡的なお馬鹿さんに 拾われたものだ」
母とはぐれた少女「うわああああああ!!お母さぁああああん!!」
交差点に立つ男だった者「グルァアア・・・・・・!!」
時田 宝「やめろーっ!!!」
怪物の手が女の子に届きかけたそのとき、
間一髪で俺は女の子を抱き上げた
母とはぐれた少女「ああぁ・・・!! こわがっだよぉ・・・!!」
時田 宝「もう大丈夫だよ 早く安全な場所にっ──!?」
怪人に背を向けた俺が甘かった
背中を焼く鋭い痛みと熱さが突如背後から
襲ってきた
交差点に立つ男だった者「グルァアアアア!!!」
女の子が泣きながら俺に手を伸ばすのと、
おじさんが車を下りてくるところが
霞む視界に写った
時田 宝「この子を・・・ッ!!」
その光景を最後に俺の意識は途切れた
〇黒背景
〇炎
???「やれやれ・・・ 命を無駄にしてはいけませんよ」
時田 宝「・・・っう、ん?」
時田 宝「あれ・・・? 俺、何して・・・?」
時田 宝「あの女の子は!?」
???「救出されましたよ あなたの勇気ある行動によって、ね」
時田 宝「良かったあ・・・」
時田 宝「──って誰だ!?」
???「私は後ろですよ」
謎の声に従って俺が後ろ振り向くと、そこには異常なものがいた
白い陶器のような肌、ナイフのようなものがついた顔、指輪やスーツで華美に着飾った姿
極めつけは尻の部分から長く伸びた細い紐のような尻尾。その先端と頭頂部では火が燃え盛っている
???「ようやくお目覚めのようですね おはようございます」
時田 宝「お前は、誰だ・・・!?」
???「わかりませんか?まあわからないでしょうね ここで目覚めただけでも及第点というものを直前の出来事の記憶まであるのですから」
???「──上出来です あなたは私のビジネスに相応しい相手だ」
時田 宝「ビジネス・・・? 言ってることがさっぱりわからないぞ」
???「わからないようにお話していますのでね ビジネスで有利に立ち回るコツは相手に 秘匿する情報を増やすことですよ」
???「このままあなたをからかっているのも悪くはないのですが、私は時間のムダが嫌いです 手短に行きましょう」
ヴィタ「申し遅らせました。私はヴィタ・フランマ。長いのでヴィタとお呼び下さい あなたにおすすめの商品をお持ちしました」
時田 宝「ヴィタ、お前は誰なのかはわかった。俺が知りたいのはお前がなんなのかだ。悪魔か何かなのか?」
ヴィタ「いいえ。私はスピリトゥムと呼ばれる精霊です。ただの精霊ではなく、シンの宝と呼ばれる特殊な財宝に宿る精霊です」
ヴィタ「ナイフはお気に召しましたか?あれこそが私の宿る本体なのです」
時田 宝「あのナイフがお前だったのか!?」
ヴィタ「いたく気に入っていただけて光栄ですよ。Mr.タカラ」
ヴィタ「雑談はこの程度に。あなたの状況を整理します。あなたは現在下級精霊に操られた人間の攻撃を受けて瀕死。恐らく数時間で死に至る」
ヴィタ「そこでビジネスチャンス!延命だけでなくあの下級精霊も退ける力を借用いたします。お代は後払いで結構。どうです?」
時田 宝「何が目的だ?」
ヴィタ「お話が早くて助かります。要求はあなたの寿命。返済が早急に終われば私もその後は関与しません」
ヴィタ「時間も短くなって来ましたし、契約しないならそれで結構。私はお暇いたします」
時田 宝「・・・わかった。契約する。お前のこと信用できないけど、お前しか頼れないからな」
ヴィタ「──結構です。では、」
〇荒廃した街
私の力、あなたに”借用”いたします
???「ウォォオオオ!!」
時田 洋平「宝!?お前なのか!?」
フランマ「おじさん!危ないから下がっ・・・」
フランマ「・・・何これー!?」
ヴィタ「ボンネットに写った顔に驚く暇はありませんよ。ミスター」
フランマ「え?ヴィタ!?どこにいんの!?俺の体なんかギンギラになっちゃったんだけど!!」
ヴィタ「借用した力の効果ですね。あなたの魂に呼応して装甲が出現したのです。御託はいいので戦ってらっしゃい」
フランマ「え?さっきのやつ殴ればいいの?」
時田 洋平「さっきから一人で何してんだ!危ないから逃げるぞ」
フランマ「ごめんおじさん!ちょっと戦わなきゃダメっぽい!先に帰ってて!」
時田 洋平「あ、おい!宝!!」
交差点に立つ男だった者「ガァアアアア!!」
「暴れてんじゃねぇ!!」
「ギャッ」
フランマ「一気に100mくらい跳んじゃった!何この体!?」
ヴィタ「身体能力が上がっているのです。油断しないで、次が来ますよ」
交差点に立つ男だった者「ヴルァアアアアア!!」
フランマ「な、なんか赤くなったよ!?」
ヴィタ「ふむ。攻撃されて怒っているのでしょう ちょっと強くなりますが、なんとかなります」
フランマ「強くなるなら先に言ってくんない!?」
交差点に立つ男だった者「ウグァアアア!!」
フランマ「うわっパンチしてきた!」
フランマ(でも、動きが見切れる!怒ってるせいで単調なんだ)
ヴィタ「精霊憑きの人間はコアが体の中心に埋まっています。それを壊して!」
フランマ「あいつの胸の下のとこで光ってるやつ?」
交差点に立つ男だった者「ヴォアアアア!!」
フランマ「うわ!火吹いてきた!熱・・・くない!! なんで?」
ヴィタ「知れたこと。火は私の力でもある。下等精霊ごときに火力で負ける私ではないのですよ」
フランマ(ヴィタって強い精霊だったのか。知らなかった)
フランマ「痛いと思うけど、一瞬で済ませる!」
フランマ「ハアッ!」
交差点に立つ男だった者「グッ・・・ガァ・・・ッ!!」
俺が振りかぶった拳は深々と怪人に突き刺さり、怪人は膝から崩れ落ちた
そして、怪人の体の炎は見る見るうちに弱まっていき、最後には交差点に立っていた男性が残った
フランマ「はあっ、はあ・・・終わったのか?」
ヴィタ「ええ。戦いは、終わりです」
フランマ「え?戦いはってどういう意味・・・」
時田 洋平「宝!!」
フランマ「あ、おじさん!!良かった。無事で・・・」
時田 洋平「早く逃げるぞ!!」
フランマ「へ?あ・・・」
必死に戦っている間は気づかなかったけど、俺たちの戦いを見ていた人々の視線が俺に集まっていた
フランマ「戦いはってそういうことかよ~!!」
END
おじさんの反応も気になるしヴィタの性格もとても好みです。宝くんがどう振り回されていってしまうのか、おじさんは何を知ってるのかとても続きが読みたい作品だと思いました。
宝が女の子を助けようと動き出したときのヴィタの反応が、その後の状況からより理解できました。精霊だけに戦いの場には潜入したくなかっただろうけど、彼の正義感から上手く引用できたように思います。
何かに心惹かれるってありますよね。
たぶんそれは自分との相性が良いものだと思いますが、宝君もそれに惹かれてしまったようですね。
読んでて楽しかったです。