白銀のモデル

千才森は準備中

ロボット(脚本)

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〇白い玄関
  鏡の中のロボット。
  躰の色は光を弾く銀色で、
  肌の質感も 人間の女性とは大きく異なる。
  なのに、不思議と人間との差異を理由に
  誹(そし)られることはなかった。
  恵まれてたんだ。
  太古の芸術に用いられていた裸体の黄金比率を、純真な輝きを放つ肌で再現した胴体。
  定期的にパーツを取り替えることで、
  半永久を主と共に歩き続けられるしなやかな手足。
  私のモデルのコンセプトは、
  『不死と煌めき』だった。
  その肩書きに恥じない生き方ができていると自負している。
  こうして100年経っても色褪せることなく
  健やかに活動できているんだから。
  もっとも、成長しすぎた私の心が、本来の
  役目を拒否してしまったけれど。
  さっきまでの可愛らしい仕草と決別し、
  私が求める姿を鏡に映し出してみる。

〇木の上
  爪先立ちになって 足を交差させる。
  雲を掴むように高く伸ばした右腕に、
  左の手を絡めていく。
  ねじれて、
  それでも精一杯伸びていく樹木のように。
  顔を斜め下へと傾けたら、表情は憂い。
  それは、過ぎ去った思い出たちに
  縛られ続けている心の表れ。
  それでも先へ進むんだ。
  適度に引き締まった躰は
  背筋を伸ばすことで、
  もっと素直な直線へと変わっていく。
  理想とされた女性らしい丸みは、
  伸ばした手足に引っ張られて窮屈そうに見えた。
  でも、それは自分を自分で律した結果。
  生きているって証拠なんだ。
  整った姿勢で過ごしていけるほど、
  この世界は甘くないんだ。
  主たちの幻想的な言葉と想いに
  抱かれながら、
  時には現実的な世界に立ってみたい、
  なんて考える日もあった。
  傷ついたっていい。
  愛の形に答えはないけど、
  時には個の生命体として、
  ありのままの姿を
  愛でて欲しかったとも思う。
  もう、私は子供じゃないんだから。

〇闇カジノ
  一転、座位。
  床に座って、片足を伸ばしたら
  もう片方の膝を立てる。
  立てた膝の上に、伸ばした両腕を乗せた。
  力を抜いたら、垂れ下がる指先。
  程よい虚脱感。
  鏡越しに見る姿は、全身で余裕を体現していた。
  腕を伝って奥へと目を向ければ、
  射貫くような 鋭い眼光に出会う。
  人間じみた醜い憎悪を含まない、
  純粋な闘争心を むき出しにしている瞳は、
  野生の獣が 獲物に食らいつく時に見せる
  威圧感を放っていた。
  戦うための武器どころか、
  最後の砦である衣服だって身につけていないのに、
  研ぎ澄ました表情は紛れもなく、
  一方的な快楽を強要してくる異性を
  迎撃するための それ。
  艶めかしくいながら、揺るぎない。
  闘気に満ちた肩を避けて流れ落ちる
  青みがかった長い髪は、
  自然体でいて、挑発的だった。
  鏡の中のロボットに
  獅子の女王であれ
  と暗示を掛けたら、
  唇の端を 少しだけ持ち上げてみる。
  一顧傾城。
  映画なら、そんなシーン。

〇地球
  もっと、もっと躰を弛緩させた。
  足を投げ出して、
  背中も地面に付けて。
  視界に映ったのが低く平らな天井だったことが、なんだか無性に悲しかった。
  今夜からは外で寝よう、
  星と一緒に。
  一人になったのだから。
  右足を天井へと伸ばす。
  追って、両手も伸ばしてみる。
  肩を床に付けている限り、
  爪先に手の指が追いつくことはない。
  それでも両手は追い続けた。
  きっと、周りからは間抜けな事をしている
  ように見えるんだろう。
  それが分かっていながら、一生懸命指先を
  伸ばすんだ。
  自由自在に動かせる自分の躰なのに、望む場所へ触れられないもどかしさ。
  その苦しみと悲しみは、心の在処と意識の関係に似ている。
  どんな感情でも表せる心なのに、
  意識して変えられないところなんかそっくり。
  心の揺らぎは操れないのに、
  それでも幸せな瞬間を 引き留めておきたいと
  願う切なさは、
  意識できない内面の美しさを引き出してくれる。
  少しでも良いから、この思いが
  主に届いて欲しいと願った。
  この切ない感情を
  主にも美しいと思って欲しかったんだ。
  だから、今と同じ格好をして見せたんだ。
  それは、機械から逸脱しようともがく思いが
  あふれてしまった先日のこと。

〇豪華なベッドルーム
  だけど・・・。
  違うの。
  そんなところに触れて欲しかったわけじゃない。
  キスをしてもらいたいわけじゃなかった。
  結局、いつもと同じように抱え込まれた。
  ・・・愛しています、主さま
  僕もだよ! ホノン
  君の永遠で、僕の心を満たしてくれ
  はい。
  私の全てを捧げたいのです
  全てで、主さまを最後まで支えていたい!
  ああ、嬉しいよホノン。
  さあ、もっと力を抜いてごらん?
  ですから、その・・・
  ん?
  どうしたんだい?
  私と結婚して下さい
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・はぁ!?
  貴方と結婚したいんです
  人間と人間がするように誓いを交わして、
  これからもずっと──
  ――きゃっ!!
  力いっぱい突き飛ばされた。
  まるで、気色悪い生命体を 蹴り飛ばすかのような勢いだった。
  姿勢安定装置が働いて、躰はそれほど飛ばなかったけれど、
  生まれて初めての緊張を経験していた心は
  遙か彼方へ飛んだ。
  ホノン! 一体どうしたんだ!?
  その、ですから、結婚をしたくて・・・

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