白銀のモデル

千才森は準備中

カフェー(脚本)

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〇ビジネス街
  9月の秋晴れ。
  超感覚の耳が、澄んだ静寂を喜んでいた。
  朝が早くて人通りの少ないせいか、
  町を包み込む空気が清々としている。
  空は凜々しく高く、こんなにも壮観なら
  陽光を照り返して波を打つ 真夏の海とも
  肩を並べられそう。
  そう、夏の海が好き。
  生き生きとしているから。
  鳥たちはすでに活動を始めているけど、
  町はまだ目覚めていないみたい。
  町が人工物であるのなら、人間が外に出てこない限り目覚めることはない。
  それが真理。
  眠った町が見ている
  静かな夢の中を 歩く。
  目的地は坂を上った先。
  そこに、飛行船発着場へ直通できる駅がある。
  でも、このまま向かうと少し早すぎるかな?
  電車の到着までは時間が余ってるから
  寄り道していきたいんだけど、
  さすがに開いているお店はないかもしれない。

〇道玄坂
  検索してお店を探すのは風情がないし。
  そんな感じで、ふらふら。
  周りを眺めながら歩いていると、
  赤トンボが肩にちょんと触れてきた。
  服を着ていたら止まれたかもしれないけど、
  つるりとした軟質ラバーの肌には トンボの足が引っ掛からないんじゃないかな?
  何度か挑戦して諦めたのか、
  私の周りをぐるりと回ると、
  ひゅーっと空へ消えていった。
  何だか警戒心の薄い子。
  あんなトンボが沢山住める世界になれば良いのに。
  肩を 胸を 腰を 足の先を、
  全身を撫でていくように吹き抜ける風が
  新鮮だった。
  感じたことのないぐらい濃い、
  世界との一体感。
  今まで “人であれ” と言われたことは
  なかったけれど、総じて人間らしい
  振る舞いを求められてきた。
  特に外出時の衣服着用は必須。
  私は女性の体の特徴を持っているものの、
  生命体ではないから 法律上の性別を持っていなかった。
  だから、人間のように性差の現れる場所を
  隠さなければいけない義務は存在しないのだけど、
  主は皆、人間と同じ格好でいるように指示を出す。
  着衣を嫌だと感じたことはないし、
  綺麗に着飾った自分の姿を見るのも好きだった。
  でも、風や陽差しに肌を晒す感覚を知らずに
  過ごしてきたのは、何だかもったいないと思えてしまう。

〇商店街の飲食店
  寄り道先の心配は杞憂に終わり、
  こんな時間から開けているカフェを見つけた。
  開店時間を確認してから、
  ガラスのドアを押し開けた。

〇レトロ喫茶
  座ったのは空の見える窓際の席。
  角張った字の並んだ 手書きの小さなメニュー表を開くと、
  思いがけずファンタジックな文字が
  目に飛び込んできて、めくった手が止まってしまった。
  ・新月を浮かべたブレンド
   ・海底神殿で眠るデミタス
    ・幻影と泡沫のカプチーノ
     ・長距離大口径カフェオレ
  軽食は普通の料理名なのに、
  コーヒーだけが異質。
  ベージュや黒でまとめられている内装からは
  想像できなかったセンス。
マスター「いらっしゃいませ。 ご注文はお決まりですか?」
  声に振り向くと、
  ビシッとした黒いベストに真っ白なシャツ、
  紅葉をあしらったネクタイを着けたウエイターが静かに立っていた。
  静かと言っても “ロボットにしては” って意味で人間のように無音ではなかったけれど。
  半袖から伸びた腕は機械構造が透けて見える
  実用的なロボットアームで、
  エプロンから覗く4輪のタイヤが、
  人間のシルエットを持つ躰を支えている。

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