①魔女現る(脚本)
〇美容院
ヘアメイク『シルバーフレーム』は、
南青山にある美容室。
お客様「何よコレ!? 顔周りに『シャギー』入れてって言ったのに、スキ過ぎてペラペラじゃない!」
お客様「アンタ、美容師のくせに『シャギー』の意味、分かっていないの!?」
雛子(ひよこ)(『シャギー』は髪を薄くしたり、ギザギザにすることだと思っていたけど、違うの?)
雛子(ひよこ)「も、申し訳ありません!」
雛子(ひよこ)(どうしよう。 今日は店長居ないのに!)
お客様「この店で1番上手い人呼んで、直させなさいよっ!!」
???「それなら、私ね」
間女(まじょ)「お客様、 私は高いですけどよろしくて?」
雛子(ひよこ)「間女さん!」
お客様「高いって・・・同じ店のスタッフの失敗直すのに、更に金取る気なの?」
お客様「冗談じゃないわ!」
間女(まじょ)「ウフ、 冗談ではありません」
間女(まじょ)「だって、私の時給1万円なので!」
雛子(ひよこ)「このお店は半分面貸しになっていて、フリーランスの美容師さんが、時給プラス歩合で働いているんですっ!」
間女(まじょ)「だから私が担当すると、通常スタイリスト料金の10倍プラス、カット料金なの」
間女(まじょ)「ナンバーワンなので!」
お客様「キャラ強!」
お客様「ホントに私を満足させてくれたら支払うわよ」
お客様「でも、出来なかったらカット代は無料! プラス、土下座してちょうだい!!」
間女(まじょ)「オ〜ホホホ・・・良くってよ!」
間女(まじょ)「それではお客様のスタイリングは、 この間女好美がお受けするわ」
間女(まじょ)「良いわね、ヒヨッコさん?」
憧れのスタイリストになって1年、
自分の不甲斐なさに涙が出そうだった。
間女(まじょ)「涙で視界が悪くなる前に、私の技術を見て盗みなさい」
間女(まじょ)「お待たせしました。 奥の個室へどうぞ!」
〇花模様2
お客様「な、何よこの鏡!? 額縁だけで、中身が無い!」
間女(まじょ)「クイックな私の施術に、鏡はノンですわ。 最後に確認したらよろしくってよ」
お客様「アアッ!? 何この感じ・・・優しさに包まれているような幸福感!」
お客様「気持ちイイッ!!」
間女「ご覧あれ」
お客様「スゴイわ! 思っていた通り・・・それ以上の髪型よ!!」
お客様「しかもこんなに手早く素敵にカット出来るなんて! 魔法みたい!!!」
間女(まじょ)「ウフ、よく言われるけど 魔法は使えません」
間女(まじょ)「『まじょ』ですけども!」
〇美容院
雛子(ひよこ)「お客様が別人みたいだわ! 早い上に仕上がりも完璧・・・ これが間女さんのカット!」
お客様「自分史上最高です! ありがとうございます!!」
間女(まじょ)「ちなみにお客様、『シャギー』って何のことかご存知?」
お客様「へ? 貴方が今切った、このスタイルのことじゃないの?」
間女(まじょ)「答えは・・・ノンですわ。 『シャギー』は美容用語では無いし、スタイルの名前ではございませんのよ」
「エエッ!そうなの!?」
お客様「でっ、でも、前に担当してくれた美容師さんは、シャギーって言ったらこうしてくれたわよ?」
間女(まじょ)「その方、かなり年配の美容師さんではないのかしら?」
間女(まじょ)「諸説ありますが『シャギー』という言葉は、1960年代にアメリカの美容師が発案し、」
間女(まじょ)「雑誌『アン・ノン』がトレンドを発信するために広めた造語です」
間女(まじょ)「語源は、英語の『シャグ』から来ているとか?」
間女(まじょ)「ともかくこの髪型は、美容師的には顔周りに『レイヤーカット』を施したスタイルなのです」
間女(まじょ)「学校でも教えないので、年配のオバサマ美容師やハイスペな私なら理解できたとしても、」
間女(まじょ)「うら若き小娘が理解するのは難しかったでしょうね」
間女(まじょ)「お客様もプロに注文されるなら、自分の使う言葉にもお気をつけあそばせ!」
お客様(ぐうの音も出ないどころか、怒られて感動してしまうのは何故?)
お客様「次回も貴女を指名したいのだけど・・・」
間女(まじょ)「1年後でよろしければ。 私、ナンバーワンなので」
間女(まじょ)「オホホホホホホ!!」
雛子(ひよこ)「間女さん、スカッとしました。 助けてくれた上に勉強もさせてもらえて、何て言ったらいいか・・・」
間女(まじょ)「礼には及ばないわ。 後で店長に、アナタの教育代も請求させてもらうから、ノープロブレム」
間女(まじょ)「ただプロとして、お客様の要望が分からないなら話術で聞き出すなりして、技術をすり合わせる努力をするべきだったわね」
雛子(ひよこ)「その通りです! これから精進します!!」
間女(まじょ)「今のアドヴァイスも加算して請求するから、そのつもりで〜!」
雛子(ひよこ)(今月の給料、手元に残るかなあ!?)
颯爽と立ち去る間女さんの後ろ姿に、私は誓った。
いつか私は、
間女さんみたいなスタイリストになってみせる!
〇おしゃれな受付
夕梨花(ゆりか)「間女に助けられた!? 珍しーこともあるわね」
雛子(ひよこ)「間女さんていつも個室で仕事するし、予約客しか切らないから、お仕事見るどころか、話したのも初めてだったよ!」
夕梨花(ゆりか)「受付の私ですら、たまに挨拶するくらいだからね!」
雛子(ひよこ)「私大ファンになったよ〜!」
成宮(なるみや)「ヒヨちゃん、昨日クレーム客大丈夫だった? かなり大騒ぎしたって聞いたよ」
雛子(ひよこ)「それが間女さんに助けて頂いて、お客様が逆に間女さんの顧客になってしまったんです!」
雛子(ひよこ)「さすがナンバーワンですよねッ!」
成宮(なるみや)「チッ、間女のやつ・・・ 顧客欲しさにわざとシャシャリ出て来たんじゃないのか?」
成宮(なるみや)「それよりヒヨちゃん、今日予約客居る?」
成宮(なるみや)「俺のメインアシスタントが急に病欠しちゃって・・・ 良かったらヘルプしてくれない?」
夕梨花(ゆりか)「ちょ、成宮?」
夕梨花(ゆりか)「スタイリスト同士はヘルプしあわないのがこの店のルールよ?」
成宮(なるみや)「細かいこと言うなよ〜。 ヒヨちゃんは1年前まで俺のメインアシスタントだったもんね!」
雛子(ひよこ)「はい・・・手伝わせて下さい」
ナルさんは良い人だし、
決してヘルプの仕事が嫌な訳ではない。
ただ・・・
〇教会の控室
お客様「ヤダ! 貴女また、成宮クンのアシスタントになったの?」
お客様「いつも成宮クンと仲良さそうにしてさ〜! まさか、裏で付きあってないでしょうね?」
雛子(ひよこ)(仕事なんだから、話しくらいするっつーの!)
雛子(ひよこ)(お客様が、みんなナルさんの彼女だから、ヤキモチ焼かれて嫌なんだよね!!)
成宮(なるみや)「ヒヨちゃんブローありがとう。 今夜、お礼にご飯奢るね!」
お客様「キィーッ!? やっぱり怪しい! 許せない!!」
雛子(ひよこ)(やめてやめて。 私を巻き込まないでよ〜!?)
間女(まじょ)「あら。 久しぶりね、万年ナンバーツーくん」
成宮(なるみや)「間女・・・! その呼び方はヤメロ!」
成宮(なるみや)「俺はお前と違って、カットコンテストで連覇しているし、書籍を出したり講習会の講師もやっているんだ」
成宮(なるみや)「なのに、何故この店の ナンバーワンになれないか!? それは・・・」
成宮(なるみや)「オマエと店長がデキてるからだろッ!?」
間女(まじょ)「この間女好美が、あのポンコツ店長と?」
〇白
〇教会の控室
間女(まじょ)「想像してしまいましたわ! ご勘弁ください」
間女(まじょ)「私のアラを探すより、今の貴方の方が問題ではなくて?」
成宮(なるみや)「何だとッ!?」
間女(まじょ)「美容の施術は性行為に等しい」
間女(まじょ)「目の前の女性を満足させられない貴方は、」
間女(まじょ)「自分だけ気持ち良くなって果てるだけの、タダのマスカキ男ですわ!」
成宮(なるみや)「客の前で恥かかせやがって!!」
成宮(なるみや)「オマエがどれだけ客を満足させられるのか、俺の顧客をカットしてみろよ!!」
お客様「ヤダヤダ! 変な髪型にされたら困るよ〜」
間女(まじょ)「私、高いですけれどよろしくて?」
成宮(なるみや)「お前のぼったくりスタイリスト料金は、俺が負けたら全額支払う」
成宮(なるみや)「だが勝ったら、 今日から俺が、ナンバーワンだ!!」
雛子(ひよこ)(大変なことになっちゃった! ナルさんの顧客はみんな彼女だから、 間女さんに勝ち目は無いわ!!)
間女(まじょ)「ヒヨッコさんもいらしたのね。 丁度良いわ。 貴女にジャッジをお任せしても?」
雛子(ひよこ)「分かりました!」
〇美容院
雛子(ひよこ)「それでは、美容師の技量が1番問われる ボブスタイルで勝負です!」
成宮(なるみや)(俺の1番熱狂的ファンを間女に切らせる。 俺のナンバーワンは確定だ!)
お客様「私、襟足が長いんだけど、大丈夫かな?」
成宮(なるみや)「じゃあ、そこだけ刈り上げれば問題無いよ!」
お客様「エッ!刈り上げ・・・!?」
成宮(なるみや)「プロを信じて、任せて!」
お客様「内巻きになるようにしてくださいね! (成クンにクセ髪だから、アイロン使わないと出来ないって言われているけど)」
お客様(どうせ、出来ないから大騒ぎしてやる!)
間女(まじょ)「畏まりました。 ブロー無しで内巻きにするなら イングラデーションがオススよ」
間女(まじょ)「でも、仕事で縛ったりするのなら長めにして、少し表面にグラデーションをつけて丸みを出すのもお似合いだわ」
お客様(そんなこと、成クンに言われたことがないから分からないわ)
お客様「普段、髪を縛ったりはしないから、イングラデーションが良いのかな?」
間女(まじょ)「良いチョイスですわ。 それでは、始めましょう」
お客様「気持ち良いっ! 髪を触られて、カットされているだけなのに、何でこんなに気持ち良いの!?」
間女「ご覧あれ」
お客様「これが・・・私ッ!?」
お客様「可愛い〜♥ しかも今、ブローで伸ばしたり、アイロンは使ってないですよね!?」
間女(まじょ)「ハンドドライだけですわ。 四方八方からドライヤーの風を当てることによって、髪の根元を立ち上げたのです」
間女(まじょ)「クセ毛はS字構造を理解しないで切ると跳ねるのですが、収まる地点を目指してカットすれば、キレイな内巻きになるのよ」
間女(まじょ)「特にアイロンやドライヤーの熱は、かけすぎるとキューティクルを痛めますので、ご注意を!」
お客様「成クン、私なんかカッパみたいじゃない?」
成宮(なるみや)「ワンレンボブは真っ直ぐに切るだけの髪型だから、当たり前だろ!」
成宮(なるみや)「これからアイロン使って仕上げるんだから、黙っていろよ! 素人のくせに」
お客様「成クン冷たい! もーこんな髪型イヤだし・・・グスン」
雛子(ひよこ)「これって・・・間女さんの勝ちよね?」
〇教会の控室
成宮(なるみや)「み、認めるもんかッ! この魔女め!!」
成宮(なるみや)「ぶっ飛ばしてやる!!」
雛子(ひよこ)「間女さん危ない!」
成宮(なるみや)「ウワァァ!何をするんだ!!」
成宮(なるみや)「アアッ! 何コレ、気持ち良いっ!!」
成宮(なるみや)「て、天国までイッちゃう〜!!」
間女「貴方にはこれがお似合いよ」
成宮(なるみや)「まさかのスキンヘッド!!」
成宮(なるみや)「俺には出来ない、完璧なスキンの技術・・・! 完全に負けた」
間女(まじょ)「私、理容師の免許もあるので、剃るのも得意でしてよ?」
お客様「ツルツル、スベスベ、ピカピカ〜♥ かわいー! 触らせて!!」
間女(まじょ)「お支払いは、私の伝票に書いておいてね」
雛子(ひよこ)「間女さん、2回も助けてくれて、ありがとうございます! 私をアシスタントにしてもらえませんか?」
雛子(ひよこ)「私、間女さんみたいにカッコイイ美容師になりたいんです!」
間女(まじょ)「私、助けた覚えはなくてよ。 それにヒヨッコさんは、プロのスタイリスト」
間女(まじょ)「名前はヒヨコでも体はすでにニワトリなのよ」
間女(まじょ)「人生は誰のものでもない、 貴女が主人公の物語をお作りなさい」
間女(まじょ)「愛情・努力・勝利!! これが美容師の三大テーマ」
雛子(ひよこ)(私、自分を見失っていたわ)
雛子(ひよこ)「私ッ・・・間違ってました! プロとしての自分を信じて、 美容道を邁進します!!」
間女(まじょ)「ウフ、宜しくどうぞ」
間女(まじょ)「あ、このアドヴァイスも店長に教育費として請求させていただくわね!」
間女(まじょ)「ご機嫌よう!」
ワンシーンコンテストの方から見てノコノコやって来ましたが、成程、これは面白い❤ 『髪』だけでこんなに面白いものが出来るとは。
オカルトなんかだと、髪=神であり、髪には魔力が宿るとされています。それを操るとは、まさしく現代の魔女ですね。素晴らしい。
間女さんキャラ立ってていいですね!
施術部屋の設定も面白い。美容室なのに○○がないなんて!
間女さん、もっとSでも僕はいけそうな気がします。ゆきんこさんなので、間女ってのが北海道にある名字かと思ったら当て字でした。
美容師のお話が新鮮で、私にはとても思いつかないストーリーに
ひきこまれていきました!私もそうですが読んだ人は間女さんにカットしてもらいたくなっちゃいますね☺️