最初の顧客(脚本)
〇荒れた競技場
リザードマン「キシャーー!!」
異形の男「ふんっ!!!!」
リザードマン「ギャッ!」
異形の男「ふんぬー!!」
リザードマン「ギャーッ・・・」
異形の男「ふっふっふ!」
異形の男「はっはっはー!! 最高のドツキマワシ心地じゃねえか! お前の「こん棒」!!」
異形の男「なぁ、武器屋?!」
トウキ「は、はぁ・・・」
トウキ「褒めてもらってめちゃくちゃ光栄なんですけど・・・」
異形の男「だろうな! お前をほめるやつ、 多分オレ以外いないだろうしな!」
トウキ「ひどいっ! その通りだけど・・・」
トウキ「じゃなくてっ!」
トウキ「なんで俺まで、こんな危ないダンジョンについていかなきゃならないんですか?!」
異形の男「そうかぁ? ダンジョンの中じゃ、 せいぜい中程度の危なさだが」
トウキ「いや、そうじゃなくて、 俺、別に戦士系ジョブじゃあ・・・」
「お、危ないぞ〜」
リザードマン「ギャース!!」
トウキ「ヒェーっ?!」
異形の男「おらっ!!」
リザードマン「キューーー・・・」
トウキ「ちょっと、今、普通に襲われたじゃないですか?! 大丈夫大丈夫〜とか言って、 むりやり連れ出したくせに!」
異形の男「堅苦しい言葉やめてタメでいいぜ。 オレもトウキって呼んでやるし。 な、マイスター・トウキ」
トウキ「無視ッ?! いや、嬉しいけど! マイスター呼びしてくれて嬉しいけど!」
異形の男「お、あっちにも獲物わいてるぜ〜 このままなら夕方までに楽勝で 50体退治クエストクリアだな〜」
異形の男「オラオラーっ!」
トウキ「おい、待ってくれよ! 一人にするなよ!」
ええと。
なんでこんなことになったかというと・・・
〇鍛冶屋
トウキ「・・・「こん棒を造ってくれ」だって?!」
トウキ「確かに俺はこん棒しか造れないけど。 え? ほんとに、欲しい・・・んですか?」
トウキ「っていうか、に、人間ですよね?! その頭はカブリモノかなんかで・・・」
異形の男「いや、この頭は本物だ。 だが、オレは人間だぜ」
異形の男「オレには呪いがかかってるんだ」
トウキ「呪い・・・?」
異形の男「ざっくり話すとだな。 こっから西に行った所に、「マイハー森林」というダンジョンがある」
異形の男「中〜上級者向けのダンジョンで、オレのような姿をしたミノタウロス共と、アンデッド系の魔物がウヨウヨしている」
異形の男「オレはある日、気がついたらそこにいて、ミノタウロスの姿になっていたんだ」
トウキ「ええと、そのダンジョンに入る前のことは?」
異形の男「何も覚えてねえ」
トウキ「記憶喪失・・・?」
あるいは今の話なら、「魔物になる呪いをかけられた人間」じゃなくて「人間っぽい知性に目覚めた魔物」の可能性もあるよな?
異形の男「何だその顔、疑ってんのか。 言っとくがミノタウロスは人語を流暢に話したりしねえぞ」
トウキ「そうなんですか?」
異形の男「おう。カタコトくらいなら喋る奴らは結構いるけどな。 人間と遜色ねえ文化レベルを持つのは、東西の魔王の直接の配下くらいさ」
トウキ「東西の魔王?」
異形の男「え?知らねえの? よっぽど呑気に生きてたんだな」
〇王宮の入口
東のセイシン城に住み、
凶暴で剛腕な魔物を率いる
東の魔王カクダラ。
〇闇の要塞
西のエイゾー遺跡に住む、
アンデッドや暗闇の魔物を率いる吸血王。
西の魔王ドルゲン。
・・・ああ、オレのいたマイハー森林は、
この魔王の影響を受けている。
って、そういやオレの名前言ってなかったな。
オレはゼンリ。
ゼンリ・クオンティ。
〇鍛冶屋
ゼンリ「2体の魔王は互いに無関心らしいが、 たまに獲物や領地を巡って 小競り合いすることもあるな」
トウキ(セイシン?エイゾー? どっかで聞いたことがあるような・・・。 カクダラの方は知らないけど、 ドルゲンもどっかで・・・)
でも、その二人の魔王のうち、
一人がメールの主って可能性もあるな。
魔王なら「悠々自適」だろう。
指図一つで何でも叶う。
スキルも強いだろう。
こっちもやっぱり、そう簡単には会ってくれなさそうだが
ゼンリ「まっ、そういうわけだ。 んで、呪いのかかったオレは、 一定の武具しか装備できねえ」
ゼンリ「よーするに「こん棒」だよ。 あとはナックルくれえかな」
トウキ「メールの主が、ミノタウロスの装備品として漠然と考えてたモノ、ってことか。 俺ならオノとか金棒だけどな」
ゼンリ「なんだって?」
トウキ「なんでもないよ。 念の為聞くけど、異世界化する前のT市を覚えてたりしないよね?」
ゼンリ「意味がわからん」
トウキ「だよね」
ゼンリ「とにかく!そんなわけでオレは 「強いこん棒」を求めてるんだ」
ゼンリ「だが、「こん棒」をまともに研鑽して最強レベルまであげようってマイスターはいねえ。 そりゃそうだ。 誰がンなもんほしがる」
ゼンリ「だが、オレは別だ。 それしか選択肢がねえ。 ナックルは嫌えだしな」
ゼンリ「お前もそうだろ? それしか選択肢がねえ」
トウキ「まぁ、そうだな。 俺を馬鹿にしに来たわけじゃないことはよくわかったよ」
トウキ「じゃあ──初級マイスターだし、そんなに強いのは造れないと思うけど、試してみるよ」
ゼンリ「そうかそうか。 ならよろしく頼む」
・・・よし、やるか。
ええと、武具の新規作成法は・・・
うん、思い出せる。
素材にイメージとスキルパワーをこめればいいのか。
じゃ、やるか。
トウキ「こんな、もんでいいのか?」
ゼンリ「ほー!なかなか悪くなさそうじゃねえか。じゃあ、早速使ってやる」
トウキ「わっ!!やめて~! 店でやらないでくれ!」
ゼンリ「そうかぁー?じゃあ外でやるか。 よし、ついてこい!」
トウキ「え?なんで俺まで?!」
ゼンリ「だって本人がいなきゃぁ、もし不具合でも直せねえだろ?さぁ出かけるぜ!」
〇荒れた競技場
──というわけだ。
ちょっと試し打ちするのかと思ったら、
がっつりクエスト依頼受けてたし!
トウキ「てゆーか、あんた普通に人間扱いで依頼受けれたんだな」
ゼンリ「おうよ。 オレは人間だからな。 まぁ納得してもらうのには、 かなり時間かかったけどな」
リザードマン「シャー!!」
ゼンリ「おらよっ。49体目!」
リザードマン「シャー・・・」
トウキ「あと一体か・・・ はぁ、やっと帰れそうだな・・・ というかこんなに狩って、 よく魔物いなくならないな」
ゼンリ「いなくなるわけ無いだろ。 魔物は狩られて死んでも、 一定時間経つとまた元の形で蘇るんだ」
トウキ「そ、そうなのか。 だから大勢の冒険者が狩っても平気なのか」
ゼンリ「喜ぶことかよ。 殺してもまた元の数に増えちまうから、 被害を減らすためにゃ 定期的に狩らなきゃってことなんだぜ」
トウキ「ま、まぁ」
──殺しても蘇る?
新しい魔物が出てくるわけじゃなく?
なぜそんな・・・
トウキ「──? な、なんか出てきたぞ?!」
炎の魔人「・・・・・・」
トウキ「うわ!これ、何? これが50体目・・・?」
トウキ「うえっ!!あつつっ!!」
トウキ「当たってなくても熱いぞ?! これ、強いんじゃないのか?!」
ゼンリ「おう、こいつはまずいな」
トウキ「へ?!」
ゼンリ「こいつは炎の魔人だ。 全体が炎で出来てる。 こん棒とは最悪の相性だ。 殴った瞬間に燃えちまう!」
炎の魔人「シュゴーッ・・・」
トウキ「あっちっ!!逃げよう、ゼンリ!」
炎の魔人「シュゴゴゴゴ!」
トウキ「うわっ!炎の壁で囲まれたぞ!」
ゼンリ「ちくしょー!! オラァァァァァ!!」
ゼンリ「あぢぃっ! こん棒に火がつきやがった!」
トウキ「消して!消して! 地面で叩いて!」
炎の魔人「シュゴゴゴゴ」
ゼンリ「おい、なんとかしろ、 マイスター! てめえの武器だろ! ほら、持てよ!」
トウキ「そっそんな! 僕に渡されたって!」
ゼンリ「なんとかなりそうなスキルとかねえのか? お前の固有スキルは?」
トウキ「使い方がわかんないんだよ! 武器と対話するとかどうとか・・・」
ゼンリ「まずいぞ!なんとかトンズラしねえと──」
どうしよう?
ダメ元でスキル使ってみるか?
黙って死ぬよりマシだろ?
武器と対話し、武器の力を使う・・・
こんな時、親父ならどうするんだろ。
グランドマイスターなら・・・
親父、か・・・そういえば・・・
〇広い玄関
トツカ「いいか、トウキ。 刃物を研磨するときは、 よーく相手の素材を知るんだぞ」
トウキ「う、うん」
トツカ「よく見て知ることだ。 どこで作られた、どんな素材で、 どんなふうに出来ているかを」
トツカ「推察し、確認しながら、力の込め方や角度、方向などを調整する。 いわば、刃物との対話だな」
トウキ「はぁ・・・。相変わらず、親父の言うことは難しいな」
トツカ「つべこべ言わずに努力しなさい」
トウキ「そんなこと言われたって!」
〇荒れた競技場
トウキ「そうだ・・・。対話ってそういうこと? ソレをスキルでやるのか? ええと、ええと・・・!」
落ち着け。よく観察しろ。
素材は確か、倉庫に転がってた
「カシュの木」を使ったはずだけど・・・
かなりゴツゴツした形だけど、
手触りになめらかなところがある。
そして木目は細かい。
それから・・・。
・・・。
ゼンリ「お、おい、どうした?! ヤバいぞ!」
トウキ「ちょっと待って!今、なにか・・・」
〇小さい滝
〇荒れた競技場
何だ、今のイメージ!?
この素材の木が持つイメージ?
もしやこいつが見てきた景色の「記憶」か・・・?
コイツはずっとせせらぎで育ってきた。
常に水に浸されて、
水を体に通し続けてきた。
その水のイメージをふんだんに記憶に蓄えてる・・・。
水・・・、そうだ水なら。
ゼンリ「くっ! 仕方ねえ、トウキ、 せめてお前だけでもオレが逃がして──」
トウキ「これだ!!それーっ!!」
炎の魔人「ギャッ!!」
ゼンリ「み、水だと?! こん棒から水が溢れてきやがる!」
トウキ「エイーっ!!」
炎の魔人「ギ、ギャーッ!」
トウキ「ひるんでるみたいだ! まかせた、ゼンリ! こん棒パス!」
ゼンリ「お、おう! パスされたぞ!」
ゼンリ「パスされてもまだ水が溢れてる。 大した効き目じゃねえか」
ゼンリ「オラオラオラーー!!」
炎の魔人「・・・シュー・・・」
トウキ「・・・」
トウキ「やった!倒したっぽいよ!」
クエストを完了しました。
報酬として経験値とアイテムが付与。
ギルドに報告してください。
ゼンリ「よし! って、何だお前! やればできるじゃねえか!」
トウキ「いや、意外だよ。 俺がまさかって感じだ。 このスキル、使い道によっては、 ただのこん棒でも色々できるかも」
トウキ「試してみる価値はありそうだな。 絶望的な状況から脱した気分だ! ありがとう、ゼンリ」
ゼンリ「フフン。 オレのおかげだな。 じゃあ、クエスト料は折半でいいか? これからもお前のこん棒買うからよ」
トウキ「ああ。宜しく!」
レベルとスキルレベルがそれぞれ3上がりました。
アイテムが手に入りました。
リザード鱗✕11 くず鉄の盾✕7
錆びた銅剣✕5 ザラの木材✕3
炎の核✕1
トウキ「鉄はいらないから全部売るとして。 木は新しいこん棒の材料になるな。 炎の核ってのは・・・」
ゼンリ「まぁまぁレアなものだぞ、 炎の力の塊だ。 武器素材だがお前に使えるかはわからん。 でも取っといて損はねえだろ」
トウキ「うん!」
・・・
こうして俺は初めての顧客を得た。
こん棒しか装備できない、
呪われた男、ゼンリ。
最悪かと思った俺の運命も、
なんとかできるかもしれない。
頑張ろう、俺。
きっとサリナさんに会うんだ!
〇黒
・・・
一方その頃。
〇田舎町の通り
サリナ「さて。 そろそろ、今日も調査開始ね」