#15 現実(脚本)
〇田舎の教会
村娘 アリス「これ以上、退屈な話は聞きたくない」
村娘 アリス「死んで」
踊り子 フォクシー「・・・効かない。君の攻撃は私という存在には届かない」
踊り子 フォクシー「だって私は人間。君たちとは住む世界が違うから」
村娘 アリス「・・・」
人狼 マーベリック「ガルルゥ・・・」
踊り子 フォクシー「私がこれまで住んでいた世界・・・幻想の世界から飛び立って」
踊り子 フォクシー「人間たちの住む世界・・・現実世界に降りる」
踊り子 フォクシー「人間になるってきっと、そういうことなんだ」
村娘 アリス「何それ。意味が分からない」
踊り子 フォクシー「私が今見ているものは全て幻想」
踊り子 フォクシー「そう、心から思い込むことで」
踊り子 フォクシー「私は本当の意味で、人間になることができる」
村娘 アリス「そんなの現実逃避じゃん」
踊り子 フォクシー「そう。私はこれから、現実に逃避する」
踊り子 フォクシー「自分を化かす。姿形を似せるのではなく、自分自身を人間だと認識する」
踊り子 フォクシー「世界を化かす。神獣も吸血鬼も人狼も、全て空想であると解釈する」
村娘 アリス「・・・攻撃が全部、すり抜ける」
村娘 アリス「まるで透明人間みたい」
踊り子 フォクシー「人間の世界に魔法は存在しない。ゆえに、私に魔法は効かない」
村娘 アリス「・・・」
踊り子 フォクシー「私にとってここはおとぎ話の世界なんだ」
踊り子 フォクシー「おとぎの国に迷い込んだ私は、王子のキスで目を覚ます」
村娘 アリス「その、現実世界とやらに王子はいるの?」
踊り子 フォクシー「・・・あはは。多分、いないだろうね」
踊り子 フォクシー「だから私は、自分から口付ける」
踊り子 フォクシー「お姫様は、王子の迎えを待ってるだけじゃダメだから」
村娘 アリス「・・・そう」
村娘 アリス「なんだかまるで・・・本の外に出るみたいだね」
踊り子 フォクシー「アリスちゃんも来る?」
村娘 アリス「私はいいや」
村娘 アリス「君が人間になりたいように、私はヴァンパイアのままでいたい」
村娘 アリス「現実世界なんかより、おとぎの国の方が私には似合ってる」
踊り子 フォクシー「・・・ここにいて、君は満たされるの?」
踊り子 フォクシー「私は天界じゃ満たされないから人間界に行くんだけど」
村娘 アリス「人間界に行ったからって、満たされるとは限らないんじゃない?」
踊り子 フォクシー「・・・そうだね」
踊り子 フォクシー「でも、私は行くよ。自分のやりたいことをやるために」
人狼 マーベリック「アオーーーーン」
村娘 アリス「やりたいこと・・・か」
踊り子 フォクシー「君たちを倒せば、この試練は終わる」
踊り子 フォクシー「・・・だから言うよ。これは自分に向けて、唱える言葉」
踊り子 フォクシー「魔法ではなく、論理を紡ぐ言葉」
人狼は現実には存在しない
人狼 マーベリック「ガルルゥ・・・」
吸血鬼は現実には存在しない
村娘 アリス「ははは。なんだか最後はあっけないね」
そして──
神獣は現実には存在しない
〇空
〇渋谷駅前
〇デパートのサービスカウンター
〇電気屋
〇朝日
アクエリア「終わったか」
スザク「どうやら、賭けは私の勝ちのようですね」
アクエリア「そうらしいな」
スザク「人の願望によって生まれた私たちは、同じく人の願望によって、その存在を否定される」
スザク「美しい最期じゃないですか。私はいずれ、この時が来ると思っ──ましたよ」
アクエリア「ふん。だが、私たちは死ん──けじゃ──」
スザク「えぇ。です──クシーの中では死に──た。親離れの時──たのです」
アクエリア「神獣に──在意義があ──かし、人間にはそれ──い。フォクシーはこれ──先、何を支え──きていくのだろうか」
スザク「ふふ──人間には答えが──ません。答えがないからこそ、そ────」
アクエリア「──れ────か」
スザク「────────」
アクエリア「────────」
〇電気屋
天童美琴「・・・」
天童美琴「これが・・・アニメか」
天童美琴「初めて見た」
天童美琴「絵が喋って、動いて、なんだか本当にそこにいるみたい」
〇ファミリーレストランの店内
天童美琴「・・・」
天童美琴「ふぁみれす? だっけ。一度食べてみたかったんだよね」
天童美琴「ぱくっ」
天童美琴「美味しい。学校帰りとかに、友達と一緒に食べたら、もっと美味しいだろうなあ」
天童美琴「・・・友達かぁ」
〇ハチ公前
天童美琴「・・・」
???「“ヨウコ”さんですかー?」
天童美琴「あっ。はい、そうです」
不知火美桜「わぁ、写真より実物の方が可愛い〜!」
天童美琴「そ、そうですか・・・?」
不知火美桜「ネットと同じでタメ語でいいよ〜」
林田優樹「“ヨウコ”さんとオフは初めてだね。よろしく」
天童美琴「よ、よろしく」
不知火美桜「うぇ〜い、“ヨウコ”ちゃんうぇ〜い」
林田優樹「おいおい、よせよ。“アリス”」
不知火美桜「え〜、だって“ヨウコ”ちゃん可愛いんだも〜ん」
不知火美桜「すごく綺麗な金髪だね〜。どこのサロン行ってるの〜?」
不知火美桜「手入れ大変でしょ〜。私なんてすぐに傷んじゃってさ〜」
天童美琴「あ・・・これは地毛で・・・」
不知火美桜「えっ!? 地毛!? やばっ」
不知火美桜「ってことはハーフ?」
天童美琴「はい、まあ・・・一応」
不知火美桜「へ〜いいな〜ハーフ。なんか特別で」
天童美琴「特別・・・」
不知火美桜「あっ、あそこにいるの“ミライ”さんじゃない?」
不知火美桜「おーい!」
林田優樹「行こうか」
天童美琴「・・・はい」
〇カラオケボックス
不知火美桜「彷徨う闇に導かれし運命(さだめ)♪」
不知火美桜「夜に溶け合う二人はやがて♪」
不知火美桜「無垢なままで結ばれてゆくの♪」
不知火美桜「神様どうか夢を見させて♪」
不知火美桜「貴方の心までのミチシルベ♪」
麻田優里「欠陥品の血管繋げて ショック死寸前臓器不全」
麻田優里「貴方の吐息を受動喫煙 縦横無尽のフロウ必然」
麻田優里「玄人気取りの不老不死人間 右脳蝕んで頭上に肉片」
日村龍太郎「“ミライ”ちゃんラップパートぱねぇ!」
七原拓哉「タンバリンしゃんしゃんしゃん!」
林田優樹「タンバリンはやめろ」
麻田優里「二センチ五ミリの遺伝子通りの 利便性 滅びのリベンジポルノ」
不知火美桜「“ヨウコ”ちゃん、サビ一緒に歌おう」
天童美琴「えっ」
麻田優里「家に行こうよ 死刑執行 危険信号流す未練の炎」
不知火美桜「いいから!」
麻田優里「消えるのは昨日の蜃気楼 神を信じよう 形ないけれど」
麻田優里「勘違いだけど感じたいから 雁字搦めの体位でparty night」
「だって私はヴァンパイア♪」
「明けない夜に踊り狂うの♪」
「それでもいつか夢は覚めるから♪」
「貴方の首筋に口付けるの♪」
「だって私はヴァンパイア♪」
「朝が来たら溶けてしまうの♪」
「それでも誓いは消えないから♪」
「貴方の体内(なか)で生き続けるの♪」
日村龍太郎「うぇーい! みんな最高〜!」
七原拓哉「タンバリンしゃんしゃんしゃん!」
林田優樹「タンバリンうるせえ」
天童美琴(楽しい・・・)
天童美琴(これが・・・カラオケ)
天童美琴(クセになりそう・・・)
〇ネオン街
不知火美桜「楽しかったぁ」
天童美琴「・・・うん」
不知火美桜「この後どうしよっか〜」
林田優樹「どうするか」
七原拓哉「居酒屋行きましょ〜!」
林田優樹「俺ら未成年だろ」
麻田優里「うち未成年でも入れるとこ知ってるよ〜」
日村龍太郎「おっ、いいね〜」
不知火美桜「え〜、私お酒はちょっとなあ〜」
不知火美桜「“ヨウコ”ちゃんどうする〜?」
天童美琴「うーん・・・お酒・・・」
天童美琴「飲んでみたいかも・・・」
???「御子様、迎えに上がりました」
天童美琴「えっ・・・」
???「どけっ!」
不知火美桜「きゃっ」
???「探しましたよ。御子様」
???「・・・と言っても、携帯のGPSで居場所は分かっていましたが」
天童美琴「なんで・・・私はもう自由なはずなのに」
天童美琴「儀式は・・・終えたはずなのに」
七原拓哉「なんだなんだ!?」
林田優樹「“ヨウコ”さんの知り合いの方?」
???「そうはいかないんですよねぇ。我々にも派閥というものがありまして・・・」
???「貴方の親が許しても、我々は許さない」
???「さぁ、一緒に教会に戻りますよ」
???「貴方の言葉を待っている人たちがいるんです」
不知火美桜「・・・」
???「ほらほらいくぞ〜御子様〜」
天童美琴「・・・」
不知火美桜「・・・逃げるよ」
天童美琴「えっ・・・?」
???「おいコラ、待て!」
〇渋谷のスクランブル交差点
不知火美桜「・・・ここまで来れば大丈夫かな」
天童美琴「・・・」
不知火美桜「ねぇ、“ヨウコ”ちゃん・・・」
不知火美桜「・・・いや、フォクシー」
天童美琴「フォクシー・・・?」
不知火美桜「結局、私も貴方についてきちゃった」
天童美琴「・・・ちょっと待って、何の話?」
一気読みでした。不思議な世界に包まれました。人狼ゲームに翻弄され、その後の展開も、予測不能です。感謝。
♪ 貴方の吐息を受動喫煙 ♫
「本の外に出るみたい」のワンセンテンスがシビれますね。そういえば教会のシーンでのアリスも、第四の壁を壊しそうでゾクゾクしました。
世界が壊れそうな不安が、回が進むごとに強まっていく。そんな味わいを楽しめるお話でした。