第十話「200%無理」(脚本)
〇大きな木のある校舎
小山内陽菜「200%無理に決まってるでしょーがっ!!」
〇生徒会室
小山内陽菜「私が役者!? 冗談じゃない」
小山内陽菜「私は裏方。メイクとか衣装がやりたくて演劇部に入ったの!」
海東三鈴「でもさ。私、このヒロイン役、最初から陽菜にアテガキしたんだ」
摂津亜衣「ん? アテガキってなんだ?」
平井智治「作家が出演者をあらかじめ想定して、その役者に合わせて役を作ることですよ」
青野沙也加「陽菜。私もこの日向(ひなた)という役は陽菜にやってほしい」
青野沙也加「ううん、陽菜じゃないとできないよ」
小山内陽菜「沙也加まで!?」
海東三鈴「そうだよ、陽菜。ね、いいでしょ?」
小山内陽菜「・・・・・・」
海東三鈴「もちろん、メイクや衣装は引き続きやってほしい」
海東三鈴「その上で、陽菜にも舞台に出て欲しいの。お願い・・・!」
全員の視線が陽菜に集まる。
小山内陽菜「・・・っ」
小山内陽菜「ぜっっったい、無理!!」
〇花模様
第十話「200%無理」
〇高い屋上
陽菜は屋上で台本を眺めていた。
小山内陽菜「せ、台詞が35個もある・・・こんなの覚えられるわけないじゃん」
青野沙也加「陽菜、少し話せるかな?」
小山内陽菜「む、無理だからね! 私は」
青野沙也加「陽菜はかわいいし、華もあるし、舞台で映えると思うけど」
小山内陽菜「本気でそう思ってる? ほぼ初心者の私が出て、あの安曇西の双子に勝てると思う?」
小山内陽菜「・・・恥をかくだけだよ」
青野沙也加「確かにあの子たちの演技は上手かった。 でも、作品の評価って演技の上手い下手だけじゃない」
小山内陽菜「どういうこと?」
青野沙也加「たとえば、群を抜いて演技が上手い人がいても、他の共演者と調和してなければ、ただ浮いちゃうだけでしょ?」
小山内陽菜「・・・・・・」
青野沙也加「恥をかいたっていい。私たちらしい作品を作って、観客に楽しんでもらえば、全国に行けると私は信じてる」
陽菜は立ち上がり、沙也加に背を向ける。
小山内陽菜「・・・ごめん。無理」
青野沙也加「陽菜・・・」
小山内陽菜「私はそもそも役者なんて興味ない」
小山内陽菜「メイクとか衣装作りは好きだけど、人前に出るのは昔から嫌いなの」
沙也加を残して、陽菜は屋上から立ち去っていった。
〇女性の部屋
帰宅後、陽菜は自室で台本を片手に声を上げていた。
小山内陽菜「み、みんなを呼んでくる」
小山内陽菜「ちゃんと先生を説得すれば、だ、大丈夫だ、から──」
陽菜の妹「お姉ちゃん、声でかい! いまテレビ観てるの」
小山内陽菜「わ、わかったわよ!」
陽菜の妹「あと台詞が棒読みすぎると思うよ」
小山内陽菜「うるさい! わかってるわよ!」
陽菜の妹「こわっ・・・!」
陽菜はふてくされてベッドに横になると、枕に顔をうずめた。
小山内陽菜「あ~! なんで私、こんなに台詞読むの下手なんだろ~! 最悪っ!」
手にした台本を放り投げる。
小山内陽菜「私に・・・演技なんてできるはずない!」
〇綺麗なコンサートホール
翌日。気晴らしに芝居を観に行った陽菜は、放心状態で劇場から出て来た。
小山内陽菜「はぁ・・・やっぱ劇団アジサイのミュージカルは最高すぎる」
???「そう。特に推しの春近様のソロナンバーは尊くて──ん?」
劇場から出て来た別の少女と目が合う。
小山内陽菜「あっ、安曇西の双子!」
桐島優「えっと・・・どちら様でしたっけ?」
小山内陽菜「ちょっと! こないだ校外発表会終わった後に喋ったじゃない」
桐島優「あっ! あの時、青野さんと一緒にいた・・・!」
〇レトロ喫茶
小山内陽菜「このパフェ、おいしい~!」
小山内陽菜「でもいいの? こんなのごちそうになっちゃって」
桐島優「こないだ姉が迷惑かけちゃったから」
桐島優「あ、でもあくまで私たちはライバルですから。地区大会では手加減しませんよ」
小山内陽菜「うん・・・」
桐島優「あれ・・・? てっきり『私たちも負けない』とか言い返されると思ったのに」
小山内陽菜「台本はオリジナルで面白いし、三鈴はグイグイ周りを引っ張ってくれてる」
小山内陽菜「それに、沙也加の指導も的確で、初心者の亜衣もどんどん演技が上手くなっている」
桐島優「じゃあ何が不安なんですか?」
小山内陽菜「それはその・・・」
〇レトロ喫茶
桐島優「ふふふ。そんなことですか」
小山内陽菜「こ、こっちは真剣に考えてるの!」
桐島優「ごめんなさい」
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